こちら沖ツラ愉悦部 安慶名組!   作:時給

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第1話 上間、堕つ

「せっかくだから、てんすけーも誘うべ。仲間外れはかわいそうやっし」

下地(いさおー)がそう言うので、上間天介(てんすけー)を勧誘することにした。

まあ私としても手駒……んんっ、仲間が増えることに異存はない。さっそく昼休み、てんすけーを中庭に連れ出した。

「ええっ、かーなーがてーるーのことを!? マジか」

事情を話すと、てんすけーは「沖縄が日本政府に独立宣言を突きつけた」と聞いたくらい驚いた。

「気付いてなかったば? 大マジよ。てか、見てりゃ分かるやっし」

いさおーが呆れ半分に言うけど、てんすけーは首を横に振る。

「いや、俺は信じんどー! さては2人して俺を騙そうとしてるべ! 目的は何だ、金か? 土地か? どっちも無いど!」

「ちょっと落ち着けって。別に悪いことしようとしてるわけじゃない、友達の幸せのためにサポートしてやろうぜって言ってるだけだろ」

「う、嘘だっ! そう言って油断させて、俺からすべてを奪うつもりだろっ!」

なんでこいつ、こんなに疑心暗鬼なの。私達、あんたに何かした?

なぜか自分から校舎の壁に背中をつけて、1人で勝手に追い詰められているてんすけーに、私はため息をついて一歩近づいた。

「どうも誤解しているみたいね。オッケー、順番に話をしましょう。まず、かーなーがてーるーに恋してるのは事実なの。でも、奥手なあの子は自分からアプローチできないでいる。まずこれを事実として認めて」

「証拠は、証拠はあるのか! だってそんな素振り、俺は一度だって見たことないぞ!」

「マジで言ってるば? ほぼ毎日のように、目の前で証拠のオンパレードやっし」

「人の目が節穴みたいに言うな! 俺を誰だと思っている、天ぷら(やー)の長男ど!?」

いや、天ぷら(やー)の長男、関係ないし。

「分からん奴だな。ええい、こうなったら力づくで」

「やめなさい、いさおー。そんなことをする必要はないわ」

ボキボキと指を鳴らして迫ろうとするいさおーを、私は軽く制する。

ちょうど都合よく、向こうで鴨がネギをしょって来るのが見えたのだ。

 

 

「そんなに気を遣わなくてもいいのに。何回も(おご)ってたら大変さー」

「まあまあ、俺の気が済まないんだって。ここは俺のためだと思って、(おご)られてよ」

中村照秋(てーるー)が、比嘉夏菜(かーなー)を連れて自販機の前まで来ていた。

前に聞いたことがある。てーるーは、かーなーがうちなーぐちを訳してくれるお礼として、時々ああやってジュースを奢ってくれるらしいのだ。

何でもないふりをして、私にそれを話していた時の、かーなーの嬉しそうな顔。今も平気なふりを取り繕おうとしているようだが、隠しきれない嬉しさがにじみ出てしまっている。

てーるーが自販機のボタンを押す。買ったのは森○ヨーゴ。パンのお供に最適な、沖縄の乳酸菌飲料だ。

「てーるー、ヨーゴ好きなの?」

「いや、東京じゃ見たことないジュースだからさ。おいしいのかなって思って」

「東京じゃヨーゴ、売ってないんだ。……ふーん、そうなんだ……」

そして続けてコインを入れ、笑顔でかーなーに自販機を指す。

「さあ比嘉さん、選んで選んで。あ、ペットボトルの方が良かった?」

「いいって。奢ってもらうのに、そこまで図々しくないさー」

かーなーは少し迷い ――――――ボタンを押す。

「あれ、比嘉さんもそれ?」

キョトンとするてーるー。

かーなーが選んだのも、○永ヨーゴだったのだ。

「い、いや! 何となーく、私もヨーゴの気分だったって言うか。てーるーの見てたら、私も飲みたくなったって言うか。とにかくこれが良かったのっ!」

あたふたしながら、てーるーから微妙に目をそらしながら、早口でまくし立てるかーなーであった。

 

 

「どう?」

私は上間(てんすけー)に振り返って尋ねた。

ちょっと離れているから会話は聞こえなかったが、身振り手振りだけでどんな会話が繰り広げられたのか簡単に想像がつく。それくらい、かーなーの挙動は分かりやすかったのだが。

