そんな彼が帰り際に耳にしたのは、最悪の一報だった……
【No account】
P.S.
早いもので、お気に入り登録7つ、そしてUA600を突破しました!
皆様、ご愛読ありがとうございます。
これからも本作をよろしくお願いします!
終焉をともにする世界。
一人の少年は、ある人物に憧れていた。
二振りの剣を操り、あらゆる敵を打ち倒す漆黒の勇者に。
時に多くの虜囚を解放し、闇に蠢く陰謀を食い止め、赤眼の殺戮者と戦い、果てには異界の王となった英雄に。
その存在は、古びた書物の数々が教えてくれた。
科学者をしている父親の所持品から、試しに一つ拝借してみた時から、少年は物語に引き込まれて行った。
未だ大人になりきれぬ心は、いつからか切望し始める。
『英雄と同じ景色を見て、同じ言葉を交わしたい』と。
絵空事の願いでしかない、実に子どもらしい想い。
空想の世界に行き、そこの住人と会話するなど、出来るはずもない。
テーマパークやショッピングモールなどによくある、着ぐるみや特殊なセットを用いたショーでもなければ、そんな機会は無いだろう。
そもそも滅びを間近にしたこの時代では、そのような娯楽施設はどこにも無い。
そう、すべてはフィクションなのだ。
アニメや漫画、ゲームにドラマ。
それらは例外なく、どこかの誰かが書き上げた嘘でしかない。
もちろん実話を参考にした作品も一定数存在するが、時が重なるごとにそれも少なくなっていった。
数々の嘘が積み重ねられ、衆目の中膨れ上がり、永遠に求められ続ける。
世の中が便利になるにつれ、誰もが欲望を隠さなくなった。
故に、人々の妄想は常に彼らを支配していた。
だが、肝心の人類が絶滅寸前の今、そんな時代も過去のものとなった。
空想の代わりに人間を支配しているのは、死。
老若男女問わず誰にでも、その恐怖がいつでも傍にあるのだ。
絶望が蔓延する暗闇、希望など願うだけ無駄な地獄。
その中にあっても、少年は憧れを抱き続けた。
自身の大好きな物語に、特にその主人公である英雄に縋ることで、自らの意志を確立していたのだ。
その想いは、父親の計画を完全なものとした。
【EXTRA DIMENSION】。
新しい次元の創造という、非現実的であまりにも漠然とした、狂気の沙汰とも言うべき人類の救済手段。
無謀な研究にして、どんな夢想家でさえ手に着けない愚行。
赤子でも理解出来る不可能な事象にして、正気を疑う狂言。
どんな罵詈雑言でも足りないほどの批判を受けながらも、密かに続いていたそのプロジェクトは、少年の願いを叶えるために舵を取ることで、急激な成長を遂げた。
すべては、人類の居場所を無くさないために。
今の世界が滅びる前に、可能な限り多くの命を匿うために。
フィクションをリアルのものとする。
そうすることで、人間たちは理想の世界に行くことが出来る。
科学者とその息子はこの時まさに、パンドラの箱に手を出そうとしていた。
そして後に、あの実験のシーンへと繋がる。
親子の実験が果たして成功したのか、失敗したのか。
何度もその光景を見てきた俺にも、空の向こうの神様にも判らない。
俺はある意味、幸運な人間である。
名前は晴輝、姓は残光。
東京都の世田谷区に一人住む、総合電子機器メーカーに勤める男だ。
そんな俺を僥倖足らしめているのは、日常的にありふれているような幸せではない。
今世界の話題を一色に染め上げているVRMMO、ソードアート・オンライン。
初回ロット一万本しかないそのゲームを、俺は入手出来たのだ。
仮に千人のベータテスターたちに一つずつ配られているものだと仮定しても(確かめたことは無いが)、その数は九千。
新たに参入するプレイヤーたちの一人になる権利を、こんな低確率から掴み取ったことになる。
だが残念なことに、彼らとは足並みを揃えることは叶わない。
何せSAO正式サービス開始日時は本日の十三時。
社会人の俺にとって、その時間はちょうどお昼休みが終わる頃なのだ。
浩一郎さんとは違い、出張ではないのは幸いだろう。
仕事さえ終えればしっかりと帰路に着き、家でナーヴギアを被れる。
なので本当に多少スタートダッシュが遅れるだけである。
尤も、その少しがゲーマーにとって大きいことは重々承知しているのだが。
現在時刻は午前七時。
すでに起床し、朝の準備を整えながら、グルグルと思考を巡らせる。
この頃何度も見ている、あの滅んだ世界のことだ。
今朝も見たその世界で、少年はさらに物語を読み進めていた。
