時は宇宙世紀0101年。ジオン共和国が自治権を放棄してから一年が経過した。地球連邦政府はジオン共和国の現住居住地であるスペースコロニー『サイド3』を新たな経済拠点とするべく、ジオン共和国に経済封鎖を課し、地球連邦政府のエージェントが自治政府代表と会合を持って交渉を始めた。それから程なくして地球連邦政府はジオン共和国にサイド3を新たな観光地として売り込むと発表し、ジオン共和国は地球連邦政府に経済協力を約束した。しかし、ジオン共和国がサイド3を観光地として売り出すには問題があった。それはスペースノイドたちの地球連邦政府への反発と、地球連邦政府の圧政に対する恐怖心だった。
スペースノイド弾圧のため地球連邦軍内に結成された地球至上主義者による軍閥『ティターンズ』の蛮行が記憶に新しいスペースノイドたちは、地球連邦政府に対して不信感を抱いていたのだ。
あるスペースコロニーの自治政府はティターンズによって襲撃を受け、住民が虐殺されるという事件まで起こった。そのコロニーではジオン共和国への脱出を試みる者が後を絶たなかったが、宇宙港がティターンズによって閉鎖されていたため、ことごとくが阻止された。
そういう経緯もあって、サイド3の地球連邦政府への不信感は日に日に強くなっていった。そんな中、サイド3への交渉役として志願したのはアナハイム・エレクトロニクス社の有力者であるウォン・リーであった。彼はサイド3の自治政府と交渉する傍ら、サイド3の経済状況や政治状況をつぶさに調査した。そして、ウォンの粘り強い交渉と説得によりサイド3の住民たちは地球連邦政府との和解を決意する。こうして、サイド3は地球連邦政府の傘下に入り、地球連邦の直轄地となり、ジオン共和国は地球連邦の経済協力によって大きく発展していくことになるのだった。それから一年が経過した宇宙世紀0102年。サイド3の周辺には多種多様なスペースコロニーが建造されてそれらは観光施設として整備され、サイド3は地球圏屈指のリゾート地として知られるようになっていた。ここ、『ネオ・オオサカシティ』もそんなリゾートコロニーの一つだ。
ネオ・オオサカシティは地球にある日本国の大阪府をモデルにした都市で、近代的な高層ビル群と緑あふれる公園や庭園が調和した未来的都市である。そのネオ・オオサカシティの中心地に、ひときわ目立つ巨大なビルがある。ネオ・オオサカシティ最大の規模を誇る『ネオ・通天閣』だ。ネオ・通天閣は大阪のシンボルであり、観光地として外国人観光客からの人気も非常に高かった通天閣をモデルにして建造された。ネオ・通天閣の展望台にはカップルや家族連れの姿が多く見られ、休日を楽しむ人々を優しく見守っているようだった。
「わぁ! すごい景色!」
展望台に上がった一人の女性が眼下の光景を見て感嘆の声を上げた。その女性の名前はアユ・モリノ。彼女は地球連邦軍の軍人なのだが、今日は有給休暇を貰ってネオ・オオサカシティの観光を楽しんでいた。
アユはネオ・通天閣の展望台に上がり、眼下に広がる光景に興奮していた。
「これがネオ・オオサカシティ。なんて綺麗なのかしら……」
アユは地球の美しい自然や街並みを思い出して感動していた。その光景を見ていると地球連邦政府がジオン共和国と和平を結び、スペースノイドたちが平和を享受している理由が分かった気がした。
「隊長も来られたら良かったのに」
アユはそう呟きながら、自分の上司であり、恋人でもある一人の男性の姿を思い浮かべた。
「きっと今頃は宇宙にいるのね」
アユは自分の愛する隊長が今は宇宙に居ることを思い出しながらネオ・通天閣の展望台から見える街並みを眺めていた。その時、突然女性の悲鳴が聞こえた。
「誰か助けてーっ!引ったくりよーっ!」
