セイバーが、小型恐竜相手に剣を振るう。
木々に囲まれた森の中にて煌めく、鈍い鋼色の一閃。それは、
だが、それだけでは戦闘は終わらない。まだ敵はいる。セイバーは、別個体の恐竜を視界に捉え、剣を構えた。
敵はセイバー目掛けて飛び蹴りを試みる。セイバーも負けじと、
……そこまではよかったものの、恐竜はまだ絶命していない。最後の力を振り絞り、恐竜はセイバーを引き千切ろうと試みた。
それは、セイバーが、彼の脚を裂いている真っ只中のことであった。恐竜が自分に噛みつこうとする意志に気付いた彼は、恐竜の顎に剣を叩きつけるべく、振っている最中の剣を急いで動かそうとする。
セイバーは、現在進行形で振り抜く剣の軌跡を静止させ、迎撃に適した
─────が。
「……っ」
彼の腕がもたつく。思ったように剣の「型」の動きを再現出来ず、剣を戻すのが遅れてしまう。その結果、剣による防御が間に合わず。
恐竜の牙が、少年の肩胸のあたりに食い込んだ。
「っぐぁ……!」
肩に突き刺さる痛みを噛み殺し、セイバーは剣から手を離して、鉤爪を生やした両手で恐竜の頭蓋を刺し貫く。その一撃で恐竜は絶命し、これで襲いかかってきた恐竜の一団を全て屠ることが出来た。
周囲に散乱した種火が、セイバーへと吸収されていく。
「っふ……はぁ。戦闘終了しました、マスター」
「セイバー、大丈夫?!」
礼装を起動し、治癒魔術を発動。セイバーの傷は、そこまで深いものではなかったため、サーヴァントの再生能力の高さも相まり回復は素早く完了された。
「申し訳ありません、不覚を取りました……」
「セイバー……でも、無事でよかったよ」
今回戦った恐竜の数は、6体。これまでのセイバーであれば、簡単に倒せていたであろう数だ。それに、私の目から見ても、恐竜の強さは
変わったようには見えない。セイバー自身にも、特に肉体的な不調は見られなかった。
では、セイバーはなぜ負傷してしまったのだろうか。……偶然だろうか?……それも、あるかもしれない。
さきほどの戦闘の様子を振り返る。何か、戦いの中でいつもと違う要素はなかったか。
……あ。そういえば。
セイバーの剣の持ち方がいつもと違っていたるような気がする。彼は、普段は剣を片手で握り、もう片方には鉤爪を生やして戦闘を行っていた。しかし、今回の戦闘では最後のトドメ以外、全て両手で剣を持って戦っていた。しかも、いつもの野生的な戦闘ではなく少し大人しい戦い方をしていたような………。
「これで今日のレベリングは終わりですね。
帰投しましょう、マスター」
「……うん、そうだね」
少しの違和感を抱きながら、私たちはこの場所から踵を返した。
─────────────────────
この村落を拠点にすることに成功し。私たちは森と村落の調査を並行しながら、セイバーの霊基の強化に励んでいた。
七つの竜災……ワイバーンは襲来してくる度に、その個体のレベルは10ずつ上がっていく。そしてワイバーンを倒すと聖杯の雫がドロップし、セイバーのレベル上限が10まで解放される。
セイバーはワイバーンを倒す事によって、ワイバーンのレベルまで上限が解放されるのだ。
だが、このシステムは私たちにとって不利なものであった。
なんせこれまでセイバーは、現状可能な限りレベルを上げても、必ず10レベル上のワイバーンと戦わなくてはならないのである。
真正面から殴り合えば、レベル差の補正で不利を強いられる。剣を、鉤爪を振るっても、ワイバーンは倒れてくれない。
マスターである私が礼装で支援すれば、戦闘はある程度有利になるかもしれないが、勝利は確実性であるとは言えない。
今回は勝てたが、次に勝てる保証はない。そんなギリギリの戦闘となってしまうのだ。
私たちを待ち受けるのは七匹の竜災。極限の中で星を掴むような戦いを連続して続けるなんて、そんなの無茶だ。
