チュートリアル画面で裏ボスをテイムしたんだが 作:全自動髭剃り
月夜の下。
煌々と松明が照らす丘の上。
金髪の美女騎士が騎士鎧を銀色に閃かせる。
「思えば長いようで短い旅だったな」
そんなことを言い出した。
初対面の俺に。
「……うん、そうだね」
「数え切れぬほどの死闘を、私たちは乗り越えた」
「うん」
乗り越えたらしい。
……俺は知らんけど。
「明日には魔王との決戦だ」
「うん、そうみたいっすね」
知らんけど。
そうらしい。
何やら深刻そうな口調のまま、騎士少女は続ける。
「だけど私は、……どうしても怖い」
「わかるわかる」
「……こんな体たらくでは、ヴァルター流槍術の名折れだ」
女騎士の手に握られているのは白銀に輝く槍。
散りばめられた宝石の装飾。
槍自体が纏う、エネルギーのような何かが溢れ出しているようなオーラ。
詳しいことは何もわからんが、とりあえずやべえ代物なのはわかる。
対して俺は。
自分の手に握られた武器――木の剣を見た。
……、…………。
うん。木の剣。冒険序盤に持ってるやつ。
もちろん宝石もビジュアルエフェクトも何もなし。
視界の端にあるメニューボタンを注視して現れるアイテム説明欄には以下の通り。
【名称】木の剣
【説明】剣の形に掘られた木材。何も持たないよりはマシだろう。
【装備レベル】1 【攻撃力】5
「お前も知っているだろう」
「うんうん」
知らん。
おそらくだけど、彼女が何を言おうが、おそらく俺は知らん。
海馬に記憶がねえんだもん。
「私はヴァルター流槍術、最後の伝承者だ」
「うん」
「これでどうやって先祖たちに顔向けができようか……」
「うん」
とりあえず肯定を続ける。
今の所、順調だ。
「我が師が奴に殺されて以降、この怒りを決して忘れたことはないというのに……」
「うんうん」
「随分と腑抜けてしまったようだ……」
「うん」
そろそろかな?
おそらくこの話の流れだと、ここだ。
「そこで、だ」
「ストーップ!!」
声を張り上げ、諸手を挙げて話を遮る!!
ついでに軽く跳ねながら小躍りも入れておこう!
「君に」
「ストップだ! ストップ、ストーーップ!!」
なおを話を続けようとする彼女に、渾身のレフェリーストップをかけていく。
小ちゃい旗でもあれば全力で振るっていただろう。
そんな俺の努力が通ったのか、
「ん? なんだ、騒がしいな」
「ストーって! ようやく止まったか」
「……? 止まった? 何の話だ?」
君の話だよ。
君が続けようとした、話!
と言ったところで、『おっと、そういえばそうだったな。実は――』などと言い出すだろうから、言わないことにするけども。
この女騎士の強引さにはもう慣れているのだ。
「そ、それよりもさ! こんな星空の夜! いい夢が見れそうだな!」
「? そうか。それよりも――」
「あ、夕飯何食べた?」
「……? 宿屋でスペアリブの煮込みスープを食べたのだが」
「お! めっちゃ美味しそうなのを食べてるじゃん。実は俺まだ飯を食ってなくてさ!」
「なんだ、そうだったのなら早めに言ってくれればいいものを」
お、今回は好感触か?
目の前の槍騎士さんが初めて話題を変えたぞ!
「私の相手、空腹では務まらないだろう」
「ちっがーう!! そうじゃない!!」
話が怪しい方向に一気に方向転換するのを、強引に止めに行く!
が、時すでに遅し。
「さっさと食べてから、もう一度ここに来い。腑抜けた私を叩き直してくれ」
「ああ……」
彼女の話題はすっかり元通りになってしまった。
……、念のために、装備した武器を確認する。
【名称】木の剣
【説明】剣の形に掘られた木材。何も持たないよりはマシだろう。
【装備レベル】1 【攻撃力】5
どう考えても目の前の聖槍騎士様に太刀打ちできるものじゃねえだろ!!
