シャーレの先生追放計画《集いし4人は無関心》 作:ルルザムート
トリニティ 市街地演習場にて…
「よっと」
「あう」パタッ
よし、かなりやったんじゃないか?
気絶させた正実の子に脱落印の白旗を立ててその場を離れる
「ゲヘナ出身にしちゃ動きが丁寧ですね」
「雑に戦って勝てる人は剣先さんや空崎先輩みたいな強者だけですよ」引き続き偵察お願いします
隠れる場所が多いのは嬉しい誤算だ、列を揃えて戦う彼女らにとってこういうゲリラ戦は苦手だからな
演習の内容は俺+仲正イチカvs正義実現委員会+先生というかなりムチャクチャなものだった
なんでも隠れる犯罪者を見つけ出して捕まえる演習だそうだ
が、戦闘技能が関係ないこれならむしろ有利。
たっぷりと損害を与えてやろう
「あと何人くらいです?」
少なくとも参加してる正義実現委員の半分はやったつもりだ、残ってるのは…
「15人は倒したんで…ツルギ委員長やハスミ先輩含め残り20人っす」
「20人…?」
ツルギとハスミ、どちらも近くにいない奴を狙っていたが…俺が狙えそうなのはさっきのやつで最後だった
残り人数の割には2人との遭遇率が高い気がする
少しだけ顔を出して表通りを確認してみるが…
…まただ、何人か見えるがそばには羽川ハスミがついている、あれでは手が出せない
「あー、これは先生っすね」
「なにがです?」
元きた路地裏を戻りながらふと彼女が呟いた
「もしこれが本番ならウチは所在不明の敵2人に15人やられたことになるっす、先生なら敵を捕まえるよりも生徒の保護を優先するだろうし…時間がかかってもツルギ委員長とハスミ先輩の2隊体勢にするよう言ったんじゃないかと」
…なるほどな
「しかし…こう言ってはなんですが2隊でできることなどたかが知れてます。折角の数の利を活かせない」
「そこは先生の技量っすね。ここも早いところ移動しないと挟み撃ちになるっすよ」
「え?…いや流石にそれは無いでしょう」
たかが演習とはいえ手を抜いたつもりは無い、戦わずに終わらせられるよう痕跡は常々消しながら移動している、残った痕跡はせいぜい正実生徒達につけた白旗ぐらい──あ。
「銃を使わず素手だけでここまでやったのは素直に褒めたいっすよ。でも白旗は倒したその場で立てなくてはならない、なんて決まりは無いっす
先生はそれを見て私たちの足取りを追い、予測して2隊に指示を出してるんじゃないかと
結果論すけど目立たない場所に引きずり込んで立てるべきだったっすね」
「…マジかよ」
言われてみれば急に2人とカチ会うことが多くなっている。幸い気付かれることは無かったが
「加えて言えば多分2人に見逃されてるっす
さっきから一本道が多いと思わないっすか?
誘導されてるっすよ」
「!!」
指摘されてようやく気付いた、どうやら俺たちは前方にある立体駐車場へと追いやられている
駐車場以外の道は2つあるが片方は今通ってきた道だ。おそらくもう1つの道には…
「んーここまでっすかね、戦いが苦手って言った割には頑張った方だと思うっすよ?
いやバカにしてるわけじゃなく、ホントに凄いことっす」私も殆ど手を貸してないっすし
「………」
………いや、まだだ
「今すぐ立体駐車場に入ります、急いで屋上まで上がってください」
「…もう詰みだと思うっすけど?」
「いいえ、まだです」
15人の損害が出ているのなら、剣先ツルギと羽川ハスミは2人とも前線で指揮を取るはず
先生が前線部隊に入るとは思えない、確実に相手を封殺する確証があるのなら先生は部隊とは離れた場所にいるはず
「早く早く!包囲が完全に迫る前に!」
ほんのり諦めモードのイチカを急かし、駐車場内を駆け上がる
よし、着いた!
