シャーレの先生追放計画《集いし4人は無関心》 作:ルルザムート
そしてまた感想が増えてて嬉しい!何個あっても嬉しいですからねホント
それとそこで先生が通ったトンネルの向こうは本当に先生の故郷なのかという疑問を書いてくれた読者の方がいましたが描写したかどうか自信がないのでここで言っておくとトンネルの向こうは先生の故郷、実家で間違いありません。少なくとも追放された先生はきちんと自分の家に帰れています。そして雲隠れしたロハンですが当然これでは終わりません、果たしてどうなるか?
…というわけでそろそろ終わりが近付いてきた8th ①です、お楽しみください
ゲヘナ救急医学部、誰もいない真夜中にベッド上でぼーっと天井を見上げる生徒が1人
「………」
1週間で入院当時から居た怪我人はここからいなくなったものの、流石に骨折と眼へのダメージはそう簡単に消えてはくれず今日も1人で夜を過ごす
薬の効果か、あるいは怪我を治そうとエネルギーを使っているせいか、夜更かしはせず大抵はぐっすりと眠れていたが今日は違った
眠ろうとすると、天雨行政官の言葉がフラッシュバックするんだ
「………」
『私は…いえ、風紀委員会は!ヒナ委員長から笑顔と拠り所を奪ったあなたを絶対に許さない!』
──彼女だけじゃない
あれからゲヘナ救急医学部にはいろんな生徒が来た。風紀委員会、万魔殿、温泉開発部、少ないが他校の生徒まで来ていた
みんな俺のやったことと所在を把握したのだろう
殆ど顔すら知らない連中から向けられたのは…先生という存在を奪った女に対する憎悪。
氷室さんが常に目を光らせていた手前、危害を加えられることは無かったが罵声だけは止まらなかった
とはいえそれはまだ良かった。憎い相手に言葉を投げつけ、怒りと憎悪を撒き散らせて帰っていく…それならばよかった
むしろ、泣いている生徒の相手をする方がよほど辛かった
どうして奪ったのか、どうして分からなかったのか、どうして、どうして、どうして──
怒りよりも悲しみをぶつけてくる生徒達、それが何よりも辛かったがたまたま通りかかったイブキが俺を生徒達から庇ってくれた瞬間、俺の中の何かが壊れた
先生は、いろんな生徒に慕われていた
ゲヘナだけ特別優しかったわけじゃない、きっとゲヘナ以外にも彼を慕っていた生徒はいるだろう
──俺はそれを壊した
確かに先生の安全を守るためならこれが最善だった、公表したとしても理解や賛成は得られなかっただろう
だが…比較的マシなゲヘナでこうなるくらいなら、最初から何もしなかった方がいいのではないかとさえ思う
そもそも俺が協力したのは空崎先輩に評価され、普段人に頼らない彼女に頼られ、支えられる人間になることだった
ゲヘナの頂点に立とうとしていたのも、全てこれのためだった
「………散歩するか」
禁止されてる夜間の外出へと足を繰り出す
支えるどころかこれだけ多くの生徒を深く傷付けて、気を遣われてまでこんなことする意味は無かった
俺の認識が、甘かった
──ヘイローって、自分で砕けるのかな…
そんなことを思ってるとふと建物の1つに灯りが付いているのが見えた
食堂に灯りが…こんな時間に?
