転生アルビオン二号機 in カルデア   作:楼ノ卦

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08. ドキドキ!モンスター・バスター特異点-6

 

 

 

 

 大地が脈打ち溢れ出るエネルギーが、霊脈の節点から放出される。大気中へと放たれた魔力にカタチはない。無形の魔力だからこそ、魔術師たちはこれを幾つもの用途に用いてきた。

 

 しかし、この地ではそれは違う。

 大気に放たれた魔力は一点へと集まっていき、収束していく。そうして束ねられた魔力は、いつしかカタチを持つに至る。

 

 魔力が、"小型恐竜"へと転じた。

 

 

「やっぱりそうだ……」

 

 私たちは、その様子を遠くから観測していた。セイバーの考察通りだ。

 

 彼はこの特異点におけるモンスターについて、ずっと考えていた。

 

 この特異点には、モンスターは二種類しかいない。小型恐竜とワイバーン。それ以外の敵性生命体が存在しないのだ。普通の特異点であれば魔猪やゾンビ兵など、他にも多くのエネミーが自然発生している筈なのに。

 ……ではどうして、それらのエネミーは存在しないのだろうが?

 

 セイバーは、その理由を「なぜ』という観点からそれを考えていた。そうして、幾つかの可能性を模索した結果の果てで。

 セイバーは、それらが居ないのは「この特異点にとって、この二種類のエネミーのみが必要だったから」という仮説を立てた。

 黒幕は、発生するエネミーをこの二体にわざと指定しているのだ。

 

 まず、二種のエネミーの性質をおさらいしよう。

 

 まずは、ワイバーン。

 ワイバーンは人を襲う性質があり、村を襲撃する。七つの竜災と呼ばれるそれらを、サーヴァントは倒すために召喚されると村落は伝えられていた。倒すと、種火と聖杯の雫をドロップする。また、ワイバーンは恐竜も襲う。

 

 そして、小型恐竜。

小型恐竜は集団で行動する。また、彼らは森から出ることはなく、森に入らない限り人を襲うことはない。倒すと、種火をドロップする。   

 

 聖杯の雫を得ると、サーヴァントはレベルキャップが解放される。そうして解放されたレベル上限に、種火という魔力リソースは注ぎ込まれる。つまり、聖杯の雫とは魔力リソースを受け止めるための「器」であり、魔力リソースとは「器』を満たすための「水」と見立てる事かま出来る。

 

 では、聖杯の「器」の中身に相応しい「水」にはどこから手に入るモノを用いるべきなのか?それは、セイバーは、"地脈"から汲み上げた魔力であると言った。

 全てのオリジナルである冬木の聖杯戦争で用いられた聖杯でもそれは同じだった。冬木という日本で有数の霊地から、魔力を何十年も汲み上げて成立させる杯。

 それこそが、聖杯なのだ。

 

 ワイバーンは倒すと種火を吐き出すが、それでも種火を得る手段は、小型恐竜の捕食だった。故に、この世界での魔力リソースは全て小型恐竜によって成り立っている事がわかる。

 

 聖杯の中身の魔力リソースは、霊脈から生じたモノ。そして、聖杯の中身の魔力リソースは小型恐竜から生じたもの。

 

 つまり、小型恐竜とは霊脈から生じているのではないか。

 

 セイバーが打ち立てたこの仮説は、目の前の光景によって立証された。

 この特異点における小型恐竜とは、恐竜の見た目をした霊脈のエネルギーだったのだ。

 

「仮説は正しかった。ではマスター」 

 

「うん。狩ろう」

 

 セイバーは籠手から鉤爪を生成し、恐竜たちへ大振りに腕を振るった。鉤爪の軌跡から放たれるのは、嵐の暴威。セイバーの魔力放出が、遠方にいた恐竜たちを薙ぎ払っていく。

 

 恐竜たちの残骸は、種火と化しセイバーへと引き寄せられた。

 

 セイバーの頭上のステータスレベルが上昇し、現在の彼は60/60Levelと化す。

 レベル上限である。これでワイバーンが現れる状況は整えられた。私は、事前に用意していた狼煙を上げる。

 