「北側です、北側を探してください。ここから見えるどこかに先生がいるはずです」
俺たちは2隊から逃げるように南下してきた、追手が北から来ているのなら部隊通過後の安全地帯である北にいるはず…
「先生を?…あ、確かに居るっすね」
「どこに!?」
「うわわっ、ほらあそこっすよ」
「………」
いた、2つ建物を挟んだ3階建ての雑居ビル。その屋上でこっちを見ている
既にお見通しってわけか。だがな、そう簡単には終わらせないぞ
「何するつもりっすか」
「仲正さん、あなたは組体操とかパルクールをやったことありますか?」
「え?…まぁあるっすよ」すぐやめちゃったっすけど
「………ここから対岸の建物まで跳べます?」
「ムチャ言うっすね、でもできなくは…
もしかして先生を?」
「ええ、これは正義実現委員会が先生の指揮で動く演習です。先生を捕まえればどれだけ劣勢だろうとこっちの勝ちでしょう」
言いつつ下を見てみる…
どうやら通路の封鎖は終わったみたいで封鎖組を残し続々と正実委員達が駐車場に入ってくる
…封鎖組の中には剣先さんも見える、下からの脱出はもう不可能だな
「にしたって間に合わないっすよ。先生は既にこっちに気が付いてるんすから、近づく前に逃げられる」
「ええ、なので仲正さんは俺の後から。追手の妨害をしつつ来てください」
「え…?」
4日後以降の予行練習だ、見せてやる
追放計画がどう転ぼうと計画の一味である俺は何割かの生徒に狙われるだろう。これはそれに対する予行だ
「なんだかんだ久々に使うことになるな」
ここ最近背負うだけ背負って結局使わなかった2丁のウィンチェスターショットガンを構える
羽沼議長のライフルを作ったのと同じところに特注して作ってもらった俺専用、二丁一対の特別銃『ロケットスター』
「! 待つっす!先生は私たちと違って──」
「分かってます。先生に銃口は向けません、そもそも俺のこれは敵を撃つためにあるんじゃないですよ」
「…? じゃあ何を撃つんすか」
そりゃ決まってる
「もちろん…跳びたい方向と反対方向を。」
ドンッ!!
「うわっ!?」
「なにごとです!?」
驚いたイチカの声とすぐそこまで来ていたであろうハスミの声を尻目にそのまま屋上から飛び出して隣の建物に着地。
よし、今日も絶好調!
ロケットスターは弾丸の破壊力でなく反動を高めたショットガンだ。一応散弾が出るようになってはいるが反動が出れば弾はなんでもいい
「なにごとだ!」
「いっ、委員長!大変です!目標の1人が先生の方向に…!」
「なんだと!?」
封鎖組の1人が声を上げ、下にいた剣先さんと目が合う
…まぁ気付くよな、静かに飛べないのがこれの数多い欠点の1つだ
だが間に合うか?こっちはあと2回撃てば先生の元へ辿り着く
それより早く地上の入り組んだ通路を通り、屋上に上がって先生を守れるか?
「悪いが…
ドンっ!
勝たせてもらうぜ」
手首へのダメージを最小限に、それぞれの銃から伝わる反動を腕から身体全体に流し込み、その勢いのまま前へ
超速のエアダッシュで1つ2つと建物を渡り切り、そして──
「うわわっ!?」
「よっとぉ!逃がすか!」
あっという間に目的の建物、その屋上へ。
慌てて逃げようとする先生をフン捕まえる
「これで…!」
この白旗を先生に刺せば──
「おしまっ、い!」
ダンッ! バチン!
「うおっ、なんだ!?」
手…ではなく旗を撃ち抜かれ、建物下に落としてしまった
「お子様ランチのより小さい旗を…!?
くそ、どこからだ!」
「ハスミ!」
「させません…!」
「ハスミ先輩!」
「すぐに部隊を先生の元へ!建物に入られたら援護はできません、一刻も早く!」
間に合いますか…!?
