機動戦史レッドアイズガンダム   作:九能 安久

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EPISODE3. 決闘開幕

「いやー。あのエランって兄ちゃんのおかげで腹も膨れたし、スレッタちゃんとも仲良うなれたし、独房に入れられても結構なんとかなるもんやなあ!」

 

エランがランチプレートを差し入れで持ってきてくれたおかげで、すっかり元気を取り戻したオサムがあっけらかんとしたふうに言うとスレッタは食べ終わった後のランチプレートを見つめながら呟く。

 

「でも、エランさんは気になることを言ってました。『君たちに興味があるから』って……」

 

スレッタがそう言うとオサムも腕を組んで考え込む。

 

「そうやなあ。あの兄ちゃんはどうしてわしらに興味を持ったんやろ?スレッタちゃんはどう思う?」

 

オサムが問いかけると、スレッタは首を横に振る。

 

「私にもわかりません……」

 

するとその時だった。突然懲罰室の扉が開き、ミオリネが現れたのだ!

 

「スレッタ、だいじょ……って、何でその男と一緒にいるのよ!?」

 

ミオリネはスレッタとオサムが床に座りながら肩を並べて話しているのを見て、思わず赤面して叫ぶ。

 

「あ、あの、あの……これは別にいかがわしいことをしてたんじゃなくて、その、警備員の人たちにオサムさんと一緒にこの独房に入れられて、それで……」

 

スレッタがしどろもどろになって説明するとミオリネは呆れた様子で2人を見た。

 

「はあ、全く……何やってるのよ」

 

ミオリネがそう呟いているとオサムは弁解するように言った。

 

「い、いや、待てや嬢ちゃん。スレッタちゃんの言っとることは本当やで。わしはただスレッタちゃんから学園のことを色々教えてもらってただけや」

 

「ふーん、そう……で?あんたは本当にスレッタの身体に指一本も触れてないのよね?」

 

ミオリネはジト目でオサムを見ながら問いかけると彼は頭を掻きながら答えた。

 

「本当やって!わしが女の子にそんなやらしいことするはずないやろ?なあ、スレッタちゃん?」

 

オサムが同意を求めるように問いかけるとスレッタは小さな声で呟く。

 

「あ、はい……」

 

そんな2人の様子にミオリネは大きくため息をつくと呆れきった様子で言った。

 

「まったく、こんな不審者に親切にしてあげるなんて……あんたもホントお人よしね」

 

「えへへ……」

 

スレッタは思わず笑みを漏らす。そんな様子を見ていたミオリネはふと何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そうだわ、決闘……決闘よ!あんたはこれから決闘して、そして勝つの!わかった!?」

 

ミオリネは突然オサムに詰め寄ると、彼の目を見ながらそう言った。

 

「お、おい待て。いきなり決闘やなんて言われても、わしゃMS(モビルスーツ)の操縦は初心者やで?」

 

「大丈夫!あんたにはあのガンダムがあるし、なんとかなるでしょ!それにガンダムの装備に不安があるなら学園側に掛け合って私が何とかしてあげる!」

 

ミオリネはきっぱりとした口調で言うが、オサムは納得できないと言った様子で返す。

 

「ま、まだやると決めたわけやないやろ?」

 

するとそんなオサムの様子を見たミオリネは妖しく微笑みながら言った。

 

「もしこの決闘に勝ったら、私があんたと結婚してあげるって言ったら……どうする?」

 

「え……?」

 

オサムは思わず顔を赤くしてミオリネの目を見つめる。彼女は目を熱っぽく潤ませながらもう一度言った。

 

「この私があんたと結婚してあげるって言っているのが聞こえなかったの?あんたみたいな間抜け面には分不相応ではあるけどね」

 

「な、何がや……?」

 

オサムが困惑しながら問いかけるとミオリネは彼の首に手を回して妖艶な雰囲気を纏(まと)いながらその艶(つや)やかな唇を彼の耳元に近づけてそっと囁(ささや)く。

 