「どうって何よ。何か変だったか?」

なにひとつ分かっていない顔をしている。これは重症だわ。

「自分の場合で考えてみて。○永ヨーゴって、あんただったらどんな時に飲む?」

「え? そうだな、パン食う時かな」

「そうね、普通そうよね。だけどかーなーは、もうお昼ごはんは終わってる。にも関わらず、ヨーゴを選んだ。どうしてかしら?」

「飲みたかったからじゃねえの?」

「そうじゃないの。かーなーはね、てーるーが買ったのを見て、自分もヨーゴを選んだのよ」

「……?」

私はニッコリ笑ってみせる。

「好きな人とおそろいがいい。好きな人と同じものを飲みたい。あれはね、好きな人と同じものを共有したいっていう、かーなーの乙女心が選ばせた選択だったのよ」

てんすけーの表情が驚愕に彩られた。

「お、乙女心……だと……!?」

喉がゴクリと鳴る。脂汗が頬を伝い、顎から落ちる。

いや、なんで「古代の超兵器が復活した!?」みたいな顔なの。……まあいいか。

「それだけじゃないわ。見てなさい、さらに面白いことになりそうよ」

私はもう一度、かーなー達の方に目を向けた。

 

 

近くのベンチに座って話していると、てーるーのスマートフォンが着信音を奏でた。

「あれ、父さんからだ。ごめん比嘉さん、ちょっと」

「うん」

「ごめんね。……もしもし父さん? うん、今は昼休みだから大丈夫。どうしたの?」

てーるーは立ち上がり、電話で話しながら遠ざかって行く。

後に残されたかーなーは。

「………………」

自分の隣にポツンと残された、てーるーの飲みかけの森○ヨーゴを見つめていた。

素早く視線を巡らせて、周囲を確認。近くに人影なし。

「た、例えば。例えばだけど。例えば、こうすると……」

かーなーはてーるーの飲みかけを手に取り、自分のと入れ替える。

どちらも同じ○永ヨーゴ。残量もさほど違いはない。このまま黙っていれば、やがててーるーは電話を終えて戻ってきて、疑う事もなくこれを口に運んで ――――――

「な、なーんて! なーんてね! ドッキリ大成功~、みたいな? あは、あはは、あはははは……」

そそくさとヨーゴを元に戻し、赤い顔をしながら1人で笑うかーなー。

そこへ戻ってきたてーるーに「どうしたの?」と怪訝な顔をされ、慌ててごまかすのだった。

 

 

「ドッキリ大成功~、みたいな? あは、あはは、あはははは……」

かーなーの口真似で、遠くの光景にアテレコをする。

適当にセリフをでっち上げただけなのに、かーなーの方がピッタリ私のセリフ通りの行動をするもんだから、内心では私の方が驚いてたんだけど。

てんすけーに振り返ると、彼は今や(おそ)れの表情で私を見ていた。

「……エスパー?」

マジムンか、はたまたユタの奇跡か。超常的なものを目の当たりにした人間の顔。

「どう? こうして見れば、すぐ分かるでしょ? かーなーは、てーるーのこと大好きなんだって」

「確かに、言われてみれば……いや、むしろどう見ても、そうとしか見えねえ……」

そして青くなって、いさおーに振り返る。

「こんなのが、今までもあったってのか? 俺も見ている前で?」

「ああ、割とよくあったな。俺の体感としては1日に1回くらいのペースで」

ガクリと。

てんすけーはその場に崩れ落ちた。

「ふ、節穴や……ワイは、ワイの目は節穴や……」

己の心を支える自信が、ガラガラと音を立てて崩れたらしい。

「ワイは虫や……人の心も察してやれない虫ケラなんや……!」

いや、そこまで悲観しなくても良いと思うけど。

しかしこれで、彼の心の壁は崩壊したようだ。これは勝機。

「ねえ、あの子の恋を実らせてあげたいと思わない? あの一途な想いが、報われてほしいとは思わない? 私達、友達じゃない」

相手の心が大きく揺らいだ手応えはあった。

しかし驚いたことに、てんすけーはそれでも歯を食いしばって抵抗してきた。

「い、いや、やっぱりダメだ! 人の恋路に他人が干渉するもんじゃねー、黙って見守ってやるのが本当の友達ってもんだぜ!」

あら。案外しぶとい。

「ちっ、往生際の悪い。やっぱここは力づくで」

「やめなさい、いさおー。そんなことをする必要はないわ」

ボキボキと指を鳴らして迫ろうとするいさおーを、私は制する。

ちょうどその時、キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴った。

「教室に戻りましょう。いいもの見せてあげる」

私は2人を引き連れて、悠々と校舎へと向かった。

と、その前に ――――――。

 

