その一報を耳にした晴輝は帰宅直後、ある人物と出会う。
【No Account】
P.S.
皆様のおかげで、UAが700を突破しました!
本当にいつも、ありがとうございます。
これからも本作をよろしくお願いします!
ナーヴギア。
それは世界中のゲーマーの理想を叶える、夢のマシンだった。
ソードアート・オンライン。
それは人類をもう一つの現実へと誘う、誰もが待ち望んでいたゲームだった。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」
だが、世の中を一色に染め上げた幻想は、中身のない赤いローブのアバターの出現によって、儚く散った。
「私の名前は茅場晶彦。
今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
開発者を名乗る巨体が、真っ赤に染まった空とともに大衆を見下ろす。
茅場晶彦。
数年前まで、ありふれたゲーム制作会社の一つでしかなかった『アーガス』を、今の絶対的な地位にまで成長させる原動力となった天才デザイナーにして、量子物理学者でもある。
SAOはもちろん、プレイヤーたち全員が装着しているゲームハード、ナーヴギアの産みの親こそが彼だ。
「プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。
しかしゲームの不具合ではない。
繰り返す……これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である」
オンラインゲームならまずあってはならないトチ狂った発言に、誰も言葉を返すことが出来なかったという。
通常のゲームならばコードを引き千切るなり、そもそも電源を落とすなどして強引に抜けるところだが、プレイヤーたちの意識はすでに、現実世界には無い。
完全なる仮想世界へのダイブを実現するこのゲームには、物理的な手段は通用しない。
たった今存在しないと言われたばかりのログアウトボタンが、唯一の脱出方法だった。
「諸君は自発的にログアウトすることはできない。
また外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。
もしそれが試みられた場合……ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる」
家族や伴侶、そう言った者たちの介入という、僅かな希望すらも瞬く間に消えた。
ナーヴギアという端末は、この世に数多ある機械の中でも特に優秀な部類に入る。
天才と謳われる茅場が作ったものである以上、誰も疑いはしないだろう。
それが今、プレイヤーたちの命を握っているというのは皮肉でしかないのが。
クリエイターならば、自らの創造物に触れて欲しいという欲求は当然のことだが、茅場は何故ここまでしてゲームをさせたがるのか。
そんなプレイヤーたちの疑問を振り払うかのように、彼は眼前に無数のディスプレイを出現させる。
「残念ながら……現時点でプレイヤーの家族友人等が警告を無視し、ナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり……その結果。
213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している。
ご覧の通り多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。
よってすでに、ナーヴギアが強引に除装される危険は低くなっていると言ってよかろう。
諸君らは安心してゲーム攻略に励んでほしい」
パンドラボックスの鍵を手に入れることが出来たのは、僅かに一万人。
そのうちの貴重な約二百人がすでにこの世を去ったという残酷な現実は、プレイヤーたちの気持ちに更なる追い討ちをかける。
にも関わらず、神からのお言葉は『ゲームを楽しんでね』という旨のもの。
アバターをスピーカーにしている人物は、果たして心を持った存在なのだろうか。
「しかし、充分に留意してもらいたい。
今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。
ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し……同時に。
諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」
