こちら沖ツラ愉悦部 安慶名組!   作:時給

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第2話 かなカワ作戦

「えー、では本日の授業はここまで。今日の日直は……比嘉。あー、夏菜の方の比嘉。後で宿題を職員室まで持ってくるように」

教卓に積み上がった宿題ノートの山をぽんぽんと叩いて、英語の先生は教室を出て行った。

これで午前中の授業は終了、昼休みである。さっそく比嘉夏菜(かーなー)は前に出てきて、宿題ノートの山を抱える。

「んっ……しょ」

それを見て、中村照秋(てーるー)が立ち上がった。

「比嘉さん、手伝うよ。1人じゃ大変でしょ」

「てーるー。ありがと、でもこれくらいなら大丈夫」

嬉しそうにしながら、しかしかーなーは気丈に首を横に振る。

「職員室まで遠いよ? 途中で腕が疲れちゃうと思うし」

「平気平気。私、これでもけっこう力持ちなんだよ」

あーあ。

けっきょく1人でノートの山を抱えて出て行くかーなーの背中を、私は残念な生き物を見る眼差しで見送る。

違うでしょ。そこは「ありがとー。わっ、軽々と。さすが男の子!」って、非力女子アピールする所でしょうが。あざとい? 何とでも言いなさい。恋は戦争、勝てばよかろうなのよ。

……まあ、そんなかーなー、私も見たくないけどね。

真面目なあの子のことだ、「自分で出来ることは自分で」って思ったんだろう。そんなところが私も好きではあるんだけど。

まったく、ままならないものね。

私はパチンと閉じた扇子を額にあて、しばし考えるのでした。

 

 

 

 

「「かーなーのカワイイを見せつけよう作戦?」」

 

2人の声がきれいにハモった。

「そう。かーなーのカワイイを見せつけよう作戦よ」

「いやネーミングのセンス」

「不満なの? じゃあそうね、かなカワ作戦よ」

「長さの問題じゃないやっし」

諦めたように首を横に振る下地(いさおー)。細かい男は女子から嫌われるわよ。

昼食後、私は2人を連れ出して中庭に来ていた。

さっき教室で見た光景を話し、私は拳を握って力説する。

「あの子は自分の持ち味を、ぜんぜん生かせていないわ。もっともっとあの子のカワイイを引き出して、てーるーに見せつけるのよ」

私の言葉に、上間(てんすけー)が前のめりにうなずく。

「分かったぜ。そのためなら俺は何でもする。何をすればいい、心臓を捧げればいいのか?」

巨人とでも戦うの? あんた。

「いや。あんたの心臓があったところで、かーなーはカワイくはならないでしょ」

「ううっ!? ……わ、ワイはゴミや。ワイの命なんて、何の価値も生み出せないゴミクズなんや……」

あーもう面倒くさい。

悲嘆に暮れるてんすけーをなだめ、私は改めて話を続ける。

「いさおー。あんた確か、ゲーム買ったって言ってたわね。ほら、最近話題の」

「おお、まあな。ユー●ューバーとかがゲーム実況して盛り上がってるさー。けど、それがどうかしたか?」

「かーなーとてーるーに、そのゲームをやらせるのよ」

いさおーは目を瞬かせた。

「いや。あれホラゲど? てーるーは知らんけど、かーなーはホラー苦手だったさ、確か」

「だから良いんじゃない」

私はニヤリと笑って見せる。

「想像してみなさい。ホラー苦手なかーなーが、てーるーと一緒にゲームをプレイ。するとどうなると思う?」

「……なるほど。悪い奴やっさ、やーえー」

いさおーもニヤリと笑みを返す。どうやら私の意図は伝わったようだ。

その隣でてんすけーも、負けじと顎に手を当ててニヤリ。あんた麻薬の密売でも思いついたみたいな笑い方するわね。

「ははーん、分かったぞ。吊り橋効果ってやつだな」

「そうよ。これでかーなーだけでなく、朴念仁のてーるーも、まとめて一気に」

「獅子は吊り橋の上から子供を叩き落として、這い上がってきた方だけを育てるんだ。俺に任せろ、2人まとめて叩き落としてやる」

「あんたそれ間違ってるわよ」

私は幼稚園児でも分かる易しい説明でてんすけーに正しい知識を与え、そして改めて作戦を説明したのでした。

 

 

 

 

