転生アルビオン二号機 in カルデア   作:楼ノ卦

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09. ドキドキ!モンスター・バスター特異点-7(終)

 

 

 

 

 私たちが踏み締めているこの地が、セイバーを中心にして、蒼く脈動する。その脈動はいつしか三つの魔法陣のようなものを形成し。

 迫り来る赤き光に向けて、それら魔法陣から三つのナニカが射出された。

 

 飛び出したナニカは、私たちの前方へと陣を組んで。そして、視界全てに広がる赤き光を堰き止める。

 

自己補完型霊基再臨事象(レイリリース・グラフシフター)、起動」

 

 セイバーの纏う黒鎧が砕ける。粉砕された黒き鎧の残骸は白く輝き、そしてセイバー自身へと吸収されていく。

 

『霊基強度値:70.00

擬似霊基再臨素材:固定

自己霊子変換効率:良好

外界侵食速度:深度■

竜炉点火:境界竜

竜路展開:■■■・■■■■■

竜幽転星:骸竜脈動』

 

『───────いくぞ!』

 

 まず、周囲の空気が変貌した。

 世界のあり様が、変化した。この空間全てが、"セイバー"によって塗り潰された。

 

 「世界が変貌した」という情報が脳みそに流れ、それを認識するまで私は数秒の時間を要する。そんな五感が知覚を停止する状態から、なんとか頑張って持ち直そうと、歯を食い縛る。

 

………何とか世界の様相を知覚する余裕ができ、ブラックアウトし掛けた視覚を取り戻した。

 

 そうして、眼前にて仁王立ちするサーヴァントを、私を守る少年騎士を見つめ直そうとしたのだが。

 

………あれ?

 

 私の眼前にいた少年騎士は、その姿を変貌させていた。

 

『ルノー、アントワーヌ、オリブル』

 

 先程、竜が放った息吹を無効化したナニカが、彼の周囲を旋回する。

 

 セイバーが、魔法陣で召喚したナニカ。それは黒くて、巨大な刃だった。

 剣のようであり、槍のようであり、そして砲身のような、そんな不思議な刃。

 

 彼を中心に周る三本の黒刃。

 その様子はまるで惑星に追従し、周囲を回遊する衛星のようであり、刻を示す時計のようであった。

 

 そして、その三本の刃の中心に居座っている彼は騎士の姿をしていない。

 

 

「──────白い、竜」

 

 そこに居たのは、純白の竜であった。

 白き角に、白き鱗。

 白き翼に、白き尾。

 ヒトではあり得ない特徴が、彼の躯体に現れている。だが、完全な怪物というワケではなく彼はヒト型を保っていた。

 

 ……つまり、白き竜を纏った魔人?

 否。違う。それは、魔"人"の姿を模っているだけの竜だった。

 

 竜の因子を持った王、竜の血を浴びた男、悪竜現象そのもの、そして私たちが今対峙している黒き竜。

 私は一、二ヶ月の冒険で、竜にまつわる様々な存在を見てきたと言った。そして、眼前の竜はその全てを上回っている事実に絶望すらした。

 

──────しかし。

 

 今まで私が見てきたどんな竜の残滓たち、対峙している竜よりも、眼前の彼は"竜"らしく在った。ヒト型でありながら、ソレはどんな怪物よりも怪物らしい姿をしていたのだ。

 

『擬似境界態に偏位成功。だが、マスターの負担もある。格闘戦はナシだ。一撃で終わらせよう』

 

 セイバーの中央胸鱗が、突如捲れ上がる。

 露わになったのは、清廉なる蒼き至玉。

 即ち、竜の宝玉である。

 

「でも────なに、あれ」

 

麗しき蒼い御玉。だが、その美しい宝玉は、今も"ぞわり"と蠢き続ける【赤黒い泥】に塗れていた。美しい蒼い光にへばり付く、赤黒い汚泥。それを、セイバーは愛おしそうに、そっと指で優しく撫でる。

 

『馬鹿な!特異点維持聖杯による空間制御が利かない────?!一体何処からそんな霊子権限を!それに、その存在位梯は、まさか』

 

『空間制御が利かない?当たり前です。此処には、ぼく()が居る。なら、そこは境界でなければならない。「境界」という現象が生命をカタチ取ったのがぼく()ならば、ぼく()の在る空間全てが「境界」になるのは自明でしょう?』

 

『境界竜、だと?