死神の鎌は現実世界のみならず、バーチャルにまで付いて回る。
本来娯楽であるはずのゲーム内で力尽きる、たったそれだけで本物のHPが断たれてしまう。
自分の命が常に見える位置にあるというだけで、それがどれだけ恐ろしいことか判るだろう。
あと一つ削られるだけで、あと一回攻撃を食らうだけで、自分は二度と目を覚まさなくなる恐怖。
嫌でもそれを味わい、命脈が断たれていくのを眺めることになるのだから。
「諸君らが解放される条件はただ一つ。
このゲームをクリアすればよい。
現在君たちがいるのはアインクラッドの最下層、第1層である。
各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階へ進める。
第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」
極めてシンプルな目的だ。
しかし同時に、プレイヤーたちにとっては果てしなく険しいゴールとなる。
事前に行われたベータテストですら、最前線は第10層だった。
頭数は十倍になっていると言えど、中にはVRMMO自体初めてのニュービーも混じっている。
いくら先駆者たちとは言え、彼らを背負ってゲームを進めていくのは厳しいと言わざるを得ない。
その上、HPの全損=現実の死という常軌を逸したシステムが、状況の悪さに拍車をかけている。
本来こういった類いのゲームは、挑んでは敗走を繰り返し、攻略の糸口を掴む。
厳密には違うが、いわゆる覚えゲー、死にゲーと言えば、ある程度は伝わるだろうか。
だがデスゲームと化した今、その根底はすべて覆る。
過去の自分という屍を積み重ねることが出来ない以上、より一つ一つの情報が重要になってくる。
安全を確保することが最優先となるなら、本来想定された攻略ペースからは格段に遅くなるだろう。
「諸君は今、何故と思っているだろう。
何故ソードアート・オンライン及び、ナーヴギア開発者の茅場晶彦は、こんなことをしたのかと。
私の目的はすでに達せられている。
この世界を生み出し、観賞するためにのみ、私はソードアート・オンラインを造った。
そして今、全ては達成せしめられた」
感情の読み取れない、冷たくも低い声だったと言う。
世界を創造し、その住人として一万人ものプレイヤーを招き入れ、なんのために観賞しようと言うのか。
皆が一様に抱く疑問符が、彼らの恐怖や不安、今にも叫び出したい感情を抑え込んでいた。
「......以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する」
だが無情にも、終わりの時は来る。
こんなところに踏み留まっていないで、一秒でも早く100層に到達しなければ、現実での時間は戻らないのだと、目を覚ます時が来る。
今までのことは、すべて
「最後に、忠告しておく」
少しだけ間を置いて、茅場が口にした言葉。
それは良くも悪くも、SAOというゲームを完全なものとし、プレイヤーたちを戦士へと変える、決定的なものとなった。
「これはゲームであっても、遊びではない」
その言葉を最後に、空を覆う赤色は見えなくなったという。
茅場が何を考え、多くの人々を囚人としたのか。
少なくとも、その先はあまり想像したくない。
以上の内容を、俺はネットニュース越しに知った。
ゲームの中が阿鼻叫喚で埋め尽くされていたであろうことは、容易く目に浮かぶ。
何故ならそのような光景を、夢を通して見ていたからだ。
文字通り、俺が体験してきたそれは、常識を遥かに超えていた。
単なる幻想、眠る時に覗く誰かの物語。
なのに何を今更と思うだろう。
しかし、その主人公である少年の想像力に引き込まれ、彼の見る世界を観測する傍観者にされるとしたら、どうだろうか。
何度も繰り返されるその夢は、すでに本来の意味から逸脱していると言って良いだろう。
もう隠す必要など無いだろう。
少年が見ていた作品の名は『ソードアート・オンライン』。
蒼穹に浮かぶ巨大な鋼鉄の城、アインクラッドを舞台とした、VRMMORPG。
現在、我々の世界で大きな話題となっている、希望のすべてを絶望へと引っくり返したゲームと同じものだ。
彼の生きる場所では、それが物語の題名となっているらしい。
否、これからの歴史を記した予言の書とでも表現するべきか。
少年を通して目にした世界にも、茅場晶彦はいた。
ゲームマスターが使用する赤いローブのアバターを介して、一万人の虜囚とされたプレイヤーたちに最悪の現実を突きつけていた。
そして、そこに存在したのは茅場だけではなかった。
