シャーレの先生追放計画《集いし4人は無関心》 作:ルルザムート
-6th②です、お楽しみください
「シスターフッド本部…見たまんま教会だな」
無駄に大きな扉を押し開け、中へ入る
…ちらほらと生徒はいるものの殆どがシスターフッドの制服を着ており、そうでない者も長椅子に座って静かに祈っている
神か…やれやれ、ホントにいるのかねぇ?
神頼み、というのは正直嫌いだ。追い詰められて、どうしようもなくて、それでもすがる者を求めた人間がたどり着く最後の場所。
故にそれより先は無い
俺は絶望を味わったことが無い、だから神は信じていないし神頼みする奴の気持ちが理解できない
「口には出さないがな、さて懺悔室はどこだ?」
ロハンの情報によれば今日懺悔室で合言葉を言えば向こうから接触があると言う話だ
合言葉は、少し変だが
「広くて分からない、聞いてみるか
…失礼します」
掃き掃除をしているシスターの1人に声をかける
獣耳の形に浮き出たフードがぴこん、と反応した
「あ、こんにちは。正義実現委員会の…えっと…申し訳ありません、どなたでしょうか?」
「申し遅れました、私はドーマ。正確には正義実現委員会にはまだ所属していない、体験入部生です」
「そうだったんですね、私は伊落マリー。見ての通りここでシスターをしています
何かお困りですか?」
「ありがとうございますシスターマリー。
…実はその、懺悔をしに。懺悔室はどこにありますか?」
「それでしたら…」
初対面を抜きにしてもものすごく丁寧に案内され、俺は懺悔室へと通された
清楚、というのは彼女のことを言うのだろうか
ゲヘナじゃまずあり得ないな…
「………」
まるでプリクラを撮る場所みたいな狭い一室に入り、ドアを閉める
姿は見えないが気配はする、シスターはもう隣にいるみたいだ
「………やれやれ」
ホントにこんな台詞言うのか?映画じゃあるまいし
『どうされましたか?』
「いえ、それよりもシスター。貴女に聞いてほしい言葉があるのです」
『もちろんです、そのために私はここに居ます』
「…【神はこの世におらず、我々を照らし、指し示し、導くのは神を宿した人間である】
私の好きな映画の台詞です、どう思います?」
映画の台詞、というのはアドリブだ。合言葉とは言えこんな厨二全開の台詞は小っ恥ずかしい
『ならば神を宿し人とは誰を指すのでしょうか』
返事が来た、ということはこの向こう側にいる彼女が…
「…【歌住サクラコ様】」
『……………あなたがロハンの《友達》?』
「そうなる。会って話がしたい」
『分かった………』
ガチャ
「来て」
ホントにシスターか?と思うほど冷たい目つきの生徒が乱雑に扉を開けた
「…やれやれ、シスターが躊躇なく懺悔室の扉を開けるなよ」
「あなたは懺悔しに来たわけじゃないでしょう
無駄口叩かずさっさと来て」
〜
「トリニティシスターフッド所属、雷川ラミィ」
「ゲヘナ学園の帰宅部、火神ドグマ」
限りなく黒に近い水色のロングヘアをかき上げながら雷川ラミィはこちらに缶コーヒーを投げ渡してくる
「どうも」
コーヒーはあまり好きじゃないんだが…
「そうだ、ロハンからの手紙を渡しておく」
「こっちに。…ふむ」
コーヒーと交換で手渡した封筒から手紙をささっと取り出し、文字に目を這わせる彼女…
「………そう、やるのね」
どこからともなく取り出したライターで手紙を燃やし、灰皿に捨ててそう呟いた
「っておい、まさかタバコ吸うのか?」
「タバコ?吸うわけないでしょう
神の顔に泥を塗るようなマネ、私は死んでもしない」誰かの忘れ物よ
「そ、そうか」
どうやら冷徹そーな印象に反してかなり信心深いようだ。見かけはどうあれシスターってことか
うん?ってことはラミィ以外の誰かがタバコ吸ってるってことか?