「のわっ!そりゃ無いだろ!?」
今度は白旗を入れてるポーチを撃ち抜かれて落としてしまった
建物下には落ちてないがハスミという狙撃手がいる中で拾うのは無謀だろう
「っのやろ!」
とりあえず先生を抱え上げ、そのまま建物内に入り下の階へ
壁で狙撃の援護が途切れたのを確認したと同時にイチカがライダーキックで窓を破って飛び込んでくる
「仮面ライダーみたいなマネしますね!?」
「あなたのムチャクチャに比べりゃ可愛いものだと思うっすよ!」旗っす!
既にドグマの事情を知ってか旗を投げ渡してくるイチカ
よし、今度こそ──
だがハスミの狙撃で1手、屋内退避と旗の受け渡しで2手遅れてしまった。
正実側が稼いだ時間は秒数にして5秒あるかどうか
普通ならただの悪あがきで終わるこの5秒は
歩く戦略兵器と呼ばれる彼女にとって敗北に『待った』をかけるに充分な時間だった
「させるかああああ!ああああ!!!」
「のわっ、床が!?」
「うわっ!」
「ツルギ!」
「ひゃああああっ!?」
床をブチ破って飛び込んできたのは剣先ツルギと──
「よぉし、先生を守れ!」
「はひ、はいぃ〜…」
多分途中で拾われたであろう正実の生徒、ちょっぴり目を回しているが言われるままに先生の側へ
だがこっちだってまだ負けてない
「そうは行くか!」
「ぬ!」
再びロケットスターを使いエアダッシュ、勢いのままツルギに体当たりしてイチカが蹴破った窓へ──
「ぎいいいいっ!」
だが流石というべきか窓付近のわずかな凹凸に手をかけて踏ん張られた
こうなったら…!
「ぐぐっ!う、うおおおおおおあ!!!」
踏ん張る彼女に背中から再度体当たり、そのままロケットスターを連射して──
「落ちやがれェ!」
「ぬぐぅ!うおあっ!?」
揃って落下、とはいえキヴォトス人なら3階から落ちた程度でダメージなんか無い
ただし。
身動きの取れない空中なら例え最強だろうと無防備だ
今度は空に向かってロケットスターを発射、反動のままツルギより早く地上へと降り立ってリロード
そしてこれで終わり。
落ちて来たツルギを受け止め、そのまま彼女自身の腕を絡めて拘束
よしっ!
これでもう剣先ツルギは動けない、戦いの苦手な俺が戦える《ように見せる》武器は大きく3つ。
1つはロケットスターによる超速エアダッシュ、2つ目が投げ技、関節技だ。
どれだけ強いやつだろうと人間の形をしている以上投げ、関節技は等しく有効。力でどうにかなるものじゃないからな
「あとは仲正さんが先生捕まえりゃ終わりか」
思ったよりあっさり終──ごきん
「──ゑ?」
「ぐぎきゃああああっ!!」ブンッ
「なっ!?マジで──あぶ危アッ!」
大型ハンマーで殴られた方が遥かにマシだと思える裏拳を防御、だが勢いは流し切れずに吹き飛ばされる
マジかよコイツ!ノータイムで腕の関節外しやがった!
確かに関節外せば抜けられるが判断速ぇ!
今の裏拳もなんとかロケットスターで受け流したがもしまともに受けてたら──って考えてる場合か!
まさか抜けられるとは思ってなかったが依然としてこちらの有利は変わらない
先生の護衛はたった1人だし今のツルギは左腕が使えない
俺を無視して先生の元へ行くか、腕を治すか…どっちだ…?
どちらにせよその瞬間、超速エアダッシュで吹き飛ばしてやろうと考えていたが彼女のとった行動は──
「………」クルッ
う、こっちに…?
