シャーレの先生追放計画《集いし4人は無関心》 作:ルルザムート
-0th 05h 31mです、お楽しみください
「ぜぇっ、ぜえっ…くそ、始まったばかりなのにもうクタクタだ…
空崎先輩しっかり…」
ぐったりとして動かない空崎先輩を抱え、なんとか土手に上がる
うう寒い…今日から4月とはいえこんな時間じゃ水が冷たすぎる…
「ごほっ、ごほっ…」
「…失礼しますよ」
だが今は俺より空崎先輩だ、多分水を飲んでしまっただろうし吐き出させないと
「う、げぼっ…ぐ…」
意識は無いが水は吐き出せたらしい、それはひとまず安心だが…
「………」ピト
「はっ、はっ…」
…やはり相当な無茶を通していたらしい、ほんの少し額に触れただけで分かる高熱が彼女の異常を痛いほど教えてくれた
微熱、で片付けられるような熱じゃない。すぐに医学部に連れて行かないと…
日頃の疲労、先生との別れが重なった結果なのだろうか、今の空崎先輩に普段の力強さはどこにも無くなっていた
「…まずは身体を温めよう」
医学部に連れて行くよりも先に身体を温めなくては、幸いイズナの忍具が手元にあるから火くらいは簡単に付けられた
悪いと思いつつ近くの桜の木から枝をいくつか拝借、焚き木に焚べさせてもらった
「服、脱がしますよ」
壁登り用の縄とクナイを2本の木にくくりつけ、即席の物干し竿を作成。
1枚しか無いが大きめの手拭いを服の代わりに空崎先輩の身体に巻いて火の近くへ。
俺も乾かしたいが…ちょっとスペースが無いな
とりあえず空崎先輩だ。
椅子は無いので橋の下に捨てられていた段ボールを下に引いた
綺麗とは言えないが土よりマシだろう
忍具袋が完全防水で助かった…あとここで何ができるだろうか?
正直もうロハン達と合流するのは絶望的だろうし先生のことはあいつらに任せよう
「…なんて、諦められないよな」
空崎先輩は先生を見送ることを選んだが最後くらい会って話をしたいはずだ。なんとかしてロハンのところに行きたいが…
「あ?」
身体の温め方についてスマホで調べていたら気になる…というか否が応にも目を引く記事を見つけた
《緊急速報 シャーレの先生追放計画と実行犯について》
「…は?」
記事をタップして詳細を開く
読み込み時間が妙に長い
早く、早く、早く…開いた!
《本日未明、匿名の情報提供者よりシャーレの先生がキヴォトスの外へ追放されるとの情報があり。これに対し連邦生徒会は当初否定
のちに先生の所在不明が発覚し、各学園は大捜索へ。以下各学園の捜索範囲…》
「ど」
どういうことだ?情報が漏れたのか?いったい誰から?どこから?
いや待て待て待て、犯人探しをしたところでどうにもならない。ヤバいのはーー
《DU地区 トリニティ学園 ティーパーティ》
「くそっ!」
あの様子じゃ仲間の誰もこの事実を知らない!知らせないと…!
「頼む頼む出てくれ…!」
・・・繋がった!
『やぁ生きてたんだねぇ、そっちはどう?』
「そんなことどうでもいい!お前らは無事なのか?」
相変わらず能天気な奴だ、やはり知らないらしい
『心配してあげたのに随分な物言いだねぇ』
「うるさい!今すぐネットニュースを見ろ!
とんでもないことになってるぞ!?」
『はいはい…』
こんなことなら便利屋あたりの誰かと連絡先を交換しておくべきだったと後悔するが今更遅い
『え、なにこれ』
ようやく伝わったらしい、しかし遅かった
『まずい…!みんな外に出て!』
『ラミィさん!?いったいーー』
『砲身がこっちに向いた、砲撃が来る!走って!』
「お、おいロハ
『どがーんっ!!!』
「うわっ!」
耳をつんざかんばかりの爆発音を最後に電話が切れた
…くそ、生きてるだろうなあいつら
というか先生ごと撃ったのかトリニティの奴らは!?