 

 

 

教室に戻ると、あの2人は喜屋武飛夏ひーなーのところで何事か話していた。

ひーなー、かーなー、てーるー。いつものメンバー(イツメン)というやつだ。

「ここで見てて」

少し離れたところにいさおーとてんすけーを残し、3人のもとへ向かう。

「あっ、やーえー!」

私に気付いたひーなーが、元気いっぱいに手を振って歓迎してくれる。

後の2人もこちらを振り返った。

「安慶名さん、丁度よかった。今度の土曜日、みんなでボーリング行かないかって話をしてたんだ。もし良かったら、一緒にどうかな」

「ほら、こないだ新しくできた所。ドラゴン……ボ……」

振り返った瞬間こそ、笑顔だったかーなー。

しかしその顔は、私が手にしている「もの」を見た瞬間、みるみる青ざめて行く。

「……んっ。ボーリングかぁ、いいわね。しばらく行ってなかったし」

私はストローから口を離し、素知らぬ顔で答える。

私が手にしているものとは ―――――― そう、森○ヨーゴ。

「バスでいちゅんどー。わんはなーだいっとらんとぅくるだから、でーじ楽しみだわけー」

「うん! ……うん? なーだいっと、らんとくる……?」

ひーなーの言葉に困惑するてーるー。

いつもの展開。かーなーにとってはチャンス到来、面目躍如の場面なのだが。

今のかーなーは、それどころではない。

まさか見られた? いや、でもちゃんと周り確認したはずだし。いやでも、もっと遠くから見られてたんだとしたら? いやいや、ただの偶然かも知れないし。いや待って、相手はやーえーだ、それは楽観が過ぎるんじゃ。いやいやいや……

