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私こと藤丸立香は、数ヶ月前まで、ごく普通の高校生として生きていた。カルデアに来る前は、ささやかな一軒家(本当にささやかな一軒家の意である)での家族四人暮らし。ちなみに家族構成は父と母、私、そして弟である。
弟と私の年の差は5歳ほどであり、唯一同じ学校……小学校に通えていた時期は、私が6年生、彼が1年生の時の一年のみ。
5歳分の年の差、しかも姉と弟で性別も違うとなると、二人の趣味というものは、たとえ姉弟であっても異なってくる。
それでも、私たち姉弟の間には共有された趣味が一つ存在した。それは、ゲームだ。
10年前に統合された
だが、彼はサッカーという競技に特別熱中していたワケではない。勿論サッカーは好きだったが、彼にとってサッカーはあくまで友達と楽しく遊ぶためのツール。
子供が球技で遊ぶことを許さない公園や広場などが増えてきた以上、友達と遊ぶために、外遊びの代わりにゲームというツールを用いることとなったのは、自然なことだったと思う。
小学生として遊びに興じ、夕方の五時には必ず家に帰る弟。そんな彼とは異なり、私は中学生、高校生となったことで、帰宅が遅れることが多くなった。部活動や勉強、友人との付き合い等に時間を取られるようになったのだ。
そんなことも相まって、弟と一緒に過ごす時間というのは、私達が小さかった頃から目に見えて減ってきた。一度は、殆ど断絶しているレベルで話す機会を設けられない時期も確かにあった。
そんな彼と私の時間を繋ぎ直したのは、とある携帯ゲーム機のハンティング・ゲームであった。
きっかけは、些細なことだ。中学生の頃、ゲームセンターの一等の景品で手に入れた携帯ゲーム機と、当時の某ハンティングゲームの最新作。
2等の景品のぬいぐるみを目当てにしていた私にとって、それはあまり期待通りの結果ではなかった。しかし、このままゲーセンで粘るには軍資金が足りない。ぬいぐるみは諦めるしかないだろう。では、このゲーム機はどうしよう。誰かに譲ってしまおうか、はたまた買取屋へと売却してしまおうか。
家に帰って、そう思案していた時だった。
「姉さん、それってモ○ハンじゃない?」
ひょこっと顔を出してきた弟。
「……へぇー!姉さん、携帯ゲーム機買ったんだ。これ、ぼくも友達とよくやっててね。面白いから、姉さんも一緒に集会所やろうよ!」
私が、携帯ゲームか。でも、最近彼とは遊ぶ時間とか全然とれてなかったし。……これも何かの天命だろうと彼の提案を受け入れ、ゲーム機を起動する。
……結論から言おう。買い切り型のゲームをあまりプレイしていなかった私は、なんと。
このゲームにかなりハマった。
いや、ハマった……というのには誤解があるかもしれない。勿論、他にもやりたい事ややるべき事があったので、そのゲームだけに時間を割き続けるということはなかったのだが。それでも、弟に話を合わせるために3、4回ぐらいやってから、多分辞めてしまうだろう、と内心思ってたいたゲームを私は半年以上続けていた。
そしてそのゲームの次回作が出た際、気づけば私の財布の中にあった六千円は消滅していた。私は、その次回作を自分の小遣いで購入していたのである。そうして、その次回作でも弟と共に通信協力プレイをして遊んでいた。
弟は私の先輩プレイヤーで、ゲーム進行は私よりも進んでいたが、なぜか私よりも死ぬ回数が多かった。……理由は分かってる。この弟、私にカッコ付けたプレイを見せようとして、失敗し敵の攻撃をよく喰らうのだ。序盤はそれでも高い性能の装備でカバーしていたが、私のクエストも進んでいくと、もはや敵の攻撃力に彼の鎧は耐えられなくなっていた。
【力尽きました】
「ちょっと〜」
黒い髪に青い瞳。その双眸の視線が、あっちこっちにいき、私から目線を外そうとする。
「いや、アレだから。ちょっとミスっただけだから。次は大丈夫だから。ちゃんと見ててください」
「……あと一回落ちたら失敗になるから気を付けてよ」
「………はい」
放課後も休日も部活、勉強、友達付き合いで予定が埋まる。そもそも、弟にも用事があるので、一緒に居間で過ごす時間は限られる。そんな限られた時間を、私たちはゲームをして過ごした。
でも、そうだな。そんな僅かな時間を使って、私にイイ所を見せようとする弟は、ちょっとシスコン過ぎるのではないかと心配してしまう。
姉としては、予後がそこそこ不安だ。
そうして時間はあっという間に過ぎていき。中学生だった私は高校生となり、弟はあと一年で中学に進級する年頃となっていた。勿論、あのハンティング・ゲームは長く細く続けている。
時は2015年。その某ハンティング・ゲームは新作を発表した。その発売日は、同年の十一月下旬。その発表を聞いて、私たち姉弟は舞い上がる。
やっほー!新作だ!
