「うぅ……おふくろ……タコ焼きもお好み焼きも、もう食えへんて……むにゃむにゃ……」
その頃、オサムは元の世界にいる母との思い出を夢見ながら眠り続けていた。そんな彼の耳元で大声が響く。
「貴様!いつまで寝ぼけているつもりだ!さっさと起きろ!!」
オサムがゆっくりと瞼を開けると、そこにはスーツ姿の中年男性が立っていた。その後ろには数人の警備員と思しき大人たちがいた。
「ここは……どこなんや?たしかわしはレッドアイズとかいうガンダムに乗って……」
オサムはそう言いながら周囲を見回すと、自分のすぐ側にスレッタが椅子に座らせられていることに気付いた。
「え……?嬢ちゃん!?な、何でここにおるんや!?」
オサムが驚きながらそう言うとスレッタは申し訳なさそうな様子で彼に声をかける。
「ご、ごめんなさい……私、あなたが気絶しているのに何もできなくて……」
そう言って俯くスレッタにオサムは彼女を励ますように優しく声をかける。
「いや、そんなことはないで。気にせんといてや。それよりここは……」
オサムがそう言いかけると、スーツ姿の中年男性は乱暴に机を叩いて彼を怒鳴りつけた。
「私語を慎め!貴様があの忌まわしいモビルスーツ、ガンダムに乗っていたのは分かっているんだ!あのMS《モビルスーツ》のパイロットとして、このアスティカシア高等専門学園の生徒に危害を加えた罪は大きいぞ!」
「はあ?何言うてるんやおっさん。ガンダム言うたら、一年戦争でジオン公国をいてこました英雄が乗っていた栄誉あるMSやろがい!それを忌まわしいとはなんや、今日の平和があるんはガンダムと英雄『アムロ・レイ大尉』のおかげや。お前も感謝せなあかん、とおふくろに教わらなかったんかこのタコ!」
オサムが語気強くそう言うものの、スーツ姿の中年男性は少したじろぐもすぐに強気に言い返してきた。
「な……何だと!貴様、この私の事をタコだと!?いや、それよりも一年戦争だの、ジオン公国だの、アムロ・レイだのと訳のわからない単語を並べ立ておって!貴様の戯言に付き合うつもりはない!」
そう言い放つスーツ姿の中年男性の反応を見たオサムはふと自分が生まれ育った宇宙世紀とは別の宇宙に飛ばされてきたことを思い出し、まずいことになったと慌てて両手で口を押さえたが、もう遅かった。
「貴様は私の質問に包み隠さず答えればいいんだ。貴様はガンダムを開発したヴァナディースのメンバーではないのか?どうなんだ、ん?」
「いや、そのバナナなんとかなんて知らんて。わしはただネオ通天閣の中から出てきたあのレッドアイズっちゅうガンダムに乗ったら、けったいなMSに乗ったおかしな奴がブワーッと変な光を出して、うぉっ、まぶしってなったと思った時にはこのガッコにおったんや。そりゃ、真上から落ちてMSをおしゃかにしたり、パイロットの兄ちゃんに怪我させてしもたことは謝るけどな、だからってこの嬢ちゃんまで拘束することはないやろ。この嬢ちゃんは巻き込まれただけやぞ!」
オサムがそう力説するとスレッタもまたスーツ姿の中年男性の目を見ながら言った。
「あの子はガンダムじゃありません。あの子の名前はエアリアルなんです。だから……その……」
そんな2人の抗議も空しく、スーツ姿の中年男性はイライラした様子で舌打ちしながら耳を傾けていた。
オサムとスレッタへの尋問が始まったその時、学園の会議室では理事長であるデリング・レンブランをはじめとした教職員や、宇宙開発産業およびMS産業に携わる巨大複合企業『ベネリットグループ』のメンバーたちが集まっていた。
「理事長!これは一体どういうことです!?あの2体のMSはガンダムではないのですか?カテドラルが、MS開発評議会が秩序と倫理を守るために開発を禁止したMSなんですよ!?」
教職員の女性が顔を赤くしながらデリングにそう食ってかかる。しかし、デリングは余裕のある表情で答えた。
「あの機体は我々が開発したものではない」
「では一体誰が……まさかベネリットグループの誰かが……」
「いや、それも違う。あれは我々とは何の関係もないものだ」
デリングの言葉に賛同するようにもう一人の教職員がモニターに収容されたエアリアルとレッドアイズガンダムを映しながら説明する。
