今回は大体漫画の謎丸2回分くらいの尺です
つまり少し短めです
ゆらゆらと、何もかも曖昧な空間の中で身体が揺蕩う。そんな自身の状態を自覚した瞬間、この世界が夢である事に気が付いた。
しかし、それはおかしい。サーヴァントは夢を見ない。寝ている間に我々が何かを見るとしたら、それはマスターの過去の記憶だけである。……筈なのだが。
『や』
「うっわ」
彼は、ニッコニッコの顔面でこちらに声を掛けてくる。
「……久しぶりですね、マーリン」
ぼくが星の大坑道を飛び出し、マスターと出会い、カルデアに至る事になった原因。特異点に私を送り込んだ張本人。
大魔術師マーリンが、ぼくの前に姿を現した。
『やぁ、久しぶり。名もなき竜の君……いや、もう名もなき竜ではないらしい。えーっと、■■■・■■■■■で合ってたかな』
「いや、そっちは違います。騙されないで下さい。真名はアルビオン・ネオスです」
『ははっ。なんだか、少々ややこしい事になってるようだね』
「笑い事じゃないですよ……全く。こんなの柄じゃないというのに、最悪です。しかも、このせいでやりたかった事が二つも出来なくなりましたからね」
おのれ天球儀。
『まぁ、人生なんてそんなものだ。だが、理不尽に揉まれ、自身の身に起きたコトを嘆いても何も変わらない。前を向くなら、切り替えていこう』
「……はぁ。気軽に言ってくれますね」
だが、彼の気休めにはある種の重みがあった。
千里眼という人智を超えた超抜級の視野を持つ彼は、世界の誰よりも客観的に世界を捉える賢人だ。また、世界の多くを見てきた事で、彼は人間世界を「残酷なもの」と結論を下している。マーリンが胡散臭い言葉で気休めを吐くのは、そんな世界をせめて明るく楽しいものへと変えたいからだ。
世界の残酷さを誰よりも理解していながら、飄々とした態度で、儚い抵抗を今もし続ける。そんな彼を、ぼくはどうしても嫌いにはなれないのだ。
「で、マーリン。貴方は一体何をしに来たんでんですか」
『おっと、そんな身構えなくてもいい。今回君に夢を見せているのは、ただの趣味さ。別に、頼み事がある訳じゃない』
「はぁ」
本当か?
『本当だとも。……君、最近アルトリアから剣を習っているじゃないか』
「なぜそれを知……いや、当然ですね。現在を生きる者が貴方に隠し事をするなんて不可能ですから。でも、それが何か?」
『いやー、何も大それた事じゃない。最近、君をシバくアルトリアの顔がイキイキしてるのが見えてね。……生前、彼女がここまで感情を見せるのは稀だった。だから、楽しそうにしてる彼女の手伝いをしたくなったのさ』
「言い方!」
別にぼくをボコボコにするのを楽しんでるワケじゃないだろ。師匠は別に、サディストでもなんでもねぇよ!
………まぁ、師匠の指導が割とスパルタな所があるのは否定出来ないが。
しかし……この男、マジで師匠大好きだな。
貴方が師匠に向ける感情は異常なレベルまでに重いんだよ。キャストリアを絶対に「アルトリア」と呼ばないのを徹底してたり、ちょっとガンギマリ過ぎだろ。
『ただ、私が君に何かするワケじゃない。そんな事をすれば、"君を鍛える"というアルトリアの楽しみが減ってしまうからね。君の稽古は、全て彼女に一任するとも。……でもらそうだねぇ、私は君に一つプレゼントをさせて貰おうか』
「プレゼント?……何をですか」
ぼくがそう問いかけると、マーリンは人差し指を、下に向けた。
『"此処"だよ』
「へ?」
『私が与えるのは、この"夢"という空間さ。君が眠り付いた時、君はこの"夢"に必ず訪れることとなる。此処は、時間の流れが現実世界と比較して非常に遅くなるよう私が調整していてね。故に、君はこの"夢"を見ている間、好きなだけ自己鍛錬が出来るというワケだ』
……つまり、マーリン製「精神と時の部屋」……ってコト?!