「えっ、いいの!?」

教室に戻って話を持ちかけてみると、てーるーは簡単に食いついてきた。

「いいってことよ。俺はもうクリアしたからよ、語り合う仲間が欲しかった所やっし」

「ありがとう! 実は俺も気になってたんだ。でも俺、ゲーム機の本体持ってなかったから」

「さっそく今日の放課後にでもどうだ?」

「もちろんOKだよ、ありがとう下地!」

ふふ、いいわよてーるー。

あんたのそういうチョロ……んんっ。素直なとこ、私は好きよ。

いさおーと盛り上がっているのが気になったのか、かーなーとひーなーもやって来た。

「なんねー? あんたたち、うぃーりきさんやっさー」

「ずいぶん盛り上がってるみたいだけど、何の話?」

いらっしゃい。待ってたわよ、かわいいカモさん。

私は素知らぬ顔で説明してあげる。

「いさおーがこの間、新しいゲーム買ってね。てーるーもやりたいみたいだから、じゃあ今日の放課後にでもやろうかって話をしてたのよ」

「はっさ。ゲームね」

「面白いの?」

「まさに今が旬の話題作よ。有名な動画配信者たちがこぞってプレイしてて、盛り上がってるわ」

てーるーも説明に加わってくる。

「俺も実況プレイの動画とか、ちょこちょこ見ててさ。前から気になってたんだよね」

「へえ……そうなんだ。てーるーも好きなんだ」

「そうだ。喜屋武さんも比嘉さんも、良かったら一緒に来る? きっと面白いよ」

よしっ、ナイスよてーるー!

私は心の中でガッツポーズした。かーなーはすでに前のめりだ。てーるー本人からの誘いとあらば、この子は確実に付いてくるはず! ノコノコと!

しかしここで誤算が起きた。

「あ、でも。ホラーゲームなんだけど2人とも平気?」

「「え”」」

バッ……! てーるー! 余計なことをっ!

思わず絶叫してしまいそうになるのを堪えるので精一杯だった。

ひーなーもかーなーも、一瞬で腰が引けたのが分かる。

これは……まずい……っ!

「あ、あ~! そういえばわん、今日は用事があったさー。いやー、ちょーしんねー。あんしぇーまたやー!」

「ちょっ、ひーなー!?」

言うが早いか、ひーなーは脱兎の如く逃げ出す。

かーなーが引き留めるヒマもなかった。そして味方を失ったかーなーは、私達の方に振り返り、引きつった愛想笑いを浮かべて

「そ、そういえば私も、今日はちょっと用事があったような無かったような……あはは」

まずい、まずいわ。このままでは逃げられてしまう。

何か手を打たなきゃ。でもどんな手があるって言うの? かーなーの怖がりは筋金入りだ。その恐怖をも上回るほどの誘い文句なんて、そんなすぐには思い付けない。

これは失敗か ――――― そう絶望しかけた私だったけど、救いの手は意外な所から差し伸べられた。

「ところでよー」

てんすけーがのんびりした声で言ったのだ。

「誰の家でやるば? いさおーのトコか?」

場の空気や会話の流れといったものをあんまり読めない、この上間(アホ)ならではの一言。しかしその一言を聞いた瞬間、私の頭脳にひらめきが走った。

「俺ん家でもいいんだけどよー、できれば最後の手段にしてほしいっつーか。俺ん家、親父が漁師だからよ。夜中から朝方まで海に出て、昼間は家で寝てるんだわ。ゲーム音くらいで文句言いやしねえだろうけど、なるべくなら静かに寝かせてやりてえっつーか」

いさおーの言葉も追い風となる。

いいわよ2人とも、ナイスアシスト! やっぱりあんた達は有能だわ!

「じゃあダメだね。お父さん仕事で疲れてるんだから、俺達が邪魔しちゃ悪いし。じゃあ、えっと……」

「てーるーの家はどう?」

この機を逃さず、私は逆転の一手を打った。

私の言葉にてーるーはキョトンとする。

「俺の家? まあ夜までお父さん帰って来ないから、その点は大丈夫だけど。けど少し遠いよ?」

「どうせ寄り道するんだから、多少の距離なんて構わないわよ。それに私達の中で、てーるーの家を知ってる人間っている? いざという時のために、お互いの家の場所を知っておくのって大事だと思うの。いい機会だと思わない?」

