シャーレの先生追放計画《集いし4人は無関心》   作:ルルザムート

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-2th ②です、お楽しみください


-2th ②

ゲヘナ 市街地演習場にて…

 

「よし…今度こそ…」

腰回り、左右それぞれに装着したワイヤーガンを再調整。ロケットスター本体に後付けされた2つめの引き金を薬指で確かめながら目標を確認

 

──行くぞ

 

ワイヤー射出、アンカーを壁面に打ち込むと同時にロケットスターを点火。

「うぅぐっ…!」

 

反動のまま前方へと吹き飛ぶが固定された鉄線がそれを許さず強引に軌道を変える

「っっ…らぁ!」

 

コンパスで書いたような曲線を描いて急カーブし、そのまま走って──

 

ぐいっ!

 

「ぐはっ!…くそ、やっぱり無理だな」

やっと曲がれたのはいいが今度はアンカーが抜けず、せっかくの機動力が活かせない

 

練習すれば使いものになるかもしれないが…2日後までとても間に合わんなこりゃ

それにこれ以上ロケットスターに変な改造をしたくない。元々これ1組だけで完結する銃だったしな、身体も痛むしもうやめよう

 

ワイヤーからアンカーまでを手繰り寄せワイヤーガンを取り外す

剣先さんのアドバイスは計画後にゆっくりと活かしていこう

 

「新しい鍛錬?」

「へ?っ!空崎先輩、お疲れ様です!」

思わぬ来客に腰の痛みも忘れて頭を下げる

 

演習場だから他の生徒もいるのは当然と言えば当然だがまさか空崎先輩が来るとは…

「会う度に深々頭を下げなくても良いわ、ほら顔を上げて」

 

ぽふぽふ、と肩を叩かれ改めて顔を上げる

「ありがとうございます、空崎先輩も鍛錬を…?」

「いえ、ただの見回りよ。銃を移動手段にする生徒なんて他に居ないから様子を見にきたの」

 

…!よし、覚えられてるぞ

エアダッシュをアピールポイントにする気は無かったがこれはこれで良い

 

それにのし上がるとかそれ以前に俺は結構空崎先輩が好きだ、もちろん恋愛対象としてではなく一個人としてだが…好きな人に覚えてもらっている、というのは嬉しいものだ

 

「それにしても銃を武器じゃなく移動手段にするって…器用なことをするのね」

「ええまぁ、これぐらいやらないと弱さが隠しきれませんので」

 

実際そうなのである。模擬戦とはいえ剣先ツルギと一瞬だけでも渡り合えたのは特異能力と呼ばれるほど高い視力とロケットスターの2つがあったからに他ならない

 

「それだけ動ければ充分頼りになるわ

今からでも風紀委員会に来ない?」

「!!!」

 

ついに向こうからスカウトが…いやいや待て待て落ち着けドグマ。『今から本部に来ないか』という意味かもしれない

 

「それは…本部にと言う意味ですか?」

「いいえ、一緒に風紀委員として働いてほしいという意味よ」

 

こ、これは正真正銘スカウトでは…!?しかし今は間が悪い!

「返答、3日後まで待っていただいても?」

「構わないわ。…ただ強いて私の願望を言わせてもらえるなら万魔殿の誘いには乗らないでほしい」

 

珍しく空崎先輩が仕事以外で自分の意見を…万魔殿から何かアクションがあったか?

 

「万魔殿?特に向こうからの接触はありませんでしたが…」

「………マコトが話しているのを偶然聞いたのだけれど、あなたトリニティの正義実現委員会リーダーと模擬戦をしたそうね

しかもかなり善戦したと…」

 

げ、なんでそれを…

 

マコト議長…正直ドバカだと陰で思ってたがあの人の情報収集能力は常識を超えていると改めて実感した。

トリニティにすら広まっていないはずなのに…

 

「その顔を見るに事実かしら。近いうちに貴方を万魔殿に引き入れる準備を進めているそうよ

勿論受けるかどうかは貴方の自由だし縛るつもりも無い。それに風紀委員会は万年人手不足で休みが取れない日も出てくるかもしれないから…そうね、さっきまでの話は忘れて。あなたの道はあなたに任せるわ」