「っ!!!」
「うやぁっ!?」サッ
これまたなんの躊躇いもなくショットガンをブッパして来た
間一髪避けるが悉く予想にない動きをしてくる彼女に驚愕と称賛の念が浮かぶ
…考えてみれば当然か。
トリニティの治安維持組織、そのトップがただ強いだけの奴じゃないことくらい
「それでもまだ俺は終わらないぜ…!」
戦いの苦手な俺が戦える《ように見せる》3つ目、最後の武器。それは──
「逃がすかァッ!」
「っっ、とと!」
蹴り、射撃、掴み、剣先ツルギから繰り出されるあらゆる攻撃。
それに対して反撃、攻撃の全てを捨てて防御に徹する
正直アホみたいな速度と威力だ、普通なら避けるどころか見えない攻撃も出て来そうだが──
「………」
右足に体重…跳躍か
飛びかかって来たツルギをいなしてエアダッシュで左手側に回り込み、
右腕に僅かな筋…打撃が来る
振られた肘打ちはロケットスターで受け流し、
庇うような姿勢…左腕を治すつもりか
外れた左腕の関節を元に戻そうとしたところを捕まえて投げ飛ばす。
…よし行ける
俺の3つ目の武器、それは視力。
なんでか知らないが俺の視力(空崎先輩が言うには視覚情報処理能力)はズバ抜けて高く、キヴォトスでも希少な『特異能力』になるらしい
「逃げるなァ!!」
「………」ドンドンドンッ
具体的には相対する相手の未来が見える…というと大袈裟だが実際見えるんだ
腕や足に僅かにかかる力や予備動作から相手が次に何をするのかが分かる
言わば後出しジャンケン、対応に足りない速度はエアダッシュで補えば相手が格上でも戦える
「このっ…!」
「………」ヒョイ
とはいえ俺が出せるのは相手に合った動きだけ、基本的に負けはしないが勝てもしない
時間稼ぎにはもってこいだが逆に言えば時間稼ぎ以外できない…例外はあるが。
反撃やカウンターもやろうと思えばできるが彼女相手では攻撃したところでダメージなんて無いだろうしそもそも俺自身の体力があんまり無い
ので、時間稼ぎに徹したほうが向こうとしてはイヤだろう
でもま、充分でしょ
そろそろ仲正さんが先生を捕まえるころだ、このまま時間を稼いでしまえばいい
先生の元に向かおうとしたって無駄だ、その瞬間また投げるだけ。
「はーっ、ふーっ、ふーっ!」ググッ
左足に体重…また蹴りか。
だがいくら打ったところで俺の予知を突破することは──
「 」ピタッ
あれ…?
いきなり、本当にいきなり彼女の動きが止まった
まるでリモコンで一時停止したみたいにピタッと。
「なんだ…?」
「………」
直後にがちゃん、とツルギの手からショットガンがずり落ちる
「いったいなんのつも「ッッッ!!!」
その一瞬、予知を怠ってしまった俺の動揺を剣先ツルギは見逃さない。生肉に飛びつく猛獣のように《がばぁっ!》と飛びかかって来て──
「おわぁっ!?」
当然予知無しで避けられるはずも無く、ライオンに捕まったガゼルのように押し倒されてしまう
「くき、ぎきっ!捕まえ、たぁ!」ギュウウッ
猛獣というか怪獣のような、こっちの耳が火傷してしまいそうな息遣いをしながら、残った右腕で絞め落とそうとしてくる
や、やばい死ぬ!
「ぐっぐえっ!?わぷわっ、分かっ…!降さ!降参だ!もう抵抗しないからマジでギブ…!」
ジタバタしたところで怪獣の腕は首に食い込み続け、2丁のロケットスターを手放したところでようやく解放された
「ぐぅ、やられた…」
脱落印の白旗も刺されて…あれ?刺されてない?
「………間に合わなかったか」
え?
「はぁいそこまでっすよ〜」
「ごめん、ツルギ…」
「きゅう。」
見るとそこにはイチカに抱えられた先生とさっきの正実委員。2人とも猫みたいに脇へ抱えられており、頭には旗が刺さっている
これの意味するところは…
「先生…すまない、守りきれなかった」
白旗=再起不能、もしくは死である。つまり
「これで決着?」
「そうだな」
俺+仲正イチカvs正義実現委員会+先生というぱっと見理不尽な演習はイチカの機転によって逆転勝利を収めた
ワカモに油揚げを『はいあーん』してみたい作者のルルザムートです、ハイ
冷静に考えたら1話の時点で戦闘シーン書いてた…ま、まぁ短いしノーカンってことで