 そうすると、いつものように。

 何処からともなく、空を羽ばたく翼の音が耳に入ってきた。

 

「セイバー。何処に撃つべきなのかは分かる?」

 

「勿論です。超知覚による存在捕捉は完了しています」

 

「じゃあ、お願い。焼き払って!」

 

「了解!倣/抜鍛せし炎剣(イミテーション・ラハット・ハヘレヴ)──────!」

 

 セイバーの掌で渦巻いた極炎が、ワイバーンへと放たれる。個体間の記憶の引き継ぎや共有をしないワイバーンに、その熱量を逃れる術はない。

 

 木々の隙間から、聖杯の雫と黄金の種火がセイバーの方に落下する。どうやら、最後の竜災は私の視界の外で焦げ滓すら残さず死亡していたらしい。落ちていくレベルアップアイテムらは、そのままセイバーに吸収されていく。

 

 彼ののレベル表示が、変化する。

 レベルキャップが解放され、60/60Levelだった彼は、70/70Levelへと上がった。

 

「あら。この黄金の種火すごいね。経験値稼ぎもせず、一種でレベルがカンストしちゃった」

 

「おそらく、叡智の業火と呼ばれる経験値アイテムですね。レベルアップアイテムとしては、最高級のモノだったと記憶しています。

…………さて。ぼくの中には聖杯の雫が七つ揃いました」

 

「これで、セイバーは聖杯を手に入れたのも同じ……ってコト?」

 

 聖杯の雫。セイバー曰く、七つ揃えると聖杯となるという特殊魔力リソースなのだとか。

それを七つ揃えたということは、聖杯を手に入れたということと同義ではないのか。

 

「はい。現在の僕は聖杯を捧げられたサーヴァントであり、その聖杯の中身は、豊潤な魔力リソース(これまでの種火)によって満たされています」

 

「でも、セイバー自身は聖杯を持ってないよね。オルレアンのジル・ドルェみたいに、聖杯をその手に掴んでるワケでもない。体内に納めるのと、体外に所持している状態は違うってこと?」

 

「はい。第一特異点のジルは聖杯の所有者ですが、ぼくは聖杯の所有者ではありません。貴女と契約しているセイバーは、"聖杯を捧げられたサーヴァント"となっています。細かい所ですが、この違いは大きいです。なんせ、この聖杯は最早、ぼくから剥がせないんですから」

 

「はぇ……そうなんだ。聖杯から引き剥がせない、なんてことあるんだ」

 

「はい。もし聖杯を回収したいなら、僕の霊核を砕いて退去させなくてはなりません」

 

「つまり、死ぬと剥がれるってコト?」 

 

「はい。そうなのです……なので、もしマスターがカルデアで聖杯をサーヴァントに捧げる時があれば、聖杯の采配に気を付けて下さいね。剥がそうとする事は、つまり契約したサーヴァントを殺すコトと同義なのですから」

 

「うっ……気を付けます」

 

 すごい恐ろしい事を言われてしまった。

 聖杯を与える霊基は十分に吟味してから捧げなさい、と彼がここまで忠告してくるという事は、かなり重要な事なのだろう。

 セイバーは、この特異点で多くの事を教えてくれた。それは、サーヴァントについての知識であったり、マスターの心構えだったり。

 

 物知りな彼からは、私は多くを学ぶ事が出来た。

 

「七つの竜災は全て倒された。人々の安寧は、サーヴァントによって守られた。これで英雄の戦いは終わり。文句無しのハッピーエンドです。……しかし、伝承によれば、七つの雫を手に入れた筈のサーヴァント達は」

 

「全員行方をくらました」

 

 聖杯を捧げられた筈の彼らは、特異点の問題が解決したワケでもないのに、全員が消え去ってしまったのである。

 

 

「さぁ、気合いを入れて下さい、マスター。

おそらく、ここからが正念場です。サーヴァントが去る条件までは達成しました。ならば、これから此処に訪れるのは"サーヴァント達を消し去ってきた何か"です」

 

「─────うん」

 

 特異点の黒幕、というやつだろう。今から行われるのは、この特異点における最終決戦だろう。

 

