チュートリアル画面で裏ボスをテイムしたんだが   作:全自動髭剃り

2 / 2
一話を書き直し、前後で分けました!


プロローグ 後半戦

 ――ッは!?

 

 気が付いたら、そこは宿屋で。

 

「先ほどがお前の本当の力ではあるまい。先ほどの場所で待っているぞ」

 

 先ほど俺を消し炭にした少女騎士が、入り口の外からそれだけ言って去っていった。

 ……俄かに静かになる部屋。

 満身創痍どころか、体組織一つ残さないレベルで消し飛ばされたはずなのに、今は無傷だ。どんな法則が働いてるのか想像もつかない。

 

 そんな中、俺は途方に暮れていた。

 

「どうしろと……?」

 

 ちなみに先ほどの光景を見たのは9回目。

 セレスティアが原因で、消し炭になった回数はこれで6回。その他が2回。

 ……全身の骨が折れて、自分が血煙になっていくのだなって知覚するのは8回目だ。

 

「……やってらんねえ」

 

 言葉が自然と溢れてしまった……。

 

「やってられないのはこっちの方だけどね?」

 

 なんて、少年なのか女の子なのかわからない、ややこしいほどに中性的な声のアバターが、視界の端に現れた。

 この世界に来て初めて出会って、初めて言葉を交わした相手だ。

 自分のことをこの世界の案内役さ、とかなんとか言ってたやつで、チュートリアルダンジョンを出た時には、すでに俺の視界に映っているゲームUIの一部になっていた。

 そして、今の今まで画面の端でうんともすんともしなかったのに、俺が一人になった瞬間、自由にベラベラ喋り出した。

 

「全く、これで9回目だよ? そろそろチュートリアル後の最初の戦闘くらい乗り越えて欲しいものだね」

「そうだね! 最初のバトルだね!! だったら案内役としてもうちょいヒントとかくれよ!」

「ヒントならあげたじゃないか」

「はあ? なんもなかったぞ!」

「はぁ……、全く君という人は、人の親切心をなんだと思っているのかねぇ」

 

 ため息を吐きながら、外見も中性的なちょっとした学者風の少年? 少女? 姿のアバターが視界の端でぐるっと踊った。

 ?? 何やってんだこいつ、とかって思ってると、

 

 /////危険! 危険!/////

 !!回避行動に移ってください!!

 

 視界の端が赤く点滅し、耳鳴りのようにパトカーのサイレンのような警告音が聞こえてきた。

 

「あ、え? これお前がやってたの?」

「そうだよ。僕以外の誰ができるっていうんだい?」

「……それもそうか」

 

 なんて納得をしかけていたが、

 

「……まあ、自動で警告は行くようになってるけどね」

「自動かよ! じゃあお前なんもしてねえじゃん!」

「何もしてないとは心外だな! こう見えても僕は僕で君のために思って!」

「え、なんかやってくれてたの?」

「15コールドじゃないと購入できない木の剣を10ゴールドで買ってあげたじゃないか!」

「それだけかい!」

 

 妙に思ってたんだよ。

 なんか急にアイテムポーチに木の剣が入ってたんだよ。買ってもいないのに。

 

「3分の2の値段で買ったんだぞ! もっと褒めてくれていいんだ!」

「……まあ、あってもなくても変わらなかったけどな」

 

 何せ俺のステータスは、そもそも話にならないから。

 虫に毛を持たせたところで象には勝てねえんだよ。

 

「それは君のプレイスキルの問題だよ。僕は僕にできる最大限の貢献をしてみせたのさ」

「……お前商人だっけ?」

「なっ!? この特殊型戦闘補助フェアリーの僕に対して、なんたる侮辱!? 許さないよ!!」

 

 と、自称フェアリーのアバターが視界の端でお怒りぷんぷんまるになってる。

 商人扱いがそんなに嫌だったのか? 商人に失礼じゃないかな、それ?