「スレッタ・マーキュリーという女子生徒が乗っていた機体は水星のシン・セ―開発公社が製造したことになっています。もう1人の不審な男が乗っていた機体はどこの企業グループにも属しておらず、製造番号も不明です」
「なんだ、それは?」
教職員の言葉を聞いた中肉中背の中年男性がイライラした様子で声を荒げる。
「ヴァナディースの機体じゃなければあれはなんだ!?どう考えてもあれはガンダムだろうが!忌々しいオックスアースの亡霊め、ガンダムを蘇らせおって!」
「待て、ジェタークCEO。そう判断するのは早計ではないかね?あの2体のガンダムが本当にガンダムなのか、あるいは別の何かなのかは分からない。だが、我々が最も警戒すべきはあの不審者だ」
デリングはそう告げると、モニターにオサムの姿が映し出される。
「彼がもう一体のモビルスーツのパイロットだ。服装といい、妙な訛りの言葉遣いといい、不審ではない点を探す方が難しい。あれほどの不審者を放置しておくわけにはいくまい」
デリングの言葉に教職員たち一同は賛意を示した。
「ところで理事長、その不審者が連れていたペットロボットですが……我々ベネリットグループが開発したベースユニットであるハロに酷似しています」
教職員の言葉にデリングは真剣な表情を崩さず耳を傾ける。
「あのハロとガンダムは無関係である、そう思っていいのでしょうな?もしそうでないとするならば我々の管理下に置かせていただくことになりますが……」
教師たちの底冷えするような視線を浴びながらデリングは静かに口を開いた。
「まだ彼がガンダムのパイロットであることを立証できたわけではない。そうだな……まずはこの2人が何者なのか調べるところから始めるとしよう」
一方その頃、オサムが連れていたハロは決闘委員会に所属しているセセリア・ドートとロウジ・チャンテという2人の生徒から尋問を受けていた。
「だーかーら!俺と相棒とレッドアイズはそのヴァナディースとかって組織とは無関係だって言ってるだろうが!」
「そんな嘘、誰が信じると思う?あんたたちみたいな不審者の言うことなんて信用できるわけないじゃん?」
セセリアはハロの球体状のボディを楽しそうに人指し指で突っつき回す。するとその反動でハロのボディは独楽のようにクルクルと回ってしまった。
「ビャアアアッ!!」
そのあまりの仕打ちにハロは叫び声を発した。
「あ、ごめんねー」
セセリアが棒読みでそう謝るとロウジがさらに問い詰める。
「自分たちでこの学園にガンダムを持ち込んでおいて、無関係だなんて言い訳が通ると思ってる?」
「だからそうじゃないって言ってんだろ?俺たちは別のコロニーで暴れてたMSと戦っていたら気付いた時にはこの学園にいたんだよ!だから俺たちは無実なんだ!」
ハロが必死にそう訴えるものの、2人は聞く耳を持たなかった。
「へえ、それなんてアニメ?面白すぎ!あっははは!!」
セセリアのバカにしたような笑い声がハロたちのいるフロアに響き渡る。その隣ではロウジが肩を竦めてその様子を見ていた。
「まったく、何をどうやったらそんな馬鹿げた言い訳を信じろというんだ……」
このままでは埒が明かないと悟ったハロは慌てながら言った。
「そ、そうだ、俺の端末内にレッドアイズの戦闘記録があるはずだからそれを解析してくれれば俺たちが別の宇宙から来たってことが分かるはずだぜ!」
「さあ、どうだろう?キミたちの話が本当かどうかなんて保証できる代物かどうか……」
ロウジはそう言ってハロに詰め寄ると、ハロは慌ててボディを横に振る。
「つーか、お前らさっきから2人で勝手に俺の愛すべきわがままボディを散々いじくり回しただろ!人権侵害じゃないか!あれだって本来は違法行為なんだ、規約違反だぞ!!」
ハロの訴えにセセリアが不満そうに言い放つ。
「アンタなんかのボディいじったくらいで大げさすぎ!ほら、人権を主張する暇があるならボールはボールらしく回ったらどう?」
そう言うとセセリアはハロの球体状のボディを指先でツンツンとつつくような動作を見せた。
「ビャアァァァッ!?」
