大急ぎで指令室へと駆け込んだ俺を出迎えたのは、神通だった。
「お待ちしておりました、提督。どうぞこちらへ」
神通の後ろをついて室内へと入ると、そこにはもう一人艦娘がいた。
片目に眼帯をつけ、白と水色を基調としたセーラー服のような服を着た艦娘。
確か名前は木曽だったはず。
木曽は横目で俺の姿を見た後、机の上に置かれてある海図へと視線を戻した。
「現在、鎮守府近海に出現した敵艦隊はこちらに向け進軍中。編成としては軽巡「ヘ級」が一隻、駆逐艦「イ級」が三隻です」
「大した数じゃないな。それで提督、こっちはどう出る?」
「すぐに迎撃部隊を向かわせます。編成は第二戦隊に任せます」
第二戦隊。
それは、軽巡二隻、駆逐四隻からなる編成で、現状の鎮守府において最高戦力といっても過言ではない編成だ。
「わかりました。第二戦隊、出撃準備をお願いします」
俺とのやり取りを終えた神通は第二戦隊に出撃命令を下している。
そんな神通を横目に見ながら、木曽が話しかけてくる。
「なあ提督。あの戦力に第二戦隊は過剰戦力じゃないのか?」
木曽が言うことはもっともだ。
おそらく彼女や神通であれば、もっと少数の戦力で対処しただろう。
俺がこの編成を選んだ理由。
それは俺なりの優しさだった。
彼女たちは深海棲艦と戦うために生まれた存在。
そんなことはわかっている。
だが、俺からすれば彼女たちも普通の人間と変わらない。
そんな彼女たちが傷つく姿を、俺は見たくなかった。
「そうかもしれませんね」
そんな気持ちを悟られないように、俺は苦笑いを浮かべながらそう答えた。
鎮守府を出撃した第二戦隊は、旗艦である軽巡「
「もうすぐ作戦海域クマ。警戒態勢を厳とせよクマ」
球磨の号令を聞いた艦娘たちは表情を引き締め、それぞれの武装を構える。
「前方、敵艦隊発見です!」
「攻撃開始クマ!」
球磨の合図とともに、艦娘たちが一斉に攻勢を開始する。
比較的射程の長い球磨と多摩が、スピードを緩めながら砲撃。
発射された砲弾は放物線を描きながら飛んでいき、駆逐艦「イ級」に着弾する。
イ級は黒い煙を上げながら進行を停止。やがてゆっくりと海水へと沈んでいった。
続いて軽巡「ホ級」、および駆逐艦「イ級」が反撃を開始する。
しかしイ級から放たれた砲弾は球磨たちより遥か手前に着弾し、激しい水しぶきを上げる。
残されたホ級の砲弾も、回避行動をとっていた彼女たちにあたることはなかった。
「一気に畳みかけるクマ!」
一隻減ったことを好機ととらえた艦娘たちは、全速力で深海棲艦へと近づいていく。
そして、魚雷の射程内へと入った瞬間、一斉に魚雷を発射した。
魚雷は白い軌跡を描きながら深海棲艦に向かって進んでいく。
慌てて回避行動をとる深海棲艦たちだが、放射状に広がっていく魚雷を避けることは不可能だ。
次の瞬間、轟音とともに激しい水しぶきが上がる。
魚雷にあたった深海棲艦たちはみな、海の藻屑と化していた。
「敵艦隊撃破完了。こちらに損害はありません」
神通からの報告を聞いて、俺はほっと胸をなでおろした。
「やるじゃないか」
「勝てたのは俺のおかげじゃありません。皆さん、艦娘のおかげです」
「ま、それもそうだな。それじゃあ俺はあいつらを迎えに行ってくる」
そういうと、木曽は帰ってくる艦娘たちを出迎えるために部屋を出て行った。
「私も彼女たちの出迎えに行ってきます。提督はどうされますか?」
「俺は執務室に行きます。いろいろとやることがありますから」
「わかりました。それでは失礼します」
執務室の椅子に座るや否や、糸が切れた操り人形のようにぐったりとした。
神通にはやることがあるといって別れたが、落ち着きたかったというのが本心だ。
(俺の指揮で、彼女たちの命運が左右される)
気づけば俺の掌は汗でぐっしょりと濡れており、小刻みに震えていた。