─────あり得ぬ!世界最後の純血竜!世界最大の神秘!我らのような"残滓"ではない、真なる星の現し身!骸の御身なれど、地表へと顕れるはずが────』

 

『まぁ、そうだよね。普通は出てこないよ。ぼくも出てくるつもりは無かったし』

 

 三振の巨刃の穂先が、黒竜へと向けられた。

 

『ま、待ってく……待ち給え!我らボッタクラ竜骨の目的は、霊長の座から人類を堕とし、竜の時代を始める事にあれり!竜が空を支配し、空を自らの意のみで往く世界!地平と水平を征く御身にとって、それは悲願であった筈!』

 

『………』

 

 セイバーの動きが、止まる。

 

「……セイバー?」

 

『………確かにぼくは、外の世界をもう一度見てみたかった。世界の模様を、景色をこの眼に焼き付けたかった。愛したかった。ただ、美しいものを見つけたかった』

 

『そうであろう!セカイの営みを空より観測する事こそが、御身の至上たる歓びなれば!

ならば、我等に与するのは必然の理!』

 

『そして、ここでお前を見逃せば守護者は堕ち、獣は絶たれ、人類は滅ぶのでしょうね』

 

『然り!分け身ではない、本来の御身が我等に連ねる事となれば、それはより確実に』

 

『だから、お前は此処で絶たねばなりません』

 

 白き純血竜が、黒き竜を睨め付ける。

 

『何故!』

 

『此処に来たのは、あくまで友の義理を果たすためです。世界を再び垣間見る事は望みましたが、お前たちの創る世界に、ぼくの見たいものはない。お前の言い分を聞いてて、確信しました。それに─────』

 

 黒竜と対峙していたセイバーが、急にこちらの方を向いてくる。蒼い瞳で私を見つめて、口元を綻ばせる。

 

『ぼくが戦うのは、好きなモノの為です。

友が好きだから、此処に義理を果たしに来ました。物語が好きだからこそ、世界を守りに来ました。人間が好きだからこそ、人理を守りに来ました。─────だからこそ。ぼくは、今後ろで控えている、ぼくが好きな人を守るために戦いましょう』

 

「───────セイバー!」

 

『さぁ、マスター!踏ん張って下さい!あの悪竜を、我々の一撃で木っ端微塵にしてやりましょう!』

 

「うん!」

 

 彼が掛けてくれた明るい発破を胸に抱いて、令呪が宿る右手を掲げる。

 

「────全ての令呪を以て、我が剣に託す。

敵を討って!セイバー!!」

 

『その願い、承りました!』

 

 セイバーの展開した三本のテュケイダイトに、光芒が宿る。蒼光の稲妻が刃体を奔り、循環する霊子が猛る。

 

『いくよ。ルノー、アントワーヌ、オリブル』

 

 かの竜の翼が最大限に広げられた。それは、羽搏くための翼ではなく、自身の空間座標を固定する為の錨。概念的反動を相殺するための布石である。

 

 一方、セイバーの心臓は赤く蠢き、蒼く輝き続けている。リミッターなしで最大稼働を許された心臓は、人域を外れた魔力を生み続け。彼に許された権能が、空間に刻まれた「境界記録」を霊子に分解し、躯体に還元することで彼の存在規模は拡大し続ける。

 

 画して、次元を裂く事に特化した対界宝具のチャージが完了した。

 

 

『濡れた鼓動を、今此処に』

 

 

『垂れた雫は、星のように』

 

 

『境界にて揺蕩う竜は、最後の刻までキミを想う』

 

 

 白き竜は、まるで詩を謳い上げるように、優しく鳴いた。

 

 

『吼えろ。今を知らぬ、君への心慕(ホロウハート・アルビオン)

 

 

 世界に対する兵器の光撃が、黒き竜へと放たれた。三筋の、星のような極光が煌めく。

 

 

 防御は許さない

 回避は許さない。

 拮抗は許さない。

 

 三振りのテュケイダイトから発した極光の奔流が世界を唸り裂き、軌跡を描いて奔り続ける。残念なことに、その力に耐えられる存在はこの特異点には存在しない。

 

 故に、かの純血の竜と相対してしまった時点で。セイバーが人を好きになった時点で。あの竜の野望は、完膚なきまでに終わっていたのだ。

 

 特異点の黒幕たる黒き竜は、極光の前に何も成すこともなく。この世界から消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 眩ゆいほどの極光が煌めき、視界全てが白に包まれる。その光を前に、人体の反射に基づいて、瞬きを数回してしまう。

 

「……ふぅ」

 

「あ、元に戻ってる!」

 

 瞼に0.3秒間だけ蓋をしただけで、セイバーは元の少年騎士の姿に戻っていた。

 

「ふふっ、この姿の方が騎士っぽくてカッコいいです。竜態は楽ちんですが、オシャレは我慢が基本ですからね。いや、我慢すらも楽しめる………それが人間のオシャレなんですね」

 

「えー?確かに今の騎士鎧も良いかもしれないけど、ドラゴン形態の方もカッコよかったよ?」

 

 気恥ずかしそうに、セイバーが頬をかく。

 

「…………いやー、アレは肌着みたいなモノですから。人間でいう所の短パン・タンクトップ一丁のようなモノです。確かに、タンクトップは合う人が着ればカッコいいですが、露出が多いのでやっぱ恥ずかしいですよ」

 