再び体を回転させながら叫び声を発するハロにロウジが追い打ちをかけるかのように言葉をかけてきた。
「そんなことよりもだ……キミからは妙な粒子反応があるんだよ」
ロウジの言葉に一瞬息を吞むハロだったが、すぐに冷静になって答えた。
「おおっ、俺の粒子反応に目を付けるとは坊ちゃんもお目が高い!確かに俺はガンダムパイロットのサポートメカだからな、粒子反応が出るのは当然だろ!」
「ガンダム……?」
セセリアが訝《いぶか》しげな表情を浮かべる。
「アンタがさっき言ってたレッドアイズってガンダムなの?でもガンダムなんてずいぶん前に全部廃棄されたはずだよね?」
「うん、キミの言うガンダムもしょせん、前時代の遺物だよ」
ロウジとセセリアの言葉を聞いたハロは大きく頷いて言った。
「う……それを言われたら痛いな……俺自身、誰に作られたのかわかんねえし、そもそも宇宙に廃棄されたなんて確証もねえし……でも、事実としてガンダムはあるんだよ」
「ふーん。でもさ、アンタたちが乗ってたっていうガンダムと水星ちゃんのガンダムは何が違うわけ?」
セセリアの質問にハロは間髪入れずに答える。
「まあ簡単に言えば機体の形状とか性能が違うな。あとは局所戦用にパーツを色々と換装できるってところかな!まあ、他にもいくつか特殊な機能が付いてるんだけど詳しくは企業秘密だ!」
ハロはそう言うと誇らしげに飛び跳ねて、そのボールのようなボディを弾ませた。しかしセセリアは興味なさそうにあくびをするだけだった。
「あっそ、じゃあそのガンダムとやらを見せてみてよ」
セセリアの言葉に今度はロウジが反応する。
「それは僕も気になるね……キミたちの言うガンダムを是非とも見てみたいものだ」
「おう!任せろ!!」
ハロはそう言って自分のボディの中から端末を取り出すと、その端末のモニターにはレッドアイズガンダムの設計図らしき物が映し出され、さらにその周囲にはハロに搭載されたカメラによって撮影された様々な画像データが写し出されていた。
「これが……ガンダム……?なんか話で聞いてたのと全然違うじゃん」
「一般的なモビルスーツとは違うようだけど……」
セセリアとロウジは初めて見るガンダムの画像データに戸惑いの表情を浮かべていた。しかし、ハロは誇らしげにその説明をする。
「ああ、俺たちのレッドアイズはそんじょそこらのモビルスーツとは一味違うぜ!この機体には様々な武装が内蔵されているんだ!」
ハロはそう言うとモニターに新たな画像データを表示させる。そのデータにはガンダムレッドアイズの各部位に装備された火器のデータや、さらにはその性能を解説した文章などが書かれていた。
「例えばこの頭部に搭載されたバルカン砲は小型のスペースデブリなら一撃で木端微塵にできる威力を持っているし、この腕部と脚部に内蔵されたビームキャノンも相当な代物だ。そして何よりこいつの最大の武器は……ん?認証エラー?お、おい、どういうことだよ?なんでデータにアクセスできねえんだ!?」
ハロは慌てた様子で何度も端末のタッチパネルを頭部から伸ばしたコードで連打し、データのダウンロードを試みるもその全てが空振りに終わった。その様子を見たロウジが不思議そうに呟いた。
「これは……なかなか、興味深い代物だ……」
ハロがセセリアとロウジにレッドアイズガンダムの説明を始めた同時刻、尋問室にてオサムとスレッタはレッドアイズガンダムとエアリアルについて問い質されていたが、話が全くかみ合わずに職員たちもイライラし始めていた。
「くだらん茶番だ!我々をコケにするつもりなのか!」
「待ってくれや、おっさん。わしらは本当になんも知らないんや。っていうか、腹減ってきたんやけどかつ丼くらい出しくれてもええんとちゃうか?もう昼やで?」
オサムがそう軽口を叩くと尋問の担当者は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「き、貴様、少しは黙っていられないのか!?」
「ったく、これだから不審者って奴は……!」
そんな職員たちの怒りもどこ吹く風といった様子でオサムはあくびをした。一方スレッタの方はというと……。
(うう……どうしてこんなことに……!)