「この私の身も心も、全部好きにしていい権利、あんたにあげる……って言ってんのよ」

 

ミオリネの蕩(とろ)けるように甘い声と熱い息遣(いきづか)いがオサムの耳にかかり、耳を突き抜けて脳細胞へと染み込みながら彼の身体中に熱いものが駆け巡る。ミオリネは顔を真っ赤にさせたまま硬直しているオサムからスっと離れると挑発的な笑みを浮かべた。

 

(プッ……くくくっ、男なんてチョロいもんね。私の美貌(びぼう)と魅力にかかれば、こうやって色っぽく囁いてやるだけでイチコロよ。それにこの学園は決闘で全てが決まる……つまりこいつが勝てばあのくそ親父のプライドをズタボロにできるってことでしょ?だったら、この男を使ってくそ親父の化けの皮を剥()いでやるわ!)

 

ミオリネは口元に笑みを湛(たた)えたまま、心の中でそんなことを考えていたのだった……。

 

「いや、いきなりそないに言われてもわしはあんさんが誰なのかわからんし、あまり自分を賞品みたいに言うんは良くないで。もっと自分を大事にしいや」

 

「は……?」

 

なんとオサムはミオリネに魅了されていないばかりか、彼女を憐れむような目で見ていたのだった。これにはミオリネも呆気にとられ、彼女は思わず顔を赤らめてしまった。

 

(この私がここまでやってあげたのに全然効いてない……!?それどころか、私を憐れんで説教してきた!?何なのよコイツは……!)

 

ミオリネのお色気誘惑作戦が失敗に終わり、赤面しながらわなわなと怒りに震えている様子をスレッタは思わず吹き出しそうになりながらミオリネに言う。

 

「あ、あの……ふ、ふふ、だ、大丈夫ですよ、ミオリネさん……ぷっ、うふっ、わ、私はミオリネさんの味方ですから……クスクス……」

 

「そう……そうね……そうなのね!脱げばいいのね、脱げば!こうなったら脱いでやるわよ!ビキニだろうとレオタードだろうと、バニースーツだろうと、猫耳だろうが何だってやってやるわよ!」

 

スレッタに煽られたミオリネは拳を強く握りしめながらその瞳に決意の炎を燃やして制服を脱ごうとする。そんな状況に思わず面食らってしまったオサムは慌ててミオリネを止めに入った。

 

「ちょ……ちょい待ち!嬢ちゃん、それは流石にやりすぎや!スレッタちゃんもこの嬢ちゃんを煽ったりしちゃダメやろ!?」

 

「ご、ごめんなさっ……!でも、ミオリネさんの反応が面白くって……ふふっ、あははっ!」

 

そんな3人の様子を物陰から見つめる1つの影があった。

 

「ふっ……オサム・ミナグチよ、そうやって浮かれていて良いのか?既に賽は投げられたのだ。新たな歴史の歯車はもう動き始めているのだよ……」

 

その影の正体はフードで顔を覆い隠した長身の男だった。フードどころか身に付けている衣服は黒一色で、右手には髑髏(どくろ)が刻まれた不気味な指輪を嵌()めていた。

 

「さあ、今こそ選択の刻だ……君はこのアド・ステラで何を知り、レッドアイズガンダムで何を為す?クックックッ……」

 

男はそう言って笑うと闇に溶けて消えてしまったのだった。

 

「……で、あんたは決闘を受けるの?受けないの?どっち?」

 

少し時間が経過するとミオリネは落ち着いた様子になり、冷静な判断力が戻ったようで、先程オサムを篭絡しようと制服を彼やスレッタの目の前で脱ごうとしたことを恥ずかしそうにしながらも強引に話題を変えてきた。

 

「そうやな……わしがここでその決闘を拒否したらレッドアイズを取り上げられたままこのガッコを追い出されてまうし、スレッタちゃんは退学処分にされてしまうんやろ?それなら選ぶ道は一つや。わしはその決闘を受けたるで!そして勝つ!それだけや!!」

