転生アルビオン二号機 in カルデア   作:楼ノ卦

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2.花のお兄さんの裏工作-2

 

 

 

 去り際の挨拶通り、マーリンはその次の日もこの地に訪れてくれた。

 来てくれるかどうか不安だったので、ちゃんと来てくれて正直、ホッとしている。

 "ろくでなし"とアーサー王をはじめとした周囲の人々に称される彼のことだから、もしかしたら約束をしておいて、平気な顔で破ったりするんじゃないか……と一人勝手に心配したが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 そして、その日も取り留めのない話を小一時間ほどして。最後に「また明日」と言葉を交わし、彼は去っていく。

 

 

 そんなこんなで、マーリンが星の坑道に来てお喋りをするという生活が一週間ほど続いていた。最後は、「また明日」で締める、星の大坑道という異界で行われる雑談。

 しかし、日が過ぎていくごとに、彼と話す内容というのは、「くだらない話」から、少しばかり毛色が変わってきてきた。

 

 最近、彼はぼくに物語を語ってくれるようになった。

 花の魔術師マーリンといえば、世界の全てを見通す千里眼の持ち主。彼はアヴァロンの塔に幽閉されて来ながらも、今日という日まで数多の人々が織り成す人間模様を、コレでもかというほど見てきたのだという。

 

 「人々のハッピーエンド」を好み、莫大な数の物語を千年以上楽しみ続けたマーリン。そんな彼は世界最高峰のストーリー・テラーとも言っても過言ではないだろう。そんな彼が厳選して語ってくれる物語というのは非常に上質なものであり、面白いものばかりだった。

 

 多種多様な物語。それらの中には、見知った顔が主役を務めたモノも沢山あった。

 

 アーサー王とブリトマートの決闘。

 

 サー・ランスロットの竜退治。

 

 厨房働きにされたサー・ガレスの栄転。

 

 ブラダマンテと異邦の騎士の恋愛譚。

 

 幻想と歴史を彷徨った獅子王の冒険。

 

 恩讐の(ン…)と「蛇」による、誰も知らぬ闇夜の決戦。

 

 とある医者と共に、幾つもの謎を解明していく英国紳士によるミステリー。

 

 前世のぼくは、そこまで伝説や物語に詳しくはなかったので、マーリンが語った内容は、殆ど初見のものが多かったのだが。それでも、完全な初見さんというワケでもなかった。マーリンが語る物語の中には、FGOで見知ったサーヴァントの逸話のように、既に聞き齧ったような話も幾つかあった。なので別に、ぼくは全ての物語が完全初見ということでもなかったのだ。

 

 だが、驚くべきことに。

 既に知っている内容であってとしても、ぼくはまるで初見のように手に汗握って楽しめた。その物語の興奮と感動は初見だろうとなかろうと、どれも褪せることはなかったのである。

 

 感嘆すべきは、マーリンの語り部としての技術だろう。竜という怪物へ、毎日毎日違う物語を提供し。しっかりと顧客たる聞き手を満足させた彼は、千夜一夜物語の語り手(シェヘラザード)もかくやの腕前を見せてくれたのだ。

 

 彼の語る世界の姿はいつも美しく、面白く、輝きに満ちている。

 

 光なんて一生差すことなんてない、暗闇の大坑道。そこで一生を過ごしてきたぼくにとって、その輝きは少し眩し過ぎた。

 

 驚きと喜びと、嘆きと胸の高鳴りに満ち溢れた、「生命」という名の冒険譚。与えられた使命に殉じていれば、一生体験することのない世界の話。

 

 その話を聞く度に、ぼくはいつも悶々としてしまう。

 ───なぜなら。

 物語を楽しみに思う度に、この素晴らしい世界にぼくの腕は永遠に届かないコトを思い知るからだ。ぼくがぼく()で在る限り、あちらの世界でぼくは生きていけない。竜たるぼくが生存を許され場所は、この暗闇の底だけだけなのだ。

 

 ─────だが、もしもだ。

 そんな素晴らしい世界にぼくが生きていけるとしたら。それは、どれほど幸福なのだろうか。

 

 そんな考えが頭に過ぎるほど、ぼくはいつの間にかマーリンの語る世界の虜となっていた。

 

 そんな矢先、マーリンはぼくにとある提案を投げ掛けてきた。

 

