転生アルビオン二号機 in カルデア   作:楼ノ卦

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13.天球儀を睨む

 

 

 

 こんこん、とドアを叩く音が鳴る。

 

「こちら、カルデア・キッチンです。頼まれた昼食の方をお持ちしました」

 

「ネオス君か。上がってくれ」

 

「では、失礼します」

 

 自動ドアが開き、カルデア技術部顧問ダ・ヴィンチ氏のマイルーム、ダ・ヴィンチちゃん工房へとぼくは足を踏み入れた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、業務お疲れ様です。こちらが注文して頂いた、ハンバーガーセットになります。では、こちらにQPの振り込みをお願いしますね」

 

 ダ・ヴィンチは端末を操作し、QPをカルデア・キッチンに振り込む。

 

「あ、ネオス君。君の端末を出して貰ってもいいかな?」

 

「……?はい、わかりました」

 

 ぼくは業務用ではない、自身の通信端末を提示する。ダ・ヴィンチはそれをスキャンすると、ぼくの端末に向けてQPを送付した。

 

「こっちはチップさ。是非、小遣いの足しにしてくれたまえ」

 

「…え!いいんですか?ありがとうございます!」

 

 やったー!お小遣いだ!

 ぼくは腰をキレイに折り曲げ、ダ・ヴィンチに謝辞を示した。その様子を見て、カレは満足気にニマニマ笑う。

 

「う〜ん。いいねぇ。手の掛かる美少年というものはとても愛らしかったが。素直で実直な美少年というのも悪くない」

 

「………えーっと、サライさんの事ですか?」

 

「おや、よく知ってるじゃないか」

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチの助手サライこと、ジャン・ジャコモ・カプロッティ。彼は、非常に美しい若者であり、ダ・ヴィンチに愛されていたという。

 ちなみに、サライとは小悪魔の意味であり、彼は生涯でダ・ヴィンチの金銭や貴重品を5度にわたって盗んだのだとか。しかし、エグい窃盗を繰り返されながらも、ダ・ヴィンチはサライが10歳の頃から30年以上甘やかし続けていたらしい。溺愛し過ぎでしょ……

 

 あれ?ダ・ヴィンチちゃん、ぼくの事そういう目で見てるってコト……?

 

 ────うん。深く考えないようにしよう。

 

 カレのデスクに、食事が載ったトレイを置く。その時、作業中のパソコンのモニターがぼくの視界の中に入った。

 

 これは………魔神柱のデータだ。

 一昨日にマスターとマシュが完遂した、第二特異点セプテムでの任務。その際に、カルデアの裏切り者レフ・ライノールが転身して顕れた謎の怪物。魔神柱・フラウロスを自称する存在について記録されたデータが、デスクに映されていた。

 

「これが、レフ教授が成り果てたという怪物ですか」

 

「そう。ソロモン王の72の使い魔が一体を名乗った魔神さ。魔力反応から見るに、それは伝説上の悪魔に近しいモノである事は分かる。しかし、それ以上はわからず仕舞いでねぇ。

…………なぁ、アルビオン・ネオス。君はこの魔神をどう思う?」

 

「?ぼくですか?」

 

「そうだ。物理法則が根付いたこの世界で、今もなお生き続ける最強の超越種。それが、君こと境界竜アルビオンだ。………それに、極まった竜というのは、人智を越えた視座を持ち運命すらも見通すのだと言う。そんな超存在が我々カルデアの味方をしているんだ。なら、少しは助言を求めたっていいんじゃないか?」

 

「まさか。買い被りですよ。今のぼくの存在規模は他のサーヴァントと同じです。ですので、運命を見通すなんてコトは、この霊基じゃ正直かなり厳しいです。………まぁ所感でいいなら、話しますけど」

 

「じゃあ、その所感を聞かせ貰おうか」

 

 よし。核心の部分は避けて言っとこう。

 

「では、そうですね……この魔神、おそらく"神"ではありません。自然の摂理から生じた、つまり星に属する存在ではないと感じます」

 

「ほぅ?」

 

「ぼくのような、この惑星から生まれ落ちた存在ではない。おそらく……ガイアに類する神霊ではない事は確かです。どちらかと言うと、うーむ。知的生命……人間の精神活動の波に似ているというかなんというか。……すいません、ただの勘ですので、断言は出来ないのですが」