異界の王となった英雄の、その先の伝説をだ。
彼が生きている限り、戦いが付いて回ると言わんばかりに、その歴史は何冊もの本として積み重なっていた。
時間の許す限り、少年はその書物を読み漁った。
一切眠らない夜をいくつか過ごし、内容を把握しきるほどに。
本来であれば咎められるはずのそれは、理想の世界を創り上げるためのピースとして、より多く貢献していく知識となる。
物語が完全に少年のものとなって以降も、本は彼にとっての宝物だった。
父親の研究を進めている際も、食事や睡眠の時も常に肌見放さず持っているほどに、その情熱は時間とともに増していく。
そして、その炎が目指す先は当然、自身が夢中になって追い続けた物語の世界。
朝の日差しに瞼を開ける寸前で、俺はその名前を確認することが出来た。
その物語の名前は、誰でも知っている。
今まさにこの世界を動かしているものと同じ。
解放を間近に控えた、剣と戦いの楽園だ。
もし、俺が考えている通りなら。
この世界が誰かの創造物だとしたら。
少年の持っていた本は、文字通り予言の書となる。
だがその筋書きに異分子がいれば、未来という不確かなものに明確な揺らぎが現れるはず。
物語の中に俺はいなかった。
だからといって、俺がその異分子とは限らない。
そもそも、そのイレギュラーだとして、この先の未来に干渉して良いものか。
あの少年なら何をするだろうか。
考える俺の気を削いだのは、机の上に置いてあるスマートフォンだった。
「ん、メール?」
突如画面に表示された文字に、俺は表情を緩めた。
直接会った回数こそ少ないが、よく知っている人物の名前だったのだ。
「倉橋さんから」
倉橋さんは横浜のとある病院に勤めている、俺が度々手紙を送っている少女【紺野木綿季】さんの主治医だ。
ほんの偶然から彼との交流が始まり、今では不定期ながら連絡し合う仲となっている。
以前話した、フルダイブ技術が医療に用いられるかもしれないという噂は、この人と話している時に偶然知ったものだったりする。
本来なら企業秘密なのだろうが、俺が木綿季ちゃんの事情を知る数少ない人物だから、ということにしておこう。
こちらも明日奈にこのことを話してしまってはいるが、あの娘なら変に吹聴したりはしないはずだ。
「……なるほどな」
倉橋さんからのメッセージを読み進め、内容を咀嚼する。
色々と日常的なことも書いてはあったが、要約すると『木綿季ちゃんが手紙をもらって今回も喜んでいた』こと、『一回で良いから会ってみたいと彼女が言っていた』こと、『倉橋さん自身も同じ気持ちである』こと、そして一番重要だったのは、最後の提案だ。
「今日の八時頃、か」
木綿季ちゃんのことで、倉橋さんとは度々話をする。
通話を始める時間はその時によってまちまちだが、だいたいは日が暮れた後であることが多い。
今夜ももちろん定期連絡をするのだが、なんとそれに加えて、木綿季ちゃんと話をしてみないかと提案された。
なんでも、直接励ましてあげて欲しいそうだ。
正直願ってもない展開だが、問題が一つある。
「……まぁ、早めに切り上げれば大丈夫だな。
あの通りにならなければ、だが」
一抹の不安を抱えたまま、手早くメッセージを送信する。
万が一の保険も兼ねて。
もしこの身に何かがあった時、真っ先に気付いてもらえるように。
「うっし、今日も一日頑張るか!」
まずは目の前のことを片付けるに限る。
気持ちを切り替え、軽めの朝食を済ませた後、プランプのお世話を済ませてから職場へと向かった。
出勤して二時間ほど経過してなんだが、これほど神様を恨んだ日はない。
定時までの辛抱とは言え、それまで今日一番の楽しみがお預けなのだ。
夢の内容に警告されてはいるが、この予感は大ハズレであってほしい。
寧ろ、それを抜きにしても元からワクワクしていたぐらい、遊びたくてしょうがないものだったのだ。
にも関わらず俺は、ソードアート・オンラインの正式サービス開始時間目前で、それとは別のVRMMOの開発に着手している。
ヨダレが溢れ出るほどの美臭を漂わせるエサをちらつかされて、冷酷な鎖に繋がれた状態と言えば、今の気持ちが伝わるだろうか。
まぁ、要は生殺しだ。
とは言え、ここまでなら、いつもの充実した仕事となんら変わらない。
逆にお楽しみが待っている分、普段以上に頑張れるとさえ言い切れただろう。
「残光君、ここのプログラムだが」
この男さえいなければ、であるが。