「やーえーよー。いざという時って、どんな時やっし」

「そうねえ。例えばてーるーが、台風で停電して家に閉じ込められちゃった時とか?」

「えー? 台風で停電なんてあるの?」

適当な理由をでっち上げながら、私はチラリとかーなーの様子を伺う。

「……っ、………………、~~~~~~……っ!」

ふふふ、迷ってる迷ってる。

好きな人の家に堂々とお邪魔できる、大義名分。

かーなーにとっては喉から手が出るほど欲しいチャンスだろう。心の中でホラーゲームへの恐怖と、このチャンスを絶対に逃したくないという欲望がせめぎ合っているのが、目に見えるようだ。

悪いけど、冷静に考える暇なんて与えてあげないわよ。

「分かったよ。いきなりだからちょっと散らかってるけど、それでも良ければ」

「男の子の家なんだから、最初から期待してないわよ。かーなーはどうするの?」

彼女に決断を迫る。

そして彼女が下した決断とは。

「じゃ、じゃあ私も……お邪魔しちゃおうかな」

欲望WIN。

「いざという時のためにね! やーえーの言うことにも一理あるし、やっぱり何事も、備えておくのは大事かなーって。あは、あはは」

「さすが比嘉さん、しっかりしてるなぁ。でもさっきも言ったけど、ホラーゲームだよ? そこは大丈夫?」

「うん!」

勢い余ったか。

かーなーはてーるーに向かって元気よく宣言したのだった。

「私、ホラーゲーム大好き!」

 

人生最大のウソついたわね、この子。

 

 

 

 

「どわああああああああああぁぁぁーーーー!」

「んぎっ……んんっ……!」

ああ、何という至福。ここは天国かしら。

私は極上の甘い悦楽を堪能していた。ゲームにビビりまくってるかーなーの、可愛らしい顔ときたら。

いさおーのゲーム機を持って、いざてーるーの家へ。

「2人とも未プレイだからよ。てーるーとかーなーで交代しながらやったらいいべ」

ということで、2人を画面の前に座らせてゲームは始まった。

コンビニの深夜バイトで暮らすフリーターが、ある日「近所のマンションで変死体が見つかった」という噂を耳にする。その日の夜、いつも通り深夜シフトに入って仕事をしていると、次々と奇妙な現象が起こって ――――――という内容のホラー。さくさく進めば2時間程度でクリアできるらしい。

家に来た当初こそ、達成感に満ち足りた顔をしていたかーなーだが(てーるーの家の匂いをこっそり堪能していたことは、見なかったことにしてあげるわね)、今やその胸の内は後悔一色に染まっていることだろう。

 

ギャアアアアアアアアアアァァァッ!!

 

「ぴっ……!」

ゲーム内で突然現れた下半身のない怨霊に、文鳥の鳴き声みたいな声を漏らす。

今のところ、情けなく大きな悲鳴を上げるといった醜態をさらすことは凌げているが、それもいつまで持つことやら。見れば、悲鳴を堪えるたびにスカートをギュッと掴んでいるため、制服のスカートはシワだらけだ。あんたそれ、今夜はアイロン必須ね。

「てーるー、次はゴミ捨てだべ。裏手のでかいチリバコんとこ、行ってみー」

「わ、分かった」

主人公が袋いっぱいのゴミを持って、コンビニ裏手のゴミステーションへ。

重そうな蓋を開けてゴミを捨てようとすると、そこには無造作に積み上がった、何人分もの人間の手足や胴体が!

「うわあああああああああああああぁぁぁっ!!」

ちなみにてーるーは、最初から何の遠慮もなく絶叫している。隣でかーなーはこんなに健気に耐えてるっていうのに、何も(かせ)がない人間って幸せよねー。

無数の手のうちの1本が主人公に飛びかかってきて、それをよけるのに失敗した主人公がゴミ箱の中に引きずり込まれて、てーるーはゲームオーバー。

「よし、ちょうど1時間くらいだな。てーるー、そろそろかーなーと交代したら?」

「そうだね。お待たせ比嘉さん、がんばってね」

てーるーは笑顔でコントローラーを差し出す。

もちろん悪気は一切ない。

「え……えっ……?」

「あんまり進めなくてごめんね。俺はもう楽しんだから、面白かったらクリアまで行っちゃってもいいからね」

差し出されたコントローラーを、かーなーは自決用の毒薬でも渡されたかのような目で見つめている。

ああ、何てこと。

繰り返すが、てーるーに悪気は一切ない。かーなーが自己申告した「ホラーゲーム大好き」を真に受けているだけだ。イギリスかドイツの言葉だったかしら、「地獄への道は善意で舗装されている」。まさしくこういう時のためにある言葉ね。