女性の叫び声を聞き、アユが慌てて周囲を見渡すと、前方から帽子を深く被った男がバッグを奪い取り、女性から逃げようとしているのが見えた。
「待ちなさいっ!」
アユは咄嗟に叫ぶと、男を追いかけるべく駆け出した。しかし、引ったくりの男はなかなかすばしっこく、アユは中々捕まえることが出来なかった。
「姉ちゃん、一人でひったくりを捕まえようなんて無茶やで。ここはわしに任せとき!」
突然太い男の声がしたかと思うと塀の上から一人の男が飛び降りて来て、引ったくりの前に立ちふさがると同時に飛び掛かった。
「うわあっ!?」
引ったくりは突然現れた男に驚き、立ち止まる。そして彼は引ったくりからバッグを奪い取り、そのままアユの許へ走って行った。
「しまった!せっかく手に入れたのに」
引ったくりは無念そうな声を上げるがもう遅い。アユはバッグを奪い返した男の手からそれを受け取ると、持ち主の女性に返したのだった。
「あ……ありがとうございます!」
女性はアユに感謝の言葉をかけると、急いでその場から立ち去ったのだった。
「さあて、あとはお前さんをどうするかやなあ……?」
その男は引ったくりの前に立ちはだかると両手をぽきぽきと鳴らしながら、引ったくりに詰め寄って行く。
「ひ、ひええっ!ほんまにすんませんでした!自首しますから暴力だけはご勘弁を!!」
引ったくりは顔面蒼白となり、男の目の前で土下座を始めた。
「しゃあない、これに懲りたらちゃあんと反省するんやで?姉ちゃん、すまんが警察に連絡してくれへんか?」
「ええ。分かったわ」
アユは警察に通報すると、男は引ったくりを立ち上がらせた。
「ほな、行くで」
「へ……へい……」
男は引ったくりを連れてネオ通天閣の展望台を後にしたのだった。
それから数分後、警察官が到着して引ったくりの身柄を確保した後、アユは男に向き直って礼を述べた。
「引ったくり犯の逮捕に協力いただき、ありがとうございました。私は地球連邦軍のアユ・モリノ少尉と申します」
「ええっ、姉ちゃん軍人さんやったんか?えらいべっぴんさんやから、モデルかと思ったわ」
「まあ、ありがとうございます♪」
アユは男に褒められて嬉しそうな表情を浮かべた。
「私はネオ通天閣の展望台に観光に来たのだけど、そこでひったくり犯が女性からバッグを奪ったの。私が追い掛けようとした時にあなたが助けてくれたのよ」
「ああ……なあるほどなあ。あ、自己紹介が遅れてすんまへん。わしはオサム・ミナグチ。ネオオオサカ商業高校に通う26歳の高校三年生や!」
「え……26歳?高校三年生?」
アユはオサムの自己紹介を聞いて困惑した。よく見ると確かに彼は青い学ランに胸ボタンを開けて虎柄のTシャツを着ていて、頭には熱血と書かれた白い鉢巻を巻いている。裸足で下駄を履いていて、どう見ても高校生に思えない強面の顔つきに普通の高校生と比べても背が高く、あまりにも異質な雰囲気を醸し出している。
「ちょっと、26歳って私より年上じゃない!それで高校三年生ってあなたどれだけ留年してるの!?」
アユは思わず大声でツッコミを入れてしまう。オサムは苦笑いを浮かべて答えた。
「いやあ……わし、こう見えても頭はええねんけどな、出席日数だけ足らへんねん。せやから留年してもうたんよ」
「あ、ああ……」
アユは納得してしまった。確かにこの風貌だと授業を受けるよりケンカに明け暮れていたと言われた方がしっくりくる。しかし、そんな男がひったくりを捕まえたのだ。そのギャップにアユは戸惑いを隠せなかった。
「もう、それじゃあちゃんと授業に出なくちゃダメじゃない。留年してまで学校をサボるなんて……」
「いや、ほんま堪忍やで。わし、この歳になってもまだヤンチャが治らんくてなあ……」
アユが呆れたようにオサムに説教をしていると、突然地面が震動を始めた。
「きゃっ……何!?地震!?」