 

 うらー! って俺の眼球に向けて攻撃のような魔法を放っているが、残念ながらダメージはなくただ綺麗なだけだ。

 ……てか色とりどりすぎんだろ。水を出したかと思えばそれが凍って氷になって、気づけば氷から炎が上がって、炎の中から蔦植物が……。

 無駄に高性能な宴会芸だなぁ……。

 

「せめてお前が使ってる魔法くらい教えてくれたらなぁ」

「え?」

 

 と、縦横無尽に魔法陣を展開していた手を止めた。

 

「ほら、そのうらーってのができれば俺だってもうちょい何かできるだろ?」

「……どことなく僕を馬鹿にしたな」

「してねえって。俺もやりてえなって、うらーって……。…………ぷっ」

「こ、この! 言わせておけば!」

 

 と、俺を睨みつけるのだが、少しすると攻撃が通らないとわかったのか、諦めたように話し出した。

 

「君に教えてあげたいのは山々だけど、残念ながら魔法をマスターする方法はレベルアップしかないんだ」

「……じゃあ、そのレベルアップの仕方を教えてくれよ」

 

 一縷の希望に縋るように語りかける俺に対して、明るい言葉が返ってきた。

 

「簡単さ。モンスターを狩って狩って狩りまくれ!」

「そのモンスターってのはどこにいるんだ?」

「街から外に出ればいくらでも!」

 

 そりゃあそうだ。この手のゲームのフィールドには無数のモンスターがいるだろう。

 図鑑をコンプリートさせたり、レベルをカンストさせたりする人たちにとっては、ストーリー以上に時間をかける場所かもしれない。

 

「じゃあ、街からの出方を教えてくれ」

「残念ながら今は絆イベント・心を重ねる決戦前夜の誓いの最中だから、街からは離れられないよ」

「だったら無理じゃねえか!!」

「そうだねー」

 

 問題はそのフィールドに出られないことだ。

 城門まで行って抜け出そうとした時、衛兵から「勇者様! 明日は大事な決戦です! もう夜も遅いので、監視は我らに任せておやすみください!」なんて言って聞かなかった。

 

 痺れを切らして強行突破しようとしたら、衛兵との戦闘に突入した。

 そう、戦闘になった。野生の衛兵が現れたんだよ。

 それで、血走った目で俺の突撃を返り討ちにしやがった。

 

 当然の帰着として、セレスティアと戦ったのと同じ結末、つまり宿屋送りになった。

 なんでだよ。明日決戦なら俺をしばいてどうするねん。てか、勇者しばけるんなら、お前が魔王倒しに行けや。

 

「……やっぱ詰んでね? 俺まだレベル1よ?」

「そうだねー」

 

 なんて呑気に言いやがる。

 人ごとだと思いやがって……。

 

「そもそもだな! なんで俺はチュートリアルダンジョン抜けたら、いきなり魔王城の前まで飛ばされてんの!?」

「はぁ、何度言えばわかるんだい?」

 

 めんどくさそうに喋り始めた。

 

「本来なら君はチュートリアルダンジョンをクリアしたら、始まりの村に転送されるはずだったんだ」

「おう、そうだよな」

「だけど」

「だけど?」

「君はチュートリアルダンジョンで、僕をテイムしたんだ」

「テイム……」

 

 ポケ◯ンみたいなことを言い出した。

 

「そう。君は本来チュートリアルダンジョンでは持てないはずのテイムアイテム、《齧りかけのりんご》を僕に使ったんだ」

「齧りかけのりんごって……、お前が倒せつったスライムを倒したらドロップしたんだよ」

「本来はドロップしないはずだったけどね。……どうしてだろうね?」

「俺も知らねえよ! ってか、お前もお前でりんご、それも齧りかけのやつで俺に懐くなよ!」

「仕方ないだろ! だって、チュートリアルダンジョンでの僕は、特殊効果耐性がないんだから!」

 

 ふんと鼻を鳴らしながら続ける。

 

「君のような新米勇者に特殊効果を習得させるためにも、あそこでの僕にはあらゆる特殊効果が効くんだ」

「でも、俺がどれだけ攻撃してもHP減らなかったじゃん」

 

 チュートリアルダンジョンを抜けてからすっかり見なくなってしまったHPバーについて思い出す。

 攻撃が当たれば見える仕様なんだが、当てられなければわかるものもわからん。

 

「うん。あそこでは僕がサンドバッグになって、君に動作確認をさせてあげるんだからそうなっているのさ。たとえこの世界を滅ぼすレベルの攻撃だろうが、僕は絶対にダメージを受けないよ」

「……HPだけは無敵なのかよ」

「そう。だから、あそこで発生するはずのない、テイムは落とし穴だったねぇ」

 