 

「ガイア由来の神ではない……か。ふむ。此処は、魔力パターンの解析を別角度で進めてみてもいいかもしれないな。ありがとう、ネオス。参考になったよ」

 

「お役に立てて幸いです。もしまた何か聞きたい事がありましたら、気軽にぼくに言って下さい。あ……食堂の利用の方も、是非ご贔屓お願いしますね!」

 

「あぁ、ハンバーガーの配達もありがとう。もし、また頼む事があれば、私のヘソクリからもっとチップに色付けておくから。是非来てくれたまえ。手が空いた時に、じっ〜くり話し合おうじゃないか」

 

「……アッハイ。わかりました。では、失礼します」

 

…………ダ・ヴィンチちゃんのねっとりした声に、何故か身体がブルッと震えた。この軽い寒気は一体……?まぁ、気のせいだろう。

 

 ぼくは食堂に戻るため、ダ・ヴィンチちゃんの工房から踵を返した。

 

 

 

 

 カルデアの長い廊下を一人で歩いていると、この孤独の時間に意味を見出そうとするためか、自然と考え事をしてしまう。

 

 ぼくの頭の中を離れないのは、第二特異点セプテムでのマスターとマシュの活躍だろう。カルデアは順調に第二の聖杯を回収し、古代ローマを救うことに成功した。

 カルデアがローマに送り出した人員は、藤丸立香、マシュ、そして単独顕現で潜り込んだフォウ先輩の合計三名だ。

 

 三人とも、あの時の食堂で一緒に頬がとろけるようなロールケーキを食べたメンバーである。その中で、一人だけあの特異点に同行出来なかったと思うと、正直少し寂しい気分になる。

 でも、それはしょうがない。魔術王の特異点に、カルデアで召喚したサーヴァントを連れていく事は基本的に不可能だ。なんせ、サーヴァントは基本的に特異点へのレイシフト適正がいかんせん低い。我々サーヴァントは、特異点へと干渉する力を持たないのである。

 

 そのため、本編ではダ・ヴィンチちゃんがエルサレムにレイシフトを敢行した時以外、サーヴァントが第一部の特異点に同行する事は出来なかった。だからこそ、カルデアに居る強力なサーヴァントを連れて無双する、なんて芸当は不可能だったのだ。

 

───────しかし、物事には例外というものがある。サーヴァントはカルデアによるレイシフトが不可能だ。………だが、もしカルデアの助けを借りずに、単身でのレイシフトが可能な英霊が居たら。それは、どれほど助かるだろうか?

 

 もし、そんなサーヴァントが居れば特異点の攻略のハードルは格段に下がる。現地での契約サーヴァントに戦力の寡多を左右されずに済む。そうすれば、現地のマスターが危険に晒されるリスクを減らすことが出来るだろう。

 

 

 ………境界竜アルビオンの超抜能力「レイ・ホライゾン」。それは、アルビオンの系譜のみに許された霊子変換技法。

 

 まどろっこしいのは嫌いなので、単刀直入に言おう。

 

 ぼくは、この能力を駆使すれば、単身でのレイシフトが可能となる。

 

 微小特異点だろうが、魔術王の特異点だろうが、亜種特異点だろうが関係なく。ぼくは、セカイの境界を越える事が出来るのだ。

 

 だからぼくは、カルデアに来たらこの能力を使って、マスターとカルデアのみんなを助ける腹積りでいた。全ての特異点、ローマ、オケアノス、ロンドン、アメリカ、エルサレム、ウルク、その全てに同行する計画だった。

 

 ──────そして、魔術王を騙った獣を倒した後。地表が白紙化され、空想の根が落ちる前に。ぼくは、人理保障天球カルデアスへ単身レイシフトして全てを終わらせるつもりだった。

 

 ぼくは、藤丸立香という人物が好きだ。あの特異点で共に生きて笑って、ぼくは彼女の手と(えにし)を繋いだ。

 今世で初めて見た青空の下で、あの人と触れ合った時の手の温かさ。それをぼくは、星が終わる刻まで絶対に忘れない。あの冒険でぼくは、平均的で、平凡で、それでも懸命な彼女のことを好きになったのだ。

 