いつもなら浩一郎さんがいるところに、あろうことか今回は最も忌み嫌う眼鏡が腰掛けているのだ。
「なんすか、いきなり」
オールバック眼鏡野郎、ではなく須郷に、自分でも軽く引くほど不機嫌な声を投げかける。
テニスボールをフワッと空に浮かべるように、あまりにも覇気のない音を。
「これは飛行用のものだったはずだが、今朝見た時よりも短くなっているじゃないか。
何か不具合でも起きたのかい?」
「いえ、改善点が見つかったので、思い切って簡略化してみたんです」
「と言うと?」
表面上は優しく接してくるムカつく上司に、俺は淡々と続ける。
「今俺たちが作っているゲームは、SAOに続くVRMMOです。
それに追随、いや超えるためには、こっちの目玉である飛行と魔法を複雑なものにしてはいけませんよね」
「あぁ、だから今僕たちがバランス調整をしているんだろう?」
「まさにそのバランス調整です」
キーボードを打ち、画面上にあるテキストの羅列を表示させる。
念の為バックアップを取っておいた、修正前のプログラムだ。
「このプログラムがあれば、確かに現実の飛行と遜色のないプレイが可能になります。
ですがこの状態では基盤のみで、なんの制限も無いんです」
「それがウリなんだ、何か問題があるのかい?」
「どんな鳥も無限に飛べないし、飛行機だって燃料が無ければ墜落する。
それと同様、プレイヤーに羽根がある以上は、スタミナの概念があるはずなんです」
次に俺は、今の修正されたプログラムを再表示する。
優男を気取った野心家、ではなく須郷にも見えるように、ピッタリ真横に並べて。
「無限に空を飛べるのは確かに人々の夢ですが、同時にゲームバランスを大きく壊す要素でもあります。
なので既存のプログラムを可能な限り簡略化して、判りやすい範囲でいくつかデメリットを実装……
高機動かつ高出力の飛行を実現する代わりに、滞空時間が発生するようにしたんです」
「なるほど、まだ一年目なのに大したものだ。
考えることは素人でも出来るが、まさかこんな短時間でプログラムごと改良してしまうとはね」
温度の無い瞳を眼鏡で覆ったヤツ、ではなく須郷にしては珍しく、素直に評価してくれているようだ。
このような姿のコイツをろくに見たことが無いので、正直驚いた。
まったく嬉しくはないが。
「しかし、飛ぶこと自体人にとっては未知の感覚だ。
コントローラーはフルダイブ機器が担うとは言え、操作性はどうするんだい?」
「現段階では構想でしかありませんが、内部にも別途、飛行専用のコントローラーを用意しようと思いまして。
自身の感覚で飛べないプレイヤーでも、それさえあれば自発的に空へ行くことが出来ますから」
そこまで言うと、須郷が一呼吸置いてから眼鏡を軽く押す。
「なるほど、内部用のコントローラーか。
仮想世界ならすべてのプレイヤーに提供することが出来るし、中々良い発想じゃないか。
あとは、駆け抜けるためのフィールドさえあれば試せるのだが」
「えぇ、テストプレイが出来なきゃ速度調整だって出来ませんし。
中々手こずってるみたいですね、向こうのチームも」
「一からグラフィックや基幹プログラムを作るのは、大変なのさ」
少しだけ間を置いて、怪しげな笑みを浮かべた須郷は、ようやく正面のPCに向いてくれた。
一々この男に見られていると思うと胃の調子が悪くなるので、ぶっちゃけ一秒でも早く離れて欲しかった。
目線を外してくれただけでも全然マシではあるのだが。
地獄のような時間を経て、たった一人コンビニで適当に選んだ弁当を口にする。
SAOにプレイヤーたちが入り込んで来るまで、あと約三十分。
おそらく深澄ちゃんも一番乗りを狙う一人だろう。
あの娘は元ベータテスターでもあるし、誰よりも先に最前線へ辿り着くに違いない。
ただ、一つだけ気がかりがある。
この頃毎日見ている、あの夢のことだ。
「脱出不可能ログアウトなしの
どこか遠い時空か、誰かの描いた空想に生きる人々の物語。
最初はそんな風に思っていた。
だが、一人の少年と感覚を共有する形で世界を生き、その過酷さを知っていく中で、徐々に普通の夢という認識は薄れて行った。
トドメには、あの本に書かれていた名前。
それを見てしまったことで、この先に起こる出来事を危惧するようになった。
ナーヴギア。
フルダイブを可能とした夢と希望のマシン、確かにそう言う側面があるのは否定しない。
ところが本当の姿は、それと引き換えに逃げ道を奪う悪魔の枷だ。
