「おや……?」
セイバーにトドメを刺され、絶命した巨大ワイバーン。その身体が光となって解れ、散っていく。
ワイバーンに突き刺さっていたセイバーの剣が、からん、と音をたてて地面へと落ちていく。その堕ちていく先の地面を見たところ、そこにはキラキラと光る物が置かれていた。
「……なにこれ?こっちは……金の細工で、そっちは銀色のクリスタルか」
銀色のクリスタルは、十字型の星をしている。……何かの結晶かな。
一方、金の細工の方はマシュの盾のような刻印が刻まれている。……偶然か?
「これは……もしかして、銀の種火と聖杯の雫?」
「セイバーは知っているの?」
「はい。この銀色のクリスタルは叡智の大火といい、いうなればサーヴァント補強用のアイテムです。カルデアでも使用しているリソースだと聞きましたが……」
「あっ……これ種火だったんだ。銅色の丸いやつと八面体のやつしか見たことなかったから、分かんなかったよ」
「そちらのカルデアのリソース大分渋いですね……まるで10年前の環境だ」
「?なにか言った?」
「……なんでもありません。忘れて下さい。
……えー、こほん。こちらの金のカケラは、聖杯の雫といいます。文字通り、聖杯の欠片のようなものですね。サーヴァントの強化だけでなく、様々な用途でも使える貴重な魔力資源となります」
「はぇー。もしかして、7個集まったらドラゴンとか出て来たりする?」
「誠に残念ながら、出て来ません。その代わり、7個集めると聖杯のカタチを形成することもあるのだとか」
「聖杯を!じゃあ、すごい代物だ」
「はい。すごい代物です。……もしかしたらこの雫、特異点の原因に何か手掛かりになるかもしれません。回収しちゃいましょう」
「うん、わかった」
そう言って、聖杯の雫と種火を拾い上げると。
いきなり、それら金の刻印と銀のクリスタルが、消滅してしまった。
「「?!」」
「せ、セイバー!なんか消えちゃった」
「なっ、嘘?!」
一体、何が起きたんだ……って、ん?
セイバーの頭上に、文字が浮かび上がる。
そこには、『5/10Level』と書かれていた。
「セイバー、貴方から5/10Levelって数字が浮かび上がってくるのだけど」
「5/10Level……ですか。レベル?もしかして、サーヴァントのステータスのことでしょうか」
セイバーが目を張って、自身の頭上を凝視する。
「ン……だめだ。ぼくには見えません。……サーヴァントであるぼくに見えないということは、おそらく、リツカのマスター特有の透視力で見えてるのかもしれません」
そのレベル……というのは、セイバーから浮かび上がるステータスの上に表示されている。
具体的に言うと……
《5/10Level》
【クラス】セイバー
【真名】????????
筋力C
敏捷B
耐久B
魔力B
幸運D
こんな感じに見える。
……こう見ると、セイバーのステータスはかなり真面目で堅い。英霊の個体能力に拠らない剣の英霊の基本能力が、
筋力A
耐久B
敏捷B
魔力C
幸運D
ということを考えると、彼がかなり手堅いステータスをしていることが分かるだろう。
「ふーむ。レベルアップアイテムである種火とレベルキャップを解放する聖杯、その欠片ですか。……とすれば。すいません、マスター」
何かを思い付いたような顔をしたセイバーは、いきなり魔力を全開に解放し始めた。
「っ!ちょ、何?」
「……魔力炉心の出力……霊基機能が、少し上がってます。もしかしたら、この特異点ではモンスターを倒すと、霊基を強化する特殊アイテムを入手できるのかもしれませんね」
「つまり、敵を倒すとゲームみたいに、サーヴァントがレベルアップするってコト?」
「おそらくは。
この手の特異点では黒幕が聖杯を使って、現実にはないルールを世界に追加します。それが、ここではレベルアップというカタチでルールを敷いているのでしょう。」
「なるほど」
世界に追加されるルール、か。
どうやら微小特異点というのは、冬木やオルレアンのような私が体験した特異点とは気色が違うらしい。
「……よし。世界のルールの一つを、我々は知ることが出来ました。特異点解決の第一歩です。────ですがマスター。特異点の調査以外にも、ぼく達にはやる事があります」