「おいこっちだ!いたぞ!」
「!?」
土手の上からこっちを指差し叫ぶのはこんな地域に似合わない格好をした生徒…トリニティ生だ
「先生を追放しようとするゲヘナの不届き者がいたぞ!火神ドグマと空崎ヒナを捕まえろ!」
「冗談だろ?この余裕のない時に…!」
声に呼ばれてわらわらと集まってくるトリニティ生、その数はたった2人捕まえるにはあまりにもーー
「っ…逃げますよ空崎先輩!」
服が乾くのを待っていられる訳もなく、空崎先輩と先輩の服を引っ掴んで走る
「逃すな!捕まえて先生の居所を聞き出せ!」
「抵抗するようなら発泡も許可されている!口が聞ける程度に痛めつけて情報を吐かせろ!」
「ナギサ様、一味の2人を見つけました!増援を!」
なんて野蛮な連中だ、ゲヘナより酷い…
「こほっ、けほっ…」
空崎先輩の意識はまだ戻ってない…体温も吐息も熱いし危険だ
…進むのも戻るのもキツそうだなこりゃ
「う…」
いったい何が…たしか戦車が見えて…
「そ、そうだ!確か砲撃むぐっ!?」
なんとか身体を起き上がらせた瞬間、誰かに口を塞がれた!
わっ、うわっ!誰、誰!?
「静かに」
「もがっ?」
この声は…
「鬼方カヨコだよ、あんまり話をした記憶が無いから覚えてるかわからないけど
青山フクヨさん…で合ってるよね?」
「ウ、ウンウン」
「聞いて。今駅の周辺は瓦礫と粉塵で何も見えないだけで辺りはトリニティの生徒で埋め尽くされてる。先生の居所を突き止めるために何がなんでも捕まえようとしてくるよ」
「っぷは、じゃあどうするんですか?」
「地下鉄の入り口を見つけたそこから一旦逃げる。足は?動ける?」
「は、はい動けます」
「分かった、着いてきて」
絶対に離れないように、と同じ学生とは思えないほど冷静に手を引いてくれる彼女に圧倒されながらも私たち2人はその場を離脱した
他の人は大丈夫なのかな…
「ーーやられた」
粉塵の隙間から僅かに見える包囲網を前に雷川ラミィは静かに悪態をついた
まさかよりによってトリニティ…ティーパーティが邪魔をしてくるとは予想外だった
出発する直前まで情報の流れは注意していたはずなのに
「う、ううっ…あ、アル様…どこに…」
意識が朦朧としてそうな便利屋の1人を抱え上げ、逃げ道を探す
…! 地下鉄の入り口が
ズシン!
「…閉じた」
いざ入ろうとした瞬間、瓦礫によって入り口が埋まってしまう
今ので視界を遮ってくれる粉塵は増えたがいつまでもここにいられない
「………」
手元にある武装は私専用のハンドガン《ゼーレ》だけ、ヤシマがあるならともかく流石にこれだけであの包囲を突破するのは無理ね
と、そこへ
「よかった、生きてたのね」
「便利屋社長、無事だったのね」
煤で顔を真っ黒にした陸八魔社長が現れた
何故か彼女だけあまりにも真っ黒だが目立った怪我は無いらしい
「他は?」
「ムツキは無事よ、あと依頼人…妙奇ロハンも今逃げたって連絡があったわ」
…相変わらず逃げ足は速いのね
「あ、アル様!よくご無事で…!」
「あなたもね、ハルカ。…ところでカヨコを見ていないかしら」
「フクヨとの話し声は聞いたわ、ただもう周囲には居ないみたい」
「うん、それなら大丈夫ね
ひとつ頼まれてくれるかしらラミィさん」
「なに?」
「ハルカをお願い」
「は?」
「あるさま?」
ハンカチで顔を拭いながら一歩、また一歩と駅の外へ歩いていく便利屋社長
「…何する気?」
「外の包囲、あれを徒歩で突破するのは無理よ
私が囮になるからその隙を使って包囲の外に出てちょうだい」
粉塵が晴れてきて外の包囲がはっきりと見えてきた
…トリニティ自治区内のティーパーティが1人残らずやってきたのかと言いたくなるほど多い
「すごい数…!?アル様、お供を「命令よハルカ、ラミィさんと一緒に脱出しなさい
私を信じて手を出さず彼女の言うことを聞いて脱出して。…できるわね?」
「っ…はい」
「包囲を崩すわ、チャンスを見逃さないように」
「分かった」
「よし…て、抵抗はしないわ!投降する!」
その場で袋叩きに遭ってもおかしくない数の生徒に囲まれながらも両手を上げて包囲の中心へと歩いていく
「だ、だめですアルさ「静かに。彼女の作るチャンスを無駄にしないで」
粉塵も完全に晴れ、瓦礫以外に隠れるものが無くなった以上もう表には出れない
…そういえば彼女、持っていたライフルをどこにやったのかしら?