彼女は気落ちした様子で俯いていた。
(お母さんに心配かけちゃうな……)
彼女は母を想いながら静かに涙を流していた。まさかこの学園に編入してきたばかりでいきなり尋問室に連行されることになろうとは思いもしなかったからだ。
そんな2人の様子に全く構うことなく職員たちは呆れたようにため息を吐くと警備員に言ってオサムとスレッタの身柄を拘束させた。
「これからこの2人を懲罰室へ連行しろ!」
職員の指示によって警備員がオサムとスレッタの腕を掴み、強引に連行しようとする。
(痛い……)
スレッタは痛みに顔をしかめた。するとオサムは怒りの表情を警備たちに向けて言った。
「おい!わしは荒事に慣れとるからかまへんけど、その嬢ちゃんに乱暴することはないやろ!?ええ加減にせえ!」
しかし、その怒りも虚しく警備員たちは冷笑を浮かべる。
「そうか、そうか……そいつは失礼した……なぁ!」
次の瞬間、オサムの頬に強烈な痛みと衝撃が走り、その勢いのままに床に倒れこんでしまった。
「がっ……!?」
オサムは突然の痛みにうめき声を上げながらも、なんとか立ち上がろうとする。しかし、職員は彼に追い討ちをかけるようにその腹部に蹴りを食らわせた。
「ぐはっ……!」
再び激しい衝撃に襲われて立ち上がろうとしていたオサムはその場に崩れ落ちるように倒れてしまう。
「調子に乗るんじゃねえぞ不審者風情が。お前がガンダムに乗ってなければ、さっさとこの学園から宇宙空間に放り出すこともできたんだ。それをこれくらいで勘弁してやろうっていう俺たちに感謝しろ!」
職員たちは床に倒れこむオサムを見下して下品な笑い声を響かせると、今度は怯えているスレッタの腕を掴みながら言った。
「お前もだ!この学園の敷地でガンダムになんか乗りやがって……罰則が怖くないのか!?」
スレッタは涙目になりながらも懸命に叫んだ。
「わた、私は何も悪いことなんてしていません……!」
「これから懲罰室でおじさん達とじっくり話し合おうじゃないか、えぇ?」
「い、いやですぅ!!」
スレッタは涙目になりながらも暴れようとしたが、相手は男性であり力では到底かなわなかった。警備員たちはそんなスレッタを強引に尋問室の外へ連れ出すとそのまま懲罰室へと連行して行った。そしてその様子をオサムはよろめきながらも黙って見送ることしかできなかった。
「オラ!お前もさっさと立て!いつまでも床の上で這いつくばってんじゃねえよ、このウスノロが!」
「ぐほっ!?」
警備員たちは倒れているオサムの背中に蹴りを入れると、彼の髪を鷲掴みにして無理やり立たせる。そしてそのままズルズルと引きずっていった。
「くっそ……!」
オサムは苦渋に満ちた表情を浮かべると拳を強く握りしめて自分の無力さを呪った。
(今のわしにはなんもできん……あの嬢ちゃんを助けたいけど、わしには力があらへん……!)
そんな彼の脳裏によぎったのはハロの姿だった。
(そういえばハロの字はどこにいったんや?まさかあいつまで捕まって……!)