「キミ、外の世界に行ってみたいと思うかい」

 

『はい?』

 

「君は、この場所から離れることは出来ない……いや、"離れたくない"んだろ?でも、その想いとは裏腹に、君の外の世界への憧れは日に日に増してきている。二律背反、というやつだ」

 

『ずいぶんと他人事の言い種ですね。外への憧れを燻らせたのは貴方なんですよ??』

 

「ははっ。やはり、そこを突かれると痛いね。だが、そんな悩める欲張りさんたる君に朗報だ。私は、キミの想いと願い、どちらも叶える方法を知っている。そして、私はそれを実現できる力がある」

 

『─────』

 

「……本当か、だって?本当だとも。だが、そのためには準備が必要でね。手間とコストというものが掛かるし、それは私の負担にもなる。だからその代わり、キミにやってもらいたいものがあるのだが……どうだい。私の頼み事を、一つ請け負ってもらえるかい?」

 

『……はぁ。分かりました。でも、それは頼み事次第です。それで、マーリン。貴方は、この空間から一歩も動けぬぼくに、何をして欲しいのですか』

 

「とある事件……その解決のための助力さ」

 

『とある事件?……それは、どんなモノなのです?』

 

 

「───人理焼却」

 

『────?!』

 

 なん、だと。

 人理焼却事件。それは、魔神王ゲーティアによる偉業。人類史のターニングポイントたる人理定礎を聖杯で破壊し。強度ゼロとなった人類史を炎で焚べることで成立した人類史上最大の殺人計画。

 FGO第一部にて、主人公らカルデアが直面した世界の危機だ。

 

「人類史上最大規模の聖杯戦争、人理焼却事件。キミには、その解決に協力してもらう。……といっても、なにもキミに『その黒幕を暴いて、打倒しろ』と言いたいワケじゃない。キミにしてして欲しいのは、とある微小特異点への対処だ。」

 

『───詳しく、聞かせて貰ってもいいですか』

 

 そこから、マーリンによる西暦2015年の現状の解説が始まった。

 

 聖杯。特異点。魔神。冠位指定。そして、カルデア。魔術王に潜むモノと対峙する為に必須の知識をマーリンは授けてくれた。

 ……まぁ、原作知識でとっくに知ってたんですけどネ。でも無駄に怪しまれるのもイヤなので「ふむふむ」「な…」「それは本当ですか…?」と適度な相槌を打って話を聞く。

 

 現状の把握はした。では、その次は、微小特異点についてだ。7つの特異点の揺らぎが波及し生じたという微小特異点。それは、文字通りの如く、魔神王のモノよりも小規模な特異点だ。その影響力というのはぼちぼちで、放っておいても下手したら勝手に消滅する可能性のあるものもある。

 

「だが、その微小特異点の一つに、ちょっと厄介なやつがあってね。まずいことに、規模はそこそこだというのにカルデアでも捕捉出来ていない。このままだと、"彼女"にも被害が及ぶのも時間の問題だ。そこで、キミの出番というワケだね。───いいかい。キミは、これから人理の危機が終結するまでの間、一時的にサーヴァントになってもらう。と言っても、キミ本人が動く必要はない。キミの分霊をその微小特異点に寄越して貰えれば、それで済む話だからね」

 

『なるほど。……では、サーヴァント化した際の能力や宝具というのは、どのようにすればいいですか?通常霊基規格となると、どこまで力を込めてよいのでしょう』

 

 ぼくが一般サーヴァントの規模が分からない手前、下手すると、150mlのカップに5Lの魔力の渦をぶち込むような大惨事になる可能性がある。

 

「そこは、私が調整しよう。……キミのマスターになる人間は、マスターとしては駆け出しでね。カルデアによる魔力支援は行われているものの、大英雄クラスが遠慮なく暴れると、振り回されてしまう恐れがある」

 

『なるほど』

 

そうして、マーリンによる霊基の調整作業が始まった。人間の規格に合った霊基、マスターが手綱を握りやすい魔力規模、霊基躯体のデザイン。それらをこなしながらも、マーリンは夢を通じてぼくにヒト型の動き方、戦闘の立ち回りの仕方、ヒト型なりの戦闘方法の情報を、圧縮して送りつけていた。

 

 なんだその超技術。「夢」ってつければ、なんでも許されると思ってる?