弟とは事前に、発売日から一緒にプレイする協定を約束した。
「「ゆびきりげんまん、破れば飛甲虫の麻痺針千本飲す!指切った!」」
新作の発売を楽しみにしながら、勉強と部活、友達と時間を過ごし、弟とゲームをする。
それこそが、私の日常であった。そして、この日常はずっと続いていくものだとも、私は一度も疑いようもしなかった。
私と弟がした約束も、当たり前のように守られるだろうと思っていた。
だが、それはただの思い込みだった。
私たちの生きる日常、そして人類が何千年も掛けて積み上げてきたモノ。それらは、一瞬を以て全てが燃やし尽くされた。
人理焼却。2015年の7月30日より、世界は炎に包まれた。その原因は、理由は今も解明されていない。残された手掛かりは、7つの特異点のみ。一ヶ月を超えた今、攻略できた特異点は、たった一つ。一ヶ月も経って、遺された人々が必死に、死にものぐるいで頑張ってようやく一つ。
時間連続が止まったカルデアで、私は今日もカレンダーに印をつけて行く。
……あぁ。弟との約束は、守れそうにないかもしれない。
弟とした、他愛のない約束。それよりも、優先すべき事柄は多くある。
それでも、私にはその約束を果たす事が出来ない事が、残念で仕方なかった。
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「おはようございます、マスター。
お部屋にお邪魔してもよろしいですか。
朝食の準備ができましたので、お伝えに来ました」
ドアが、ノックされる音が聞こえてくる。
「ん……………ふぁ。おはよう。
ごめん、セイバー。今起きたところ。
ちょっと着替えるから、待ってて」
「了解です」
どうやら、少し長く寝過ぎていたようだ。
ベットから降りて、身支度を整える。
此処は、村落の村長が私たちに用意してくれた宿であり、現在は私たちの拠点だ。
セイバーと私は男女ということもあり、村長は部屋を二つ貸してくれていた。感謝である。
「お待たせ、セイバー」
ドアを開いて、彼と対面する。
「いえいえ、とんでもない。こんなのは待ったの内に入りませんよ」
この村に至り、セイバーがワイバーンを倒してから、しばらくの時間が経った。今や、ワイバーン襲撃による被害の復興は殆ど終わっている。
私たちも復興の手伝いの一環として、資材調達・運搬などのクエストを引き受けたりもした。だが、資材の収集にサーヴァントの力を利用できたとしても、ここまで早い復興は成しえない。それを可能としたのは、この村落に住まう職人たちの化け物じみた建築能力だろう。
柱を建て、釘を打ち、家を造る。
家屋を建て直す際の彼らの動きは、化け物じみていて、それこそ「こいつらもサーヴァントじゃないの……?」と疑ってしまうレベルであった。
「平時の彼らを見ると、そんな化け物じみた能力があるようには感じないのですけどね」
「うーん……不思議だ」
ここまで来ると、「建築時に自身に暗示を掛けて肉体を変態させているのだ」と説明されても信じられるレベルだ。この不思議な様子を彼らに尋ねても、「仕事をする際は気合いが入ってて、自分たちでもよくわからない」としか返ってこない。あれだろうか。戦闘民族ならぬ建築民族か何かなんだろうか。
これに面食らったセイバーは暫く俯き、思索した果てに仮説として、「復興をする際、彼らが意味不明な挙動をし始めるのは、世界から補正を入れられているのではないか」ということを述べていた。つまり、この村を復興をする際、聖杯によって「復興」という行為にバフが付くのではないか、というのだ。
……だとしても、聖杯の所持者がそんな
ただでさえ、この村には語尾をキノにしている変人のおっさんが誰からも排斥されずに、我が物顔で闊歩しているのだ。
この村……何か変なのである。
恐竜が闊歩している周囲の森もおかしいが、それだけでなく、この村自体と何かがおかしい。故に私たちは、周囲に広がる森だけではなく、並行してこの村落自体にも調査を行なっていた。
二人分の椅子、テーブルが並べられた場所に赴き、席に着く。そこには、二人分の朝食が並べられていた。
「さて、配膳し終えたので食べちゃいましょうか。では、いただきます」
「いただきます」
そう言って、セイバーの用意してくれた朝食を口にする。
……セイバーはしっかり者だ。この拠点での食事の調理は、昼と夜は共同で行うが、朝食の用意だけはセイバーたった一人で行っている。
"マスターに十分な食事と休息は必須です。
それを忘れてしまうと、人間は体調を崩してしまいますから。もし、そんな事になってしまえばカルデアの皆様や、貴方を育てたご家族にも申し訳が立ちません。……なので、マスターは朝までぐっすりと寝ててください!朝食については、睡眠・食事要らずのぼくが予め用意させて頂きますね"