 でも、立香だけじゃない。此処に召喚されて、カルデアで生活を営んで。ぼくは、カルデアのみんなも好きになった。

 ぼくが作ったご飯を美味しそうに食べるみんなの顔が好きだった。奪われた未来を取り戻そうと、懸命に頑張る二十二人のカルデア職員のみんなの顔が好きだった。

 ぼくは、決して生存を諦めず、最善を尽くすそんなカルデアの善き人々が好きになった。

 

 ─────だからこそ。そんな彼らの半数が嬲り殺しにされ。

 なんとか生き残ったものたちが、有り得ざる異聞世界との過酷な生存競争という地獄に巻き込まれていくという未来が。

 

 

 ぼくは、臓腑が煮え返るほど許せなかった。

 

 

 あんなにも頑張った彼らが無惨に死ぬ必要なんてないし、苛烈な物語の続きなんて必要ない。彼らの旅路は、みんなで焼却した世界を取り戻した瞬間で終わればいい。マシュ・キリエライトと藤丸立香の大冒険は、カルデアの山頂で青空を見る瞬間で終わりでいいのだ。

 

 異星の神?人理漂白?異聞帯?クリプター?

オーディール・コール?

 

 そんなの関係あるもんか。

 

 異星の手引きによるカルデア襲撃。これによって、ムニエル、エルロン、シルビア、カワタ、オクタヴィア、チン、カヤン、マーカス、マシュ、立香以外の16名のスタッフはオプリチニキに殺される。此処まで頑張ってきた彼らの報いが、冷たき死である事をぼくは認めない。

 

 マシュ・キリエライトが痛々しい自己欺瞞で無垢さを維持することを、ぼくは認めない。  

 彼女は、平穏な日常の中で一歩ずつ「好き」と「嫌い」を確認して、素敵な大人にゆっくりと成長していけばいいのだ。

 トリニティ・メタトロニオスのような荒療治なんて必要なんてない。彼女は普通のヒトとして、当たり前の幸福を享受すべきだ。

 

 藤丸立香が血反吐を吐きながら走り続けることを、ぼくは認めない。幾つもの世界を消していく咎の道なんて行くべきではない。

 君は、ただの普通な女の子として、日常の中で待っている人達の元へ帰還すればよい。世界を滅し世界を救う重圧なんて味わう必要なんてない。

 

 それに、魔神王の遺産が片付けば、カルデアスの存在を許す理由はどこにもない。1.5部の事件が終わり次第、ぼくはカルデアス内部へレイシフトし、二部を回収する前に。全ての決着をつもりだった。

 

 だが─────ぼくの望みは、叶わなかった。 

 

 ぼくはまず、二部の計画を潰す前に第一部の特異点に同行し、マスターの力になる予定でいた。まず単独で特異点へレイシフトし、カルデアチームと合流し、攻略の手助けをする予定だったのだ。

 

 そのため、ぼくは事前に自分一人で内密に準備をし、第二特異点突入の備えをしていた。そうしてカルデアによる作戦が開始する裏で、ぼくは密かに「レイ・ホライゾン」を起動。永続狂気帝国セプテムへと単独のレイシフトを敢行した。

 

 しかし、ぼくのレイシフトは失敗した。

 

 「レイ・ホライゾン」を起動し、自身の「境界記録」を霊子に変換するという段階までは良かった。しかし、A.D.0060の古代ローマへ霊子情報を転写し掛けたその瞬間。さっきまで励起状態だった「レイ・ホライゾン」が無理矢理、強制停止される。

 

「──────ぁ」

 

 行っていたプログラムがシャットアウトされ、強引に行われる事で生じた過負荷がぼくの霊基に襲い掛かる。

 

「ぐぅ……うぅ………あぁ……」

 

 自分の輪郭が点滅し、意味消失をしかけた恐怖に頭がおかしくなりそうだった。

 ぼくは四散し掛けた自身の「概念」をただ、ひたすらに掻き集めてなんとか、霊基状態を戻す。

 

「はぁ………はぁ……何が起きた?」

 

 疑問を口に出し、問い掛けた瞬間。その問い掛けに意味はなくなった。なんせ、その問いの答えは自分の中で見つかったのだから。

 

ぼくはその原因を感覚で理解できてしまった。

 

