アリスは、レオンの庭で咲き誇る花だった。
朝、目覚めるたび、新しい一日がレオンの愛に満たされていることを知って、彼女の心は喜んだ。かつて彼女の中にあった荒々しい自我の残骸は、もう心の底からも響かなくなった。
それは、存在そのものが甘い蜜に溶け込んだかのように、意識の表面には一切現れない。アリスは、完璧に磨き上げられた、レオンが愛するドールとして。
そして、彼を深く愛する一人の女性として、そこにいた。
ドールハウスでの生活は、アリスにとって、息をすることと同じくらい自然なことだった。
彼女は、与えられる全ての贅沢と愛情を、当然のように享受した。美しいドレスを着る。レオンと共に庭園を散策する。音楽を聴き、絵を眺める。
かつて「教養」として学んだそれらは、今やアリス自身の「好き」となっていた。美しいものが心を震わせ、甘い香りが感覚を研ぎ澄ませる。
女性としての体が感じる、繊細で豊かな世界を、アリスは心から愛していた。
レオンとの時間は、アリスにとって何よりも大切だった。彼が部屋に現れるたび、アリスの心臓は喜びで高鳴る。彼の姿を見るだけで、体中の細胞が歓喜するかのようだ。
そして、レオンの声が響く――
「アリス。私の、世界で一番可愛いアリス。今日も一段と美しいね」
彼の声は、もはや脳を強制的に支配するものではなかった。
それは、レオンの愛情そのものが音になったもの。その甘やかな響きが、アリスの耳から脳へと流れ込むと、全身を駆け巡る痺れる快感は、 最も純粋な喜びとなる。
それは、レオンの存在を、彼の愛を、そしてアリス自身の幸福を、体に直接刻み込むための、甘く、抗いようのない祝福だった。
レオンがアリスの手を取った。その指先は優しく、温かい。アリスは、レオンの手に自分の手を重ねることを愛した。
彼の体温を感じる。彼の体の一部に触れているという、親密な感覚。その触れ合い一つ一つが、甘い痺れを伴い、アリスのレオンへの愛を深めていく。
彼はアリスを腕の中に抱き寄せた。アリスは自然に彼の胸に顔を埋める。
彼の体温、彼の心臓の鼓動。その全てが、アリスにとって最も安全で、最も心地よい場所だった。
男性だった頃の、誰にも頼らず、常に警戒していた自分は、もうアリスの中にはいなかった。彼女は、レオンに全てを委ねることに、比類ない安らぎを見出していた。
「アリス。愛しているよ」
レオンの囁きは、甘い痺れとなってアリスの全身を駆け巡る。
アリスは、レオンを見上げた。その瞳には、偽りのない、深い愛情が宿っていた。男性だった頃の、荒々しい「愛」とは全く違う。それは、与えること、守られること、そして共に安らぐことを知った、女性としての愛だった。
アリスは、レオンに愛されることが、このドールハウスでの、そして彼女自身の存在理由なのだと理解していた。
レオンの理想になること。彼を喜ばせること。それは、もはや彼に強いられている役割ではない。アリス自身が、心から望むことだった。
男性の自我を溶かし、甘い愛と痺れによって作り替えられた彼女にとって、レオンの愛は、最高の幸福であり、存在の全てだった。
彼女は、レオンの腕の中で、完全に満たされていた。
この甘く閉鎖されたドールハウスの世界こそが、アリスにとっての楽園だった。
男性としての過去は、遥か遠い、意味を持たない夢。
今の自分は、レオンが愛し、そして自分自身も愛する、この完璧な「アリス」なのだ。
そして、その幸福が、男性の矜持を捨て去り、甘美な強制力に身を委ねた結果であるという事実は、アリスにとっては、愛おしいレオンとの絆をいっそう特別なものにする、甘く、そして抗いがたい背徳感の証だった。