「いや……ここはスペースコロニーやから、地震は起きへんで……って、なんやアレ!?」
アユが驚くと同時にオサムが驚愕の声を上げる。なんとコロニーの地面から一体のMS《モビルスーツ》が現れたのだ。その機体はネオ・ジオンのギラ・ドーガに酷似していたが、頭部はガンダムタイプのモノアイになっており、背中には巨大な大砲を背負っている。
「嘘でしょ、なんでいきなりMSが……!?」
「わ、分からん……とにかくここは危険や!モリノはん、早う逃げんと!」
アユが呆然としているとオサムが彼女を連れて逃げようとしたその時だった。突然地面から現れたMSのモノアイが赤く光り輝き始めたかと思うと、両手を伸ばして繁華街にある大型のカニの形をした看板を無理やり引きはがした。
「おい、ゴルァ!いきなり何すんねん!そのネオ・かに道楽の看板はな、ネオ・オオサカシティのシンボルやぞ!何勝手に剥ぎ取ってんのや!!」
そう叫んだかと思うと、オサムは全速力でMSに向かって走り出していた。
「ちょっと!?オサムくん、生身でMSに立ち向かおうなんて無茶よ!早く逃げないと!」
アユはオサムを引きとめようとしたが、彼はもう目の前に迫ったMSに意識を集中させていてアユの言葉は耳に入っていないようだった。そしてオサムがギラ・ドーガに似たMSの目の前まで迫った時だった。突然そのMSの頭部からスピーカー越しに無機質な男の声が響いた。
『この看板は私がいただいてゆく。返してほしくば力づくで奪い返すのだな』
「何やと?おのれ、ワシを誰だと思っとるんじゃ!わしは泣く子も黙る『喧嘩無敗の虎大将』やぞ!」
オサムがそう叫ぶと同時にMSのモノアイが再び赤く光り輝いた。
『私にはあるのだよ。新たな歴史を作る権利がな!!』
「なに訳の分からんことをごちゃごちゃぬかしとんのじゃ!どこのアホか知らんが、ネオ・オオサカシティの住民に代わってその看板はわしが絶対に取り返したるで!!」
オサムがそう怒鳴り返すと声の主は彼を誘導するようにゆっくりとネオ・通天閣へと移動してゆく。するとネオ・通天閣の中からもう一体のMSが姿を現す。
その装甲は白く、V字型のアンテナを頭に被ったその姿はままさにガンダムタイプのMSのように見えた。
「な、なんやアレは!?ネオ・かに道楽の看板を剝ぎ取った奴の仲間か!?」
オサムが驚愕の声を上げると白いMSは彼の前に跪き、胸部にあるコクピットハッチが開いた。
『乗りたまえ。君にはその資格がある』
「な、なんやと……わしはMSの操縦なんてしたことないで。せやけど、あの看板を剝ぎ取ったあいつに負けるわけにはいかん!」
「え?ちょっ、オサムくん!?」
アユは男の声に導かれるように白いMSに乗り込んでゆくオサムを追いかけようとするが、彼は既にコクピットに乗り込んだ後だった。
「うっ……勢いで乗り込んでしもたけど、MSの中ってけったいやなあ……せやけど、わしにはこの機体であの野郎と戦うしかあらへんねん!」
オサムはコクピット内を見渡すとコンソールのタッチパネルに手を触れた。すると白を基調としたコクピットのメインモニターに光が灯り、OSが起動する。
「な、なんや!?急に画面がついたで!しかも、わしの知らないOSやないか……」
オサムが驚いているとメインモニターに『GUNDAM-RED EYES』というロゴが表示される。そして頭上から黄色いボールのような球体が降りてくると、オサムの頭に落ちてきた。
「うわっ!なんか頭にボールみたいなんが……」
オサムは恐る恐る頭上の球体に触れると、それは彼の頭からゆっくりと離れた。そして球体に目のような赤い光が灯る。
「な……なんやこれは!?」
「ハロー、マスター。いや、ここは相棒と言ったほうがいいか?俺はハロ。このレッドアイズガンダムのパイロットのサポートを担当するサポートメカだ」
「は、はあ……」