オサムがそんなことを考えているうちに懲罰室へと到着した。そこは薄暗く、窓一つない部屋だった。その部屋の中央で床に座らされたスレッタは不安げな表情を浮かべていた。
「そこでしばらく頭を冷やして反省してろ!」
「痛でぇっ!?」
警備員たちに尻を蹴り上げられながら懲罰室へ放り込まれるオサム。傷だらけの彼の姿を見たスレッタは慌てて彼に駆け寄った。
「あ……あのっ、大丈夫……ですか?」
涙目になりながら心配そうに話しかけるスレッタを気遣うようにオサムはゆっくりと上体を起こしながら笑顔を見せた。
「心配いらんて嬢ちゃん、この程度はかすり傷や」
「でも、血が……!」
スレッタがそう言うとオサムは自分の頬から流れる血に気づいた。
「あちゃー、こりゃ派手にやったな。まあええわ、こんなん唾つけときゃ治るっちゅうねん!」
オサムはそう言って笑い飛ばしたがスレッタの表情は曇ったままだった。そんな彼女の不安を和らげるためなのか、彼は明るく振る舞って見せたが、それでも彼女の表情が変わることはなかった……。
(こりゃあ、あかん。嬢ちゃんを怯えさせてしもうた、なんとかせな……)
オサムはそう思うと話題を変えるためにもスレッタに話しかけることにした。
「なあ、嬢ちゃんの名前を教えてくれへんか?」
「え……?」
「わしのせいでこんなことになってしまったのに、いつまでも『嬢ちゃん』って呼んでたら失礼やからな!」
オサムの言葉にスレッタは少し考えた後、小さな声で自分の名前を口にした。
「……スレッタ。スレッタ・マーキュリーです」
それを聞いたオサムは大きく頷いて言った。
「そうか、ええ名前や!ほな改めてよろしく頼むで、スレッタちゃん!わしはオサム。オサム・ミナグチや」
「オサム……さん……?」
「そうや。改めてよろしく頼むわ!」
スレッタは目をパチパチさせながら呆然と彼を見つめていたが、やがて小さく頷いて言った。
「……はい……!」
2人がそんなやり取りをしていると、先程まで張りつめていた空気が若干緩んだような気がした。
「それで……あの、オサムさんが別の世界からやって来たっていうのは本当なんですか?」
「ああ、そうや。わしが元居た世界は宇宙世紀って言ってな、まあ、MSとかがあるんはこっちと同じなんやけど……」
「うちゅう……世紀……?」
スレッタが不思議そうに首を傾げるとオサムはさらに説明を続けた。
「そうや、今は少しは平和になったんやけども、わしが生まれたばかりの頃は一年戦争って呼ばれた戦争が起こって大変だったんや。ジオン公国がコロニーを地球に落としたり、MSで地球に攻め込んだり、もう散々だったんや」
「ジオン公国……?」
スレッタはまたさらに分からない単語が出てきたことにますます混乱してしまったが、それでも必死に理解しようと頑張っている様子だった。そんな彼女を見てオサムは言った。
「まあ、宇宙で暮らしている人達の中で地球を統治しとる地球連邦っちゅう組織に自治権を求めた人達がおってな。それがジオン公国でな、まあなんやかんやあって戦争に発展したってわけや。」
「なるほど……そんなことがあったんですね……」
オサムはスレッタが理解してくれたことに安堵しつつ、さらに話を続けることにした。
「それでな、そんなジオン公国のMSに対抗すために地球連邦軍が開発したのがガンダムやったんや。まあ、と言っても実際に操縦したのはわしやないから詳しいことは知らんねんけどな!」
オサムはそう言うとガハハと豪快に笑って見せた。するとスレッタは表情を曇らせて言った。
「じゃあ、オサムさんの世界のガンダムは希望の象徴なんですね。でも、このアド・ステラではガンダムというMSは禁忌の技術によって開発された忌まわしいものとして認知されています」
「忌まわしい……?どういうことや?」
オサムが怪訝な顔をして聞き返すと、スレッタは辛そうな表情をしながら語り始めた。
「あまり良くは知らないんですけど……ある企業グループが独自の技術を用いてガンダムを開発し、その性能は当時のMSを遥かに上回るものだったそうです。でも……」
「……なんや?まさか暴走したんか?」
オサムの問いにスレッタは頭を横に振った。そしてゆっくりと口を開く。
「そういうわけではないんですけど……ガンダムを危険視したMS開発評議会によって制圧作戦が行われてその企業グループもガンダムも破壊されてしまったそうです。」