もっといい武器はなかったかって?
いや、あるにはあるよ。
【名称】神滅牙
【説明】選ばれし勇者の剣。装備者には魔王の呪いが一才効かない。
【装備レベル】150 【攻撃力】13999
宿屋に置いてる。やつはこの戦いにはついてこれない。
……正確には、俺がその神滅牙とやらについていけてないのだけど。
どういう意味かって?
俺がレベル1だからだよ!!
「……いーやいやいやいや! 諦めてなるものか!」
「? 一体どうしたというんだ?」
何やら首を傾げている彼女。
実はというと、まだ絶望という状況ではない。
彼女との決闘を断ったのはこれで8回目だ。
だが、
『早く支度するのだぞ』というセリフが、まだ彼女の口から出ていないのだ。
このセリフが彼女から出てきたのちに、彼女に話しかけたら、確実に戦闘に入る。
だが、今回は違う!!
「あー、いや。実はさ! あの門番の衛兵の人も根性叩き直してほしいって言ってたぞ!」
多少強引だが、この戦闘イベントを他人になすりつける!!
これでどうにか……っ!
「なんと、そうなのか」
「そうそう! だからあの衛兵とパツイチやってきたらどう!?」
「……ふむ」
おっと!?
かつてない好感触か!?
少しばかり思案するその姿に希望を持ち始める。
「……、いや、やめておこう。明日でこの世界の命運が定まる。最後の夜かもしれないのだ、せめて平穏な星の下で過ごしてもらおう」
「おっ、そうだな!(大先輩) じゃけん、俺も平穏な夜を過ごしましょうね」
「何を言ってるんだ? お前は――」
ま、まずい!
『早く支度するのだぞ』フラグが! その前に先手必勝!
「あ、そうだ。実はめっちゃ体調が悪くてさ!! 君の相手なんてとても!!」
「だからご飯を食べて体調を整えるのだろ?」
「整わねえよ、薬じゃねえんだから! 腹が膨れるだけだわ!」
「おかしなことを言うな。さっさと体調を直してくるんだ」
……、正直この世界での体調、もといHPなどのシステムは知らん。
この態度からして、もしかしたら本当に飯を食えば治るのかもしれん。
けど、ぶっちゃけそういうのは今の際どうでもいい。
何とかして軌道修正、彼女からすれば軌道逸脱を試みる!
「いい星空だよね! 散歩に行きたくならない??」「やっぱ決戦前夜モヤモヤするよね! 街にマッサージ屋があったじゃん!」「あ、実は君も腹減ってたでしょ〜。一緒に食べようぜ!」
などと、マシンガントークをかましてみたのだが……。
「…………」
うーん。
新鮮な反応ではあるけど……。
もはや用事は終わったとばかりに、無視され始めてしまった。
「もしもーし。聞こえてますかー?」
「……」
「よーし、無視するんだったら、俺も無視するぞ!!」
「……」
「……」
「…………」
「……うぅ……っ」
「………………」
「うがーっ!! もう無視すんなよ〜!!」
結局折れたのは俺だった。
仕方ないので、諦めて彼女の
「ねえ、やっぱ腑抜けた私を叩き直し(略してふぬわた)をしないといけない感じ?」
「? ああ、勇者たるお前にしか頼めない」
「いや、もっと色々いるんじゃね? ほら門を守ってる衛兵とか、道具屋のおっさんとか」
「お前にしか頼めない」
「いやー、何その信頼!? 今日初めて出会ったよね、俺たち!?」
「それがどうかしたのだ?」
「どうかしてるんだよ!! ユーアンドミー、ナイストゥーミートユー!!」
「……? 何を言っているかわからんが、早く支度するのだぞ」
……。
あっさりとフラグが立てられてしまった。
こうなると、もはや彼女は一度でも話しかければ、俺には止められない暴走列車と化す。
仕方なく、何度も確認したイベント詳細を確認する。
視界の端にあるUIを見れば、すぐにポップアップするのだ。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 心を重ねる決戦前夜の誓い ┃