オサムが呆然としていると再びコクピット内に光が灯り、今度は『ニュータイプに栄光あれ』という文字が表示された。
「な、なんや!?今度は急に画面が切り替わったで!」
オサムは驚きの声を上げるとコクピットのハッチが閉まり、ハロが上機嫌に叫ぶ。
「さあ、準備は整った。初陣といこうぜ、相棒!」
オサムがハロの声に押されてコンソールのスイッチを押すと、メインモニターに『ENTRY』の文字が表示され、再びガンダムの目が赤く光る。それと同時にMSは立ち上がり、機体全身に力が漲ってゆくのを感じた。
「これが……わしの初陣か……」
オサムが感慨深く呟いていると突然ギラ・ドーガに似たMSがモノアイを光らせて襲い掛かってきた。
「うおりゃあっ!!」
しかし白いMS、レッドアイズガンダムは素早く反応し、飛び掛かってくるギラ・ドーガに似たMSを左足で蹴り飛ばそうとしたその時だった。
「機は熟した!新たな世界の扉が開く、私が開く!そして新たな歴史が誕生するのだ!!さあ、君も新たなる歴史の目撃者となるがいい!!」
突如謎の男の声がコクピット内に響き渡り、それと同時に2体のMSが眩い閃光を放ち始める。
「キャアアアアア――――――――ッ!」
その閃光を直視することができずに、アユは思わず目を閉じて顏を覆う。次の瞬間には2体のMSは跡形もなく消え去っていた。
「う……嘘でしょ?オサムくん……どこに行ったの?」
アユは閃光を放った瞬間にネオ・オオサカシティから姿を消した白いMSを探しながら、必死に声を絞り出す。だが彼女がいくら声を張り上げてもその声は虚しく響き渡るだけで、オサムの姿はどこにもなかったのだった。
「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
閃光に飲み込まれたレッドアイズガンダム、そしてそれに乗るオサムとハロは気が付くと、頭をブンブンと振りながら意識を取り戻した。
「おい、相棒!どうやら俺たちはあの光によって別の宇宙に飛ばされたらしいぜ」
ハロは冷静に状況を説明するがオサムはそんな冷静な判断ができるはずもなく、ただただ慌てふためくだけだった。
「ど、どういうことやハロの字?わしらはネオオオサカシティから遠くへ来てしもたと言うんか……?」
オサムとハロが会話していると何やらコクピットの外が騒がしくなり始めた。
「おい、なんだよアレ!?」
「モビルスーツが降ってきたぞ!」
「ちょっと!?せっかくの決闘が台無しじゃない!!」
オサムがコクピットの外を見るとそこには多くの学生たちがレッドアイズガンダムの姿に注目していた。
「こ、こりゃあまずい!すぐにここから逃げんと……」
オサムが慌ててコンソールをいじろうとするが、コンソールには『Error』の文字が表示されているだけだった。
「エ、エラーやと!?おいハロの字、なんとかできへんのか?このままじゃ、わしたちは見世物になっちまうで!!」
「確かに今の状況はまずい。だが生憎と俺たちはこの機体をうまくコントロールすることができそうにない」
「何やて!?」
ハロの返答にオサムが驚いていると突然、コクピットに通信が入った。
『あ、あのぅ……すみません、私たち決闘をしてたんですけど……』
それは可愛らしい少女の声だった。オサムが声のするモニターを見ると、そこには青、白、グレーのボディカラーのMSが立っていた。色といい、V字型のアンテナといい、オサムが見知っているガンダムと似た印象を受けるが、女性のような流線型のボディラインが特徴的だ。
「何や、これは……ハロの字、あれもガンダムなんか?」
「俺にもわからねえ、だが俺たちが別の宇宙に来ちまったってことはあれは別世界のガンダムなのかもしれねえな」
オサムとハロがそんな会話をしていると、MSから再び少女の声が聞こえてきた。