 ……、ダメージが全く入らない腹いせに、そこらで拾ったゴミを投げつけたのは確かに俺だ。

 だけど、こいつが急に「えっ!? ま、まさか僕が!?」とか焦り出すとは思わなかった。

 

「テイムとはいえ、僕を倒した判定になった君は、僕が倒された際に転送先になる魔王城前の城塞都市に転送されたわけだ」

「……」

 

 倒した判定……。魔王城前に……、転送……。

 

「ごめん、やっぱ納得いかねえ。なんでお前を倒したら、魔王城前に行かされるの?」

「そりゃあ、僕は魔王を倒す直前にしか戦えない、いわゆる裏ボスってやつだからさ」

 

 ケロッとした顔だ。

 

「……とんでもねえネタバレ喰らった気がするが、この際はどうでもいいや」

「そうだね。なんだって、ここは君の物語にとって、最終章となる場所だから、これまでの話の流れなんて存在しないも同然だろうし」

「うん。正直お前が裏ボスだろうが、魔王が誰だろうが興味もうねえからな」

「そして、君は僕を倒した判定になったので、魔王城前に飛ばされたのさ。僕を倒したこの状態で魔王を倒せば、君は晴れてこの世界の真実に辿り着くことができる」

「だから、もう興味わかねえんよ。魔王の前に、えーとあのセレスティアって女騎士に詰まされてんの。あいつ、……って言ったら失礼か。あの人って誰なの?」

 

 絆イベントとかって言われてるけど、俺まじであの人今日初めて知ったんよな。

 初めましての挨拶がてら、三千世界に吹き飛ばされた。

 

「……おそらくだけど、君が誰との絆も深めずにここまで辿り着いた際に迎えることになる絆イベントの相手だよ。多分ね」

「随分と曖昧だな」

 

 らしくない様子を指摘すると、

 

「僕なりに頑張って出した結論さ。君の真っ白な冒険の記録と睨めっこしてね」

「冒険の記録……?」

「そう。君の旅路が示された本。名実ともに、君専用の特殊型戦闘補助フェアリーの僕にしか見えないけど」

「……そりゃあ真っ白だろうな。だって、俺、冒険とかしてねえもん」

 

 俺にある記憶は、いきなりここに飛ばされたかと思ったら、詰みセーブだったってだけだからな。

 暇を持て余しているのか、俺と喋りながら視界内をあちこち飛び回る自称フェアリー。

 

 学者なのか、占星術師なのか、落ち着いた紺色のローブをはためかせながら、メニューやら情報やらのタブの周りを縦横無尽に滑空してる。

 何がそんなに楽しいかはわからないが、こっちが釣られそうになるほどに満面の笑みだ。

 

「はぁ……」

 

 なんかそんな様子を見ていると、先ほどまで諦めかけていた自分が馬鹿らしくなってくるというか。

 ちょっと上がってしまった口角を、バレないようにため息で隠した。

 

「そういえば……」

「なんだい?」

「お前って、名前なんだ? 聞いてなかったなと思ってな……」

「他人に名を聞く前にまず名乗ったらどうだい? ……と言っても、僕には名前がないけど」

「え?」

 

 名前がない……?

 どういうことだろうか。

 

「えーと、一応俺は、岩渕雄大。雄大と呼んでくれ」

「ユーダイか。……そうかそうか、ユーダイか。うんうん、ユーダイね」

 

 復唱するほどの名前でもないだろうけど、物珍しそうな様子だ。

 しきりに頷いては、何度も口にしている。

 

「ユーダイ、だね。約束するよ、何があっても覚えているって」

「名前一つでそんな大袈裟な……。ってか、それよりも名前がないってのは?」

「うん、そのことね。実は前まで名前はあったはずなんだけど、君が僕をテイムしただろ?」

「ああ、そうだな」

「テイムした際、された側の名前は永遠に失われるんだ。そして、主人、つまりこの際、ユーダイが僕の名前を決めないといけない」

「え?」

 

 永遠に失われる……?