 

 でも、衛宮士郎の投影六拍やらエインズワースのクラスカードやら妖精騎士のギフトやら、型月魔術界隈では強者の戦闘技術の抽出と会得を実現した事例は幾つもある。マーリンのこれも、それらの類の技術なのだろう。でも、それらの代物よりかは。結構荒削りなところもあった。

 おそらく、わりと突貫で作った魔術に違いない。

 

 まぁ、ぼくの本能を駆使する怪物としての戦闘スタイルは、武具と術理で闘いに臨む人間の戦闘スタイルとは毛色が異なる。戦闘技術自体については、そこまで執着しなくてよいのだ。そう考えると、マーリンの荒削りな通信教育も立派なリソース采配の一環なのかもしれない。

 

 それに、「前脚」と「後脚」を持つ竜の感覚では理解出来ない、四本の手足を自由に扱う人の感覚。人間の身体を持つ前世の頃の感覚を思い出せたのは、マーリンのお陰だ。そこは、ちゃんと感謝しないと。

 

 そんなこんなで、ラーニング完了。

マーリンも、霊基の型も出来上がったというので、そこに分霊をブチ込めて、サーヴァントとしての霊基が完成した。

 

「どうだい?サーヴァント……ヒト型の身体の心地は」

 

「悪くありません。むしろ、怖いくらいしっくり来ますとも。腕と脚の運動はかなり早く慣れましたし」

 

「へぇ。そこまで言うとは……すごいね。もしかしてキミ、前世は人間だったんじゃない?」

 

「んなわけ……まぁ、ぼくの前世というものを観測出来ない以上、その可能性は否定し切れませんが」

 

 ……合ってるんだよなぁ。もしかして、勘づかれてる?……なワケないか。でも、前世の記憶がある分、そういう冗談を叩かれるとちょっと引け目を感じてしまうぞ。

 

 ……さて。その引け目から、視線を逸らす為に話題を変えさせて貰おう。

 

「そういえば、マーリン」

 

「ん、なんだい?」

 

「ずっと考えていた事です。貴方は『この仕事を終えれば、外の世界に行く』という願いを叶えると約束しましたよね。それで、なんとか約束通り、ぼくが微小特異点を解決したとしましょう。……でも、今ぼくが外の世界に行っても、全ての大地が焼け野原なのでは?』

 

 そう。今は、人理焼却の真っ只中なのである!カルデアが人理焼却事件を最終特異点で解決したとしても、FGO一部終章は2016年12月だ。

 

 たとえ今、外の世界に出たとしても、12月までは世界中は焼け野原。ぼくがマーリンの物語で夢見た世界は、何処にもないのである。

 

「もしかしてマーリン、ぼくを騙しましたか?」

 

「……。いいや、騙したワケじゃないよ?

 いいかい?よく聞いてくれ給え。キミがこうして微小特異点へと突入すれば、キミの契約者であり助力すべき者。つまり、カルデアのマスターへと接触することとなる。そうすれば、キミはカルデアとの縁を結ぶだろう。

 ……わかるかい?つまりこの地上で唯一、焼却から免れたカルデアという地へとキミは召喚されるんだ。ほら。この世界の外に行けることには違いないだろ?」

 

 ウワーッ!詐欺だ!タスケテクレーっ

 

「……まぁ、確かに"自由"に外に行けるとは、聞いてませんでしたが!確かにそうなんですが!言質を取らなかったぼくも迂闊でしたが!なんか、こう……もっとあるでしょう!」

 

「まぁ、まぁ。それは私も悪かったと思う。うん。申し訳ない。……でも、キミにとってカルデアは最高の場所だと思うよ?なんせ、キミの聞いた神話、物語の主役たちが一堂に集う奇跡の地なんだから。ほら。よく考えてごらん。名だたる英雄たちが、同じ食堂で共に卓に座り、食事を取る光景を。

 ───そこを見渡せば、あの名高い騎士王が。騎士王のオルタが。騎士王の若き姿が。騎士王の槍を携えた姿が。騎士王の槍を携えたオルタの姿が…」

 

「なんで騎士王が分裂してるんですかぁ?!」

 

「……じゃあ、剣を携えた湖の騎士と、狂化した円卓最強の騎士が…」

 

「そっちも同一人物じゃないですか!」

 

「エリザベート・バートリーが……」

 

「いいです!もういいですって!……さてはマーリンの英霊チョイス、だいぶイカれてますね?」

 

 FGOやってると感覚は麻痺するが……やっぱ同一人物が別の自我を持ってワチャワチャしてるのは……おかしいだろ!

