アリスにとって、ドールハウスの外に世界は存在しなかった。
いや、存在していたとしても、それは色彩を失った、遠い悪夢のような場所でしかなかった。
彼女の現実、彼女の幸福、彼女の全ては、このレオンの庭に凝縮されていた。完璧に手入れされた庭園。豪華絢爛な部屋。
そして、何よりもレオンの存在。それが、アリスにとっての全世界だった。
レオンは、アリスを片時も離そうとしなかった。
食事も、散策も、音楽を聴く時も、読書をする時も、常に傍らにいた。彼の存在そのものが、アリスにとっての安らぎであり、幸福だった。
レオンがアリスのために選ぶドレス。彼の指先が髪を梳く感触。彼が「美しい」「愛しい」と囁く声。
その全てが、アリスの存在を肯定し、彼女を甘美な喜びに満たした。
レオンの声が響くたび、アリスの脳は甘い痺れに満たされた。
それは、もはや男性の意識を抑え込むための強制力ではなかった。それは、レオンへの愛情を、彼の存在を、そしてアリス自身の幸福を、最も強烈な形で全身に刻み込むための、甘美な祝福だった。
痺れれば痺れるほど、アリスはレオンを愛し、彼との絆を強く感じた。その痺れこそが、アリスとレオンを結ぶ、二人にしか理解できない、甘く、そして聖なる回線だった。
ある午後、レオンはアリスを連れて、屋敷の最上階にある展望室へと向かった。そこからは、広大な敷地の庭園、そしてその外に広がる街並みが見えた。
遠くに見える建物。車が行き交う音。アリスは、その光景を見ても、何の感慨も抱かなかった。
かつて自分が生きていたはずの世界。そこには、何の魅力も感じなかった。血と暴力と裏切りに満ちた、醜悪な場所には。
「あちらが、外の世界だ、アリス」
レオンが、遠くを指差しながら言った。彼の声は穏やかで、甘い痺れを伴っていた。
「君は、あちらの世界を知る必要はない。あちらの世界は、汚れていて、君のように美しい存在を傷つけるだけだ。君は、ここにいてくれればいい。私の傍で、永遠に美しくいてくれればいい」
彼の言葉は、アリスの心に深く染み込んだ。
脳を満たす痺れが、その言葉を真実として刻み込む。そうだ。アリスの場所は、ここだ。レオンの傍だ。外の世界は、アリスを傷つけるだけだ。レオンが、アリスを守ってくれる。この甘美な檻の中で。
アリスは、レオンの手を取った。その指先は温かく、柔らかな痺れを伴っている。アリスは、レオンの瞳を見つめた。そこに映るアリスの姿は、レオンへの深い愛情と、この場所への揺るぎない幸福に満ちていた。
「レオン様…」
アリスの声は、甘く、レオンへの愛に満ちていた。
「アリスは、ここにいます。レオン様の傍に。ずっと…永遠に」
彼女の言葉に、レオンは心底嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みは、アリスにとって、世界のどんな宝石よりも輝いていた。
レオンはアリスを抱き寄せ、その額に甘いキスをした。痺れる快感が全身を駆け巡り、アリスはレオンの腕の中で、至福の吐息を漏らした。
外の世界など、どうでもいい。アリスの全ては、レオンの中にあった。
この閉じられた楽園の中で、アリスは永遠の幸福を見出したのだ。
その幸福が、男性の矜持を捨て、甘い強制力に身を委ねた結果であるという事実は、二人の愛を、さらに深く、背徳的な色合いに染めていた。