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃イベント種別:絆イベント ┃
┃推奨レベル :150以上 ┃
┃発生条件 :なし ┃
┃効果 :セレスティアの好感度 ┃
┃ が上昇(現在E) ┃
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫
┃内容: ┃
┃決戦を翌日に控えた夜、セレスティアか┃
┃ら最後に一度手合わせして欲しいと言わ┃
┃れた。思えば彼女との出会いも剣戟の最┃
┃中だった。お互いの成長の軌跡を辿って┃
┃いこう。 ┃
┃※敗北してゲームオーバーにはなりませ┃
┃んが、イベント進行には勝利する必要が┃
┃あります。 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
だってさ。
当然だが、彼女、セレスティアさんとは初対面だ。童貞力を限界にまで発揮して脳の筋の一つ一つまで探したが、ニューロンに彼女のデータは含まれなかった。
なんなら今日初めて言葉を交わした。
「……もういいや」
木の剣を腰から引き抜く。
ここまで来るともうどうしようもない。
つまりは詰みセーブ状態だ。
これ以上足掻いても仕方ない。
「おい、セレスティア! かかってこい!」
「? ご飯はいいのか。ならば遠慮はすまい!」
ほぼ丸腰の俺に向かって吼える女騎士。
君が相手取ってるのはほぼ丸腰のパンピーですぞ。
なんか俺を達人的な何かだと思い違いしてそうだ。
「ひとまず、この一撃で見極める」
「え?」
そう言いつつ、セレスティアさんは握っていた聖槍を振り上げた。
「あ、ちょ、ちょまっ……! いきなり大技!?」
聖槍は周辺の魔力やら何やらを吸い上げて、激しく発光する!
え、見極めるにしては大技すぎない!?
/////危険! 危険!/////
!!回避行動に移ってください!!
なんて言葉が視界の上部に現れ始めて、心なしか警告音的なサムシングも聞こえてくる。
「理を欺き、因果を蹂躙し、永劫を裂く審判の槍……」
女騎士、セレスティアさんの静かながらも力のこもった詠唱が聞こえてくる……。
……えーと、やばくね? 永劫を裂くとか言ってるし!
絶対受けたらあかんやつやん! 俺知ってるよ、因果逆転の呪いとかなんとか、そういう厨二病なやつだ!!
「空理空論を捨て、唯力に帰依せよ……!!」
理論捨てて力にだけ頼り出してるし!
……? 中二病なのに理論捨てていいの?
「筋繊維一本残らず神域へと至らしめよ!!」
「結局筋肉かい! 理とか因果とかどこ行ったし!!」
たまらずつっこみながらも、急いで走り出したが――
「ふん、それしきで避けられるとでも!?」
やる気元気いっぱいの女騎士さんは、獰猛な笑みでどんどん高くなっていく光柱になっていく槍を握りしめている。
うん、長さ的に考えて、避けるの無理だわ。ウサインボルトでもきつい。
若干諦めかけそうになるが……、
「って、違う違う!」
なんとか自分の心を鼓舞して、走り出す。
流石に命の危険を感じるこの場面で折れてなどいられない!
そ、そうだ! なんか昂ってるけど、女騎士さん、根は真面目そうじゃないか!
ここは一つ、女の子と潤滑な会話をするために習得したスライディング土下座で!
「あ、あの、待って欲しいというか!」
「問答無用!!」
通じるはずもなかったあああ!!
そりゃそうか! 童貞だったわ、俺!!!
彼女はそんな懇願する俺の声を無視して――。
「究極奥義・天翔筋裂槍!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
痛覚が働く間もなく。
全てを呑み込む光が。
俺を消し去った。