ドールハウスでのアリスの日常は、完璧な宝石のように磨き上げられていた。
朝は柔らかな陽光で目覚め、シルクのシーツに体を埋める。
侍女たちが用意するのは、レオンが選んだその日のアリスに最も似合うドレスだ。
柔らかなパステルカラー、レースの繊細な手触り、肌を滑る絹の感触。
アリスは、それらを身に纏うたび、新しい自分自身になるかのような喜びを感じた。
鏡に映る自分の姿は、レオンが愛し、彼女自身も愛する、非の打ち所のない美しさだった。
食事の時間。レオンはアリスの傍らに座り、彼女のために料理を取り分けた。
銀食器の優しい音色。温かいスープの香り。口に運ばれる食材一つ一つの洗練された味わい。それは、かつて飢えを凌ぐために掻き込んでいたものとは全く違う。「味わう」という行為そのものが、甘く、豊かだった。レオンはアリスが美味しそうに食べるのを見て、優しく微笑んだ。
「アリスが美味しそうに食べているのを見るのが、私の何よりの喜びだ」
レオンの声が響く。甘い痺れが、脳の中心から全身へと、稲妻のように駆け巡る。
ゾクゾクとした快感が、食欲を満たす喜びと混ざり合い、アリスを多幸感で満たす。痺れれば痺れるほど、レオンへの愛おしさが増し、この時間が永遠に続けば良いと願った。
男性だった頃の、食らいつくような粗暴さは、アリスの優雅な所作からは完全に消え失せていた。
午後の時間。レオンはアリスと共に音楽室で過ごすことを好んだ。
彼はピアノを弾き、アリスは隣でその音色に耳を傾ける。鍵盤を叩く彼の指先を見る。
その白く長い指が奏でる甘やかな旋律は、男性の声から来る痺れと共鳴し、アリスの心をどこまでも満たした。
レオンがアリスの手を取り、自分の膝の上に置いた。そして、その指を一本ずつ、ゆっくりと、慈しむように撫でる。
アリスの指先は、かつての荒々しい過去を知る者が見れば、信じられないほど滑らかで、美しかった。
「アリスの手は、まるで白い花のようだ。柔らかくて、触れると心が安らぐ」
甘い声。痺れる快感。指先に伝わるレオンの体温。
その全てが、アリスの内側で甘く溶け合い、彼女をレオンへの愛で満たした。かつて、この手はナイフや拳銃を握り、血に濡れていた。
だが今は、レオンの指に撫でられ、彼の体を優しく撫で返すためにある。
その変容は、男性としての矜持から見れば、ありえない堕落だっただろう。しかし、アリスにとって、それは最高の幸福であり、この上なく甘美な現実だった。
レオンはアリスを抱き寄せ、耳元に唇を寄せた。
「アリス。私の愛しいアリス。君は、私の全てだ」
囁きと共に、脳を満たす痺れる快感は最高潮に達する。
全身がとろけるような悦び。思考は、愛と快感で白く霞む。
それは、もはや強制力ではない。レオンの愛を、存在そのものを、全身で受け止めるための、甘美な回路だった。
痺れれば痺れるほど、アリスはレオンを深く愛し、彼なしでは生きられないと悟る。
鏡を見る。
そこに映るアリスの瞳は、レオンへの愛に満ち、その唇は甘く微笑んでいた。
男性だった頃の、警戒と疑念の色は完全に消え失せている。心の奥底に、かつての自分が微かな響きを立てているかもしれない。だが、それはあまりにも小さく、あまりにも遠い。
この圧倒的な甘さ、この痺れる快感、そしてレオンへの愛という名の奔流の前では、何の力も持たない。
アリスは、レオンの愛の庭で咲く、最も甘く、最も完璧な花だった。
そして、彼女自身が、この花としての存在を、心から愛していた。
男性の矜持を捨て、甘い強制力に身を委ね、レオンの理想へと作り替えられた結果としてのこの幸福。
それは、あまりにも美しく、あまりにも甘く、そしてその成立過程を知る者だけが感じられる、深い背徳的な香りを纏っていた。
アリスは、その甘美な世界に、永遠に深く沈んでいった。