故に、私たちは竜災との真っ向勝負をするのを放棄した。
では、どんな方法を使って彼らを倒してきたのか。その答えはいたってシンプルだ。
私たちは、ワイバーンとの戦いを"初手による宝具解放"によって乗り切ってきたのである。
普通に考えれば、英霊の必殺技たる宝具を連発するなんて芸当、相当な無茶であることは分かっている。しかし、私たちはこの戦法で、ワイバーン達を確実に屠ることが出来たのだ。
この戦法が通用した要因は、主に二つ。
まず一つ目が、セイバーの宝具性能と、彼自身の性能だ。
セイバーの対軍宝具「
カルデアで召喚された
しかし、全てのビーム宝具がコスト撃重であるというわけではない。その代表例が、オルレアンで出会ったジークフリートの「
それでも、連射可能な宝具というものは珍しいが、確かに存在しているのだ。そして奇しくも、セイバーの宝具はジークフリートと同じように連射可能なビーム宝具であった。
ただ、セイバーの宝具火力は強力ではあるが、一級の威力を持つ「
それでも、Aよりも一つ下のBランクということもあり、セイバーの宝具は他の宝具よりも魔力コストを抑えて放つことが出来るといワケだ。
セイバーのビーム宝具は、低コストで発射速度も早く、連射を前提としたものだったのである。
さらに、それだけではない。実は、セイバーには「竜の炉心」と呼ばれる超抜級の魔力炉が存在する。これを保有するセイバーはただ息をするだけで莫大な量の魔力を自己生成することが可能だ。つまり、セイバーはただ"在るだけ"で自身の魔力を賄う事が出来る。それだけに留まらず、彼は宝具消費魔力を全て自分で賄うことに成功していた。
"マスター、令呪は三画全て温存するつもりでいて下さい"
そんな彼の助言通りに事は進んでいる。
セイバーは、マスターへ負担を掛けることなく、自分の力のみで宝具を撃ってみせたのだ。
そして、宝具ワンパン式レベリングの図式を成立させている別の要因。彼自身の能力以外の要因を挙げるとすれば、竜災の襲来頻度にあるだろう。
このワイバーン達、同時に襲来することがないのである。特撮番組の怪人が如く、一度倒せば一定の猶予を以て、新個体が現れる。
─────しかもそれは、セイバーのレベルがMaxとなった瞬間に。まるで、機を狙っているのかのようだ。さすがに出来すぎているように思う。その性質には、何者かの作為的な関与を感じ得ない。
……だが、その習性は利用することが出来た。
村を離れ、恐竜を屠ってレベルを上げる。
そうしてMaxになった直後に、そこで狼煙を上げればワイバーンを自分たちのいる場所へ誘導出来る。そうすれば、村が襲われるような事はもうない。
村を離れて恐竜を狩る。レベルMaxに近づけば、休憩のために村に戻る。そうして休息を十全にとった後、数体の恐竜を狩ってからレベルMaxにする。狼煙を上げて、ワイバーンを誘導し、そのまま不意打ち気味に宝具をぶつける。
セイバーのレベル上げは、このようなカタチで行っていた。彼の霊基強化は順調だ。
このサイクルを続けていれば、竜災は全て乗り越えていける。
だが………最近、彼の挙動がおかしい。
今日だって、苦戦する筈もない小型恐竜相手に不覚を取ってしまっていた。
どうしたのだろう。体調が悪いのだろうか。
………もしかして、あの種火と聖杯の雫のせいなのかもしれない。あれは霊基強化を促しながらその実毒が含まれており、サーヴァントを弱らせるための罠だったのかも。
だとしたら、大変だ。私には他者を解毒出来るような術がない。そんな魔術は使えない。
他のサーヴァントが居ない以上、期待出来るモノといえば、彼自身による治癒にしかない。
一体、彼はどうしてしまったのだろう。
思い立ったらすぐ行動。
私は、彼に直接聞いてみようと思った。