 今思えば、短いようで長いような不思議な日々だった。恐竜達に追いかけられてから、崖から落っこちて。そこをセイバーに助けられ、契約を結び。同じ屋根でご飯を食べた時間。

 マシュもカルデアからの声も届かない、謎の特異点で出会った少年騎士(無銘の怪物)との冒険は、今日で終わりだ。

 

 彼と二人の生活は楽しかった。礼儀正しく、しっかり者なくせに、何処か抜けていて。視界全てに瞳を輝かせ、私のどんな話も楽しく聴いてくれだ彼との生活は、本当に楽しかった。

 こんな日々が続くなんて、悪くないかも……と、そんな思考が過ってしまうくらい。

 

 でも、この冒険は彼の献身の証だ。私を無事に帰すため、彼は直向きに私を此処まで導いてくれた。私の前に立ち、全力で敵と戦ってきてくれたのだ。

 ─────であれば、彼のためにも。彼の献身に報いるためにも、此処で冒険は終わらせなくてはならない。

 

 私がそんな思索をしていると……なんだろう。周囲の様子がおかしい。私たちを取り囲む世界は、大きな唸り声を上げていた。

 まるで、世界という名の敷物が捲れているような感覚。万物が、裏返っていく。

 

 ──────きっと、何か来る。

 

「礼装のクールタイム:ゼロ!令呪装填画数:3!

戦闘準備完了!」

 

「了解ですマスター!

あと、世界の表層が推移しています!気を付けて踏ん張って下さい!」

 

 ……うっぷ。

 魔力を全身に循環させ、世界の変容による平衡感覚の揺さぶりを、全力で耐える。

 

 かくして、世界の転身は完遂された。

 さっきまでは森だった筈の場所は、消え去り。私たちが踏み締める地はいつの間にか、白い罅が走る黒い空間へと変貌していた。

 

「ここは……」

 

 何処なのだろう、と言葉を発するその瞬間。

 怖気が立つような獣意が、私を突き刺した。

 私たちが立つ謎の空間にて放たれる、剥き出しの悪寒。

 

 その正体を知るべく、私は視線を走らせる。

しかし、視線を周囲に回すもよく分からない。

もしや、と思い地面を見てもそこには何もいない。ならば、視線を移すべき場所は一つしかない。私は顎を上げた。

 

 そうして、顔を見上げる事で漸く理解できた。生きているだけで、ヒトを竦ませる圧倒的な生命規模を持ち。今まで見てきたイキモノの中で最も大きく、最も重い存在。

 

 そこには、巨大な黒き竜が坐していた。

 

「竜、ですか」

 

 セイバーの呟きが聞こえたのだろうか。

 巨大な竜が、此方へと顔を向けた。

 

『六騎目の霊基が完成したか。

…………いや、待て。そこに居る猿は何者だ?』

 

 巨大な竜は言葉を発した。竜が言葉を話せるのか?でも、無銘の怪物を自称していたセイバーも人語を話すのだし、竜ほどの怪物ならば可笑しくはないのだろうか。

 

「私は、マスターだ」

 

『マスター?あぁ、星見の魔術師か!

……だが何故だ。何故、カルデアの猿が我が特異点に侵入しているのだ』

 

………え、そっちが招いて来たんじゃないの?

 

「………どうやら、マスターがこの特異点に迷い込んで来たのはお前が原因ではないらしいですね」

 

『当然だろう。夢魔にも!バビロンの王にも!

宙の外側に座す獣にも!見つからぬように事を進めていたというのに!カルデア如きに、我々の事業を捕捉されてたまるか』

 

「それは大層な大風呂敷を広げましたね。花の魔術師には、お前の様子は観測されていたようですが。あの人が視えていたなら、大体の遠見の方々には、お前がコソコソしていたのは知られてたのでは?」

 

 ……話の流れはよく分からないけど、セイバーが竜を挑発している事だけらわかった。

 

『貴様……っ、純正の英霊ではないな!