「神は常に私を、いいえ。私たちを見ていらっしゃる。慈悲深き我らの神は例え罪深き行いをしようと決して制裁は下さない、ただ見放すだけよ」
「え!?お、おう…にしても随分とまぁ、あんな合言葉を設定しといて言うもんだな」
「? 別に矛盾はないわ、神はこの世にいないのだから」
…あん?
「そうね…火神ドグマ、あなたは神を信じる?」
「玄関開けたら立ってるババアかよ…俺は正直そこまで信心深くはないぞ」
「…でも全ての人間が神を信じていないわけじゃないの」
つまり、どういうことだ?
「分かりやすく言ってくれ」
「合言葉の通りよ、【神はこの世におらず、我々を照らし、指し示し、導くのは神を宿した人間である】…神がいないと私が知っていたとしても神がいると信じている者には居ない神に変わって彼女らを導く存在が必要」
…つまりそれが
「…【歌住サクラコ様】だと?」
「その通り」
それまで機械のように無機質で冷徹だった彼女の表情が初めて変わった
それはまるで、荒みきった人間がこの世の尊さに気付いた瞬間ともいうのか
あるべき場所に還った命、この世の全てを尊ぶように安らかな表情だった
「神はいない、いいえ居る。彼女こそ、歌住サクラコ様こそが神であり絶対的存在なの
神でありながら生徒という枠組みに自ら入られ、我らを導く絶対神
あのお方こそ、トリニティを。キヴォトスを支配するに相応しい」
「そう、なのか」
雷川ラミィ…随分とぶっ飛んだ奴をスカウトしたな?ロハンの奴
だがこれくらいぶっ飛んでいれば他のことなんて眼中に無いだろう、その点では安心できるな
「ん、いや待て」
「なに?」
「動機が分からない、アンタはなんだって俺たちに協力する?俺たちに力を貸すアンタへの見返りは一体なんだ?
サクラコの指示なの──」
瞬間、俺の脳が揺れた
思い切り、横からの衝撃によって文字通りに。
突然すぎてそのまま床へと投げ出されてしまう
「いぎっ…てぇ…え、は?」
見れば青くてドス黒い瞳でこちらを見下ろす雷川ラミィが俺の目の前に立っている
美しい彫刻があしらわれたベレッタを持って
「──侮辱したな」
「は、は?なんだよ、おい」
「我らが神を!侮辱したな!!
よくも!よくもよくもよくも!」
な、なんだってんだ!?
「待て、待てっ!なんのことだ?落ち着け!」
そのままベレッタで殴りかかってくるラミィから転がり逃げる
なんとか落ち着けようとするがまるで効果がない。瞳孔は開き、その目の奥にはエゲつない殺意が浮き出している
「あのお方はっ!サクラコ様は!塵に等しき我らのために!醜い人間のために!御自ら神格を脱ぎ落とし、我らの元に降臨した!
我らを導きなさるため!自身の格を削ぎ落とされた!
共に信仰しろとまでは言わない、だが!
あのお方を!我らを救いなさる女神を!あろうことか呼び捨てるとは!?
塵芥の人間がっ!思い上がるなぁっ!!」
喚きながら殺意のこもった殴打を繰り返すラミィ
く、狂ってる!?
『狂信』…もうそう言うしかない、雷川ラミィは狂っている。
というかなんとかしないと冗談抜きで殺される!