 やはりこの手の光景って、もしかして異常なのでは?

 

「──でも、こうして即興漫才してくれてるってコトは、私を嫌いになったワケでもないのだろう?」

 

「それは、まぁそうなのですが………」

 

  正直に言おう。ぼくは、このマーリンという男をどうしても嫌いになれなかった。

 

 おそらく、彼がぼくに接触してきたのは、微小特異点を修正するための戦力が必要だったからだろう。

 

 孤独に慄いていたぼくに、戯けた態度で接したのは、心を許して貰うため。

 その後に外の世界の物語を語ったのは、外の世界へと興味を持たせるため。

 外の世界用の入れ物を作ったのは、世界を救うため。

 

 彼の行動の全てが、100パーセントの打算で行われたコトは間違いない。

 ───それでも、彼の存在で自分が救われた気持ちになったこと。感情が震わせる物語を語ってくれたこと。

 それらだけは、決して間違いなんかじゃなかった。そうだ。彼のおかげで、ぼくは今世で初めて「楽しい」と心から思えたのだ。

 

 ……彼はどう思ってるかは知らないけど。

 ぼくは、ちょっと屈辱的にも感じているが。

 ぼくは彼のことを、今世ではじめての"友だち"だとさえ思っていた。

 

 まぁ、彼がどう思ってるかは本っっっ当にしらないがね!

 

「──まぁ、そうですね。いい物語を聞かせてもらったんです。その駄賃分は働きますよ」

 

 まぁ、うん。

貴方に救われた分くらいは、世界を救う手伝いくらいはしてもいい。これがぼくの本音だ。

 

「いやー。助かるねぇ」

 

「うーん、この。心が篭ってるように全然聞こえないな…」

 

「───まぁ、ボクは夢魔だからね。私自身、人間らしい個人的な感情はないようなものだ。なんせ、全てを知りながら意味を考えることもせずに遊び気分に、少女を破滅に導いたロクでなしこそが、このボクなのだから」

 

「……」

 

「それでも、ボクは。十分すぎるほどに、美しいものを見た。覚えておくといい。世界というのは、そう捨てたものじゃない。キミに語り聞かせた物語のように、この世界は美しいものが確かに存在しているんだ。

────だから、キミも美しいものに触れてくるといい。この地の果てで、ただ星の終わりを見届けるのではなく。

 地獄に落ちても忘れないような。そんな美しいモノを、キミは見に行くべきだ」

 

「マーリン……貴方は」

 

「……さて、準備は整った。正直言わせて貰うけど、時間というのはあまり残っていなくてね!

もうこのまま特異点まで送らせてもらうよ!」

 

「時間に余裕ないなら、漫才してる暇なかったのでは?!」

 

「はははっ、そこは笑って誤魔化させて貰おうか!」

 

 ぼくの周囲を、蒼き光が舞う。これは霊子の流れ。此処の空間の魔力を取り込み、焚べ、エネルギーを生成出来ている証拠だ。

 

 さすが、大魔術師マーリン。逆召喚(アンサモン)の準備は、もう整っていた。

 

「それでは、竜の君。いってらっしゃい。

────また、明日だ!」

 

 

「───また、明日!」

 

 そうしてぼくは、新たなる肉体を携えて、微小特異点へと飛翔した。

 

 この星の坑道を、後にして。

 

 

 




・マーリンがオリ主に送った戦闘技術というのは、アーサー王の剣の師匠、マーリンの戦闘技術に至るための脳内訓練プログラムの一端。
「現実とは時間の流れがわざと遅くなってる世界」の夢を見ることで行う、最高峰のイメージトレーニング。しかし、所詮イメージトレーニングなので、修行者の肉体を鍛えることには繋がらない。
 マーリンの付きっきりで何年もコーチングを受け、達人となれたアルトリアのように一流の剣士になりたいなら、それこそ何千回もプログラムを繰り返さなくてはならない。
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