今後も不定期更新になると思います
俺が提督になってから一週間が経過し、提督業務にも慣れてきたある日の出来事であった。
「ちょっと提督!どういうつもりよ!」
そういって俺を怒鳴ているのは、先ほど海域攻略から帰還した駆逐艦「
曙は薄紫の長い髪を揺らしながら、鋭い目つきで俺のことを睨んでいる。
青と白で彩られたセーラー服のような服装は、被弾した影響でところどこに焼け焦げた跡がある。
そんな痛々しい彼女の姿を見据えながら、「なにがですか?」という。
「どうして撤退命令をだしたのよ!私はまだ戦えたのに!」
時は数時間前にさかのぼる。
深海棲艦に支配されている海域を奪還すべく、攻略艦隊を派遣した。
その時だった。
「艦隊より入電、駆逐艦「曙」が被弾。損傷は軽微とのことです。どうされますか、提督」
「撤退を命令します」
俺の命令を聞いた神通は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに「わかりました」と了承し、撤退命令を伝えた。
「いいのか?敵の本体まであと少しだろ?」
撤退命令を聞いた木曽は、不思議そうな顔をしながら俺に聞いてくる。
「艦娘の無事が優先です」
「……そうか」
俺の言葉に思うところがあるのか、少しの沈黙ののち了承した。
その後、帰還した艦隊から手短な報告を聞き執務室へと戻ったが、撤退命令に納得できていない曙が執務室に乗り込んできた。
「被弾した艦娘を進軍させるなど、俺にはできません」
「何それ?私たちのことを信用してないの?」
「そういうわけでは……」
「もういい!」
これ以上のやり取りは無駄だと思ったのか、声を荒げてやり取りを切り上げた曙は、苛立たしさを露わにしながら執務室を出て行った。
残された俺は、大きなため息を吐いたのち、背もたれに体を預けた。
彼女たちを信用していないわけではない。
実際、あのくらいの被弾であれば問題なく敵艦隊を撃破することができただろう。
だが、傷ついた彼女たちに進軍命令を下すことなどできない。
傷つく彼女たちを見たくない。
そして、俺の指揮で彼女たちを殺したくない。
そんな自分勝手な考えが、俺の中にはあった。
(我ながら、軍人失格だな)
そんなことを思いながら、俺は目を閉じた。
執務室を出た曙は、戦闘の傷を治すために温泉に来ていた。
妖精によって生み出された彼女たちは、人間と同じ治療方では治すことができない。
その代わり、妖精が開発した特殊な入浴剤を湯船に混ぜることにより、傷を治すことができる。
そのため帰還した彼女たちのほとんどは、疲れと傷を癒すために温泉へとやってくる。
「あ、曙ちゃん」
そういって声をかけてきたのは、駆逐艦「
うなじ付近で結んでいる黒髪は、今は温泉内ということもありほどいている。
「司令官と話してきたんでしょ。どうだった?」
「どうもこうもないわよ。あのクソ提督、私たちのことをまるで信用してない」
「そうかな?」
「そうに決まってるでしょ。そうじゃなかったら、あれくらいで撤退するわけないじゃない」
「確かにそうだけど……」
言葉に詰まる吹雪。
「きっと、司令官には何か考えがあるんだよ」
かろうじて絞り出した言葉は、言い訳もいいところだ。
当然そんな言葉が聞き入れられるわけもなく、曙は不満げな表情を続けている。
「私、司令官に直接聞いてくる」
これ以上議論を続けてもお互いのためにならないと思った吹雪は、提督の真意を確かめようと、そそくさと温泉から出て行った。
頭上には満点の星空が広がっており、目の前にはどこまでも続く水平線が広がっている。
そんな水平線を、俺は防波堤に座りながら眺めていた。
昔から悩み事があると、こうして海を眺める癖があった。
「こんなところにいらっしゃったんですね」
声のほうを向くと、そこには吹雪がいた。
吹雪は屈託のない笑顔を浮かべると、俺の隣に座った。
「曙ちゃんが怒ってましたよ。私たちのことを信用してないって」
「そういわれるのも無理ありませんね……」
「司令官は、私たちのことを信用してますか?」
「もちろんですよ」
「でしたら、どうして進軍を許可しなかったんですか?」
「それは……あなたたちの安全を優先して……」
口ごもる俺を、まっすぐに見つめながら吹雪が話し始める。
「司令官、私たちは艦娘です。多少の損傷では沈むことはありません」
「わかっています。ですが……」
「大丈夫です。私たちはみんなここに帰ってきます。ですから、信じてくれませんか?私たちを」
今度は笑顔を浮かべながら、優しく話す吹雪。
そんな吹雪を見て、俺はあることに気づいた。
提督とは、彼女たちを指揮するだけの立場ではない。
彼女たちを信じ、彼女たちが沈まないように作戦を立て、指揮を執る。
それが、提督なのだと。
後日、海域攻略へと出撃した艦隊。
その艦隊の指揮を執っていた時だった。
「艦隊より入電。駆逐艦「曙」が被弾。損傷は軽微とのことです」
「神通、無線を貸してもらえますか?」
いつもと違う行動に戸惑いの表情を見せたが、すぐに無線を差し出した。
「曙、進軍に問題はありませんか?」
俺の問いかけに対し、曙は自信満々の声で『当然よ』と返してきた。
「わかりました。進軍を許可します」
傷つく姿を見たくないという考えは変わっていない。
だが、彼女たちを信じ、意思を尊重することに決めた。