「ドラゴン形態ってそういう感じなんだ……」

 

 ドラゴンへの変身は、なんか追加装備を着込んで強化しているイメージを勝手にさせて貰っていたが、どうやら服を脱ぎ捨ててるイメージの方が正しいらしい。

 

「さて、これで特異点の黒幕は倒せました」

 

セイバーが指を鳴らすと、私たちの前に五つ光の塊と金色の杯……聖杯が現れた。

 

「これが、今回の特異点の戦利品……ですが」

 

彼はいきなり五つの塊を上方へと投げ飛ばし。

 

倣・抜鍛せし炎剣(イミテーション・ラハット・ハヘレヴ)!」

 

 宝具を以てそれら全てを粉砕した。

 

「ちょ?!」

 

「うん。あの五つの誘導体は、この世界にあってはならないモノですから。流石に再利用されたら、たまったもんじゃありません。なので、すみませんが破壊させて頂きました」

 

「……まぁセイバーが言うのなら、それは正しいんだろうね」

 

 世界がヤバくなる原因であったのなら、セイバーに感謝しなくては。

 

「というワケで……マスターには、こちらを差し上げます」

 

 そう言って、彼は私に杯を差し出した。

 

「聖杯!」

 

「特異点を維持していたモノですね。こちらはただの魔力リソースなので、カルデアに持ち帰って有効活用しちゃってください」

 

「ありがとう!でも、これで聖杯を回収出来たってコトは……」

 

 セイバーの姿が揺らぎ、光の粒へと解れ始めた。

 

「この特異点は崩壊します。

そして、ぼくは退去ですね」

 

「………アレ?カルデアからの通信は来てないんだけど、私って戻れるの?」

 

そう!今回の特異点では、カルデアからの通信は一回も来てなかったのである。管制室で帰還準備をしてくれなければ、私は帰れないのでは?

 

「ちゃんと戻れますよ。この特異点に来た貴女は、肉体をこっちに持ってきていませんから。精神だけが、ゆら〜〜って迷い込んだ感じですね。今回の特異点の出来事は、夢を見ているような感じです」

 

………あ、そうだ。確かこの特異点に来る前まで、私はベッドで寝ていたままだ。

 

「なので、特異点から戻れば、魂と肉体と精神はちゃんと結合します。ベッドから目覚めれば元通りなので、安心して下さい」

 

「そっか……ならよかった」

 

「でも、マスター。これからは気を付けて下さいね。貴女はウトウトしてると、特異点だの誰かの夢の中目掛けて、精神だけが飛んでいってしまうような性質を持っているようですから。多分また、この手の事件は起こりますよ?」

 

「うそ?!」

 

「嘘じゃないのです、コレが」

 

 マジですか………

 でも、今回はセイバーが居てくれてよかった。彼がサーヴァントとして動いてくれたお陰で、私は此処まで生き延びる事が出来た。

 

「でも……次にこんなコトがあったら」

 

次に同じような事が起きて、無事でいられる保証はない。ただでさえ、初っ端から小型恐竜とワイバーンのコンボで死に掛けたのだ。

 もしセイバーに間一髪キャッチされていなかったら、私は地面のシミになっていただろう。

 

「─────もし、貴女に誰一人として味方が居なければ。胡散臭くとも、手を差し伸べてくれる方々すらもおらず、貴女が脅威に囲まれてしまった時があったら。そんな、絶望的な状況に至ったら。

 その際は、ぼくを喚んでください。カルデアの支援も、貴女の魔力も何もかも足らず、英霊召喚をする下地すらなくとも。ぼくは、必ずマスターの下に向かいます」

 

「セイバー……?」

 

 セイバーは、これまでに無いほど真剣な顔で私に向かい合う。

 

「そして、最後に。

………貴女がこれから、どれだけ辛い旅路を辿ることになっても。沢山の外敵と対峙しても。………どれだけ、嘲笑われることがあったとしても。貴女には、味方が居るという事を忘れないで下さい。友達の生存を、幸福を心の底から願っているドラゴンが、宙の果てで祈っている事を忘れないで下さい。

 

 ─────と、いうワケで!

これで縁は結ばれました。少しすれば、フェイトに捕捉されて召喚される筈です。このセイバー、無銘の怪物の身ですがカルデアでもしっかりと働かせて頂くことを約束します。再び、カルデアで会える日をぼくは待っていますよ!」

 

 !それは嬉しい!

 セイバー、カルデアに召喚出来るのか……!

 

「えぇ。マスターも、その日が来るのを楽しみにしておいて下さい。おそらく、即・来ますので身構えておいた方がお得ですね。

─────では、また明日!貴女に会える日を楽しみにしています!」

 

「──────また明日!私、カルデアに来るのを待ってるよ!」

 

 

 そうして、セイバーが完全に光となって消えるのと同時に、私の意識も黒い領域に沈んでいった。

 

 

 

 








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