守鶴転生 作:砂隠れの下忍
「守鶴様、おはようございます」
「おう、おはよう!」
挨拶をするのも半世紀振りだが、やっぱり良いものだな。
もう察しているだろうが、彼等はここに定住する事となった。
人間が住むには少々厳しい環境だろうが、そこは俺様がカバーするしかないだろう。
そう、俺様と彼等は定住にあたって幾つかの約束事をした、契約と言い換えても良い。
「守鶴様、昨晩に印について軽くまとめておきました、ご覧ください」
「サンキュー! そうそう、これが欲しかったんだ」
素晴らしいな、俺様が半世紀求めていたものが一晩であっさり手に入ってしまったぞ、俺様はもっと早くコミュニケーションを取るべきだったな……。
紙は貴重だから木板をクナイで削った原始的なメモ書きだが、俺様にとっては金より貴重な教科書だ。
……そう、これが契約の一部になる。俺様は衣食住を提供する代わりに、印や術を教えてもらう事にしたのだ。
住居は砂で幾らでも作れるし、食料や水は遠出して森からごっそり持ってくればいいから楽なものだろう。
「俺様は飲み食いしない、遠慮せずに全部食ってくれて構わないからな、食い終わったら変化の術を教えてくれ、上手く行けば人間の集落で買い物が出来るぞ! お前達もちゃんとした寝具で眠りたいだろう?」
「おお……ありがとうございます……」
頭を下げる彼等に身振りで返事をして、俺様は木板に目を通し始めた。
「インドラはマジで天才だな、こんなものを独自開発したのか……」
はっきり言って意味不明だ、言われた通りに印を組めば術になるのだろうが、なぜそうなるのかは相変わらずさっぱり分からない。
インドラは……たぶんもう亡くなったんだろうな、生きていたら相当な高齢になっている筈だし。
一度話してみたかったな……危険過ぎるから接触は出来なかったが、万華鏡を開眼する前なら或いは……。
「その時期の俺様は眠りに就いていたから、どのみち意味のない仮定か……」
両手印十二種をゆっくりと組み替えながら、俺様はインドラの最後に思いを馳せた。
◇ ◆ ◇
あれから数ヶ月、狼煙を焚き続けた俺様の集落は小規模な村と呼べるものにまで発展していた。
どこから湧いて来るのか、村の規模が大きくなればなるほど人が増えるペースが早くなっていくのだ。
とはいえ、どれだけ人間が増えたところで所詮は難民の寄せ集め、飯も水も相変わらず俺様が面倒を見ている事に変わりはない。
人数が増えたお陰でせっせと働かされている俺様だが、勿論見返りはきちんと貰っている、術の開発を頼んでいるのだ。
インドラが開発した印を学んだ俺様はつくづく思い知った、所詮凡人が頭をこねくり回したところで天才には到底敵わないのだ。
ならどうすれば良いのか? 簡単だ、外注すれば良いのだ。もちろんインドラ並みの天才はそう簡単に生まれてこないだろうが、そこは数と時間でカバーすれば良い。
ちなみに術の開発が出来ないような子供や、チャクラを持たない一般人には開発班の身の回りの世話を頼んだ、これで更に効率があがる筈だ。
直に影分身や砂感知など、未来で開発される有用な忍術や、俺様の想像も及ばないような忍術も開発されるだろう。
たった数ヶ月でこれだ、まったく笑いが止まらないな!
◇ ◆ ◇
「影分身の術! よしっ、行って来い俺様! うちはに気を付けろよ!」
「おうっ!」
見ての通りである、ついに開発班がやってくれた、あのチート忍術と名高い影分身を開発してくれたのだ。
印とコンセプトは伝えていたが、それにしても早い、まだ一年しか経っていないではないか。
しかも俺様の意図を組んで発展忍術まで組んでくれた、印が複雑な代わりにチャクラ還元率が高い影分身や、等分割ではなく定量分割の修行用影分身など、俺様の要望を見事に叶えた術をお出ししてきたのだ。
お陰で修行が捗る事この上ない、特に定量分割の影分身は素晴らしい。本来の影分身はチャクラを等分割するせいで数を出せば指数関数的にチャクラ消費量が増えていくのだ、例え尾獣の俺様でも出せて一万が限度だろう。
一方で定量分割ならほぼ無限に出せるのだ、扉間がそうしなかったのは数が不要だったのと、写輪眼対策だろう。俺でも思い付く欠点を扉間が放置するとは思えないしな。
だが、砂漠に引きこもって修行するだけなら写輪眼対策など不要だ。俺様はこの一年で学んだ、やはり数は力だ。数は多ければ多いほど良いのだ。
あの天才インドラでさえ、数の暴力の前には膝を突いたのだ、やはり数は正義……。
しかし、その数を維持するにも限度がある、俺様のチャクラはほぼ無限だが、森の恵みは有限なのだ。
今のように森から奪うだけの生活は何時までも成り立たない、現にこの一年で森の境界線は随分と後退してしまった。このままでは禿げ上がるのは時間の問題だろう……。
術で食べ物が出せるなら楽で良いのだが……柱間じゃあるまいし流石に無理があるだろう。
「やはり農業に手を付けるしかないかと……」
「やはりそうか……農業は当然俺様がやる、元農民だった者を何人か見繕ってくれ、知恵を借りたい」
「畏まりました……」
村長が恭しく去っていくのを後目に、俺様は深いため息を吐いた。木遁が欲しい、切実に。
◇ ◆ ◇
「やはり俺様の仕事だな、これは……」
火遁で森を焼いて、土遁で整えて、水遁で水を撒いて、風遁で種を撒く。
たったこれだけで広大な面積の畑を作る事が出来るのだ、人間が手作業でやるならこうは行くまい。
焼き畑農業は土地が死ぬから来年以降困るそうだが、そうなったら磁遁で森の土と交換すれば良いだけだから何も問題はない。
こんなに楽ならもっと早く着手するべきだった、俺様はいつもそうだな……。
「害獣対策に雷遁で結界でも張っておくか……忍術様々、インドラ様々だな」
つくづくインドラは便利なものを後世に残してくれた、やはり天才は格が違うな……。
◇ ◆ ◇
インドラ式の農業は天候に左右されない。
雨が降らないなら水遁で無理矢理水を召喚するし、陽が照らないなら風遁で雲を散らす、台風が来ても結界を張れば何の問題もない。
更に元農家の難民達をアドバイザーにしたのだ、もう失敗する方が難しいぐらいだろう。
俺様は何の障害もなく大量の作物を手に入れる事に成功した。
するとどこから嗅ぎ付けたのか、近隣の村々から人が集まって来た。忘れがちだが、今は戦乱と飢餓の時代なのだ。
いくつかの村を吸収した俺様の集落は、もはや小国と呼べる程の規模にまで膨れ上がった。
そして、その国力の殆どを費やして術の開発を行った結果、ついに俺様は飛雷神を手に入れる事に成功したのだ。
この間、僅か十年である。早い、早すぎるぞ、やはり数は正義だ……。
……しかし、扉間はこれを独りで、しかも戦争の片手間に開発したんだよな……やはり天才か……