「あぁ─────そういうことかよ……!」

 

 ぼく単独でのレイシフトを"強制停止"をさせた張本人。それは、"カルデアス"であった。

 管制室にあるソレを、ぼくは壁越しに睨む。

 ぼくが召喚される際、カルデアスはぼくに、ある細工を仕掛けた。いや、小細工なんてレベルじゃない。ソレは、ぼくというサーヴァントの根底たるクラスから変更せしめたのだ。

 

 アルビオン・ネオスが単独でのレイシフトが可能である事に気付いた異星は、自身の企みが潰える未来を回避するために、ぼくの召喚に介入した。そうして、特異点で召喚されたぼくの霊基を改造し、単独レイシフトを不可能にした。

 

 だから、改造されたぼくの今のクラスはセイバーじゃない。ぼくの今のクラスの金鋳は、カルデアスによって製造されたモノ。カルデアス原産の、とあるエクストラクラスだ。

 

 カルデアス産の特殊クラスであるぼくは、カルデアスが不利になるような事を実行出来ない。レイシフトどころか、カルデアスの封印、カルデアスに誤作動を起こさせ計画を遅延させるなんて事も出来ない。

 

 ただ、カルデアスの計画が進む光景を指を咥えて見ていることしか出来ない。テクスチャが収納され、七つの異聞帯が成立するコトは確定してしまった。

 

 ………故に、ぼくの行動指針は変更せざるを得なかった。カルデアスの計画を止められないのは決まってしまったのだ。ならば、せめて。

 年末のカルデア襲撃の際、カルデア職員の生命が助かるよう、努めることにぼくは決めた。  

 

 死ぬ筈であったカルデア職員が生きていても、「カルデアが壊滅し残存職員は脱出した」という結果さえ残っていれば、カルデアスの計画に狂いはない。もし、カルデアの人々が全員生き残ってノウム・カルデアに至ったとしても、カルデアスは意にも介さないだろう。

 

 では、そのために必要な事は何があるだろうか?シャドウ・ボーダーでカルデアを脱出するとしたら、まず虚数潜航期間中に用意する物資も足らないだろうし、ボーダーの空間もカルデア職員全員の生活に耐えられない。

 

 課題は山積みであり、その問題は自身だけでは達成出来ない。この問題の解決には、これから召喚されるサーヴァント達の協力が必要不可欠だ。

 

 しかし、それでもまずはカルデアの皆が魔神王の脅威を退けないと何も始まらない。

 

………獣の野望を打ち砕いて、未来を一時的に取り戻しても、この先には地獄のような戦いが続いている。その事を、ただ一人ぼくだけが知っている。

 

 ならば、ぼくがやる事は一つだけだ。

 カルデアの皆がどんな過酷な戦いに身を置いても、彼らの側にずっと在る。ただ、それだけだ。

 

─────だが、そんな立派な誓いを身に立てても。

 

 

 

─────────────────────────────

 

「手を差し伸べてくれる方々すらもおらず、貴女が脅威に囲まれてしまった時があったら。そんな、絶望的な状況に至ったら。その際はぼくを喚んでください。カルデアの支援も、貴女の魔力も何もかも足らず、英霊召喚をする下地すらなくとも。ぼくは必ずマスターの下に向かいます」

 

─────────────────────────────

 

 

 

 彼女に語った約束の言葉が、虚構のものに変わってしまった事が。

 

 

 ぼくは心底恨めしかった。

 

 

 

 




【アルビオン・ネオスの好きな物】
「好きなモノ、ですか?そうですね……いっぱいあって正直困るぐらいです。でも。もし一つ挙げるとすれば、ぼくが作ったご飯を誰かが食べてくれてる様子とか、ですかね。カルデアの皆さんが生きる事の助けになってるって感じがして、料理をするのは結構気に入ってるのです」

【アルビオン・ネオスの嫌いな物】
「嫌いなもの?天球儀。以上」

【アルビオン・ネオスの天敵】
 異星



ネオス「あの時の約束が履行出来ない。彼女に死んでも詫び切れない……死にたい」

ぐだ子「本当にヤバい時はネオスが助けてくれるらしいけど、大体のイベントのピンチの時は初対面のサーヴァントが助けてくれるな……」
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