夢魔に送り込まれた間者が……!』

 

「ぴんぽん、大正解です。……マスターをカルデアまで送り届けるのが、ぼくの最高優先事項。

故に、お前を斃してさっさとマスターを帰還させて頂きます」

 

 籠手の鉤爪を解き放ち、構えるセイバー。

 だが、眼前の竜は何もしない。振るわれるであろう暴力に、何も対応しない。それどころがら彼は腹を抱えて嗤っていた。

 

『………はっ。ふははははははははは!!まさか貴様、擬似聖杯を得たからと言って、調子に乗っているのか?そんな矮小な霊基で、我に勝てるとでも?』

 

「勝っては駄目でしたか?」

 

『滑稽だな!無相応な力を得て、調子に乗ってるのか。……あぁ、そうだ。お前の前に来た英霊も、そのまた前の英霊も同じような事を言っていた!英霊というのはいつもそうだ!

……だが、悲しいかな。これまでの擬似聖杯を得たサーヴァントは、全て我の前で凍結され、そして全て加工された』

 

 擬似聖杯に、加工だって?

 

『大口を叩いた五騎の英霊どもは、全て我によって叩き潰されたのだ。とんだ阿呆どもだ!自分達が育んできた力は全て、お膳立てされたモノに過ぎないというのに!』

 

「お膳立てって、何だ。どういうことだ……!」

 

 さっきから、この竜が何を言ってるのかさっっっっつぱりわかんない!

 

『ほぅ、カルデアの猿が一端目に聞いてくるか。思い上がったものだな。だが……まぁ、どうせ死ぬのだ。少し話を聞かせてやろう』

 

 冥土の土産に丁度いい、と竜は高揚しながらペラペラと話し始めた。

 

『定期的に発生するような仕向けた貴様ら英霊は、ただの素材に過ぎん。そして、擬似聖杯を得た貴様らもまた、我々の計画……"冠位冠奪戦"に必要なピースの一つでしかない』

 

「冠位冠奪戦……?」

 

 また、ワケの分からない単語が出てきた。

 

「いや、待てお前。……サーヴァントへの擬似的な聖杯提供、莫大な種火を与え霊基を超強化させてきたのは。まさか」

 

『はっ貴様は気付いたか。我々が目指すのは、"冠位"の乗っ取りだ!既に戴冠誘導に耐え得る器として完成した霊基は五つ!お前を入れれば六つ!そうなれば、あと一つで七騎分の誘導大召喚器は全て完成する……!』

 

「お前、獣を滅す為のセブンスガーディアンを全て乗っ取る腹づもりですか……!」

 

『そうだ。あれら全てを手中に納めた暁には、偉そうに踏ん反り返るあの獣を滅ぼし!そして、残り滓の現行人類を滅ぼし、我こそが地表を支配する!そうすれば、次代の霊長は我だ!』

 

「……マスター!」

 

「セイバー、あいつの言ってる事、全っっっつ然これっぽっちも理解出来なかったんだけど、どういうこと!?」

 

 右耳から入って来たモノが、完全に全部左耳から抜け落ちてしまってた!

 アレは何を言ってるんだ!  

 

「要は、アイツを野放しにしたら世界がヤバいって事です!人理焼却とか、特異点の謎とか全部蹴っ飛ばして人類を完全に滅ぼそうとしてます!」

 

「ヤバいじゃん!」

 

「ヤバいです!」

 

 セイバーが、簡潔に説明してくれた。

 この竜、セイバーを見習ってくれ。もっと初学者にも分かりやすく話してほしい。

 

『さて、土産話は終わりだ。完璧な計画を説いて、気持ちよく陶酔も出来た。もう満足だ。死ね』

 

「ちょっ?!」

 

 その殺意は、唐突に叩き付けられた。

 坐していた竜が、罅割れた黒き大地へと踏み出す。大地が揺れる。黒い翼を羽搏けば、人間は吹き飛ぶ。人智を超えた威様が、私の眼へと入ってくる。

 

 そうして、「戯れは飽きた。殺す」と言わんばかりに、竜は身体の芯を砕くような咆哮を上げた。

 

『■■■■■■■■■!!!!』

 

 なんて、重圧……!

 人語を解し、セイバーの挑発に乗っていた姿を見て、私はあの竜を舐めていた。いや今思うと、どうして舐める事が出来たんだ!