 

どこか疲れ切ったように笑う空崎先輩。

…どうしようか、これなら風紀委員会に入るよりも風紀委員会の外から支援したほうが場合によっては評価されるかも…いや外部からじゃ結局今までと同じか

 

ならば万魔殿に入って内側から風紀委員会を補佐するのは?…無理だな、マコト議長はそれを見逃さないだろうし。

やるとすれば丹花イブキを次期議長に押し上げて…時間かかりそうだなぁ

 

「それともう1つ」

「はい?」

「あなた妙奇ロハンと何をしてるの?」

「あー…それは」

 

誤魔化すか、と一瞬思ったがさすがに空崎先輩に嘘は吐きたくない

だが彼女が先生追放計画を聞いてどうするだろうか?もし妨害されたら──いや

 

「………場所を変えさせてください

できれば絶対に邪魔が入らない場所に」

「分かったわ、それなら私の部屋に来て」

 

今日は珍しく問題事が少ないらしく部屋で話す時間はあるそうで招かれた

ロハン、やっぱり俺は空崎先輩に嘘や誤魔化しは嫌だ。

 

それに空崎先輩はきっと分かってくれる、狐坂さんと同じタイプ…と言えるのか分からないが少なくとも私利私欲で先生を引き止めることはしないだろう

 

 

 

ヒナの部屋にて…

 

個人的に。

 

「いらっしゃい、上がって」

「失礼します」

 

火神ドグマ、彼女のことは気に入っている

気に入っているというと偉そうに聞こえるかもしれない、けれど実際彼女はゲヘナ生徒とは思えないほど素直な上に素行がいい

 

ゲヘナ生で問題を起こさないというだけで助かるのに彼女が陰で風紀委員の手助けをしてくれていることを私は知っている

 

風紀委員会でもないのにここまで真面目なのは彼女と給食部のあの子くらいだろう

そんな彼女がなぜ、ミレニアムの問題児と共にいるのか

 

「妙奇ロハンと一緒に行動してるのは訳があるんでしょう?咎めたりはしないし口外もしないから話してほしい」

「勿論です。…ですがこれから話すことは少々、空崎先輩には酷な話だと思われます」

 

強張る表情には彼女自身も何かしらの覚悟を決めていることが分かる。きっと私に話すのも相当な勇気が必要だったのだろう

 

「覚悟があるかどうか、それを聞く余裕はありません。どっちであろうと私たちはやり遂げるつもりなので」

「ドグマ、結論を」

 

どこか話しづらそうな彼女を一喝して続きを促す

 

「…はい、私とロハン、そしてトリニティの雷川ラミィと百鬼夜行の青山フクヨ、七囚人の狐坂ワカモの5名は2日後。シャーレの先生をキヴォトスの外の世界に帰します」

「────」

 

 

「いま、なんて、」

彼女は今、なんて言ったの?

 

「エデン条約の件がある以上言うまでもありませんが先生は非常に弱く脆い。たまたま今まで助かっていますがいつ流れ弾に当たって死ぬのか分かったものではありません

 

ですのでロハンが見つけた転送装置を解読し利用、先生を元の世界に帰し銃弾の無い平和な場所へと送り届けます」

「──その、先生は戻ってこられるの?」

「いいえ、一方通行です。2日後の転送が成功すれば先生は2度とキヴォトスに足を踏み入れることは無くなります」

 

信じたくなかった

これが他のゲヘナ生なら『何をくだらないことを』と言って聞き流せたのに、いつも真面目な彼女の言葉にはそう返せなかった

 

今だけは彼女の真面目さが恨めしい、他のゲヘナ生みたいな問題児だったなら否定できたのに

 

…手が震える

もう2度と会えない?

先生に褒めてもらえない?

先生に頭を撫でてもらえない?

先生にもう、名前を呼んではもらえないの?