「道を開けてください…ふむ、あなた1人ですか?陸八魔アル」
「ええ、仲間は既に逃したからもういいわ」
包囲の外から生徒を割って出てきたのは私もよく知っている顔
桐藤ナギサ…ティーパーティのトップがここに出てくるとは
「そう、それで?貴女は私の知りたいことについて答えてくれるのでしょうか?」
包囲の輪を狭めながら圧のかかった声でナギサが言い放つ
だがアルは全く怯むことなく
「《NO》よ、仲間を売るなんてそんなのアウトローじゃないもの」
「そうですか。………捕らえて後ろに、なんとしても先生と不届きもの達の居所を聞き出してください
強情を張るのなら自分から話したいと言い出すまで痛めつけても構いません」
「痛めつっ…!?さ、させるか…!」
「やめなさい、信じて手を出すなと言われたでしょう」
爆発寸前のハルカを抑え付けながらチャンスを伺う
でもこのままじゃ彼女もただでは済まない、ティーパーティも必死なのは明白。どんな手を使っても口を割らせようとするはず
「陸八魔アル…アナタは」
ブロロロロ…
「「?」」
ふと明らかにこの辺りではないどこかから聞こえた何かの音。
これは…エンジン音?
「ナギサ様、何か音が…」
「? ………!今すぐに陸八魔アルを捕えなさい!早く!」
あ。
遥か向こうから猛スピードでこっちに向かってくる大きな影
SUV?
「う!うわっ、ナギサ様ぁ!ひゃあっ!?」
文字通り包囲を打ち崩して突入してきた車のドアが乱暴に開く
「アルちゃーん、お待たせ♡」
「さぁド迫力の映画撮影と行こうじゃあないか!
乗りたまえ!」
「ひいいー!来るのが遅いわよ!」たったかたー
「逃がすな!」
「くっ!なんて速い逃げ足…!」
「包囲はもういいです!追撃隊を編成して追いなさい!先生にたどり着く有力な情報を持ち帰った者にはこの桐藤ナギサが地位を保証します!さぁ追いなさい!」
すどどどど…と地鳴りのような音と共にティーパーティの軍勢が大移動、もぬけの殻となった駅前を私たちはひっそりと移動し始めるのだった
「アナタの上司、根性あるわね」
「は、はいもちろん!私のようなゴミクズでも見捨てずに…うう、アルさまぁ…」
ゴミクズって…自己評価低すぎやしないかしら
さっきだってこの子の爆弾の知識が無ければ小鳥遊ホシノを追い出すことはできなかった
「…まぁ、私にも私の信じる人がいる。アナタの気持ちは分かるわ」
「へ?」
「移動する、ヤシマのところへ向かうわ。起動準備を終わらせてティーパーティの切り札を粉砕しにいくわよ」
「は、はい!」やしま…?
ティーパーティ…というか桐藤ナギサまで前線に来ていると言うことは間違いなく『彼女』もここに来ていると見ていい
「はぁ、厄介なことに ピコン
? 新しいネットニュースが…
《ヴァルキューレ、現場に到着。指名手配犯2名と交戦開始か》
「…ホントに厄介ね」
ワカモの尻尾と耳をわっしゃわっしゃしたい作者のルルザムートです、ハイ。
こういう多数の仲間が何かの拍子で離れ離れになってそれぞれの障害を跳ね除けながら最終的に合流するって展開が好き。