『技能というモノは、一朝一夕で身に付くものじゃない。特に剣の達人になろうともすれば、莫大な量の基礎固めが必要になる。……でも、そんだけ反復練習をしていたら、人理修復の旅が終わってしまうだろう?そうなってしまえば、君の成長にアルトリアは立ち会えない。……そこで、私は考えたのさ。"夢を操作すれば、そこで無限に基礎固めができるんじゃないか?"ってね!昼はアルトリアのノウハウを吸収し、改善点を指摘してもらい。夜の時間は全て自主鍛錬に費やすことが可能になる!どうだい?いい話だと思うのだが』
「ぼくの休憩時間が見つからないのですが?!」
ブラックスケジュール過ぎるだろう!
それに、ぼくにはキッチンの業務まであるんですけど?
『まぁ、此処を活用するのは自由だ。もし、君がこの夢からさっさと醒めたければ、そのまま醒めてくれればいい。出入りは自由だ。別に私は君に練習を強制しない』
「……むぅ」
『でも、君って誰かから貰ったらモノを後生大切に使うタイプだから、どうせ口先では反発しても裏では使うだろ?』
「それを本人の前で言いますか?!」
『ま、そういう事だから。此処は自由に使ってくれ給え。アルトリアによろしくね〜』
ちょ、待て!!逃げるな!
まだ話の途中だろ……!
ぐぅ。ま、まずい……意識が覚醒していく。
「──────と言うことがありまして」
「まったく、此処まで来て何をしているのですか。あの老人は……」
マーリンと夢で出会った時の事を話すと、師匠は頭を抱えていた。
………まぁ、マーリンの贈り物は正直言ってすごい代物だ。せいぜい、有効活用させて貰おう。
───────────────────
「─────戦闘訓練、終了。お疲れ様です、先輩」
「ふぅ………お疲れ、マシュ」
シミュレーション・ルームにて行われた今日の分の戦闘訓練が終了した。今回の戦闘シミュレーションは、第二特異点での戦闘を想定した訓練だ。つまり、次の任務のために調整された設定で行われたのである。
ローマにて発生した第二特異点の修正を目的とした作戦まで、残り一週間。
それまでにも、自分に可能なところまで。自身の出来る事を増やしていきたい。
実際、マシュとの連携もかなりスムーズに出来るようになったし、魔力の分配管理にしても少しは上達してきた。私はサーヴァントと違い戦えないが、それでもやらなければならない事があるのだ。
シミュレーション・ルームを後にし、浴場でマシュとシャワーを浴びて汗を流れ落として、心身を共に清める。ちょうど小腹が空いてきたので、「何かおやつを食べようか」とマシュに提案したら、マシュが食い気味に賛同してきた。
マスターとサーヴァント、二人の心が同調した結果、私たちは食堂へと歩みを進めていく。
そうして、カルデアの廊下を歩いてると。
「フォウ、フォーウ!」
フォウの鳴き声が耳に入った。
「あら」
「フォウさんの声が、彼方の方から聞こえてきましたね」
「どうしたんだろう。ちょっと様子を見に行ってみようか」
おやつの前に、ちょっとフォウの様子を見に行こうと足先の方向を変える。
そうして、数十歩ほど歩いた廊下の先にはフォウが鎮座していた。
「あれ、フォウさんお一人ですか?」
鳴き声が聞こえたから、誰かと一緒に居たのかと思ったが、どうやら思い違いだったようだ───────
「はぁっはぁっ………ウッス!先輩!肉ごろごろ焼きそばパン作ってきました!」
「フォウ!」
そこには三週間前に召喚したセイバー。
アルビオン・ネオスが、膝を付きながらフォウに焼きそばパンを献上していた。
小動物でも食べやすいサイズにまで調整された焼きそばパンを、白い獣は勢いよく頰に詰めていく。
「フォウッ、フォウッ、フォーウ!」
「押忍!気に入って頂けて何よりです」
「フォウフォーウ!」
「……!レガリア級焼きそばパン……!いいですね!この焼きそばパンは、今日からレガリア級焼きそばパンにしましょう!」
「フォーウ!」