『あの、すみません!聞こえますか?聞こえてたら返事をしてください!』
その声はコクピットにいる2人にははっきりと届いていたが、無線で返答することなど到底できるはずもないので、仕方なくコンソールの通話機能を使って答えることにした。
「……ああ、すまん。この機体をうまくコントロールできへんのや」
オサムは申し訳なく思いながらそう言うと少女は安心したように話を続ける。
『よかった……。あ、あの、実はですね、あなたの機体の足元に私が決闘していた人の乗ったMSが倒れているんです。その、できればどいていただけないかなと思って……』
「な、何やて!?これはあかん、なんか知らんけど機体が動かせへんから嬢ちゃん、機体を動かすのを手伝ってくれへんか?」
『え……?わ、わかりました!今助けます!』
オサムは藁にも縋る思いで少女に頼むと彼女は快く了承した。すると少女がガンダムに似た機体を動かしてレッドアイズガンダムをその下敷きになっていた紫のMSの上から移動させることに成功。
すると集まっていた学生たちの人だかりを割って入るように1人の男子生徒と2人の女子生徒が紫のMSに大慌てで駆け寄って行った。
「兄さん、怪我は無い!?」
「グエル先輩!」
「センパーイ、生きてるっすかー?」
3人が呼びかけている間にも紫の機体からパイロットが這い出てきた。そして彼は立ち上がると、生徒たちに向かって叫んだ。
「ラウダ、ペトラ……フェルシー、は、早く俺を助けろ……!」
「兄さん!」
ラウダと呼ばれた男子生徒は血相を変えてパイロットの少年に駆け寄ると、すぐに肩を貸して立ち上がらせた。
「兄さん、今手当てをするから!」
ラウダはパイロットの少年に肩を貸しながら彼を治療するために校舎の中へと入って行く。その後に続いて、ペトラ、フェルシーと呼ばれた2人の女子生徒は彼らの後を追いかけて行った。
「な、なあ。ハロの字、これはいったいどういう状況なんや?」
「見たところ、ここはどっかの学校らしいな。で、ネオオオサカシティから飛ばされてきた俺たちが今運ばれてったパイロットが乗ってた機体の真上に墜ちて来て、それで決闘とやらはお開きになったってわけだ」
「なるへそ……で、ハロの字、この機体はまだ動かせへんのか?あのラウダとかいう兄ちゃん、心配そうな顔をしとったが……」
オサムがそう言うとハロはコンソールの画面を表示して答える。
「さっきの衝撃でメインシステムの一部が故障したようだ。だがサブシステムでなんとか動かせそうだぜ」
「そか……なら……」
オサムとハロが会話していたその時だった。
「ちょっと!あんた、何してくれたのよ!!」
突然、甲高い怒鳴り声が響いたと思うと地面にしゃがみ込む体勢になったレッドアイズガンダムの足元に銀髪の少女が憤懣やるかたない様子で肩を怒らせながら歩いてきてコンソール越しにこちらを睨みつけてきた。その顔は平時なら間違いなく美少女といえるかもしれないが、彼女の柳眉は激しく逆立ち、その気の強そうな瞳は怒りに燃えている。
「え……?な、何のことやろ……?」
オサムは彼女の気迫に押されるように弱々しく答えると、少女はさらに声を荒らげる。
「とぼけないで!あんたが急に現れるから決闘がダメになったじゃない!!この決闘にいくら賭けたのかわかってんの!?」
『ミオリネさん、べ、別に負けたわけじゃないんですから、そんなに怒らなくても……』
ガンダムに似た機体に乗っている少女からミオリネと呼ばれた少女はそれでもなお怒りが収まらない様子で少女に怒鳴りつける。
「うるさいわね!スレッタ、あんたもとっとと降りて来なさい!」
『は、はいっ!!』
ミオリネの怒声に押されてMSから出て来たスレッタという赤い髪の少女はオサムが今まで見た事の無いようなパイロットスーツを着ていた。その上からでも分かる程の豊満なバストを持った可愛らしい少女の姿にオサムは思わず面食らってしまった。