「あ……ありがと、ね。私がんばる……がんばるから……」

自分に言い聞かせるように呟きながら、かーなーはコントローラーを受け取る。受け取るしかない。自分で撒いた種なのだから。ここで「やーん、やっぱり怖いー。てーるー代わりにやって☆」などと、ぶりっ子で逃げを打つような娘ではないのだ。

いいわ、それでこそ私の愛する比嘉夏菜よ。とっても素敵。

さあ見せてちょうだい。その高潔な乙女のプライドが、圧倒的な恐怖に蹂躙されて、恥も外聞もなくカワイイをさらけ出しちゃうところを!

ゲームスタート。再びゴミ捨て場へ向かうところからのリトライだ。

ゴミ箱から飛びかかってきた手は何とか回避に成功したものの、直後に背後からドサリと物音が。振り返ると、毒々しい色をしたスライム状の物体が、ブヨブヨと怪しく蠢いていた。

「ぴぃ……!」

直後、襲いかかってきた触手を寸前で回避。

「おおナイス! よくかわせたな、すごい反射神経だべ!」

「さっすが比嘉さん!」

てんすけーとてーるーは絶賛しているが、多分ただのまぐれだ。

スライムの触手はゴミ箱の手を捕らえると、引き寄せてモグモグと捕食を始める。それで味を占めたのか、ゴミ箱にのしかかり、中に入っている手足や胴体をも食べ始めた。バキバキと骨が噛み砕かれる音が、なかなかにリアル。

「かーなー逃げろ! ゴミ箱の中を食い終わったら、あいつ襲ってくるぞ!」

「ええっ!? やだ、やだっ……! 逃げる、逃げる!」

「外にいたら食われる、コンビニの中に入るんだべ!」

いさおーのアドバイスに従い、一目散にコンビニ店内へ。

これで一安心かと思いきや、レジの前にいつの間にか、理科室にあるような人体模型が佇んでいた。

「な、なんで……っ? なにあれ、何で……? やだ、やだ……っ!」

早くも涙目のかーなー。

「ここはよ、まずは普通にレジ精算すんだわ。かーなー気張れよ、あの人体模型が出て行ったら、このゲーム前半の山場のラッシュが始まるからよー」

「ら、ラッシュ? 何よラッシュて!? 何が始まるわけ!?」

「外には出るなよ、さっきのスライムに食われるどー」

「ラッシュて何ー!?」

私はこのゲーム、実況プレイの動画で予習済みだから、いさおーの言っている意味が理解できた。

そう、この次だ。ここから恐怖の怪奇現象が連続で発生して、たたみ掛けて来るのだ。絶対ここでビビらせる、絶対ここで泣かせるというゲーム制作者の気迫が感じられるパートで、悲鳴を上げてビビり散らかす実況者のリアクションの切り抜き動画が、数多く出回っている代表的な名場面である。

さて、ここね。

私はズイッと前に出て、座るポジションを変えて特等席を確保する。

いい声で鳴くのよ、かーなー。あなたのとびっきりのカワイイを、てーるーに見てもらいなさい。コントローラーを放り投げて、てーるーの腕にしがみついちゃってもいいのよ。そこまで出来たら、百点満点をあげちゃうわ。

「なんで人体模型が単一電池買ってるば!? ぽってかすー!」

かーなーは恐怖のあまり、どうでもいい事に怒り心頭でツッコんでいる。

人体模型が気味の悪い歩き方でコンビニを出て行き、そして ――――――

 

「ーーーーーーーーーっ!」

 

怒濤のラッシュが始まった。

コンビニのガラス壁を突き破って、巨大な人間の手が突っ込んでくる。天井から頭部のない首吊り死体がいくつも生えてくる。ドリンクコーナーからどす黒い血液の奔流があふれ、電子レンジから大きなムカデが無限に沸いて出てくる。無数の怨霊のうめき声と、大量のハエの羽音。突然、従業員控え室のドアが開き、体が腐りかけているゾンビのような何かが主人公に迫る!