「……やる事?」
「貴女の生存に必要な、食糧と水の確保です」
「……あ」
「マシュ嬢が同行していない以上、彼女の盾に内蔵されてる備蓄は使えませんし、カルデアからの補給はありません。よって、特異点での生存資源はすべて現地調達です」
「まじか」
「………頑張りましょう、マスター」
「うぅ……頑張ります」
礼装に自身の代謝をコントロールする機能があるとはいえ、それでも二十四時間飲まず食わずの活動は、回路性能がカスな私には不可能だ。
マスターの脱水死、餓死による退場を防ぐため。私たちは安全な水源を求めて、歩みを開始した。
周囲の探索をする際、私は先行するセイバーの後ろに付いていくこととなった。右も左も分からない環境である筈なのに、彼の歩みには迷いは見られない。
その自信はどこにあるののだろか。そのことを彼に問いたところ。
「直感ですね」
勘、なのだと。
「マスター、蛇のピット器官というものは知っていますか?」
「蛇は体温感知と舌で匂いを口内に送り嗅覚感知もする……ってやつ?」
「おぉ。随分詳しいですね。まるで蛇博士だ」
「セイバー、NARUTO読んだことあるんだ…」
本格的な古代騎士のような容貌で蛇博士とか曰うセイバーの姿は、私の腹筋に悪かった。
大蛇丸様、薬師カブト。貴方がたは西欧古代の英雄にも知られているらしいですよ。
「まぁ、一応は。英霊の中でも、現代での活動で印象に残った記憶は、座にフィードバックされるケースも存在します。もしかしたら、現代文化にかぶれてオタクになったり、漫画家になったり、ゴールデンになったサーヴァントにも、マスターは立ち会うことになるかもしれませんね」
「ちょっと待ってゴールデンって何」
「ゴールデンです」
「ゴールデンかぁ」
ゴールデンって何だよ。
「……こほん。話を戻しますね。」
古来より、蛇と失せ物探しという概念は、切っても切り離せない、縁深いものなのだという。現在では蛇の感知能力のメカニズムは解明されてはいるが、古代においては、蛇の特異な能力を不思議な力として認識していた。
故に古来の人々は蛇を神聖視し、落とし物を見つけるなどのご利益を願ったりしたのだとか。
─────また、蛇は竜に近く、時に同一視される存在だ。竜という強大な神秘を蛇を介して垣間見ることで、蛇には魔力があると人々は感じたのかもしれない。……と、セイバーは最後に述べた。
「……というワケですね。ぼくは、蛇という概念に近い英霊です。なのでモノを探したり、自分にとって最適な展開、未来を"感じ取る"ことが得意なのです」
実際、探し物が得意、というだけあった。セイバーが迷いなく突き進んだ道の先には、下方へと流れる川があったのである。
セイバーは河流へと寄っていき、どこからともなく取り出した水筒を用いて、河水を汲んでいく。彼曰く、「魔法の水筒」というらしい。特異点内でサバイバルになることを想定して、持って来た物品の一つなのだとか。
海水をそのまま飲むとまずい、ということはよく聞くが。それは真水である河水においても同じだ。未処理の川の水には、病原性の細菌やウイルス、寄生虫などが含まれている可能性があり、飲めば高確率で身体を壊すこととなる。
彼が持つ水筒には、河水や海水などの未処理の水を、煮沸消毒や濾過などの作業をせずとも飲料水へと変えてしまうというすごい効果があった。
実に、幸先がよい。
順調に飲み水を確保出来た。
「さて、次は食料ですね。幸い、ここは森です。有機生物が生息しているのは確実です。
探索の中で、食べれそうなヤツを探しましょう」
「うん」
河川を結構眺めていたが、食用に出来そうな川魚が見つからなかったので、私たちは森の方へと赴いた。
森の中には多くの生物がいた。
昆虫だったり、栗鼠のような小動物であったり、────モンスターだったり。
「前方より、敵性生物の生命境界を6つ確認!」
「迎撃お願い、セイバー」
「任されました!」
私たちを襲ってきたのは、最初に私を襲って小型恐竜と同種の存在であった。
あの時は逃げの一手を取るしかなかった私だが、今はセイバーが付いている。