 

オサムが力強い口調で言うとミオリネは若干気圧された様子だった。

 

「ふうん……そこまで言うなら絶対に勝ってよね、無様に負けたりなんかしたら許さないから」

 

ミオリネの言葉にオサムは親指を立てながら笑顔で応える。

 

「おう!このオサム・ミナグチは一度決めたことは絶対に曲げたりせえへんで。安心せい!」

 

「まっ、その威勢が口先だけにならないことを願うわ」

 

軽口を叩くミオリネにスレッタが口を挟んだ。

 

「あっ、そう言えばミオリネさんとオサムさんは自己紹介してませんでしたよね?」

 

スレッタがそう言うとミオリネとオサムはそれぞれ自己紹介をした。

 

「よろしくね、あんた……じゃなくてオサム」

 

「おう、わしのほうこそよろしくなミオリネちゃん!」

 

オサムからちゃんづけで名前を呼ばれたミオリネは顔を赤らめながら口を開いた。

 

「悪いんだけど、ちゃんづけで名前を呼ぶのはやめてくれる?なんかこう、鳥肌が立ってくるから」

 

「あ……ああ、スマンかった。じゃあ……お嬢っていうのはどうや?ミオリネはんはお嬢様って感じやし、お嬢のほうがぴったりやと思うけどなあ」

 

「好きにすれば?ほら、わかったらさっさと決闘の準備を始めなさいよ。言っとくけど、対戦相手は学園のMS警備隊の隊長、カイネス・ガルディーニよ。生半可な操縦技術じゃ勝てる相手じゃないわ」

 

ミオリネがそう言うとオサムは不敵に笑って見せた。

 

「ま……やってみなきゃわからんやろ?それにわしはお嬢に『結婚してあげる』って言われたら、俄然やる気が出てきたで!」

 

「なっ……!?あ、あれはあんたを決闘にそそのかそうとしただけで、別に本気で言ったわけじゃ……!!」

 

オサムに言われて耳まで真っ赤にしながら反論するミオリネをスレッタは微笑ましく見つめる。

 

「ふふ、良かったですね、ミオリネさん!」

 

「はあ?何が?」

 

ミオリネはそっぽを向いてしまったがその表情はどこか嬉しそうなのだった……。

 

(勝ったるわ。スレッタちゃんのためにも、ミオリネお嬢のためにも、絶対にな……!)

 

オサムは心の中でそう誓うとMS格納庫のあるプラント・クエタへと歩み始めるのであった……。オサム、スレッタ、ミオリネの3人がプラント・クエタへ到着すると、そこでは既にセセリア・ドートをはじめとした決闘委員会に所属する生徒たちがMSによる決闘の準備を進めていた。

 

「ここがプラント・クエタか?なんか、ガッコの施設というより、本物の軍隊の基地のようやないか。まさかここまで本格的とは思わなかったで……!」

 

初めてプラント・クエタを訪れたオサムはその設備の豪華さに感嘆の声を上げた。

そんなオサムにミオリネはぶっきらぼうな口調で言う。

 

「うちの学園はそこらのMS教習場なんかとは違うのよ。ここではパイロットスーツや機体のセッティングも全部格納庫で行うんだから」

 

そう説明しつつ、ミオリネは壁に掛けられていた赤いパイロットスーツを手に取り、オサムに渡した。

 

「オサム、あんたにはこいつを着てもらうわ」

 

オサムはパイロットスーツを受け取ると不思議そうに首を傾げた。

 

「お、おう。ええのかミオリネお嬢、わしが貰ってしもうて……」

 

「それはね、決闘中に発生するGからパイロットの身体に負荷がかからないようにするための特殊なスーツよ。あんただっていきなりぶっつけ本番じゃ戦えないでしょ?」

 

ミオリネの説明を聞きながらオサムは渡されたパイロットスーツを広げて確認すると、少し驚いた様子で言った。

 