時刻は深夜1時を回ろうとしている、流石にこの時間に飯を食ってる奴はいないだろうし給食部が作業しているのか…
行ってみよう
…
「誰かいるのか…?」
「? こんな時間に生徒が?」
ゲヘナ食堂にて冷蔵庫の中身と睨めっこしている生徒、愛清フウカと目が合う
…見たところまだ仕事中のようだ
「いえ、眠れず散歩していたら灯りが見えたもので…失礼しました」
「待って」
ではこれで、と去ろうとしたが意外にも引き留められた
特に彼女との繋がりは無かったはずだが…
「眠れないのよね、せっかく来たことだしココアでも飲んでいったらどう?」
そう聞いてくる彼女だったが返答を待たずに手際よくココアを作り始めた手前帰るわけにもいかず頂くことにした
見かけに反して意外と強引だな…
チョコレートシロップとホットミルクを混ぜ合わせ、完成したそれを受け取る
「熱いから気をつけて」
「あ、ありがとうございます」
4月とはいえ太陽の無い深夜は冬の残滓が残っており、それも相待ってカップから魅力的な匂いが湯気となって立ち上がっていた
「いただきます」
「ええ、どうぞ」
「………あちち」
注意してくれた通りに熱い、でも美味しい
「私はまだ明日…というか朝の準備があるから気にせずしばらく休んでいくといいわ」
「あの、俺でよければ手伝いますよ」
流石に貰いっぱなしでは夢見が悪い、片腕使えないとはいえ掃除くらいなら…
「私は昼間ぐっすり眠ったから大丈夫、最近万魔殿から給食部に生徒を派遣してもらって余裕ができたの」イブキさんも励ましてくれたし
「………」
「あなた怪我人でしょ?気持ちだけ受け取っておくわ。ゆっくりしてて」
それでも、と言うなら怪我が治った後にまた来てほしい…そう言って笑う彼女に頭を下げ、カップに口をつける
あれ?というか今…
「俺の名前を…?」
というか冷静に考えてみたらココア作ってもらい、休んでいいとさえ言ってくれた相手に自己紹介すらしていなかった
「風紀委員長から話は聞いてたの、すごく頼りになる1年生がいるって」
「っ…」
どうやら俺はロハンと組む前から結構有名になっていたらしい
──尚の事その事実が胸に突き刺さる
これだけ多くの生徒から笑顔と拠り所を奪っておきながら名を売り込むという当初の目的ですら大して意味の無いものだったと
こんなことならロハンなんかと手を組まず、根本的解決にならないにしても風紀委員会に入り、近くで空崎先輩を支えた方が遥かにマシだったのだと
「そう、ですか。そんな風に思われていたのなら嬉しいですね
ココア、ありがとうございました」俺はこれで
「ドグマさん」
ぎゅ
「え…」
手を引かれて引き寄せられた瞬間、身体を温もりが包む
フウカに抱きしめられている、と気付くまで数秒時間を要した
「1週間前、先生がキヴォトスから居なくなったあの日…ヒナさんが来たの
何か言おうとしていたけれど結局何も言わずに帰ってしまった」
「愛清さん…?」
「そしてそれ以降、ヒナさんを見ていない
風紀委員の子にも聞いてみたけど殆ど姿を見ていないって…
多分あの時、ヒナさんは私に助けて欲しかったんだと思う
そして今のあなたはその時のヒナさんと似てる」
「それ、は」
「確かにやり方は悪かったのかもしれない、でもあなたのおかげで先生が危険に晒されることは無くなった
あなたも、ヒナさんも、私たちの代わりに辛い思いをしてくれてまで先生を守ってくれてありがとう」
ち、違う、違うんだ、俺はそんな良い奴じゃない…先生の安全だって、それが目的じゃ…
決壊する
それまで抑え込んでいた感情が溢れ出す
「うぐっ…」
くそっ俺はバカか、泣いてどうなる?泣いたところで何も戻らない、そんな無意味なことをしてなんに──
「話したくないなら話さなくていい、でも1人で抱え込むことはしないで
閉じこもる前に私のところに来て、私が嫌ならジュリでもいい。あの子は私より優しいし歳も近いはず
2人だけの給食部だけど…少なくともここにあなたを非難する生徒はいないから」
「あ、ああっ…」
優しさが嬉しく、そして辛い
自分より少し小さな身長で伸びをしながら頭を撫でてくれる
でも俺には、それが今まで出会った誰よりも大きく感じた
「フウ、カさっ…!う、うわああああああっ!!!」
その後のことはよく覚えていない
ただ、泣き疲れて気絶するように眠ったであろう俺が起きた時には食堂から救急医学部のベッドに移動しており、事情を知った氷室さんからはメチャクチャに怒られた
相変わらず左腕は痛いし右眼の治癒は目処が立っていない、でも心はちょっとだけ良くなった気がする
「………」
給食部、か
〜
パタパタパタ…
「お姉様、ロッカー上の掃除終わりました」
「分かりました、では雑巾に持ち替えて水拭きをお願いします」
「はい!」
先日ドグマさんと別れたあと、私とワカモお姉様はシャーレに来ていた
先生が居なくなったことにより連邦生徒会は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっており、各学園の状況確認でさえまともに進んでいない状態だった
そこでお姉様が助力を買って出て、それに着いていく形で私もこうしてシャーレのために働いている
…といっても連邦生徒会の仕事をいきなり部外の生徒に任せるわけにも行かず、大抵は七囚人としての戦闘能力を見込んだ暴動鎮圧か施設内の掃除といった雑務だけ。その雑務も武器持ち込み禁止という厳しい制約付きなのだが
しかし追放計画メンバーのうち2人がこうして出てきたのだ、捕まらないだけでも温情だと思わないと
よし、水拭きも終わり!お姉様も終わったみたいだしこの部屋もこれでいいかな?あ!