「なんやと……!?」
オサムはスレッタの言葉に絶句した。しかし、すぐに気を取り直して彼女に質問を続けることにした。
「そないなことが……そのガンダムはそないに危険な存在やったんか……?」
オサムの質問にスレッタはしゃがみ込んだまま俯いてしまう。
「わかりません。詳しい話はわからないのではっきりとは言えませんが、ガンダムの存在はあまり歓迎されるようなものではないんだと思います。……そしてそれ以降、アド・ステラではガンダムというMSはタブー視されるようになったんです」
「そうか……それでこの学園もガンダムの存在を危険視しとるっちゅうわけやな」
オサムの言葉にスレッタは小さく頷く。
(なるほど……だからこの学園の職員たちがレッドアイズを見てピリピリしとったわけや。この世界ではガンダムはかなりいわくつきの代物っちゅうわけやな。まあ、宇宙世紀でもガンダムは白い悪魔とか呼ばれとったそうやし、兵器ってモンはどこの世界でも物騒なモンなんやろなあ)
オサムがそんなことを考えていると、疑問が浮かんできたのでスレッタに聞いてみることにした。
「せや、スレッタちゃんのMS……エアリアルやったっけ?あれもガンダムなんか?」
オサムの言葉にスレッタは勢いよく立ち上がるとオサムを見据えて言った。
「違います!エアリアルは、あの子はガンダムなんかじゃありません。エアリアルは……」
そこまで言いかけたところで、オサムの視線に気づきハッとして自分の口を塞ぐスレッタ。そんな彼女の様子を見たオサムは慌てた様子でフォローをするように言った。
「あ、いや、別に秘密にしとるんなら無理に話さんでええんや!ただちょっと気になっただけでやな!」
しかし、オサムの言葉にもスレッタは小さく首を振るだけだった。彼女はしばらく黙り込んでいたがやがて意を決したように口を開いた。
「……あの……オサムさん、少し話を聞いてもらってもいいですか……?」
「ああ、もちろんや!何でも話してみい!」
オサムが笑顔でそう言うとスレッタは安心したようにホッと息を吐いてから静かに語り始めた。
「ありがとうございます……実は私、ペビ・コロンボ23って水星軌道基地で育ったんです。あの頃はお母さんも仕事が忙しくて、最初は寂しくて泣いてしまったことも何度もありましたけど、そんな時はいつもエアリアルのコクピットに潜り込んでいました」
「MSのコクピットにか?」
オサムの言葉にスレッタは静かに頷く。
「はい……なんとなくですけど、そこにいると安心できるような気がして……」
そこまで話したところでスレッタの表情が曇る。きっと辛い記憶なのだろうということが察せられたため、オサムは話を中断して話題を変えることにした。
「ごめんな、スレッタちゃん。辛い話をさせてしもて……それじゃあ、スレッタちゃんはこの学園でやりたいこととかあるんか?もしよかったら聞かせてくれへんか?」
するとスレッタは嬉しそうに笑顔を浮かべて言った。
「まだこの学園には来たばかりであまり慣れてないんですが、学園でやりたいことは『やりたいことリスト』にたくさん書いてあります」
スレッタはそう言うと、ポケットからメモ帳を取り出してオサムに見せてきた。そこには「彼氏とデートする」「友だちをあだ名で呼ぶ」などの年相応な少女らしい文章が可愛らしくきれいな字で書かれていた。
「そうか……やっぱりスレッタちゃんは偉い子やな……」
オサムが感心したように言うとスレッタは少し恥ずかしそうに頬を染める。
「そ、そんなことないです……!」
「いやいや、目標があってガッコに通うんは良いことやで。わしなんて地元のガッコでは喧嘩に明け暮れてばかりで出席日数が足りのうて何年も留年しっぱなしで、おふくろにも迷惑をかけてばっかりだったんや。」
「喧嘩……ですか?」
スレッタが疑問に思って訊ねると、オサムは豪快に笑いながら答えた。
「そうや、不良共をぶん殴って停学になったりな!おかげで地元じゃ『喧嘩無敗の虎大将』って呼ばれとったんや!」
「……でも、そんな悪い人とオサムさんとは違う気がします」
スレッタの言葉にオサムは大きく目を見開く。しかしすぐに優しい表情に戻ると静かに語り始めた。