「逃げろかーなー、捕まったら死ぬぞ! でかい手の方もダメだ、弁当コーナーの方に行け!」

「ぴぎっ……! ひっ……! んぎっ……!!」

この期に及んでも、かーなーは悲鳴を上げるまいと最後までがんばっていた。

しかし相手は話題の最新ホラーゲーム。あまたの配信者をして、動画の撮れ高を量産してきた必殺のラッシュ。性根がビビりの彼女に、勝ち目などあるはずもなかった。

「ドリンクコーナーのバックヤードだ、そこまで逃げれば安全やっし! あ、でもその前に ――――――」

いさおーのアドバイスに従って、主人公かーなーはバックヤードの扉を開ける。

次の瞬間、血の手形が画面いっぱいを埋め尽くし、女性の鋭い悲鳴が大音量で響き渡った!

 

「きゃあああああああああああああーーーー!」

 

その悲鳴につられたように、かーなー絶叫。

その甘美な悲鳴は私の心を震わせた。

ああ、かーなー。かわいそうに、とうとう負けちゃったのね。ううん、あなたはよく頑張ったわ。私には分かっているから。

もう余計な考えは捨てるの。見なさい、大好きな人がすぐ隣にいるのよ? 心のままに、思いっきり抱きついてしまいなさい!

私の思惑通り、かーなーはコントローラーを放り出す。

そして ――――――

 

がしっ

 

思いきり抱きついた。

私に。

 

「……………………」

かーなーの温かな体温と柔らかな感触を享受しながら、私は天を仰いだ。

そうね、認める。これは私の失策だわ。

特等席を確保しようとするあまり、この子に近づき過ぎていた。

てーるーか、私か。抱きつく相手の選択肢を、この子に与えてしまっていた。ホラーゲームに敗れながらも、この子は最後の力を振り絞って、てーるーに抱きつくことだけは阻止したのだ。

あっぱれよ、かーなー。今回は私の負け。乙女の意地、見せてもらったわ。

「いやービックリしたぁー。今の凄かったね、さすが人気のホラーゲーム」

「だっからよ。俺もここを突破するのに3回くらいコンティニューしたわ」

てーるーは呑気に感想を述べている。

この朴念仁め。そんなことより、怯えてるこの可愛いかーなーを見なさいっての。

私はかーなーの背中をポンポン叩いてマブイグミの真似事をしながら、こっそりてーるーを睨みつけてやるのでした。

 

 

ちなみにその後。

「いやー、大成功だったばよ。俺ら、なかなか良い仕事したんじゃね?」

「だっからよ。てーるーもかーなーも、しにビビってたば。ありゃあ吊り橋効果バッチリやっし」

ゲーム機を抱えて家路を辿りながら、いさおーとてんすけーはご満悦の様子だった。

てーるーの家を出て、さっきかーなーと別れたばかり。私達は別れ道までの短い感想会を行っているところだった。

「これでかーなーは、ホラーゲームと聞けばよだれが出るようになったわけだな。へへへ……この手で友達を変えちまった、この背徳感よ」

おかしい。ちゃんと教えたはずなのに、なんでこの上間(バカ)は吊り橋効果とパブロフの犬効果を間違えて覚えてるんだろう。

いや、そんなことよりも。

「……………………」

「どうしたば? やーえー。なんか元気ねーべや」

いさおーに言われ、私は慌てて取り繕う。

「そんなことないわよ? ……いえ、むしろ私に言わせれば、そこまで喜ぶほどの事でもないって言うか? あれくらいは当然って言うか?」

「おーおー、言うべ言うべ。さっすがだなぁ」

ふふ、元気が無い? この私が?

それは違うわ。こうしてポーカーフェイスを保っていないと、ニヤニヤが溢れちゃいそうだからよ。

まったく、かーなーったら。どこまで私をワクワクさせてくれるの? 簡単に私の思い通りになってくれない所なんかが、特に素敵。そんなにつれなくされると、何としてでも私の思い通りにさせたくなっちゃうじゃない。

「こんなものは序の口よ。これからもっともっと、あの子を変えて行かなきゃ。そう、あの子の幸せのために!」

「おうっ!」

「だべっ!」

今日の借りは、いつか返させてもらうわよ、かーなー。

私はこのままじゃ終わらない。いつか必ず、あなたが自分からてーるーに抱きついちゃうようなシチュエーションを、実現して見せる!

遠く沈む夕日に、私は固く誓ったのでした。

 

 

 




ところで本当のところ、下地の親って何の仕事なんでしょうね。
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