五感のすべてが仮想世界にいるアバターとリンクする。
それを行うことで完全な別空間へとダイブ出来るのが最大の特徴ではあるが、当然それに伴うデメリットもある。
それは、意識をゲームの中に奪われた生身の身体が無防備になるということ。
家庭用ゲームハードなので室内の使用が前提である以上、一度テリトリーに入られてしまうと、あちら側から帰ってこない限り、一切の抵抗が出来ない。
どんな肉体派だろうと、最強の自衛隊員であろうと、あっさり殺されてしまうのだ。
だがその点は、監視カメラを設置するなどして防犯を強化したり、信頼出来る者を傍に置いておくことで対処可能だ。
しかしもう一つ、『身体が動かないので食事も出来ない』という重大な欠陥がある。
VRMMORPGという新しいジャンルのゲームが出てしまった以上、例えごく普通の一般人でも、その魅力に取り憑かれてしまえばしばらくは帰ってこない。
これが重度のゲーム好きならば尚更、一日中ログアウトしない可能性だってある。
その間も現実の身体は栄養を失っていき、一つずつ死に近付いていく。
しかしこれも、ダイブするプレイヤーの自覚次第で解決出来る。
危機的状況に直面するよりも早く内部からログアウトし、現実世界へと戻るのだ。
と、このように、二つの問題点についてはそれぞれ解答が用意されているように見える。
だがどちらも共通するのは、【ちゃんとログアウト出来る】前提ということだ。
ゲームなのだから当たり前、と言えばそうかもしれない。
ところがナーヴギアの最大の特徴はフルダイブ。
生身の身体が動かない以上、頭をすっぽりと覆うそれを物理的に外すことは叶わず、ゲーム内操作でログアウトするしかない。
そんな環境下で退場が出来ないのなら、二度と現実世界を生きることは無くなる。
その上最悪なことにフルダイブは、延髄付近で肉体から脳への神経パルスをブロックし、ナーヴギアが作り出した五感情報を電磁パルスによって脳へと送り込むことによって行われる。
この電磁パルスが問題だ。
なんらかの条件を満たして出力が上がってしまった時点で、脳に影響を及ぼすことは確実。
それだけでも生命活動に支障が出るというのに、高出力で放たれてしまえば本体がオーバーロードを起こす危険性もあるのだ。
そしてもちろんそれは、着用者の脳への直接攻撃すら意味する。
つまり考えようによっては、プレイヤーたちはある意味爆弾を頭部に装着しているとも言えるのだ。
電源を切断しようとも、ナーヴギア本体に大容量のバッテリーが内蔵されているので、確実に電磁パルスは食らってしまう以上、死神の鎌が着いて回る。
無論、製作者である茅場晶彦もその可能性は把握しているだろう。
もし本当に安全な機械を作っているのなら、何かしらの対策を講じているはず。
だが俺は、今でも嫌な予感が拭えないでいる。
その理由は少年が読んでいた物語を通じて、あのマシンの危険性を理解したからに他ならない。
ただの夢ならそれで良かったが、実際に学んできたナーヴギアの性能及び構造の知識が、皮肉にも信憑性を高めてしまっている。
「判りやすいトリガーっつったら、HPの全損か」
その瞬間、マシンが放つ高威力の電磁波によって人間の脳は死ぬ。
他にも条件はあるのかもしれないが、なんにせよ杞憂であってほしい。
あの夢は単なる幻で、普通のゲームとして遊んで、深澄ちゃんと楽しく競い合っていたい。
安心と不安を抱えつつ、俺はただ一人口の中で梅干しを転がしていた。
昼休憩が終われば、当然それぞれの業務が再開する。
しかし今日に限って言えば、同時にSAOの正式サービスも始まる。
弁当を食べている時に色々と考えを巡らせていたこともあって内心複雑だが、きっと今頃多くのプレイヤーたちが仮想世界へ進出しているはずだ。
それでも俺は、仕事という名前の檻の中にいる。
普段ならこんなこと絶対に思いたくはないが、本日は何故か、眼鏡が本体のイヤなヤツ、ではなく須郷が隣にいるので、不快感がマックスに達している。
尤も、ほとんど会話が無いので安心だが。
というか一切話したくもないし、同じ空気も吸いたくないが。
「そう言えば残光君、少し気になったのだが」
「なんすか」
だと言うのに、成績だけはそれなりな男、ではなく須郷は構わず声をかけてきた。
「午前言っていた飛行用コントローラーなんだけど、どういったものを想定してるかな」
「……二十年近く前に発売した、専用のリモコンを振って遊ぶ、据え置き型のゲームハードって知ってます?