サーヴァントは食事を必要としない。それは、彼らが霊であるが故だ。睡眠や食事をすれば、僅かながらの魔力のセーブは出来る。しかし、その効果はたかが知れており、やる必要性は殆どない。
ことセイバーにおいては、魔力生成工場と呼べるほどの莫大な自己魔力生成能力を持っているので、魔力をセーブする必要性は、通常サーヴァント以上にない。
……それでも、セイバーの分も朝食が用意されていたのは、セイバーが食事を趣味として愉しみたいがためだ。
食事なんて、カルデアの食堂のように、人間、サーヴァント問わずみんなが摂るべきだとは私は思うのだが。それでも、セイバーは食事を愉しんでよいのか、彼は聴いてきた。
その答えは、勿論イエスだ。
それに、私は、セイバーの要望は出来るだけ聴いてあげたかった。
今回の特異点では味方のサーヴァントがセイバーしか居ない上、カルデアの通信もないので、特異点の分析・考察や戦闘は全てセイバーに依存している。
カルデアでは、まず魔術とは"自身に刻むモノ''として教えられた。知識として習うのではなく、自身に刻むモノ。魔術とは一朝一夕で出来るのではないのだ。
そんな強化魔術すら満足にできない素人が、特異点について深い考察なんて出来るワケがない。そして、強化魔術すら満足に出来ない素人が、戦闘に参加できるワケがない。
その結果、博識で立派な戦力たるセイバーによる作業のワンオペ化が進んでいったのである。
……私が未熟ばかりに、セイバーばかりに負担を押し付けてしまった。
彼の姿を遠目から見ると、彼がたまに弟のように見えてくる時がある。思えば、彼は弟と同じくらいの身長だし、瞳の色も奇しくも少ーしだけ似ている。人当たりがよく、外交的で明るい性格をしているからだろうか?
………不思議な話だ。ゲームでいつもカッコつけて高確率で失敗したりするちょっと情けない弟と。いつも礼儀正しく、サーヴァントとして八面六臂の活躍を見せるセイバーは、全然違うはずなのに。
同じ男の子だからだろうか?………だとしたら、よくないな。そういう思考は。
彼を弟の代用品として使うなんて行為は、彼という英霊への侮辱に他ならない。人理のために助けに来てくれた騎士を自分の情動の避け口にするなんて、恥ずべき行為だと私は思う。
弟は弟で、セイバーはセイバーだ。それに変わりはない。でも……セイバーとは何者なのだろうか?そういえば、私はまだ彼の真名をまだ聞いてない。
西洋の甲冑に丁寧な所作、高い顔面偏差値、不思議な知識を持っていることから、おそらくファンタジー系騎士物語の登場人物ではあるとは思うのだが。アーサー王に似た格好、アーサー王の言葉(?)を引用していた所からみるに、円卓の騎士なのかも。
でも、私は英雄についてはまだ勉強不足な所も多く、分からないことだらけなので、聴いてもピンと来ないかもしれない。円卓の騎士のメンバーだって、アーサー王以外知らないし。
自分から聴いておいて、「ごめんなさい……知らない」ってなったら自分の無知が恥ずかし過ぎて死にそうになる。
でも、一つだけ疑問点がある。彼はなぜ子供の姿をしているのだろうか。……彼は身体は、私より年下の子供だ。サーヴァントは、基本的に全盛期の姿で召喚される。なので、基本的にサーヴァントは若い肉体を持って活動する。
であれば、彼の姿こそがら全盛期ということになる。つまり………彼は、あの年齢以上成長できなかった。つまり、少年の身のまま死んでしまったのではないだろうか。享年はおそらく────私の弟くらいだろうか。
……今の私が邪推出来るのは、これくらいだ。だが、どちらにせよ私へと真摯に対応してくれる彼には、私なりに全力で応えたい。
彼の目的は、私をカルデアに送り届けること。では、私はカルデアに戻れるよう、微力な自分の力を振り絞って辿り着こう。
一部四章中マスター「マーリン…?なにそれ。マーガリンのこと?」
マスター、英霊の知識は……割と怪しい!
【マイルーム・ボイス一部】
「おはようございます、マスター。今日も一日頑張りましょう。……ん?セイバーは随分と早起きなんなんだねって……?
はい、それはもう早起きドラゴンです。
……マスターの国では早起きは三文の徳、という言葉があると聞きます。
しかし、ぼくの場合早起きというのは三文どころか20億QPレベルの徳なのです。外界にいられる時間というものは、ぼくの生涯の中でも僅かな時間でしかありませんから。なので出来るだけ多くの想い出を作れるようぼくは朝早くから稼働してる、というワケなのです!ふふん」