「ありがとうなスレッタちゃん……わしは女の子とあまり話したりした経験無いねんから上手く言えないんやけど、わしには『自分が正しいと思ったことをやる』っちゅうことくらいしかできひんのや」
「自分が正しいと思ったことを……」
スレッタはそう呟くと何か考え込んでいる様子だったが、やがて顔を上げるとオサムに言った。
「あの……私、どうしてもこの学園で勉強して叶えたい夢があるんです。私が生まれ育ったペビ・コロンボ23で廃れてしまった学校を再建して、いつかはたくさんの子供たちに勉強を教えてあげたいんです。だからそのためにも……もっと勉強しなくちゃいけないって思ったんです」
「そうやな……その気持ちがあればきっとスレッタちゃんの夢も叶えられるはずやで!」
オサムが励ますように言うとスレッタは小さく微笑んだ。
「ありがとうございますオサムさん……!」
そんな時だった。突然懲罰室のブザーが鳴ったと思うと扉が開け放たれて一人の男子生徒が中へ入ってきた。その生徒は女性のように透き通った白い肌に中性的に整った顔立ち、そして制服をしっかりと着こなしており、その所作も非常に丁寧であった。
「失礼するよ、僕はエラン・ケレス」
エランと名乗ったその少年は両手にランチプレートを乗せており、それをオサムとスレッタに手渡した。
「よければ、どうぞ」
「え、ええのか……?助かった、ちょうど腹が減ってたところなんや。おおきに!あんさん、ええ人やな!!」
オサムはエランに感謝の言葉を述べながらランチプレートを受け取ると、パンを夢中になってほお張りながら牛乳パックにストローを刺してそれを一息に飲み干した。その豪快な食べっぷりにエランは圧倒されながらも、笑顔を見せた。
「ごめんね、それくらいしか持ってこれなくて……」
「謝ることはないで。あんさんのおかげで腹は膨れたし、元気百倍や!ごちそうさ
ん!!」
空腹が満たされたことにより、元気を取り戻したオサムは両手を合わせてエランに感謝する。そして隣に座っているスレッタの方を向いて言った。
「スレッタちゃんも食べたほうがええで。腹が減ってたら勉強なんてできひんからな。ほら、食うてみ?」
「い、いただきます……」
オサムに促されるままスレッタもパンを一口食べると、その味の美味しさに思わず顔をほころばせた。
「美味しい……!」
そう言ってパンを夢中で食べ始めるスレッタにオサムもエランも思わず笑みをこぼすのだった。
「一つ聞く。お前は魔女か?」
理事長であるデリング・レンブランの言葉に裁判所のような場所に立たされた仮面を付けた女性は不敵な笑みを浮かべて答える。
「いいえ。私は魔女ではありませんし、あのエアリアルというMSもガンダムではありません。あれは我々シン・セ―が開発したドローン技術です」
「ドローン……だと?」
デリングが険しい表情で問いかけてくると、女性はニヤリと口元に笑みを浮かべてさらに答える。
「そうです。我がシン・セ―のドローンはパーメットリンクを基にした操作技術となっております」
パーメットとは月を含む太陽系開発時代に発見された新元素「パーメットニウム」の有機錯体から生成される金属化合物で、粒子状のパーメットは同じ素粒子を放射させると他のパーメットに情報共有を行う性質があり、一定の空間内に拡散したパーメット群は「パーメット空間挙動現象」という統制の取れた動きを見せる。また放射性崩壊した粒子からは壊変エネルギーが得られるため、これを利用した小型かつ高出力の発電システムや、特定のレーザー発振で内部崩壊を促進させてエネルギーを取り出す技術が開発され、さらにパーメットの挙動を実行するプログラムコードは「パーメット言語工学」へと発展して通信や工学分野に技術革新をもたらしたのである。
「ドローン……本当にそう言いたいのだな」
デリングが確認するように問いかけると女性は満足げな表情を浮かべて言った。
「ええ、そうです。我々も末席とはいえ、ベネリットグループの一員ですから」
「その風体で信じろとでも?」
それでも懐疑的な姿勢を崩さないデリングに仮面の女性は真剣な声色で仮面越しにデリングを真っすぐ見据えて答えた。
「ご信用いただきたい」
すると突然仮面の女性は上着を脱ぐと同時に右腕に左手を伸ばした。彼女の左手が右腕を掴んだ次の瞬間、右腕が引き抜かれた。なんと仮面の女性の右腕は機械で作られた義手だったのだ!