俺が妹分として愛し、あちらも本当の兄貴のように慕ってくれる大切な少女、結城明日奈。
二日前に見た、繰り返しではない夢の時と同じ騎士装束を身にまとい、多くの戦士を率いて戦っていたのが、彼女だった。
『血盟騎士団』という組織のサブリーダー、《閃光》の異名を取るプレイヤーとして、知らぬ者はいないほどの有名人となっていた。
重要な人物がもう一人いる。
明日奈と双璧を成すプレイヤー、キリト。
《黒の剣士》と呼ばれ、ゲーム内で唯一二刀流を扱う、最高の反応速度を持つ戦士。
この二人が攻略を進めていく度に、浮遊城の内部はその有り様を変えて行った。
最終的に、悪夢を断ち切ったのは彼らだった。
本来想定されたものとは異なる手段でSAOはクリアされ、生き残ったプレイヤーたちは解放された。
その後、現実世界へと帰還したキリトたちは――
大まかには、このような結末だった。
これより先の物語も存在するが、残念ながら俺は、それを確認出来ていない。
だが、肝心なのは続きではなく、現状とこの物語の共通点だ。
まさに今、少年が夢中になって読み漁っていた内容と、まったく同じ事件が起きている。
オンラインゲームはおろか、開発者の名前さえも。
挙げ句に明日奈の姿まで確認してしまっていては、偶然と片付けることは出来ないだろう。
キリトたちがSAOの攻略にかかった歳月は約二年。
これから物語と同じことが起こるのなら、幽閉された者たちの地獄は二回も年を跨いで続く。
学生はもちろんのこと、社会人にとっても決して小さくない時間だ。
唐突にそれを失い、現実世界から隔絶される。
俺なら投げ槍になるところだ。
尤も今そうしたいのは、ログイン中のプレイヤーたちなのだろうが。
車を走らせる俺は、事実確認を行うために急ぐ。
無論SAOに対して直接何かが出来るわけじゃない、だが黙って指を咥えていることも不可能。
いてもたってもいられない、とはこのことを言うのだろう。
迷惑を承知で可能な限り連絡を飛ばした末、唯一繋がったのは結城家の使用人である佐田さん。
彼女によれば、明日奈は兄の浩一郎さんの私物であるナーヴギアによって、あの世界へ行っていたらしい。
この事実により、あの夢が、物語が再現されようとしている。
その信憑性が、また一つ高まった。
こうなってしまっては、きっと深澄ちゃんも同じ状態だろう。
未だ彼女たちの身体は現実世界の、それぞれの自宅に置き去りだ。
だが今から乗り込んだところで、俺には何も出来ない。
茅場のアナウンスもあった以上、干渉出来るのは救急隊員ぐらいのものだろう。
遠くない未来で起こることを予感していながら、ただことが進むのを見ているしかない。
最早、燻ることしか出来ないのか――
苦虫を噛み潰し、自宅へと戻ってきた時だった。
人がいたのだ。
とても日本人とは思えない出で立ちをした来客が。
少しくすんだ白い長髪を後ろで結び、左肩から流した、灼眼の男。
グレーのスーツに身を包んだその姿は、それこそゲームの中から抜き出して来たかのようだ。
いつからそこにいたのは判らない青年は、終始こちらを見つめている。
駐車場に愛車を停め、謎の人物と向き合う。
よく見ればその顔つきは、どことなく見覚えがあった。
こう言っては変だが、俺を少し険しくしたような感じだろうか。
しかし俺は、このような男に会ったことなどない。
「おめでとう」
瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。
ただ一言ありふれたセリフを投げられただけなのに、この異様さは尋常ではない。
何故急に祝福されたのか、という疑問は当然ある。
だがこの不気味さは、そんな次元ではない。
「お前は、この世界を変える権利を得た」
「なんのことだ?」
熱量すべてを食い尽くすような冷たい雰囲気に耐えきれず、即座に聞き返した。
感情の一切が読み取れない、夜の帳のような声。
それで話す内容さえ、ドラマか何かから引用しているかのようだった。
「言葉のままさ。
この先お前の行動次第で、世界が変わる」
何を言っている、理解が追い付かない。
まさか俺は、まだ布団の上だとでも言うのか。
こんな質の悪い夢を見る羽目になろうとは。
眠りながら実際の感覚を味わうのも慣れてしまったものだ。
「アホらしいな、ごっこ遊びなら他でしろよ。
良い歳して痛々しいぜ」
それは、必死の抵抗のつもりだった。
可愛い妹分や仲の良い友人、先輩たちに囲まれて日常を謳歌する一般人としての、ギリギリ振り絞った強がりだ。
「何を言っているのかな?