「はあー……これは驚きやなあ。こんなん着ただけで身体が軽くなって、動きも良くなるなんてまるで魔法みたいやんけ」

 

「オサムさん、あそこに更衣室があるので着替えてくるといいですよ」

 

スレッタが指さした方向に男性用更衣室と書かれたドアが目に入った。

 

「おっ、あそこで着替えられるみたいやな。そんじゃ、ちょっと行ってくるわ!」

 

オサムが更衣室へ入っていくと、スレッタはミオリネに話しかけた。

 

「あの……ミオリネさん」

 

「何よ?」

 

「その……オサムさんのことなんですけど、本当に結婚してあげないんですか?オサムさん、すごく嬉しそうでしたし……」

 

スレッタの問いにミオリネは少しバツの悪そうな表情で答える。

 

「別にあいつと結婚したくないなんて思ってないわよ。ただあいつに『結婚してあげる』って言ったら決闘に対してやる気が出るかどうか、気になっただけ!それにあいつと結婚することになった時、くそ親父がどんな顔をするのか見てみたいしね」

 

「そう……なんですか?」

 

スレッタが首を傾げながら答えると、ミオリネは話を切り上げるように言った。

 

「それよりも!あいつが決闘に勝たないとスレッタまで退学させられちゃうかもしれないんだから、あんたもしっかりしなさいよね!」

 

「は、はい!オサムさんのために私もしっかりと応援します!」

 

スレッタが勢いよく返事をするとミオリネは少し驚いたように口を開いた。

 

「へえ……私が思っていたよりもやる気があるのね?もしかしてスレッタはオサムのこと……好きになっちゃった?」

 

「ふぇっ!?そそそそそそそ、そんなんじゃありません!オサムさんは私が尋問室や懲罰室に入れられている間、ずっと励まして勇気づけてくれましたし、それに私を退学させないように戦ってくれて……そんなオサムさんのために私はできることをしたいんです!こんな気持ちは初めてですけど……」

 

スレッタが顔を赤くしながら慌てて否定するとミオリネは意地悪そうな笑みを浮かべて言った。

 

「ふうん?私は別にそれで構わないけどね」

 

「えっ……?」

 

予想外の反応に戸惑ったスレッタはおずおずと口を開いた。

 

「……もしかして、ミオリネさんもオサムさんのことを……?」

 

そんなスレッタの様子を見たミオリネは少し呆れたようにため息をつくと言った。

 

「そんなわけないじゃない。まあ、でもあいつがこの決闘に勝ってくれれば考えなくもないけど……。ほら、あいつはここの学園の生徒でもないのにスレッタのことを本気で守ってくれようとしているでしょ? だから、私もその恩に報いたいのよ」

 

「ミオリネさん……!」

 

スレッタはミオリネの言葉に思わず感動して彼女の手を握ると、ミオリネは少し照れたような様子だったが手を振り払うことなくそのままの状態で言った。

 

「わ……わかったから!そろそろオサムも戻ってくる頃だろうからあんたもさっさと準備しなさいよ!」

 

「はい……!」

 

2人がそんなやりとりをしている間、オサムが男性用更衣室でパイロットスーツに着替えていると突然電灯が点滅を始めて明かりが消えてしまい、更衣室は暗闇に包まれた。

 

「な、なんや?停電か……」

 

そう呟くと同時に再び電灯に明かりが灯ると何故か背後から視線を感じた。

 

(……ッ!この、背中に突き刺さるような冷たい気配……わしはこの感覚を覚えている……!?)