そのリモコン、もしくはそれに接続出来るアイテムを参考にしようと思って」
「あぁ、あの後継機も出ていた。
尤もそちらの方はあまり売れなかったようだが」
大型モニターと付属の画面付きコントローラー、その二つを用いて遊ぶゲームというのは、個人的には好きな発想だっただけに、いまいち評判が良くなかったのが今でも残念に思う。
据え置き機と携帯機を両立するというデザインはさらに次のゲームハードで実現したので、作られた意味がないワケではないのだろうが。
「ゲームの中で、左手をこんな風に握るんです。
そうしたらコントローラーが出現して、これを操作して飛ぶ、みたいな」
「ふむ、ぜひとも他のチームにも共有したいところだ」
案を出しては作って、壊しては考えてまた提出する。
ゲームの製作とは、常にこの繰り返しだ。
いくら忌み嫌っている上司であろうと、ここにいる以上は同じものを創る仲間。
人としては蔑視していても、須郷のことは先輩として認めてはいるつもりだ。
「そう言えば残光君は、あのSAOを買えたんだってね?
帰ったらやるのかい?」
「そのつもりですけど」
「ならたくさん遊んで来るといい、その分様々な技術を目で見て盗めるんだからね。
ぜひとも我が社のために役立ててくれ給え」
相変わらず上から目線な物言いに、怒りに震える拳を抑えながら、無言で頷く。
その後は黙々とPCを叩き続けたが、隣の眼鏡が持って来たコーヒーだけは絶対に口に着けなかった。
今からでも仕事を抜け出して、ベルファイアで飲んではダメだろうか。
不愉快さを隠し、虚無に身を委ね、どんどん時間が過ぎていく。
待ちに待った定時を迎えた時、須郷以外の先輩社員たちに挨拶だけして、俺は足早に去ろうとした。
が、
「た、大変です!」
打刻をしようとしたまさにその時、一人の社員が酷く慌てた様子で駆け込んで来た。
せっかく整えたであろう黒髪が、汗でグショグショだ。
「に、ニュースを……ニュースを見てください!」
その言葉に、最初は皆訝しげな表情を浮かべていた。
だが一人、また一人とスマートフォンを見る度に、または社内テレビの映像を目にする度に、彼らの顔はみるみる曇っていく。
「なっ……!?」
そして、俺もそれを目にした。
見てしまった。
今や世界の話題を一色に染め上げているVRMMO、ソードアート・オンライン。
もはや全ゲーム関係者が注目して止まないそのタイトルが、ログインしたプレイヤーたち全員を閉じ込め、本物の命を落とすデスゲームと化したこと。
そしてすでに二百人近い人数が命を落とし、開発者であり、主犯である茅場晶彦の所在が判らなくなっているということ。
そして何より、嫌な予感が的中してしまったということ。
この事態を前に、俺は恐怖と絶望が忍び寄る音を聞いた。
それも、よりにもよって、箱庭の外側から。
END
あとがき
プランプ
「はーい、攻撃力4700のプランプだよ~!
閃光瞬く剣の世界【SAO-XD】第6話、どうだった?
遂に起こっちゃったね、SAO事件!
これ自体はこのシリーズが始まってから判ってたことだけど、まさか外側からそれを見る羽目になるなんて……
晴輝君、気を強く持って!
君は主人公なんだから!
そして僕は、そんな晴輝君のペットだから、全力で応援するよ!
フレーッ、フレーッ!はーるっきくんっ!!
さぁ、この事態を受けて、晴輝君はどう動くのか!?
……え、もう判ってる?
そんな寂しいこと言わないでよ。
ペンライト持って、画面の前のみんなも応援するんだ!
そうしたらきっと、晴輝君が奇跡を起こしてくれるはずだよ!
次回、【未来=選択の結果】」