「わ、分かった悪かった!俺は今まで神を信じていなかったんだ!だからサクラコ、様をついうっかり呼び捨ててしまったんだ!」
弁明に一瞬殴打が止まる
「頼むから落ち着いてくれ、アンタにとってサクラコ様はなんでもできる全能神なんだろーが俺はサクラコ様のことを何も知らないんだ!」
「……………そう、分かった」
と、そこでようやく彼女は元の落ち着きを取り戻してくれた
やれやれ…
「知らなかった、確かにそうね。私はトリニティであなたはゲヘナ、常日頃から神のそばにいるかどうかという点を鑑みるべきだった。悪いわね」
「まぁ、あー、うん」
そういいながら『次はない』と瞳を光らせるラミィにビビりながら相槌を打つ
「それで、サクラコ様がどうされたの?」
「いや聞くのはアンタのことだよ、動機だ」
さっきの殴打がヒットしたせいか少し出た鼻血をポケットティッシュで拭きながら聞き返す
「ああ…この先のトリニティに必要だから」
「はぁ?」
「シスターフッド、ティーパーティ、正義実現委員会、救護騎士団…他にもいくつかあるけれど今のトリニティを統治しているのはこれら4つの組織、それは知ってる?」
「まぁ、知ってるが」
「治安組織である正義実現委員会と医療機関である救護騎士団は別としてシスターフッドがトリニティを掌握するにはティーパーティが邪魔
サクラコ様にとってはそれらを排除することなど容易いけれど慈悲深い神は
『信仰しない自由』を彼女らに与えて野放しにしている…」
「…話が見えねぇ、ティーパーティの排除と俺たちへの協力がどう結びつく?」
まさか俺たちでティーパーティを潰せ、なんて言うつもりじゃないだろうな…
「あなた達の計画…それが遂行されればティーパーティはおそらく瓦解する
崩壊、とまではいかなくとも桐藤ナギサの権威は失墜する」
はぁ!?
「まてまてまてまて意味不明だ!なんでティーパーティのトップの権威が無くなるんだ!」
まるで意味がわからない、コイツ説明がヘタクソすぎじゃねぇの?
「彼女は間違いなく私情に駆られてティーパーティを動かす。計画を阻止するために。
そのためなら聖園ミカだって前線に駆り出すでしょう」
「ミソノ…?」
「そうなれば誰がティーパーティを引き継ぐ?元々3人のトップで構成されていたティーパーティを百合園セイアだけで引き継げる?
無理よ、かならずティーパーティから離反する生徒が出てくる。それを…」
「シスターフッドに引き込む、と?」
「ええ。サクラコ様の素晴らしさを1人でも多くに伝えるの、これが動機。」
「なるほどな…」
………キチガイだわコイツ
そんなことのためにここまで勝負できるというのは強いとかいう次元を超えてただのキチガイである、もちろんそんなこと言ったら彼女の逆鱗に触れるだろうから言わないが
「あなたは?私の動機は言ったのだからあなたのも聞かせてくれる?」
「俺は…ゲヘナのトップに立ちたい。そのためには権力を持った有力者の目に止まり、評価される必要がある。だから計画に乗った」
成功すれば俺はおそらく風紀委員か万魔殿の一員としてかなり上の役職へ就けるだろう
下っ端だったとしても羽沼議長や空崎先輩の評価をもらって入れば昇格は早いはずだ
「権力、ね…くだらない理由」
「っ」カチン
コイツぶん殴っていいか?
とはいえ殴ったところで意味はない、上を目指すのなら感情のコントロールのひとつやふたつ、できなくてどうする
「まぁいいわ、ロハンには手紙はしっかり受け取ったと伝えておいて」
「…そうさせてもらう」
確信した、コイツとは仲良くなれない。ゲヘナとトリニティだからじゃない。火神ドグマと雷川ラミィは分かり合えない
もしこれとお友達にでもなれたらそんなもん世界の終わりだろうな
「まだ何か用?」
「ねぇよ、じゃあな」
雷川ラミィとの接触を果たし、俺は談話室を出る
とりあえず服、取りに行くか…
────────────────────
おまけ
↓ドグマ視点
とりあえず服、取りに行くか…うん?
廊下を歩いているとふと前から歩いてくるシスターが見えた
アレは…歌住サクラコじゃないか?
直接会ったことはないがさっきラミィと密会した時に部屋の隅に置いてあった写真と同じ顔だ
大事そうにラミィが拝んでいたから多分あれが歌住サクラコの写真だろう
「こんにちは」
「こんにちは、『火神ドグマさん』」
…!?