「リンさん!頼まれていたお部屋掃除終わりました!」
まさにグッドタイミング、ちょうど七神リン行政官も様子を見に来てくれた
「ありがとうございます。疲労は大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です、お姉様は…?」
「問題ありません」
「結構です、では次の場所ですが…次は難しいようならしなくても構いません」
「え?」
もしかしてものすごく広かったりするんですか?
「特にワカモさん、あなたには」
「………」
???なんの話を?
「やるにしても場所が場所なだけに今まで誰も足を踏み入っていないので少し手こずるかもしれません、もし無理であればまた連絡をください」
「──ええ、分かりました」
終始『?』状態だった私だけど場所を聞いて納得した
確かにお姉様には辛い場所だ
「1週間使われていないだけで結構埃っぽいですね」
「あの方は多忙でしたから広さに反して使われていないスペースが多かったですから
それよりも早く掃除を始めてください」
「はい!」
シャーレの先生の仕事場であり、最も長く滞在する場所…いや家より長く滞在してるって時点で少しおかしい気がするけど
「…ところでお姉様、聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
濡れ雑巾を用意し、やたら音の鳴る窓を拭きながらしたかった質問をぶつける
なんだかんだ今まで私たち以外の第三者がいたから聞けなかったけど…
「お姉様は…どうして先生に着いていかなかったんですか?」
何を思ったかあの日お姉様は店から持ってきた展示用マネキンをトンネルに放り込み、1人分の使用回数を無駄にしていたのを私は見ていた
別に出ていって欲しい訳じゃない、お姉様のことは大好きだから。でもそれ以上にお姉様は先生のことが好きだ
なぜ直前になって辞退したのか
「そういえばあなたには言ってませんでしたね
…ワタクシが、彼を本気で愛していたからです」
「答えになってないですよ」
言いたくないならそれでもいいですよ、と返したがむしろ話したいのだと遮ってお姉様は話し出す
「この追放計画は彼を守るのと同時にキヴォトスから追い出して2度と戻れなくするという裏切り行為です。彼の性格から生徒の力になれない事をずっと悔やんでいくでしょう
…でもいつかは忘れます」
「………」
「いつかキヴォトスであったことは忘れ、新しい道を歩き出し、とても不本意ですが彼に相応しい女性も現れて幸せな家庭を築くはず。」
「い、いやだから!その女性こそお姉様じゃないんですか?」
「ワタクシはキヴォトスの生徒です、ワタクシがそばにいる限り彼はキヴォトスを忘れられない、私を見るたびに置いてきた生徒達を思い出して苦しむことは手に取るように分かります
彼が過去を忘れて幸せになるためには、ワタクシは隣に居てはいけないんです」
「そんな…」
「──手が止まってますよフクヨさん、時間は有限なんですから早く終わらせてください」
「はい…」
恋人のためなら恋人を裏切る事だってできる、以前ロハンさんから聞いていたのはきっとこのことだったのだろうか
…だとすれば、ロハンさんはこうなると分かっていて私にお姉様を?