 

 咆哮を上げてからというもの、周囲からマナがゴッソリと持っていかれている。接収された待機中のマナは、竜の炉心によって竜の魔力としてカタチを成し、貯蓄されていく。 

 

 ──────あれは、まずい。この一、二ヶ月でサーヴァントやら怪物やら、ドラゴンなど多くの異常な存在を見てきた。でも、分かってしまった。あの黒き竜は、私が見てきた神秘の全てを凌駕する存在なのだ。

 

 オルレアンで、皆の力を合わせて撃破した悪竜ファブニール。あの恐ろしさは今でも覚えている。あれこそ、私が戦った敵の中で最強の難敵だった。

 だが、私が今、相対しているあの竜。

 あれは、A級サーヴァントを上回ったオルレアンのファブニールの強さを、明らかに上回ってる─────!

 

 竜が唸る。炉心が回る。力が込められる。

オルレアンで対竜戦闘を行った私は、あの竜の次の行動が理解出来た。

 竜の息吹(ブレス)が来る!

 

 周囲を見渡す。そこは、視界に広がる景色は全て平地であった。あの威力の息吹(ブレス)を受けて、耐えられる障害物は存在しない事は理解できる。しかし、そもそもあの竜から身を隠す場所が無いというのは、本当に致命的だった。

 

「──────」

 

 どうする?落ち着け。

 あの息吹(ブレス)から生存するには、私たちはどうすべきか。

 

 セイバーの宝具と相殺させるか……?

 だが、あの異常な魔力規模から考えると、セイバーの宝具は押し切られてしまう。

 相殺するには、令呪のサポートが必須だ。

 しかし、令呪を此処で切った後、私たちはあの竜に勝てるのだろうか……?

 

 あの一撃を凌いでも、第二波が来る。それまでにセイバーの宝具を再解放して、そのまま殺し切らなければ、第二波で私たちは灰燼と化すだろう。

 

 駄目だ。勝てるヴィジョンが浮かばない。

 でも、"戦い"を辛うじて成立させるためには、それしか方法がない。

 幸い、令呪は全て残っている。

 

 まず令呪を切って、セイバーに宝具で息吹(ブレス)をなんとかして逸らす。そうして、二射目で竜を叩く。

 無理だとしても。無謀だったとしても生き残るには、これしかない!

 

 右手に刻まれた令呪を構える。

 そうして今、高らかに我が剣に全てを託そうとした、その時。

 

「マスター。令呪はこの時の為に取っておいて貰ったモノですが、……そうですね。別の使い方で使わせて貰ってもいいですか?」

 

「……セイバー?」

 

「このセイバー霊基なのですが、実はリミッターが付いているのです。『霊基外骨格(枷)』というものですね」

 

「枷……?」

 

「………はい。ここまで、ぼくが枷を付けていたのは、マスターである貴方の負担を可能な限りなくすためです。枷の無いぼくは、文字通り暴れ馬ですから。今はまだ、マスター経験の浅い貴女が枷の無いぼく(怪物)の本性を操るとなると、自滅してしまう可能性があった。────でも、今はもうそんなコトを言ってる余裕はありません。それに、貴女が死んでしまうなんて、ぼくも耐えられない」

 

「セイバー……」

 

「令呪を使って下さい。三つフルの令呪を駆使すれば、枷なしのぼくの負担にもきっと耐えられる筈です」

 

「…………わかった」

 

 マスター歴脅威の一、二ヶ月の私では、おそらくセイバーの真の姿の負担に振り回されてしまうのだという。でも、やるしかない。

 セイバーが言ってくれたのだ。経験の浅いマスターでも、負荷に耐えてくれると信じてくれたのだ。

 

 令呪を構え直す。

 セイバーが私の前に立ち、竜を睨む。

 

 睨んだ先の竜は、まさに息吹(ブレス)の準備が整っていた。炉心で生み出された魔力の奔流が竜の首を疾走し、放たれる。

 

 私たちの視界は、放たれた紅い光で埋め尽くされた。この領域全てを薙ぎ払わんと迫る破壊の光。万物を融解させる神秘の秘奥。

 

 

 それらが、刻々と迫る中。

 

 

 彼は、世界に囁いた。

 

 

 

 

「来い、テュケイダイト」

 

 

 

 

 

 

 

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