森での経験値稼ぎも終わり、村落に戻って来た。その頃になると、もう夕日が出て来たので夕食の準備を始めた。農家から直接頂いた野菜や、畜産農家から購入した肉を使い、セイバーと二人共同作業で、料理を拵えていく。
まだ……まだだ。ステイ……ステイ。話し掛けるタイミングは今ではない。
この手の腹を据えて話さなければならない内容というのは、食事の時こそにすべきだと私は思っている。
切り出し難い話は、食事の時こそ。それが、私が中高の学生時代に学んだ処世術だ。
実際、私はこれまで、文化祭でクラス企画が空中分解し掛けた時も、部活でメンバーがギスってた時も、問題人物を食事に誘って内心を吐露させることを成功してきた。
仲人として動き、対立する両者の間を取り持って来た私は、落とし所探し成功率99.99%のプロなのである。
中学生時代の渾名が"坂本龍馬"なのは伊達ではない。
だが、この学生レベルの拙いスキルが歴史に名を刻んだ英霊相手にどこまで通用するのだろうか。
それは正直未知数だ。とにかく、やってみるしかない。
料理が完成し、二人で机に配膳をする。
これで準備は万端。席に着く。
「「いただきます」」
いただきます……食事を付け始めたタイミング……!まだだ。まだ粘れ。開口一番で単刀直入に聞くのは、食事に手が付かなくなって気まずくなる。
セイバーが二口ほど料理を食んだ後。ここだ。このタイミングから、取るに足らぬ雑談を開始する。しかし、これはまだ前哨だ。ここで雰囲気をまず柔らかい雰囲気を整えておく。
こうすることで、重い話を受け止められるだけの土壌を育てておくのだ。
"話に花を咲かせる"という言葉があるが、私にとっての「お話」は、本当に花を育てる工程に似ていると思う。
まず、受け止める土壌を作り、食べ物もいう栄養と飲み物という水分、それらを与えて話の暖かい流れを育てていく。
「そういうワケで、深夜の食堂に忍び込んだDr.ロマンがマシュが用意してくれたプリン勝手に食べちゃったんだ」
「ロマニ……!ロマニ・アーキマン……!
貴方って人は……!」
「でもその後、エミヤにじっくり詰められててさ。流石に懲りたみたいで、萎れた花みたいになってた」
「まぁ……ロマニ氏本人に邪気は無かったのでしょう。それでも、マシュ嬢のモノを勝手に食べたのは流石にギルティですが。
……というか英霊のみなさん、地味にロマニ氏への当たり強くないですか?」
「まぁ、そこはほら。ロマンは間違いなく善人だけど、根性なしのチキンだから。苛烈な時代を生きた英霊にとっては、ちょっとイラってくるんじゃない?」
「英霊だけじゃなくてマスターからの当たりも強い……」
「……確かに、ロマニの様子をずっと見てると、色々好き勝手言いたくなっちゃうのは事実なんだけどね」
初対面の人に余計な一言を放ったり、マシュのプリン勝手に食べちゃったりとノンデリカカシーだし。
女性ネットアイドルにご執心のドルオタで、彼女のSNSが人理焼却で更新が途絶えても、自動生成AIを使って勝手に更新を擬似的に続けさせるヤバい人でもあるし。
「───でも、残存したカルデア職員が生き残れたのは、彼の英断のお陰なんだ」
医療部門のトップという理由だけで、生き残ったカルデア職員全体への指揮を取る事となって。魔術師でもなんでもないのに、燃え盛るカルデアの中で必死の思いで頑張って。
そうして成された彼の献身によって、カルデアという組織は全滅を回避することを出来たのだ。
ロマニ・アーキマンは残存したカルデア職員全てにとっての大恩人なのである。
「それに、ロマンはカルデアの指揮官をする事になっちゃったけど、それだけが彼の仕事じゃない。私やマシュの健康管理とメンタルケアも請け負ってるんだ。だから、今の私がこんなにも健康でいられるのは、Dr.ロマンのお陰なんだよ」