 

突如として全身から汗が吹き出し、心臓が激しく脈打つ。ゴクリ……と唾を飲み込む音がやけに大きく響いた気がした。震える手でなんとかパイロットスーツのヘルメットを被り、バイザーを閉じる。

 

「オサム・ミナグチ、ネオオオサカシティからアド・ステラに来た心境はいかがかな?異世界での生活もなかなか乙(おつ)なものだろう?仲の良いガールフレンドたちもできたようだしな」

 

その声が聞こえた瞬間、オサムは瞬時に全神経を集中させて背後を振り返った。彼の背後に立っていたのはフードで顔を覆い隠した長身の男だった。フードどころか身に付けている衣服は黒一色で、右手には髑髏が刻まれた不気味な指輪を嵌めている。フードからはみ出して見えるその口元には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「……あんたは誰や?こんな所で一体何を……いや、待て……ネオオオサカシティを知っていて、その声……!おのれはネオオオサカシティを襲ったMSのパイロットやな!?」

 

オサムはヘルメット越しに鋭い眼差しで黒衣の男を睨みつけながらそう問い掛けると、男は小さく笑い声を上げながら言った。

 

「ご名答。よくぞ限られた情報の中から私が君を宇宙世紀からアド・ステラへと誘った張本人と気付いたな。偉い……偉いぞ。ハハハハハハハッ!」

 

脳が、心が、第六感がオサムにこの男は危険だと知らせていた。目の前にいるこの男こそがオサムが住んでいたネオオオサカシティを襲撃したMSのパイロットであり、宇宙世紀からスレッタたちのいるアド・ステラへと自分を連れて来た存在であるということを……。

 

「おどれ、一体どういうつもりや?まさかこの学園で何かやろうとしてへんやろな!?

スレッタちゃんやミオリネお嬢に危害を加えよったら承知せえへんぞ!!」

 

オサムは怒りの感情を込めてそう叫ぶと、男は再び笑い声を上げた。

 

「いやなに、私はただ君に忠告しに来ただけさ。君はこの世界で、このアスティカシア高等専門学園で、多くの出会いや別れを経験することになるだろう。だが、忘れないで欲しい。それがどのような結末を迎えようとも決して後悔だけはするな。それを……それだけを君には伝えておきたくてね」

 

「はあ?何を言って……」

 

オサムが困惑していると黒衣の男は今度は真剣な表情で口を開いた。

 

「……私が君をアド・ステラへ転移させた時と同じようにこれからも君の運命に干渉を続けることになるだろう。ただし、それは永遠に続くものではないことは覚えておくことだ」

 

「ちょっと待っ……!まだ聞きたいことがあるんや!あんた、一体何者なんや!?なぜわしをこの世界へ連れて来たんや!?」

 

オサムがそう問いかけても男は何も答えなかった。やがてバイザー越しの視界が再び暗転し、気がつくとパイロットスーツを着たまま男性用更衣室に立っていたのだった……。

 

(一体あれは何やったんや……?まるで夢でも見てたみたいやけど……いや、そんなはずはあらへん。確かにわしはあの黒づくめの男に会ったはずや……!)

 

オサムは心の中で自問自答を繰り返すが、上手く考えがまとまらず混乱していた。

 

(わからへん……!あれは夢やったのか?それとも幻やったんか?……いや、今はそんなことよりも決闘や!集中せなあかんな……)

 

オサムがパイロットスーツのヘルメットをしっかりと被りなおして更衣室を出るとミオリネが声をかけてきた。

 

「……オサム?あんた、なんか顔色悪くない?大丈夫?」

 

「あ、ああ。ちょっと考えごとをしてただけやで」

 

オサムは咄嗟に笑顔を浮かべてそう答えたが、内心では先程の黒衣の男とのやり取りを思い返し、不安を隠しきれていなかった。

 

「そう……それならいいけど。それよりも」

 

ミオリネはオサムの様子が少し気になった様子だったが、それ以上追及することはなく説明を始めた。

 

「まずはMS格納庫に収容されてるあんたのMSを探すわよ。あんたがパイロットスーツに着替えている間、スレッタが決闘委員会に話を通しておいてくれたから」

 

「おお、そうやったんか!スレッタちゃんには面倒かけてまうなあ。後でお礼を言うとかんとな!」

 