頭の中が疑心暗鬼でいっぱいになっているのが、表情で丸わかりだ。

「ほらかーなー、てーるーに訳してあげんの?」

「うぇ? あ、え? ……ご、ごめん、今なんて?」

いい。いいわよかーなー、その表情。とっても素敵よ。

私としてはこの顔が見られただけで十分だし、通常だったら、ここでやめてあげるんだけど。

ごめんなさいね、今日は上間(てんすけー)に見せつけるっていう目的があるの。あなたのとびっきりを、見せてもらうわね。

「ちょっと手でも洗ってくるから、これ見ててくれる?」

私は机の上にヨーゴを置く。

そしてかーなーとすれ違いざま、その耳元にささやいた。

「私のだったら、うっかり取り違えて飲んじゃってもいいからね?」

「!!!」

青ざめた表情から一変。

かーなーは驚愕に目を見開き、耳まで真っ赤になった。

「~~~~~っ、~~~~~~っっっ!!!」

ものも言えなくなり、両手で顔を隠して小さくなってしまう。

分かるわよぉ。今回のは、あんたにしてはちょっと変態チックだったものね。それを見られたとあっては、さぞかし……でしょうね。

「あいえーなー! チラよーしに赤い! ちゃーさが!?」

「ど、どうしたの比嘉さん、具合悪くなっちゃった!?」

突然の変化に、残る2人は大慌て。かーなーは必死にジェスチャーで「大丈夫」と伝えようとしているようだが、そんなものを理解できる2人ではない。

「……と、思ったけど、もうすぐ授業始まっちゃうから後にしようっと。それじゃボーリングの詳細決まったら教えてねー」

ふ、決まった。我ながら会心の一撃ね。

大混乱の様相を後に、私は再びヨーゴを手に取って上間(てんすけー)下地(いさおー)のもとへ帰った。

「どう?」

てんすけーに感想を求めると、彼は自分の胸を押さえて戸惑いを顕わにしていた。

「な、何だべ、この気持ち……? かーなーの奴、からかわれて可哀想って、確かに思っているのに。なのに何だべ、同時に湧き上がってくる、この喜びの感情は……!?」

私はニッコリする。

「そう、分かるのね。あなたも『分かる側』の人間なのね」

「やーえー、これは一体? お、俺はどうしてしまったんだ……!?」

「怖がらないで。その感覚は天からの贈り物。あなたは『それ』を感じることができる才能に恵まれて、生まれてきた人間なのよ。むしろ誇りなさい」

「才能? いやしかし、こんなんおかしいべ」

「何もおかしくなんてないわ。自分の心に素直になるの。どう、嬉しいでしょう? 楽しいでしょう? かーなーのあの姿を、もっと見たいと思うでしょう?」

「ば、バカな! あんなん、かーなーが可哀想やっし! それを見て喜ぶなんて、俺はそんな……!」

「可哀想? それは違うわ。あれはね、かーなーのために必要な事なの」

てんすけーの理性は、今や風前の灯火だ。

さあ仕上げよ。

「放っておいたら、かーなーはきっと、ぬるま湯のような現状で満足してしまうわ。もちろんそれは、何事も控えめなあの子の美点だけど……でも恋愛に関しては、控えめであることは致命的な弱点になる。今は良くても、そう遠くない将来、きっとあの子は泣くことになる」

「そ、それは」

「刺激が必要なの。自分の恋心を、常に意識させることが必要なの。ぬるま湯なんかに浸からせない、周囲の後押しがあの子には必要なのよ」

「くっ……だからって! 友達をいじめて楽しむなんて、俺はそんな!」

最後の力を振り絞って抵抗するが。

「楽しむ? ああ、確かにそういうオマケもあるかもね、結果的には」

その最後の抵抗を、私は一蹴する。

「オマケ……だって……?」

「ただのオマケよ、そんなの。いい? 私達の目的はあくまで、かーなーの恋を成就させる事なの。私達は、そのために頑張るの。当たり前じゃない、私たちは友達でしょ? 友達の幸せを願いこそすれ、いじめたりなんかするわけがないわ」

「!? で、でも現に」

「まあ友達のために行動した結果、もしかしたら偶然、あの子のかわいい姿を見られて幸せな気分になれる ――――――そんな幸せのおこぼれをもらえる瞬間が、私達にもあるかもね。でも、それって素敵なことじゃない?」

「素敵なこと……? そう、なのか……?」

「てーるーともっと仲良くなれて、かーなーは幸せ。それを見ている私達も幸せ。みんな幸せ。みんながハッピー。ねえ、これ以上素敵なことって無いじゃない」

てんすけーの目が、大きく見開かれた。

胸を押さえて「俺は……俺は……っ!」と煩悶している。

彼の心の中で繰り広げられているであろう、欲望と理性の最後の死闘。それを私は高見の見物。そして ――――――。

「そ、そうだったのか……いや、そうだよな。俺ら、かーなーの友達だもんな!」

てんすけーは憔悴しきった顔に笑みを浮かべていた。

「ごめんな、やーえー。いさおーも。俺、お前達を誤解してたみたいだ」

「お、やっと分かってくれたば?」

「いいのよ。分かってくれたのなら、それで」

ふ。堕ちたわね。

新たな同志の誕生を、私は両手を広げて歓迎する。

「さあ、一緒に頑張りましょう。かーなーのために」

「そうだな! かーなーのためだもんな!」

「よーし盛り上がってきたな! 俺らが組めば怖いもんなしだべ!」

「おうっ!」

いさおーとガッチリ肩を組み、てんすけーのテンションは最高潮。

そして盛り上がった勢いのまま、

「かーなー!」

てんすけーはかーなーのもとへ走って行った。

驚いて振り返るかーなーの前で、ガッと力強く拳を握って見せる。

「俺、おれ、頑張るからな、かーなー!」

「え? な、何が……?」

「何も心配すんな、俺に任しとけ! 必ずやり遂げて見せるっ!」

「う、うん……? がんばって……?」

かつてこれほど勇ましく、凜々しい顔をしたてんすけーが存在しただろうか。

その気迫に押されてうなずくものの、何も分からないかーなーは戸惑うことしか出来ない。ひーなーとてーるーも唖然として、成り行きを見守ることしかできない。

――――――そんな光景を遠巻きに眺めながら。

楽しい日々が始まる予感に、私は1人、ほくそ笑むのでした。

 

「俺はやる、やるどー! 天ぷら(やー)の長男の名にかけて!」

 

うん。

やっぱり天ぷら(やー)の長男は関係ないわよね。

 

 

 




ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、上間がキャラ崩壊してるような気がしないでもないですが、きっと誤差の範囲です、うん。
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