「……そうですね。マスターとこうして契約出来たのも、元を辿るとロマニ氏のお陰。ここまで、マスターの健康を彼が守ってくれたのです。それなら、この特異点から無傷で貴方を送り届けなければ彼に立ち会う顔がありません。─────なので。マスターがカルデアに戻った暁にはバイタルチェックで文句なしの健勝な結果を叩き出せるよう。このセイバー、励ませて頂きますね」
そう言って、セイバーはニカっと笑う。
……漫画とかアニメで、美形のキャラクターが微笑んだ瞬間、背景がキラキラ輝き始める感覚が、ちょっと理解できたかもしれない。
アレだろうか。こういうのを、紅顔の美少年というのだろうか。
……彼の決意の言葉に、偽りは無かった。
彼は彼自身が持つ全ての能力を使って、私の生存に協力している。
セイバーは、頑張ってくれている。
「ありがとね、セイバー。この特異点で私が生き残れたのはあなたのお陰。セイバーは、本当に頼れるサーヴァントだ」
「……恐縮です」
そのあっさりとした言葉の反面、「ふふん」とちょっと誇らしそうに、胸を張るセイバー。彼の頬も、心なしかちょっと赤い。
少々の羞恥心と喜びが内心を嵐のように渦巻いているのは、見るだけでわかってしまう。
共同生活を経て分かったが、彼は思った事が顔に出やすいタイプである。
そんな彼に、私は少し聞きたいことがあった。
「でも、こんな素人のマスターを一人で守るなんて、すごく大変だと思う。……ごめん、単刀直入に聞くけど、セイバーは何か苦しんでることとかない?無理矢理、我慢してる事とかはないかな?……もし何かあったら、私に話して欲しい」
「苦しんでる……こと、我慢してること、ですか」
「うん、バンバン言って欲しい」
ばっちこいである。
胸を叩いて、何でも吐き出してくれとアピールする。これで話してくらなければ今日のレベリングのことを、ガチの単刀直入で聞くしかない。
この言葉を聞いたセイバーは、少し俯いた。
そうして幾らか思索を巡らせた様子を見せた後、少しばつの悪そうな顔を浮かべて、こちらの方を見つめてきた。
「流石に……恐竜との戦闘で挙動がヘンだったの、流石に気になりましたか」
「うん」
「……気を遣って、ぼくからこの話題を切り出すように頑張って。そして、ぼくがこうして反応すれば、直截に肯定する。
現代日本で育んだ気遣いと、隙を見逃さないマスターとしての資質。貴女のそういう所は、過ごしててやはり心地よいです。
………でも、そうですね。本心を明かすのはちょっと恥ずかしいな」
たおやかな指を机の下で、もじもじとさせるセイバー。
「マスター。ぼくの真名は、まだ貴方に明かしていなかったですよね」
「うん……そうだね」
「最初は、初めから告白しようとしていたのですが。それでも、貴方と一緒に居たら恥ずかしくなって言えなくなってしまったのです」
……恥ずかしくって?
「はい。マスターとこの屋根の下で過ごしながら、ぼくは貴方とたくさんのお話をしてきました。カルデアでのお話も、聞かせてもらえました。……貴方が縁を結んで、召喚した二十にも及ぶサーヴァント。……マスターからの又聞きですが。彼らがどれだけ偉大な英雄であり、人類史に功績を刻み、マスターに道を示してきたのか、ということを知る事が出来ました」
言葉を紡ぎ続けるセイバー。
「彼らはすごいです。……確かに、英雄には暗い側面も付いて回ります。それでも、彼らの人類史に打ち立てた標は、尊いものに違いない。
でも、ぼくはふと思うのです。そんな彼らと共に在るマスターに、ぼくは相応しいのだろうか、と。………マスター。ぼくは正確に言えば英雄ではないのです」
「英雄ではない……?
ということは、反英雄ということ?」
「いいえ。ぼくは、サーヴァントではありますが。そもそも、英霊ですらないのです」
英霊ですらない、だって?