お前も俺も、物語の世界にいるというのに」
だがヤツは、そのカウンターを無情にも破壊した。
絶対零度のような冷めた声で、おぞましい一言を放ったのだ。
見なくても判る。
俺の表情は今、確実に崩れている。
「こう言えば良いかな。
介入者よ」
「いんと、るーだー……!?」
あの夢の中で、物語としてのソードアート・オンラインに夢中だった少年が、父親から託された役割。
何度も聞いたその名称は、今まさに白髪の男が、俺を指して口にしたもの。
誰にも話したことのないその単語を口にされたことで、指の先まで身体が強張り始める。
「介入者とは、物語の分岐点に立ち会い、書き換えることを許されし者。
所詮、登場人物の粋を出ないこの世界の人間たちとは違う。
我々は、まだ見ぬ物語を、ソードアート・オンラインを生み出せるのだ!」
この男は、いったいなんのことを言っている。
終わらぬ夢に囚われてしまっているのか、それとも映画の撮影に割り込んでしまったのか。
もうこの際どうだっていい。
少なくとも、今判ることは一つ。
「……俺が、介入者。
あの夢に出てきた……!?」
目の前の男は、否定の素振りを見せなかった。
血の色よりも濃い双眸が、刃物のように突き刺さる。
介入者は、あの少年が託された使命そのもの。
俺のことをそう呼ぶということは、こいつの正体は――
「あんたは……何者なんだ。
俺の、父さんなのか?」
「……残光晴輝、だったな」
質問に返ってきたのは欲しかった回答ではなく、俺自身の名前。
一字一句違わず放たれたそれは、俺に更なる恐怖を与える。
「お前の父親、残光陽輝は妻の輝更共々、疾うに亡くなっているだろう?
我々は歳も変わらない、有り得るはずなかろう」
「違う、元の世界のだ。
俺は……物語の中に転生したのか?」
肯定も否定もない、完全な沈黙。
男は表情を変えることなく、無言のみを返した。
こいつの言うことを信じるわけじゃない。だが少しでも多くの情報を聞き出し、状況を理解したい。
なのに目の前の相手は、その気持ちを踏みにじる。
「……なんとか言ったらどうだ」
「どうしても答えて欲しい、そういう顔をしているな」
ここまで思考の読めない煽り文句も珍しい。
彼は果たして何を想い、どういう感情で口を動かしているのか。
とりあえず断言出来るのは、この男が一切嘘はついていないということのみ。
「現時点で言えるのは、お前次第ということだけだ。
自らに課せられた役目を果たし、然るべき結末を受け入れられるかどうか……
その時、お前の求める答えは得られるだろう」
「俺次第とは言うが、どうしろって言うんだ?
さっき言ってた世界を変える権利ってヤツか?」
「あぁ、お前はもう持っている。
地獄へ踏み入るための片道切符を」
現状この条件に当て嵌まっているものはたった一つ。
夢の中の少年――かつての俺かもしれない――が見ていた物語にして、今も一万人を閉じ込めて稼働し続けているゲーム、ソードアート・オンライン。
この男は、デスゲームと判った上で飛び込むかどうかを聞いているのだ。
「物語を書き換える者、そういうことか」
「理解したな?
そう、お前は本来この世界には存在しない。
付け足された、いや、割り込んだ者と表現して差し支えないだろう。
異分子とは、常に不確定要素でもあるのだ。
この物語を産み出した神の知らぬ、
俺は元々、明日奈たちの辿る物語の中にいなかった。
なるほど、確かに介入者だ。
俺が関わらなければ起きていた、或いは起きなかった事象。
それらを正史とするなら、もうとっくにこの世界は創造主の手を離れている。
落胤とはよく言ったものだ。
「ずいぶん作り込まれたシナリオだ。
だが生憎なことに俺はそういうこと、教えてもらうのは好きじゃあねぇんだ」
「なら行くということかな?