「この腕も仮面の下の顔も、全て水星の磁場に持っていかれました。我々にはグループの支援が必要なのです」
義手を引き抜いた断面をデリングに見せつけながら仮面の女性は仮面越しに鋭い眼差しで彼を見据える。デリングは少しの間沈黙を守っていたがやがて口を開いた。
「いいや、あれはガンダムだ」
「何故でしょう?」
「私がそう判断したからだ」
その言葉に仮面の女性は一瞬眉を顰めるが、すぐに元の落ち着いた表情に戻ったその時、1人の少女がデリングへと近づいて行くのが見えた。なんとそれはミオリネだった。
「何の用だ、ミオリネ」
「あんたに一言言いたくてやってきたの」
デリングはミオリネに視線を向ける。すると彼女は強い意志のこもった眼差しで彼を見据えたまま、はっきりとした口調で言い放ったのだった。
「自分で決めたルールを後から勝手に変えるな、このダブスタ糞おやじ!」
ミオリネが啖呵を切った直後、デリングはフンっと鼻を鳴らして言い放つ。
「何を言うかと思えばそんなことか。力のない者は黙って従うのがこの世界のルールだ、忘れたとは言わせん」
デリングの言葉にミオリネはギリっと歯を食いしばる。しかし、すぐに冷静な表情へと戻り、さらに言葉を続けた。
「何それ?あんた王様?」
「そうだ」
「学園の理事長が王様ごっこ?くだらない……」
ミオリネがそう言うとデリングはようやく視線を娘である彼女に向けた。そして冷たい声で言い放つ。
「……何も知らない温室育ちのお前に何がわかる」
「だったら決闘よ!」
「ん?」
突然の娘の発言にデリングは視線を彼女に合わせる。
「私が勝てばスレッタの退学処分を取り消して、あの不審者を解放しなさい!私が負けたらあんたの好きにすればいいわ」
「ほう、面白いな。MSを満足に操縦できないお前に何ができる?どこのお人好しがお前の代わりに戦ってくれると言うのだ?」
デリングが問いかけると、ミオリネはにっと不敵な笑みを浮かべた。
「あいつよ。あんたたちが不審者って呼んでるあの男が私の代わりに戦うわ」
「お前は……本気で言っているのか?」
デリングの言葉にミオリネは不敵な笑みを浮かべたまま答える。
「本気よ」
デリングはしばしの間無言でミオリネを見据えていたがやがて大きなため息をついた後、静かに言った。
「……いいだろう、お前の条件を飲んでやろう。だがなミオリネ、私は一度口にしたことを覆すつもりはないぞ?」
その言葉にミオリネは小さく頷いたのだった。
「自分が決めたことくらい責任持って守りなさいよ! 大人なんでしょ!?」
ミオリネの強い口調にデリングは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。するとそこへ1人の人物が姿を現した。彼こそオサムとハロ、スレッタを連行していったアスティカシア高等専門学園のMS警備隊に所属するパイロットであった。
「理事長。勝手な進言、どうぞご容赦を。その不審者との決闘の相手は私に一任させていただきたく……」
「どういうつもりだ?カイネス」
デリングが低い声で問いかけると、カイネスと呼ばれたパイロットは静かに答えた。
「これは理事長の威信を賭けた決闘です。ならば、MS警備隊の模擬戦において負け無しの私があの不審者を完膚なきまで叩きのめせば、これ以上理事長に反逆する者はいなくなるでしょう」
カイネスの提案にデリングは少し考えた後、黙って頷いた。それを見たミオリネは一瞬驚いた表情を浮かべるがすぐに口元に笑みを浮かべて言った。
「へえ、いい度胸じゃん。だったらあの不審者があんたに勝ったら私はあいつと婚約するわ」
するとカイネスも笑みを浮かべると言った。
「いいでしょう、その条件で決闘をお受けします」
そんな2人の様子にデリングは大きく息を吐いてから、ようやく口を開いた。
「……勝手にしろ」
デリングとミオリネという父娘の間にピリリとした空気が走る中、ミオリネは決意のこもった眼差しでデリングを見据えて言った。
「勝手にしてやるわよ!なんでもかんでも、あんたの思い通りになんてさせないんだから!!」
「後悔しないな?」
ミオリネが頷くとデリングは小さく鼻で笑った後、踵を返してその場を後にしたのだった……。