サーヴァントとは、信仰された英雄・偉人が精霊化したという「英霊」を人間が召喚したものを指すはずだ。しかし、サーヴァントであって英霊ではない、とはどういうことなのか。
「ぼくは、怪物なんです。しかも、メデューサや酒呑童子のような人類史に名を刻んだ怪物ですらありません。無銘の、怪物なのです」
彼は、私にその正体を明かしてくれた。
「星の大坑道」という、人理焼却の及ばない異界に住んでいたということ。そこに現れた、「楽園の魔術師」とやらに道理を説かれ、人間の身体を持って、サーヴァントとしてこの特異点に召喚されたこと。
人理にとって未観測の化け物であるが故に、真名が刻まれなかったということ。
「人の身体こそ持っているものの、鉤爪を使った戦い方は文字通りの獣です。そして、剣こそ帯刀してセイバーのクラスを頂いてはいますが、ぼくの剣の腕前は三流もいい所です」
今までのセイバーの戦闘をよく思い返してみる。……そういえば、セイバーの剣の使い方は、まるで棒を振ってるみたいだった。
剣で"斬る"というより、どっちかというと"叩きつける"と言った方が正しいような感じ。
それに、セイバーが肝心の戦闘をする際は、剣を使ってるようなシーンが無かったように思える。わざと剣を手放して鉤爪だけで戦ってたり。特にワイバーンとの二回戦では、いつの間にか剣をすっぽかしてしながら、何食わぬ顔で戦っていた。
「最初は、そのことに何も感じていませんでした。戦闘のやり方に対する関心はありませんでした。戦えるなら、それで良いと思っていました。……でも、人間の身体で戦っていると理解出来てしまったのです。人間が生み出した戦闘技法こそが、最も身体のポテンシャルを活かす事が出来るのだと。戦闘技術とは、人体が最も強い暴力を振えるようにするための最適なツールであると」
確かに、彼の戦闘スタイルはどちらかというと技量の理性を失ったバーサーカーに近い。
バーサーカーは、高いステータスの代わりに、理性と知性を失ってしまう。人間としての利点を捨て、獣の利点を得るのだ。
「でも、ぼくには理性がちゃんとあります。
だから、人間の肉体を持っている以上、ぼくは術理に沿った戦い方をした方が、理論上より高いパフォーマンスを発揮出来る筈なのです」
「だから、剣術を中心にした立ち回りを?」
「……はい。でも、理由はそれだけじゃなくて。
その、恥ずかしい話なのですが。
貴女に失望されたくなかったのです」
「……失望?」
「……はい。貴方は、カルデアで複数のセイバーを見て来たと思います」
円卓の主アーサー王に、竜殺しのジークフリート、白百合の騎士シュヴァリエ・デオン。
「貴女と戦ってきたサーヴァントには、剣の英霊に相応しい能力を持っていた筈です。そんな彼らを間近で見て来たマスターは、剣で戦うというセイバーの在るべき姿を理解出来ていたはず。わかるでしょう、マスター。
セイバーは、剣で戦うべきなのです」
「……」
「だから、ぼくは日に日に心配になってきました。貴方と契約出来たサーヴァントは、この
特異点でぼく以外にいません。これまで一緒に死戦を潜り抜けてきた
貴方は、いつも以上に過酷な現状を突きつけられました。しかもさらに悪いことに、一人しか居ない味方サーヴァントというのが、剣が苦手なセイバー擬きです。貴女はきっと、不安だった筈だ」
セイバーの言葉は溢れ出る泉のように止まらない。
「……こうして共に同じご飯を食べ、話をして過ごして。マスターと接するうちに、ぼくは貴女がどのような人であるのかを知っていきました。
藤丸立香。貴女は普通の人です。カルデアという環境で、真摯に頑張って、必死で世界を取り戻そうとしているだけの、普通の女の子です。もし、マスターが女傑だったり、どこかイカれている人物だったら、ぼくは気に掛けることなんてありませんでした。でも、貴女が普通の少女だったからこそ、ぼくは貴女を心配させていることを、強く意識することとなったのです」