 思った以上に深刻な事情にたじろいでしまった。

 

「おい、マジか。もしかして、俺取り返しのつかないことをしちまったのか?」

「そうだね。君はまだ僕の名前を決めていない。このままだと僕が名無しの権兵衛として――」

「そうじゃねえよ! お前の名前だよ! 永遠に失われるって、俺が奪ったってことじゃねえか! 大事な名前だったんだろ? いや、前の名前を教えてくれたら、それを名前にしちゃったらいいか。思い出せそうか? 思い出せなかったら――」

「――君ってば何か勘違いしてないかい?」

 

 俺の言葉を遮って、

 

「まあ、僕のために思っていってくれているのなら嬉しいんだけど、僕の前の名前のことは気にしないでいいよ」

「そういうわけには……」

「だって、思い入れも何もない、ただの識別番号だよ。どんなのかだったかは、……もう存在しないから思い出すも何もないけど。少なくとも、僕が思い出せる自分の名前に対する感情なんて、碌なものじゃないからさ」

「……それはそれでどうなんだ?」

「まあ、気にしないでいいよ。……それよりも! ユーダイ、僕の名前を決めてくれよ。楽しみなんだ」

 

 文字通り目を星にしながら、視界ドアップになる。

 ……、なんか期待されているようで。

 こういうのは苦手なんだよなぁ。期待されているほどに、うまいこと行かなくなるって感覚がして。

 

 けど、……。

 …………。

 

「ノエル」

「!」

「ノエルだよ。お前は今日から、ノエル」

「ノエル!」

「……正直自信がないから、もし気に入らなかったら……」

「ノエル! ノエル!! ……ノエル」

 

 自分の直感に出まかせた言葉に防衛線を作るようなことを言い出した俺だったけど。

 

「ノエルかぁ。僕は今日から、ノエルだ」

 

 無邪気に喜ぶ自称特殊型戦闘補助フェアリー……いや、ノエルを見ていると、自分は間違った選択肢をしたわけではなかったのだとホッとする。

 

「ちなみに僕の名前の由来って教えてもらえる?」

「あ、……その」

 

 ちょっと顔を熱くなるのを隠しながら、答えた。

 

「勘だよ、勘。お前に合いそうな言葉って思ったら、な」

「そうかそうか! 気に入ったよ、ありがとうね」

 

 こちらに微笑みかけるノエルの菫色の瞳。

 ふわっとたなびく艶やかな黒髪。……相変わらず男にしては長いけど、女にしては短いので、どっちつかずだ。

 

「って、そういえばお前って裏ボスみたいな存在なんだろ?」

「うん、そうだよ」

「だったらさ、魔王とかにも勝てるのか?」

「正直な話、楽勝かな?」

「おお! すげー!」

 

 俺の称賛の言葉に、ふふんと胸を張るノエル。おそらく少年。判断材料は黙秘。

  

「じゃあさ、お前がこっちの世界に現れて手伝ってくれれば……」

「それは無理な話だよ。僕の出現フラグには、チュートリアルダンジョンにいるという条件が入っているからね」

「え、無理なの?」

「そうだね。ちなみにチュートリアルダンジョンは魔王城の奥にある、世界のあらゆる鍵を開けられる伝説の鍵でしか開けられない扉を超えた先にあるよ」

「……マジで物語の終盤も終盤にしか手に入らないアイテムじゃん」

「そう。僕を呼びたかったら、まずはセレスティアとの絆イベントをこなさないといけないね」

「……使えねえええ」

 

 ため息まじりに言う。

 推定レベル150に、レベリング不可能状態でどうやって挑めと?

 

「このまま明日の朝まで寝てやろうか」

「それは意味ないね。この絆イベントをこなすまで、日を過ごすというイベントには辿り着かないようになってるよ」

「まさかのサザエ◯ん時空!? いや、そういうのはあるあるだけどさ!」

「だから、頑張ってセレスティアの絆イベントをこなそう」

 

 そう言うノエルなのだが。

 

「……だめだ、解決法が思い浮かばねえ! 何か方法はねえのか、ノエル」

「僕はあくまでユーダイの補助をするだけの存在……。まあ、ちょっとそれもテイムされた今はおかしくはなってるけど、大枠は変わらないね」

「せめて何かヒントをくれよ!」

「クリアが難しい時はレベルをアップして、アイテムを整えてから挑もう!」

「だから、それができねえつってんじゃん!!」

 

 テンプレみたいなことを言い出すノエル。

 

「……つまり名実共に役立たずってわけだ」

「な!?」

 

 役に立たないことに変わりはない。

 こいつができることは、視界の端で邪魔になるくらいしかないってことだ。

 というか、俺が一人っきりの時じゃないと、それすらやらないから困る。急に視界端で動かないオブジェになるのだ。

 