何気なく挨拶しただけだ、権力者の記憶に留まりたいというのはあるが今の俺は正義実現委員に変装している。目立つのはマズい
故に名前なんて名乗っていないはずなのに
「どうしました?随分と…『顔色がよくない』ようですが」
なんだ、なんで分かった?いや、待て落ち着け、正義実現委員会本部でも俺は剣先委員長に名乗った。それがきっとなにかのきっかけでここに──そうだ、きっとそうだ
「いえ、大丈夫です」
「そうですか?しかしここから『ゲヘナ』まで相当な距離がありますよ
果たして『無事に』辿り着けるでしょうか」
!!!
背中に氷柱がぬるりと入り込んだような悪寒が走る
俺がゲヘナ生だと知っている…!?ありえない!トリニティ突入時でさえ変装してたんだ、仮にあれを見ていたとしても分かりようがない!
じゃあなんで知ってるんだともう1人の俺が俺に聞き返す
…そんなの分かるわけないだろう!
「まぁ…あなたが『帰る』というのなら引き留めはしません
ですが残るというのなら…あなたの『安全』は『保証』しましょう」
安全?そりゃ『死んでない』って意味の安全か?
そう聞きたい、だが聞けない。聞けば後戻りができない
『噂に過ぎないが聖職者の面を被った拷問官の集まりだと言う者もいる』
ロハンの言葉が頭の中で反芻する
なんとかしてここから逃げないとマズいな…!
「雷川ラミィ…彼女、とっても『不器用』なんですよね」
「っ?いきなり何を…?」
いきなり話題を変えたサクラコの真意が量れない
「しっかりした顔つきに反して、いいえ
しっかりしているからこそいつも『張り切りすぎて』そして『壊してしまう』んです
故に彼女には友人が『1人もいない』…」
こんな大きな組織なんだから誰か1人くらいこの場を通ればいいのに、なんて希望的観測を抱きながら歌住サクラコと1対1で向かい合う
くそ、くそっ、なんでこんなことに…
「そんな彼女があなたという『友人』を作った
ふふ、とても喜ばしいことです」
にこにこと、サクラコは笑っている
笑って、俺を見ている
ま、まさか!『友人』というのは…
これか?これが歌住サクラコなのか?
なんでここまで笑っていられるんだ?
雷川ラミィを知っていると言うのならあの異常性も知っているはずだ。まさか、逆らう連中をみんなラミィみたいなのを使って始末していたとしたら…
いやそれならまだいい、かなり最悪寄りだがまだいい
本当にやばいのは
「あの歌住、様」
「サクラコ、でいいですよ。なんでしょう?」
「その、サクラコさんは、神を信じていますか」
一分の望みを掛けて質問をする
頼む、頼む、頼む…
「ええもちろん、だって『ここに居ます』から」
歌住サクラコは自身の胸に手を当て、そう言った
「っっ!!!」
ぞっとする、とはまさにこのことだ。彼女はノータイムで『神がここにいる』と、そう言った
雷川ラミィの妄言が妄言で無かったとしたら?
バカな、バカなバカなバカな!そんなバカな!
歌住サクラコ、彼女は──
「ふふっ、あなたとラミィの計画…『上手く行けばいい』ですね。
心配せずとも『邪魔はしません』よ?むしろ応援してあげようと」
優しく頭を撫でる彼女の手があまりにも不気味ですぐにでも払い除けたい、この危険な甘さから早く逃れたい
だができない、呼吸も忘れ、硬直した身体でできるのは震えながらそれを受け入れることだけ
「火神ドグマさん、あなたに『期待』してますよ」
それでは、とこっちの気も知らずに歌住サクラコはどこかへ…いや談話室の中へ入ってしまう
「──ごほっ!ゼェーッ、ゼェーッ」
なんとか呼吸のやり方を思い出し、その場に崩れ落ちる
なんだ、アレは!?
生徒とかそういう次元じゃない、あれと関わるのはダメだ!