「セイバー……」
「だからこそ、ぼくは剣で貴女を守り抜きたかった。カルデアで貴女に召喚された、立派なセイバーのように。たった一人の味方しかいなくても、普通の女の子である貴女が、心細い思いをしないように。そんなサーヴァントとして、ぼくは在りたかったのです」
セイバーは、自身の内に秘めた言葉を私に吐露した。彼は、私が思っている以上にずっと、私のことを気遣ってくれていた。
「でもさ……頼れる所を見せたくて、態々慣れない剣術を使って無様を見せたら本末転倒じゃない?」
「うっ」
カッコつけようとして、ミスって微妙な空気にするだなんて、まるでウチの弟である。
「それに、私はセイバーと一緒にいて心細さなんて感じなかったよ?」
「え?」
まず、"セイバーは、剣で戦うべきなのです"っていうのがよく分からなかった。
別に、セイバーでも爪を使って野生児みたいな戦闘スタイルでも別にいいと思うのだが。
そもそも、カルデアで初めて召喚されたアーチャーは、剣を何もない所から生成して接近戦し始める赤マントだ。
セイバーは剣を。
ランサーは槍を。
アーチャーは弓を。
別に、名前を冠した武装を使わなければならないという法律はないのだし。
そんな事に囚われず、鉤爪で戦うセイバーが戦っても良いのではないだろうか。
「現にほら。セイバーとの戦闘では、私たちは一回も撤退してないじゃない。つまり、セイバーは真正面から全部の敵を叩き潰せるぐらい強いんだ。……わかる?私、セイバーの強さに不満なんて一切なかったの」
Aランクの魔力放出に直感(?)、しかも魔力炉心持ち。で、宝具は連射度速射に優れたビーム宝具。ステータスには隙はない。
どうだ?不満点なんて、何一つなかった。
このように戦闘力は申し分ない。しかも、今回の特異点の分析・考察については、全てセイバーに頼りっぱなしだった。
正直、私の方こそマスターとして出来たことなんて殆どなく、こっちの方が恥ずかしいレベルだ。戦闘だけでなく、頭脳担当も頼りっぱなしだったのである。
「だから、セイバーを頼りないと思ったことは、今回の特異点では一度もないよ」
「……ほんとですか?」
「ほんとだって。……まぁ、さっき剣でワイバーンに苦戦したぐらいかな」
「ぐふっ……」
セイバーに結構なダメージが入った音がした。これ以上いじるのは洒落にならない気がするので、やめておこう。
「私は、セイバーはそのままでいいと思う。無理して、背伸びする必要なんて無いよ。
……でも、私のことを心配してくれてありがとうね、セイバー」
「……どうやら、一人相撲を取ってたみたいですね。あぁ…!穴があったら入りたいです……」
「穴に入るなら、せめてその前に皿洗い手伝ってね。洗い物は溜めたくないからね」
「あっはい……って、これじゃあ格好が締まらないな……」
「ふふっ。ちょっと今のノリ突っ込みロマニっぽいね、セイバー」
「ディスられてフォローも同時に入れられた人物を比喩として使われると、褒められてるのかイジられてるのか分かんないですって!」
「あははっ」
どうだろうか。セイバーの元気も、これで戻ってくれればいいのだけど。
「───でも、ありがとうございます藤丸立香。貴女のお陰で、心の迷いを振り切ることが出来ました。では改めて。サーヴァント、セイバー。真名は無し。無銘の怪物の身なれば、貴女をカルデアに届けるまで、この爪は貴女のために振います。特異点修復まで宜しくお願いします。マイ・マスター」
「うん、改めてよろしくね、セイバー」
最初の時と同じように。
あの空で、私を掴んでくれたように。
あの地で、私と契約を結んだ時のように。
セイバーは、私に手を差し伸べ。
そして、私は彼の手を握った。