 

「辛かろうが聞いてもらいますよ

いいですか空崎先輩、2日後の早朝から私たちは先生を連れてこの…場所に向かいます」

今ではめっきり見なくなった紙の地図を出し、彼女が指し示す

 

…そう遠くない

 

「そこから先はもうありません、先生はそこを堺にこの世界から消え去ります

ですが…空崎先輩の選択次第で先生は手に入ります」

「どういう、こと?」

 

「外の世界に通じる切符は先生のを含めて2枚あります。もう1枚は狐坂ワカモが使うことになってはいますが…空崎先輩なら取り上げること自体は容易でしょう」

「…!」

 

それは、悪魔の誘惑だった。2度と戻れない片道切符…本来他人の物であるそれを奪えば先生とずっと一緒にいられる魔法の切符…

 

「先生はこの転送が1週間程度でキヴォトスに戻れるようになるとロハンから聞かされています

また、狐坂ワカモが同行することも知らないはずなので彼女を撃退したところで不都合は出ません」

 

だがその切符を使うと言うことはつまり──

 

「しかし覚悟が必要です、先生の側にいるには転送装置を破壊して彼の故郷を断つか──先生に関するもの以外の全てを捨ててこのキヴォトスを去る必要があります」

 

外へ行くのなら…ゲヘナ、風紀委員会を、

アコ、チナツ、イオリ、風紀委員のみんなを…

いいえ、先生を慕う全ての生徒を裏切ることになる

そしてそれは先生自身の期待も──

 

でも、そうなったら先生は先生としての職が無くなるし私も生徒では無くなる。もしかしたらそれを機に先生は私を生徒としてではなく女として見てくれるかもしれない

 

──苦しい

 

ちょっとした散歩のついでに話を聞いただけだったのに

 

「──どうして、私に話したの

こんなこと、私に話していいの…?」

 

結局どうして彼女は私に打ち明けたのか、こんなこと知れればキヴォトスは大混乱だ。先生を捕まえたり監禁する過激派も出てくるかもしれない。妙奇ロハンは口止めしなかったのか

 

「………私は──いえ、俺は空崎先輩に嘘や誤魔化しをしたくなかったんです

こんなギリギリになって何を、と思われても仕方ありませんが…」

 

妙奇ロハンにも口止めされていたようだがそれを押して彼女は打ち明けてくれたらしい

 

──きっと私は幸運な方だろう、大半の生徒はこの事実を先生が消えた後で知る事になる

だから覚悟の準備ができる私の方がずっと幸運だ…その、はずだ

 

そして、悪魔が差し出す切符の存在…

「………他に切符のことを知っているのは?」

「いません。護衛として便利屋を雇ってはいますが切符の存在を知るのは俺たちと狐坂ワカモの5人、そして空崎先輩だけです」

「…そう」

 

もうどうしたらいいのか分からない、これからどうすればいい?

今日はそこまで忙しくないとはいえ残っている仕事はあるから本部に戻らないといけないがとても仕事をする気にはなれなかった

 

目の前にいる彼女のことも忘れて携帯電話を取り出す

「………」ピッ

トゥルルルル…ザザッ

 

『ヒナ委員長?いかがされましたか?』

「アコ、悪いけど残りの業務お願いできる?」

『へ?はい、もちろん構いませんが…その、大丈夫ですかヒナ委員長、具合が悪そうですが』

 

…声だけで分かるくらい酷い有様らしい、だが特に弁明することもなく私は休みを貰い、お礼と謝罪を述べて通話を切った

 

「………ドグマ、今日はもう帰って」

「…はい」

 

呼びつけた相手に対してとんでもない言い草だがもう気にしている思考リソースは無い

今は何も考えたくない

 

「空崎先輩、俺はあなたがどんな選択をとろうと肯定します。それだけは知っておいて欲しいです。

………ここに電話番号、置いときます。俺にできることがあれば呼んでください」

「………」

 

フラフラとベッドに倒れ込み、抱きしめた枕を塩水が濡らす

「せんせい…わたし、どうしたらいいの…?」




ワカモと一緒に夏祭りに行きたい作者のルルザムートです、ハイ。
ああっ、委員長がシナシナに…でもいつかは絶対に立ち直る生徒だと思ってます
そして日付ミスったせいで-2thだけちょっと長くなってしまいそう…
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