おそらくラミィは元々普通の生徒だったんだろう、だが『不器用』だった彼女はある日サクラコによって『従順な信者』に作り替えられたのではないか?サクラコへの強烈な崇拝心を植え付けられて
証拠はない、だが『やってもおかしくない』という想いが杞憂と切り捨てようとする自分に迫ってくる
談話室に…俺とラミィが残した証拠は何もないが…あの燃え滓からサルベージとかできないよな?
どちらにせよもうどうしようもない、というか全てを知った上で泳がされているのならもう止まれない
「神、か」
やれやれ、ロクなものじゃないな
↓サクラコ様視点
「…実はその、懺悔をしに。懺悔室はどこにありますか?」
…あら?
ふと、シスターマリーが見慣れない生徒と話しているのが見えた
あの服装は正義実現委員会の…1年生でしょうか?
「それでしたら…」
と、2人して懺悔室の方へと歩いていく
正義実現委員会には最近行ったばかりですが彼女は見たことがないですね…新しく入った生徒でしょうか?
どうにも気になったサクラコは今手をつけている仕事に手早くキリをつけ、謎の1年生を追いかけてみることにした
確か…今日の当番は雷川ラミィさんでしたっけ
えっ?
懺悔室が置かれている部屋のドアが完全に開くよりも早く信じられない光景が飛び込んでくる
「来て」
なんと懺悔の最中にも関わらずシスターラミィが懺悔室の扉を開け放っていた!
「ちょっと──「やれやれ、シスターが躊躇なく懺悔室の扉を開けるなよ」
「あなたは懺悔しに来たわけじゃないでしょう
無駄口叩かずさっさと来て」
注意しようとしたが開けられた生徒もあまり狼狽えている様子はなく、むしろ待っていたようにも見える
懺悔をしにきたわけじゃない、と言っていましたが…だとすればなぜ懺悔室に?
良くないことだと分かってはいたが
「談話室……」
ここに入って行ったみたいですが…流石に中に入るわけにはいきませんね
「………」きょろきょろ
…幸い周りには誰もいない。
「・・・」
私はそっと、ドアに聞き耳を立ててみた…
「トリニティシスターフッド所属、雷川ラミィ」
「ゲヘナ学園の帰宅部、火神ドグマ」
「…!」
ゲヘナ学園の生徒…?どうしてここに…あっ
その時サクラコの中に思い浮かぶ一つの情景
いや、まだ確信ではないがきっと──
「そうだ、ロハンからの手紙を渡しておく」
「こっちに。…ふむ」
その場にいない『ロハン』という人物から手紙を受け取ったようだ、やはりこれは──
「………そう、やるのね」
どこかへ遊びに行く、その準備!
思えばこれまで殆ど休みを取らなかった
シスターラミィが急に『休みが欲しい』と言ってきたばかりだ。日時は6日後…きっとその日にどこかへ行く計画を今日立てに来たんだろう
ゲヘナ学生がトリニティ自治区内に居るのは確かに問題ではあるがだからといって彼女の交友関係まで縛りたくはない
私以外にあまり心を開こうとしない雷川ラミィが取り繕わずに話せる『友達』を奪いたくはない
「…では微力ながら、私も手伝わせていただきましょう」
素早くその場を後にし、滞在しているシスターフッドの生徒達に伝達。『私が良いと言うまで決して談話室付近に近付かないこと』と
気休めかもしれないがこうすればゲヘナ学生の彼女も安心してシスターフッドから出られるはずだ。
もちろんここからゲヘナまでは距離があるし、帰るためにはトリニティ自治区内を通らないといけない、果たして無事に帰れるかどうか…
「やはり心配ですね…」
見送ってあげたいが自分が着いていくのは目立ってしまうし、かと言って他のシスターに頼むのも…
結局心配で談話室付近に戻ってきてしまった
「まだ何か用?」
「ねぇよ、じゃあな」
そんなことを考えていると談話室の扉が開いた
うう、結局良い考えが纏まりませんでした、ひとまず挨拶だけでもしておきましょう
「こんにちは」
だが先を越されてしまった、ゲヘナから来たとは思えない人懐っこい笑顔から繰り出される爽やかな挨拶に若干面食らってしまった私は