オサムは安心したようにそう言って笑うと格納庫へと向かうミオリネの後を追ったのだった……。

 

同時刻、アスティカシア高等専門学園の戦術試験区域にあるMS警備隊の詰所ではオサムの対戦相手となるMS警備隊隊長のカイネス・ガルディーニが機体調整のため、メンテナンスを自ら行っていた。

 

「フン、あの不審者の乗るMSと戦うことになるとはな……見た目はガンダムに似ているが、操縦技術が未熟であるなら俺の相手ではなさそうだがな」

 

そんなカイネスに対して部下である隊員の一人が慌てた様子で近づいてくると報告した。

 

「隊長!そろそろお時間です。準備は万端でありますか!?」

 

「俺が準備を怠るようなへまをすると思うか?イアン、武装の整備に問題はないな?」

 

「はっ!万事整っております。後は学園側からの連絡を待つのみであります!」

 

イアンの報告を聞いたカイネスは小さく頷くと、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「よし、ならそろそろ行くとしよう」

 

そう言うと彼はヘルメットをかぶり、愛機である黒いMS『デミギャリソン』をMS運搬用トレーラーへ移動させると、それにイアンと共に乗り込んでプラント・クエタへと向かっていくのだった。

 

「あの、隊長……例の不審者はガンダムのパイロットだそうですが、その情報は本当なのですか?」

 

トレーラーを運転しているカイネスの隣に座るイアンが問いかけると、カイネスは自信満々に答えた。

 

「ああ、だがあまり実戦慣れしているようには見えなかったな。奴に比べればうちの学園の生徒たちのほうがいい動きをするだろう。まあ、せいぜい用心はするさ。相手はガンダムだ。どんな危険な武装が飛び出すか戦ってみなければわからん機体だからな。まあ、いずれにせよ俺が負ける要素などありえん」

 

カイネスに対してイアンは複雑な表情を浮かべたが、それ以上何も言わなかった。トレーラーは目的地に到着して停車した。

 

「よし……着いたな。行くぞイアン」

「はっ!」

 

2人はトレーラーから降りるとプラント・クエタ内部へと入っていった。

 

ところかわってオサムとミオリネは決闘委員会へ手続きに行ってくれたスレッタと合流し、MS格納庫に収容されているレッドアイズガンダムを受け取りに向かった。

 

「ついにレッドアイズとご対面やなぁ、ハロの字もきっと『相棒~~~』とか言うて寂しがっているやもしれんし、早う会いに行ってやらんとな!」

 

オサムがそう言って格納庫へ入っていくと、そこには勇壮な雰囲気を纏ったかのように格納庫内で佇むレッドアイズガンダムの姿があった。

 

「おおっ、どうにかレッドアイズは無事みたいやな。あとはハロの字がおれば……」

 

オサムがレッドアイズガンダムに向かって思わず一歩踏み出したその時だった。

 

「おおい、相棒!無事だったんだな!」

 

オサムの耳にハロの声が聞こえて来て声がした方向へ顔を向けると思わず絶句してしまった。

 

「な……ハロの字……おま……何しとるんや?」

 

なんとハロはセセリアの膝の上でボール状の小さなボディをコロコロと転がしながら上機嫌に踊っていたのだ。

 

「えっ?何って、このセセリアって嬢ちゃんにレッドアイズのデータを見せたらなんか気に入られたみたいでな。こうしてボディを磨いてもらってんだよ。へへっ、なかなかいいもんだろ?」

 

「いや……そうやなくてな……」

 

オサムが困惑しているとセセリアはクスクスと笑いながら言った。

 

「ごめ~~ん、この子のことが気に入ったからちょっと借りちゃった」

 

そして彼女は立ち上がるとオサムに向かって手を差し出して言った。

 

「私はセセリア・ドート。このアスティカシア高等専門学園の決闘委員会を任されているの」

 

「わしはオサム・ミナグチや、相棒が世話になったみたいでほんまにありがとさん」

 