「な……!あんな可愛らしい嬢ちゃんが、ガンダムに乗ってたんか……?いや、まさか……そんなはずは……」
「あんた!聞いてるの!?ったく、決闘は中断になるし、ペトラたちと一緒にグエルを保健室に連れて行かなきゃいけないしで散々だわ!」
ミオリネがそう叫ぶとオサムもようやく我に返る。
「え?ああ、すまんな。ところで嬢ちゃんたちはあのモビルスーツの関係者なんか?」
「はあ?何よ、今更。そんなことも知らずにその機体に乗ってたわけ?」
ミオリネが呆れたように言うと、オサムはたじたじになりながらも返事をする。
「実は色々あってな、ネオ・オオサカシティでわけのわからんけったいなMSと戦っとったら、気付いたらここにいたんや。だから詳しいことは何もわからへんのや」
オサムがそう言うと、スレッタとミオリネは互いの顔を見ながら納得できないような表情をしていた。
「ネオ・オオサカシティ?わけのわからないMS?何言ってんの、あんた」
ミオリネがそう言い放つと、不信感に満ちた目つきでオサムを睨みつける。
「ちょっ、ちょっと待ってくれや。嬢ちゃんはサイド3に作られたリゾートコロニーのネオ・オオサカシティを知らんのか?それでそこにドカーッと地震が起きて、このガンダムが現れたんや」
オサムの話を聞いていたミオリネの表情がますます険しくなっていくのを横目で見たスレッタが慌てた様子で会話に割って入った。
「あ、あの……サイド3ってコロニーは私、聞いたことないんですけど……」
「な……なんやて!?嬢ちゃんら、サイド3を知らんのか?どうりで話が噛み合わんわけや!」
オサムはスレッタの言葉に驚くとハロも納得したように言った。
「やはりな。相棒、本当にここは俺たちがいた宇宙世紀とは別の世界のようだな」
「ああ、そうやったな……。もしかしたら本当にわしらは別世界に飛ばされてしまったかもしれへんのう……」
ハロとオサムがそう会話しているとミオリネはさらに懐疑的な表情になる。
「さっきから何をブツブツ言ってるわけ?それよりその機体を早く渡してよ!あんたのせいで決闘中止になったんだから!」
「いや、それはわかっとるんやけど、この機体、どうやらメインシステムがイカれたみたいで動かせへんのや。今出て行くから少し待ってくれんか」
オサムとハロは慌ててレッドアイズガンダムのコクピットを開いて外へと出て行った。この時、オサムの姿を見たミオリネとスレッタは思わず目を見張った。
オサムは青い学ランに胸ボタンを開けて虎柄のTシャツを着ていて、頭には熱血と書かれた白い鉢巻を巻いている。さらに足は裸足で下駄を履いているのでスレッタやミオリネの同級生とは全く異なる風貌だったからだ。
「な、何よあんた!なんでそんな珍妙な格好しているの!?」
ミオリネがたまらず大声で叫ぶと、オサムは不思議そうな顔で彼女を見る。
「ん?わしの格好、そんなに変か?」
オサムはミオリネの反応を見て不思議そうに首を傾げたがスレッタはミオリネとは真逆で、彼の格好を見て目を丸くした。
「わあ!かっこいい!」
手を叩いて喜ぶスレッタにミオリネは呆れた様子で声をかける。
「どこが!?スレッタ、この変な奴に見惚れてる場合じゃないわよ。とにかく今は決闘委員会や学園側にこの状況を説明しないと……」
ミオリネがそう言い終わった直後、複数の黒いMSが現れてオサムたちを包囲した。黒いMSは全機とも武装していて、その手にはビームライフルが握られている。
『ただちに決闘を中止しなさい!それとガンダム及び、そのパイロット2名は拘束します』
低い男性の声がスピーカーで響き渡ると、ミオリネは眉間にシワを寄せながら黒いMSに叫ぶ。
「ちょっと何よ!?決闘は中断したんだから私たちは関係ないでしょ!?」