なんだこの光景は。アルビオン・ネオスがフォウを餌付けしようと試みている、その程度の情報量だけであればどれほど良かっただろう。
ネオスはなぜ、フォウに焼きそばパンを捧げているのか。なぜフォウと話せるのか。なぜ敬語なのか。というか、フォウって焼きそばパン食えるのか。ワケがわからない。
「………あのぉ………セイバー?」
「あ、マスターにマシュさんじゃないですか。フォウ先輩に何か御用でしたか?」
「フォウ?」
見間違いではなかった。どうやら、本当にアルビオン・ネオスだった。
さっきのやり取りだけで、突っ込み所が果たして何箇所あったのだろうか。私はもはや数えたくない。
「えーっと、ネオス。君は今何をしてるの?」
「フォウ先輩にご飯をお届けしてました。どうやら、先輩は突然、焼きそばパンを猛烈に食べたくなったらしくて。鳴き声の号令で先輩の元に駆け付けた後、食堂で作ってきて、今ちょうど渡すところだったのです」
「すごい、なんかフォウにパシられてる……」
「先輩。ネオスさんから物凄い後輩力を感じます……!おそらく、これは冠位級の後輩かと!」
「そしてウチの後輩は何を言ってるんだ」
もぐもぐと、用意された焼きそばパンを平らげたフォウは、そのままマシュの背中をよじ登り、いつもの肩ポジションに居座った。
「フォウ」
「お粗末様です」
「ネオスはなんで当たり前のようにフォウと会話しているんだ……」
「ぼくは幻想種、つまり獣の一種ですから。
カルデア古株の獣たるフォウ先輩には、シンパシーとリスペクトを感じて、後輩をやらせてもらってる感じです。それにこう、ファンタジー的な獣同士がこうやって会話している事については、あまり矛盾はないのでは?多分」
曖昧な言葉を何回も使わないでおくれ。フワッフワの言葉を積み重ね過ぎて、お洒落な多段パンケーキみたいになってるぞ。
「あと、フォウって焼きそばパン食べれるの?」
「……?そりゃそうですよ。フォウ先輩の好物と言ったら麺類と肉じゃないですか」
「すみません、それは私も初耳なのですが……!」
フォウ係のマシュも知らないんかい!
なんで来たばかりのネオスが知ってるんだ!
「カルデア動物チームですからね。そこはしょうがないでしょう。……………ん?あ!そうだ」
「ネオスさん、どうかされましたか?」
アルビオン・ネオスが両手の平を叩く。
どうやら、何かを思い出したらしい。
「食べ物で思い出したのです。話は変わるのですが、先程、食堂でエミヤがプレミアム・ロールケーキを作ったんですよ。もしよければ、一緒に食べに行きませんか?」
「え、ロールケーキ!」
まじか!食堂に行けばおやつがあるかなーっとすごいアバウトな見通しをしていた所だったのに、なんと大物が釣れてしまった!
エミヤのロールケーキ!絶対美味しいやつじゃん!
「先輩、食べに行きましょう!」
「うん!」
「フォウ!」
「フォウ先輩は食後のデザートですね。シメはロールケーキとか素敵過ぎます…!」
そうして合流した二人と二匹(?)は食堂に向かい、エミヤの絶品ロールケーキを美味しく頂いた。彼の作ったロールケーキは、頰が溶けてしまいそうなほど絶品で、美味しかった。
「マーリンシスベシフォウフォーウ!」
「実際、先輩にはそう言える権利がありますよ……」
「フォウフォウフォーウ?」
「え?マーリンに都合よく使われてないかって?ははっ。大丈夫ですよ。ぼくは好きで此処に来ましたから。先輩みたいに、元から居た場所から投げ飛ばされたとかではないです。それに、あの大坑道にはぼくの本体が座していますから。仕事の方は問題ありません」
「フォウフォーウ……」
【サーヴァントスキル、一部抜粋】
ガイアの怪物:E
この星の抑止力の一つ。霊長の殺戮者のような絶対権限こそないものの、霊長に対し仄かに優位をとれる。汎人類史における発動対象は、阿頼耶にまつわる全てのモノ。それは、人類から溢れ出た「悪」ですら例外ではない。人間特攻、サーヴァント特攻、ビースト特攻を持つ。