「こんにちは、火神ドグマさん」
うっかり、彼女の名前を呼んでしまった
だがこの時の私はそんな失敗すら気付かないまま会話を続ける
「どうしました?随分と…顔色がよくないようですが」
表情が固く、特に暑いわけでもないのに汗を流している
…なんとなくお腹が痛いのを我慢している顔に見える
「いえ、大丈夫です」
彼女はそう言うがどう見ても大丈夫ではない、ゲヘナ学生の彼女にとってトリニティは決して安全とはいえない、ここに来るために拝借した正義実現委員会の制服も返さないといけないだろう
「そうですか?しかしここからゲヘナまで相当な距離がありますよ
果たして無事に辿り着けるでしょうか」
「………」
なにやら考え込んでいる、帰るか残るか考えているのだろう
彼女のスケジュールは分からないが今日中に帰らなければならない事情があるのかもしれない
「まぁ…あなたが帰るというのなら引き留めはしません
ですが残るというのなら…あなたの安全は保証しましょう」
なにせシスターラミィが対等にお喋りできる友達ができたのだ。私を慕ってくれるラミィのためにも、彼女は全力で守りたい
…シスターラミィ、彼女にとって友達がいかに大切かを話しましょう。
たった1人の友達のためにトリニティにまで足を運ぶ彼女ならきっと分かってくれるはず!
「雷川ラミィ…彼女、とっても不器用なんですよね」
「っ?いきなり何を…?」
一年生でありながら、彼女は勤勉で真面目だ
だがその反動故なのか自己肯定感があまり高くない
「しっかりした顔つきに反して、いいえ
しっかりしているからこそいつも張り切りすぎてそして壊してしまうんです
故に彼女には友人が1人もいない…」
せっかく作れた関係も自分で壊してしまう
その要因は私にあった
『サクラコ様を知って欲しい』…その一点だけでシスターラミィが動いてくれていることを私は知っている
だが私の話をするあまり自分のことを殆ど話さないらしく、結果としてシスターラミィを分からず、理解できない生徒はみな彼女から離れてしまった
でも──
「そんな彼女があなたという友人を作った
ふふ、とても喜ばしいことです」
気兼ねない、シスターとしてではなく雷川ラミィとしてお喋りできる友達が彼女にできたことが改めて喜ばしい
「あの歌住、様」
恥ずかしいのか顔を逸らしつつ、呟くような小さな声でドグマさんが私を呼ぶ
「サクラコ、でいいですよ。なんでしょう?」
「その、サクラコさんは、神を信じていますか」
…?なぜ急に神の話に?しかし聞かれたからには答えましょう
「ええもちろん、だってここに居ますから」
私は自分の胸を指し示す
神は常に私たちの中にいる、私の中にもドグマさんの中にも
本当に神と呼称される人物がいるかは分からない、大切なのは信じる心だ
たとえ目に見えずとも、その心がある限りいつか神にその想いは届くと。そう信じて…
その言葉を聞いたドグマさんは目を丸くして私を見ている
…どうやら言葉を失うほど感動してくれたみたいだ
「ふふっ、あなたとラミィの計画…上手く行けばいいですね。
心配せずとも邪魔はしませんよ?むしろ応援してあげようと」
シスターラミィが遊びにでかけるなど今まであり得なかったことだ
ゲヘナ学生だろうと関係ない、彼女と親しい間柄を続けて欲しい
そう思って彼女の頭を撫でる
少し馴れ馴れしかったかも…と反省するも、頭を撫でられて身体を震わせるそれは以前同じように頭を撫でられたシスターラミィの喜ぶそれと似ていたため合っていたのだろう
「火神ドグマさん、あなたに期待してますよ」
…どうか彼女を、笑わせてあげてくださいね
2人が使ったであろう談話室を掃除するため、私はその場を後に談話室へ入った
ワカモとスイーツデートをしたい作者のルルザムートです、ハイ。
元々ワカモに脳を焼かれてブルアカを始めたので彼女もしっかり出ます
次かその次くらいかな…?