『これは審議です。我々はデリング・レンブラン理事長の命によって派遣されたのです』
「あの糞おやじ……!」
ミオリネはその名前を聞いた途端、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべて毒づいた。どうやらこのMSのパイロットたちはデリング・レンブランと言う人物の命令で出動したようだ。
「ちょっと待てや、わしに銃を向けるなや!」
オサムが黒いMSにそう叫ぶと、1機のモビルスーツからパイロットが出て来て、オサムの前に降り立った。そして無理やり長い棒状の物体を彼の額に押し当てると、そこから微弱な電流が流れて有無を言わさずオサムは気絶した。
「お、おい、相棒!?お前……いきなり何しやがる!!」
オサムが気絶した際にその左肩に乗っていたハロは地面へ転げ落ちて、自分の相棒に危害を加えられたハロは怒り心頭といった様子でパイロットを怒鳴りつけた。
「随分口の利き方のなってないペットロボットだな。だが私の指示に従わなかったお前たちがいけないのだぞ?」
パイロットはハロをペットロボットと侮蔑すると、続いてスレッタに目を向けた。その冷酷な目つきにスレッタは怯えた様子で後ずさった。
「君がもう1体のガンダムのパイロットかね?」
威圧するかのような態度で質問してくるパイロットに対してスレッタは抗議するかのように声を振り絞りながら訴えた。
「ガンダム!?違う、これ、エアリアル……」
「そのガンダムを今すぐこちらに引き渡したまえ。それが理事長の命令だ 」
パイロットがそう言い放つとスレッタは腹の底から湧き上がる怒りに任せて言葉を発する。
「嫌です!エアリアルは私の家族なんです!!」
「家族か……では、君の家族もすぐに引き渡すことをお勧めするよ。それとも力づくで連行されたいかね?」
パイロットにそう言われるとスレッタは仕方なく彼の指示に従い、ハロはオサムの側に駆け寄った。
「相棒!しっかりしろよ、相棒……がっ!?」
オサムに呼びかけようとするハロに容赦なく電流を浴びせるパイロット。そんな彼にミオリネは抗議の声を上げる。
「何すんのよ!たしかにそいつらは怪しい奴らだけど、何もそこまでしなくたっていいでしょ!?」
「ミオリネ・レンブラン様ですね?我々は理事長の命によってここに来ました。あなた様にはこのまま学園へ戻ってもらいます」
パイロットのその言い草にミオリネは思わず拳を握りしめた。
「あの糞おやじ……!いつも自分の思い通りになると思ったら大間違いよ……!」
そう呟くとミオリネは教職員に誘導されながらその場を後にした。程なくしてスレッタを連行した車両に気絶したままのオサムとハロが職員らに引きずられていき、無造作にその中へと放り込まれた。
「きゃっ……あ、あのっ、大丈夫ですか……?」
心配そうにオサムとハロに声をかけるスレッタ。そんな彼女にオサムたちを気絶させたパイロットが声をかける。
「心配することはない。気絶しているだけだ、暫くは目を覚まさないだろうがな」
「そんな……ひどい……」
スレッタはオサムやハロの気絶した姿を見て目を潤ませていた。そんな彼女にパイロットは車内に強引に入ってくると、無遠慮にも口を開く。
「君の名前は?」
「ス、スレッタ・マーキュリーです……」
パイロットはスレッタの名前を確認すると、淡々とした様子で彼女に言った。
「突然ですまないが、君たちの身柄は拘束させてもらうよ。抵抗すれば、退学もやむなしと思いたまえ」
「え……?」
スレッタが呆然としているとパイロットはスレッタに言い放つ。
「さあ、一緒に来てもらうぞ」
「わ、わかりました……」
スレッタがそう答えるとパイロットは彼女の手を掴んで立ち上がらせた。そしてそのまま彼女を連行して行くのだった。