魔力を滾らせ、セイバーが小型恐竜の群れへと突貫する。籠手から生成された鉤爪が光り、その腕を暴風が如く振われた。すると、六体の恐竜たちがあっという間に裂かれていく。
これが、小型恐竜の群れを圧殺した、大型ワイバーンすら秒殺したセイバーの力。
自分たちにとっての死神すら相手にならない、死神にとっての死神。そんな存在を相手にして、彼ら小型恐竜が生き残れる道理は何処にもなかった。
「ふぅ。戦闘終了……っておや」
絶命した小型恐竜たちの死体が消えている。
その代わり、彼らの死体があった場所には、銅色に輝く結晶体が幾つか転がっていた。
「球形に八面体……知ってる種火だ!」
種火はセイバーの方へと飛んでいき、セイバーへと吸収されていく。
セイバーの頭上には、7/10Levelと数値が浮かび上がっている。さっきが5/10Levelだったから、恐竜を倒して2レベ上がったのだ。
「やはり、倒したモンスターの亡骸は消える……というか、種火として変換されると。……流石に、モンスターは食べられないのか」
まじですか、セイバーさん。
こっちを襲ってきた肉食恐竜すらも、食べる気でいたんですか。
「アーサー王語録その八。
“栄養は、ゲテモノ肉でも変わりません"
ですよ、マスター」
「うぅ……現代人にとっては厳しい世界だ」
この感覚にいつかは慣れるのだろうか。
「……先程、蟻に虫の死骸が運ばれているのを見ました。おそらく、モンスターではない通常生物の死骸は残るみたいですね」
「死体すらも残さない……モンスターは生態系に何も寄与しないのか」
何かを食べるためではなく、謎の殺意で襲いかかってくるモンスター。命を奪っても、その刈り取った身体を糧にすることはなく、自身が死した際は大地を肥やすこともない。
随分と異様な生物である。
「確認したモンスターは、大型ワイバーンと小型恐竜の二種。これから進んでいけば、別種のモノと遭遇するかもしれません。注意していきましょう、マスター」
「うん、そうだね」
そうして私たちはモンスターの襲撃を警戒しながら、探索を再開した。やはり、植生や動植物などは至って普通だ。小型恐竜の存在を除けば、何処にでもありそうな森でしかない。
……となると、そんな普通な森に住み着いている恐竜の違和感が大き過ぎる。アレだけが、本当に謎だ。やはり、聖杯の影響で生まれた時代の異分子と考えるのが筋だろう。
先程のように、セイバーの後ろに付いていきながら、森を進む。すると、いきなりセイバーが足を止めた。
「セイバー、どうしたの?」
「静かに」
彼が唇の前に、人差し指を差し出す。
「………マスター。ここから八時の方向から、人の声が聞こえて来ます。しかも、叫び声です。
もしかしたら助けを呼んでるかもしれません」
「本当に!?助けに行こう!」
「……罠の可能性は?」
「それを踏まえても、です。でもそんな罠を仕掛けるような人が居るとしたら、この特異点に何かしらの関係がある人だと思う。なら、どっちにしろ行けば、事態はどっちに転んでも進む!」
「了解です、マスター!さぁ、しっかり捕まってて下さいね」
セイバーは、自身の体躯よりも若干大きい私をお姫様だっこし、そのまま爆速で駆け出していった。
魔力でブーストした力で、木々の間を駆け抜ける。
そうして抜けていった木々の先には、小型の恐竜が十数匹と、そして尻餅を付いて動けない男が一人蹲っていた。
セイバーは私を下ろし、彼を庇うように仁王立ちする。
「大丈夫ですか?お怪我は」
「あ、あんた達。もしかして、サーヴァントかい?!た、助けてくれぇ……頼む!」
今、この男。サーヴァントと言ったか!?
「………サーヴァントを知っているんですか?
詳しい話、後で聞かせて貰いますね」
「わ、わかった。幾らでも話すよ」
「では、防衛対象は二人……気張らせて頂きます!
援護はよろしくお願いしますね、マスター!」
「了解!」
セイバーは魔力を解き放ち、剣を抜き、鉤爪を鳴らす。
6×3、計十八体の3wave。
雑魚とは言え18vs1という、明らかに多勢に無勢な劣勢の中、セイバーは恐竜の群れへと躍り出た。
そういえば、ケモノに喰われたハートレスは失せ物探しが得意でしたね