後の英雄を生み、多くの命を散らす戦場に」
「あんたの言う通りにするって言うのは、心底気に入らないけどな」
ようやく、この男の異様な雰囲気にも慣れてきた。
まるでこの世の人間の負の側面すべてを覗いたような、言い知れぬ空気。
それを前にして、よくこんな啖呵を切れたものだと、自分を褒めてやりたい。
「それでこそ介入者だ。
これより試練に臨まんとするお前を、あえてこう呼ぼう。
ラスベリー、とね」
「ラスベリー……?」
「フフッ、意味は追々考えるといい」
たったそれだけ、不可解さだけを残して、男は立ち去る。
あとを追おうと振り返った時には、すでに誰の姿も無かった。
我が家に入って真っ先に耳に届く天使の声。
先ほどまでの一件で酷く憔悴していた俺を、愛猫プランプが現実に引き戻してくれた。
残酷にも、あれはドッキリでもなんでもなかった。
この身に受ける柔らかな感触がそう告げる。
「ごめんな、プランプ。
俺、何がなんだか、判らなくなってる」
混乱、怪訝、恐怖。
複雑に渦巻いた感情を、どうして純粋なこの子に対して向けなければならないのだろう。
震えた声で謝罪を述べることしか出来ない。
背伸びをしていただけだ。
あの恐ろしい雰囲気をまとう男に向き合うために、不安を圧し殺していたに過ぎない。
我が家の天使には本来、そんなことは無縁であるべきなのに、その愛らしい姿を見た途端、あっさりと理性は崩れ去った。
我ながら情けないことだ。
「ぁ……」
だが、プランプは俺が思っていた以上に賢かった。
小さく首を傾げ、何も言わず可愛らしい顔を向けている。
その様子はこちらの心境を察して、じっと続きを待っているかのようだった。
飼い猫に気を遣わせるとは思わなかったが、その慈愛が今はただ眩しい。
混迷の中に差し込んだ唯一の光。
それが少しずつ、濃霧を晴らしていく。
「ここで悩んでいても、仕方ないよな」
そうだ、俺はどうすべきか決めたはずだ。
さっきまで強がって、最後まで立ち続けていたじゃないか。
変えられる運命があるのなら、自分にそれが許されるなら、少しでも遠くへ手を伸ばしたい。
覚悟の翼を広げた以上、あとは羽ばたくだけなのだ。
「プランプ。
しばらくの間、近所のおばちゃんの家にいられるか?」
永遠のように感じた思考の波を経て、ようやく芯の通った言葉が出てきた。
それに対してプランプは甘えたような声をあげる。
お腹が空いた時の鳴き方だ。
「はは、よしよし。
判った、今日の晩御飯は豪華にするよ。
一緒に食べようぜ、プランプ」
「みゃおん!」
まだ約一年の付き合いだと言うのに、なんて良い子なのだろう。
いきなり別の家に行けなどとワケの判らない要求をされても、なんの文句もなく受け入れ、いつも通りご飯を要求してくれる。
もうそれだけで、俺の心は救われた気がした。
ワクワクしながら待っているプランプのために、俺は準備を進める。
その傍らで、ある人物へ電話を飛ばしていた。
表示されている名前は、今朝のメールの送り主。
「あっ……」
スマートフォンが通話モードに切り替わった。
すぐにスピーカーをオンにして、落ち着いた口調で話しかける。
「お疲れ様です、倉橋さん。
予定より早い時間にかけてしまって、すみません。
木綿季さんと、今から話せますか?」
END
あとがき
プランプ
「あなたの背後に忍び寄る混沌、プランプだよ!
閃光瞬く剣の世界【SAO-XD】第7話、どうだった?
晴輝君、誰と話してたんだろう?
なんだか嫌な予感がして玄関で待ってたんだけど、晴輝君が突然一人で話し出して……
僕が見た時、他に誰もいなかったし、どういうことなんだろ?
何かあったのは確実だろうけど、まぁ、僕は見守ることしか出来ないしね。
なんてことなく、いつもみたいにご飯を食べるだけだよ!
(その方が晴輝君も安心出来るかなって)
にしても、明日からお泊まりかぁ。
この分だと僕、二年も晴輝君を待つことになりそう……
まぁ、おばちゃん良い人だし、寧ろたくさん食べて大きくなって、帰ってきた晴輝君を驚かしちゃお!
次回、【勇気=進む先にあるもの】」