オサムは彼女の手を取って握手をした。

 

(どうやら悪い人ではなさそうやな……)

 

「それで、そのレッドアイズってMSの整備は万全なの?」

 

ミオリネが訝しげに問い掛けるとセセリアは笑みを浮かべながら言った。

 

「まあ、私も初めて見るMSだから何とも言えないけどなんとかメインシステムは起動できるようにはなったと思うよ?」

 

「それを整備と言うんかどうか、疑問やな……」

 

そんなオサムのぼやきを無視してセセリアは言葉を続ける。

 

「まあ、まだ調整は必要かもしれないけどね。データリンクも出来ないし。あとは実戦でどれくらい使えるかによるんじゃない?」

 

するとミオリネは少し考えてから口を開いた。

 

「……決闘委員会の整備能力を疑うわけじゃないけど、今回の決闘は何が何でもオサムに勝ってもらわなくちゃならないのよ。スレッタの退学もかかってるんだし、整備を完璧にして欲しいんだけど」

 

ミオリネの言葉を受けてセセリアはニヤリと笑った。

 

「もちろん、そのつもりよ。でも、それはオサムくんや水星ちゃんがこの学園に残っても問題ないと証明できた場合の話だけどね」

 

「どういうことや?」

 

「だってそうでしょう?あなたのMSは普通の機体じゃないんだから。それを決闘で使って勝てるって言える根拠があるのかしら?」

 

セセリアの言葉を聞いてミオリネは少しムッとした表情になったが、オサムは特に気にする様子はなかった。

 

「んだよ相棒、お前だって可愛い嬢ちゃんたちとよろしくやってたんじゃねーか。モテる男アピールとかされてもMSの操縦が上手くなるなんて保証はねえんだぜえ?」

 

ハロがにやけた目つきでオサムにそう言うと、軽口を叩きながらジロジロと舐めまわすようにスレッタとミオリネに視線を送っている。

 

「はあ?別にモテてへんわ!それにわしやスレッタちゃんとミオリネお嬢とは何もあらへんやろ!」

 

オサムが慌てて否定するとハロは更に追い打ちをかけるように言った。

 

「おいおい相棒、それはちょっと無理あるぜえ?本当は俺がいない間にこの嬢ちゃんたちとヨロシクやってたんだろぉ?この色男ぉ!」

 

「お、おい!ハロの字、何適当なこと言ってんのや!そんなふざけた冗談吹かしよったらただじゃおかんで!」

 

オサムとハロのやり取りにスレッタも顔を赤くしながら口を挟む。

 

「そ、そうですよ!私とオサムさんはただ、一緒の独房に入れられてつい心細くなって色々お話ししたり、ご飯を食べたりしただけですから!いたって健全です!!」

 

「ほお~~う?一緒の部屋でお喋りしたり、飯を食ったりするのが健全ねぇ?一体何をしてたんだか気になるところだなぁ」

 

ハロの追及にオサムとスレッタが顔を真っ赤にしているとミオリネは呆れたように溜息を吐いた。

 

「くだらないやり取りはそこまでにして。もうじき決闘が始まるんだからもっと気を引き締めないと……」

 

「すまん、お嬢。わしとしたことがついカッとなってしもうて……」

 

オサムはミオリネに謝罪すると、ハロを連れてレッドアイズガンダムへ向き直る。

 

「ハロの字、レッドアイズはわしがちゃんと操縦したる。せやから、お前もスレッタちゃんやミオリネお嬢たちに手を貸してやってくれや」

 

オサムの言葉を聞いたハロは不思議そうに首を傾げていたが、やがて意味を理解したのかニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「なんだなんだ?相棒もなんだかんだ言って結構やる気満々なんじゃねーか!まあ、そういうことなら俺も付き合ってやるよ!」

 

「ふっ……だが、その威勢がいつまで続くかな?」

 