「そうだとすれば…あまりに残酷じゃないですか…!」
その場にいないロハンに怒りが湧き上がった時だった
「っ………」
「っ?今…?」
意識の外でよく分からなかったが何か聞こえたような…
「お姉様、何か言いました?」
「? いえ何も…それよりもトイレ用洗剤が足りないので持ってきてください
あなたから見て左手側の棚の下から2つ目に入ってますので」
なんでそんなに詳しいのかドグマやラミィなら突っ込んだかもしれないがフクヨは特に気にする事なく手を伸ばす
と、今度ははっきり聞こえた
「むー…」
「今のは聞こえた!お姉様!」
「なんですか、というか早く洗剤を持ってきてください」
トイレのタンクを流す音で聞こえなかったみたいだが今のは確かに聞こえた
雑巾を放り投げ、声のした方向へと速足で向かう
「むー!むー!」
「ここだ!」
仮眠室の中から声がする!
「ちょっとフクヨさん!何をしてるんですか?」
今の話を部外者に聞かれた!悪いけど黙ってもらうしかない!
「こら、だれだっ!………え、先生?」
「むーむむむー!」
仮眠室に入ると先週送り出したばかりのシャーレの先生がベッドに縛り付けられており、ご丁寧に猿ぐつわまでされてむーむー唸っていた
え、なんで?なにがどうしてこうなっ「先生のお世話は、私1人で間に合ってますので♡」
ボカッ!
「ギャフんっ!?」
意味もわからないまま後頭部を殴られそのまま撃沈、意識が消える前に見えた桃髪のナース少女を見て最後に思ったのは──
桃髪の生徒って、怖い人多いなぁ…
「むー!?むーむー!」
「はい先生、あなたのセリナですよ
そろそろおトイレの時間ですね、尿瓶を用意しますのでちょっと待っててくださ「あなた様?」
いくら待っても来ないフクヨに業を煮やしたワカモがトイレを出ると大きな音と唸り声、そして知らない人間の声がする
丸腰ではあったが状況確認だけでもと仮眠室を覗くと──彼がいた
「むっ!むー!」
ベッドに縛られてもがいている先生と床に転がって気絶しているフクヨ、状況はまるでわからないがひとまず──
チャキッ
「っ!!!」
風を切るほど早く振り抜かれた銃床打撃を避け、相手の顔を見るより早く顎目掛けてパンチを喰らわせる
「きゃうっ…」
「げふぁ!?」
倒したトリニティ生がフクヨの上に落ちるがそんなことワカモの眼中には無かった
息をするのも忘れ、拘束ベルトを1つずつ解いていく
「っぷは、ありがとうワカモ!助かったよ」
「あなた様、ですか?」
「うん、そうだよ」
「シャーレの、先生の」
「うん」
「ワタクシの、旦那様の」
「うん、うん?いやそれは知らないかな!?」
なぜここにいるかなんてどうでもいい
彼のためだと押し殺して身を引いたワカモだったが彼を目の前にしたことでその想いも完全に吹き飛んでしまい、歯止めの効かなくなった涙と声が部屋中に響き渡った
わんわんと泣き続け、部屋に備え付けてあったティッシュが1箱と半分空になったあたりでようやく落ち着いた
「ごめんね、寂しい思いをさせちゃったね」
「い、いいえ!これは全てワタクシの自己満足によるもの…!ワタクシこそあなた様に隠し事をして、裏切って!もうし、わけ、えぐっ!
ううっ、うううっ…!」
「いいんだ、さっきキミがフクヨと話しているのを聞いたよ
私のことを思ってやってくれたんだろう?それが知れただけで充分さ
…ところでそろそろセリナとフクヨを助けたほうがいいと思うんだけれど手伝ってくれる?」
「はっ、ずびっ、はい"っ!」
「それと…セリナに監禁されてから薄々思っていたけどワカモの話で確信した
私と生徒のみんなとの間で多分致命的な食い違いがある
まずはそれの解消をしよう」
ワカモの耳をはむはむしたい作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでキヴォトスから去ったはずの先生が何故かシャーレにいました
いったいどういうことなんでしょうかねぇ…(すっとぼけ)
ここから晴らして行きます
具体的には『失ったものが帰ってきて』『分かりやすい黒幕を殴り倒す』という乱雑ハッピーエンドです
ハッピーエンドなんてきっとそんなもんでしょ!