「君! 言っていいことと悪いことがあるってものが!」

「事実だろうが! せめて戦闘中くらいはリアルタイムでアドバイス的なものをくれよ! 他人が現れた瞬間におとなしくなりやがって!」

「こっちにもこっちの事情があるんだよ!」

「このままじゃあお前、俺が暇な時に視界で飛び回るくらいしかしてねえじゃねえか!」

「なななな!? この僕を羽虫か何かだと言いたいわけ!?」

「そこまでは言ってねえよ!」

 

 と、言い合っていると、何を思ったのか、ノエルは急に視界に近づいてあちらこちら飛び回り始めた。

 

「お、おい! じゃ、邪魔! 前が見えねえ!」

「これに! 懲りたら! 僕に対する! 態度を!」

「ああ、うるせえええ!!」

 

 言いながら宿の部屋から飛び出す。

 宿屋の廊下に出ると、急に画面のウィジェットになって動きが止まるノエル。

 

「卑怯だぞ!」

 

 声だけは聞こえてくるが。

 

「知らねえ!」

 

 と言い返したら、シーンと静まり返った。

 ……今までもそうだったが、どうやら俺が一人の場所以外では、ノエルは活動できないようだった。

 理由はよくわからない。

 

「お、勇者様じゃねえですか! おかげさまで母ちゃんの病が治りました!」

「あ、こんばんは」

 

 宿に泊まっている、筋肉隆々の男が声をかけてきた。

 ちなみに彼が何者で、彼の母親が誰なのかは知らない。数回前の宿屋送りをされた際、急に話しかけてきて戸惑ったものだ。

 ノエルに聞いてみたところ、魔王城前に辿り着いた時点で彼の母親を助けたというイベントが起きている扱いで、俺が彼の母の命の恩人だということになっているとのこと。

 当然だが俺何もしてない。なのでとりあえず当たり障りのない挨拶だけしてる。

 

「……とりあえず道具屋に行くか」

 

 所持金も大してないが、何かがこの状況の打開につながる可能性はある。

 案外紐か何かを買えば、城壁をよじ登ってこの城塞都市から抜け出せるかもしれない。

 

 そうと決まれば早速向かおう。

 

「って、ちょっと待て」

 

 歩き始めかけた俺だったが、一瞬思い出してしまったことに頭が痛くなる思いがした。

 そう、木の剣。

 俺が買った記憶のないあの装備。

 

『15コールドじゃないと購入できない木の剣を10ゴールドで買ってあげたじゃないか!』

 

 ノエルの言葉が脳裏に反響した。

 ちなみにチュートリアルでもらえるお金は、……10ゴールド。

 

 視界の端には現在の所持金が書かれている。

 今は見えないでいるが、眼球を動かせば……、確定してしまう。

 

 いや、いくらなんでもノエルがそんなバカなことをするわけがない。

 なんてたって、特殊型戦闘補助フェアリー様だ。思考能力は高いはずだ。

 

 よし、覚悟は決まった。

 見るぞ……!

 見るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいふざけんなノエル、てめえ! 金がなくなってんじゃねえか!!!」

「なっ!? 僕は装備のない君のために!」

「木の剣があったところでどうすんだよ!!」

「だったら売ればいいじゃないか! 15ゴールドで売れるはずだ」

「売れねえんだよ! 『おっと、それを売っちまったら勇者様が丸腰になっちまう』とかって言われて断られたんだよ!」

「それは君の交渉術の問題じゃないか!」

「ああ! だからゴリ押そうとして無理やり店の人に木の剣を押し付けたら、戦闘になったよ! あの人頭おかしいって! 体感セレスティアより強かったぞ! おかげでまた宿屋送りだよ!!」

「それはそうだ。なんだって彼を倒す推奨レベルは175だからね。盗みなどをする勇者を懲らしめるためだね」

「もうそいつに魔王討伐任せろよ! 勇者懲らしめれるんだったら! つーか、この役立たずの棒切れどうすんの!? 売れねえし! 半分呪いのアイテムじゃねえかよ!」

「それを使って戦えばいいのさ」

「勝てるわけねえだろうが!! お前覚えとけよ、いつかチュートリアルダンジョンに辿り着いたら、ボッコボコにしてやるからな!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。