聞き覚えのある声に気が付いたオサムが振り向くとそこには決闘の対戦相手となるアスティカシア高等専門学園のMS警備隊隊長のカイネス・ガルディーニが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「あんたがわしの対戦相手か……?って、あんたはわしに電流を浴びせて独房へ連れて行ったあの時のパイロットやないか!それなら何も手加減はいらへんな。全力でいかせてもらうで!」

 

オサムの言葉に対してカイネスはフッと笑みを浮かべると言った。

 

「フン、それはこちらも同じだな。お前のような野蛮人がこの学園に足を踏み入れるなどあってはならないことだ。それをこの決闘で存分に思い知らせてやる」

 

オサムとカイネスの視線がぶつかり合い、火花を散らしているとセセリアが2人の会話に割って入った。

 

「はいはい!2人とも因縁があるみたいだけど、今は決闘に集中してよね。決闘委員会側では準備が終わったから2人とも決闘場へ急いで!皆待ちくたびれてるんだから!!」

 

セセリアの言葉にカイネスは上機嫌で応える。

 

「セセリア嬢、すまんな。俺としたことがつい熱くなってしまった。野蛮人、この決闘に負けたら素直にそのガンダムと共に速やかにこの学園から出ていけ。いいな?」

 

「わしの名前はオサム・ミナグチや!野蛮人、野蛮人と連呼すな!わしを侮辱するとただじゃおかんからな!」

 

「それはこちらの台詞だ。それから覚えておけ、俺はMS警備隊最強のパイロット、カイネス・ガルディーニだ。お前がガンダムのパイロットであろうと、必ず勝利して見せる」

 

「何やと?それはわしの台詞や!わしのレッドアイズは無敵のMSなんやからな!」

 

2人は互いに火花を散らしながら格納庫を出て決闘場へと向かっていくのだった……。

 

(オサム・ミナグチ……俺は絶対に負けん!)

 

カイネスが内心でそう決意を固める中、オサムもまた闘志を燃やして歩みを進めていた。

 

(あのパイロットもなかなかやる奴のようやな。でもこの決闘にはわしだけじゃなくスレッタちゃんの退学もかかってるんや!絶対に負けられへんで!!)

 

そしてオサムとカイネスは遂に決闘場の所定の位置に立った。一方観客席にはミオリネやスレッタ、大勢の生徒たちが集まって2人の決闘が始まるのを今か今かと待ちわびていた。

 

「えー、ではこれより、決闘委員会の名の下に『決闘』を行います」

 

モニターに映し出されたセセリアがそう宣言した瞬間、会場内から割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がる。オサムは会場の熱気に圧倒されながらも気を引き締めながら深呼吸した。

「双方、魂の代償を天秤(リーブラ)に。決闘者はカイネス・ガルディーニとオサム・ミナグチ!」

 

すると実況席に座っているロウジがオサムに声をかけた。

 

「オサム・ミナグチ。きみはこの決闘に何を賭ける?」

 

「へ?賭けやと?」

 

オサムは決闘のルールが分からず、つい間の抜けた声で返事してしまった。すると最前列の席に座っていた長い金髪の男子生徒が説明を始めた。

 

「金、謝罪、女、なんでも賭けられるよ」

 

金髪の男子生徒の説明を聞いたオサムは頷くと同時に宣言した。

 

「そんなの決まっとる。わしが負けたらわしを煮るなり、焼くなり、好きにすればええ。ただし!わしが勝ったらスレッタちゃんの退学処分は取り消してもらうで!ええな?」

 

オサムの宣言を聞いたセセリアはカイネスに向かって言った。

 

「だってさ、どうする?この条件を受ける?」

 

するとカイネスはニヤリと笑みを浮かべて答えた。

 

「もちろん、その条件で受けよう」

 

「では、Alea jacta est.(アーレア ヤクタ エスト) 決闘を承認する!」

 

セセリアの決闘開幕の合図と共にオサムとカイネスはそれぞれのMS格納庫へと向かうのだった。

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