冬空の異邦人、春を待つ   作:あいいろのふとん

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第14話 他愛のない話

 アタシの名はサルサ。今じゃ「果断のサルサ」なんて、ちょっとばかし大層なあだ名で呼ばれることもある。まあ、あながち間違っちゃいないかもしれねぇが、そんなカッコいいもんじゃねえよ、本当は。

 

 生まれは、ここスリムリンからずっと東にある、小さな森の中の獣人の村だった。猫の獣人の集落でね。アタシには母親の記憶がない。村の奴らに聞いても、誰も何も教えてくれやしなかった。きっと、何か厄介な事情があったんだろうな、と子供心に察してはいた。

 父親はいた。村の守り人とかで、「豪傑」なんて大層なスキルを持ってやがった。その父親からは、物心ついた頃から厳しい訓練を受けた。いや、訓練なんて生易しいもんじゃねえな。ただの折檻だ。

 

「オレの娘なのになんだそれは!」

 

「この出来損ないが!」

 

 何度、そう罵倒されたか覚えてねぇ。アイツは、スキルの有無は本人のやる気がないからだとか、平気で抜かしやがるクズだった。村に来た商人から女を買い、奴隷を買い、飽きると殺してそこらに放置する。その後始末をするのは、いつもアタシの役目だった。吐き気をこらえながら死体を運び、火をつけ、土に埋める。何度も何度も、誰にともなく謝りながら。地獄みてぇな毎日だったよ。

 

 他の村人は何してたんだって? ただの無視だ、無視。厄介者のアタシたち親子には関わり合いたくねぇってわけだ。当たり前だよな。誰もがアタシから距離を置いて歩く。そのくせ、やれあれを狩ってこいだの、なんだのって面倒な仕事だけは押し付けやがった。

 

 アタシを含め、村の猫獣人は、あの「豪傑」を持つ父親に抗えなかった。アタシたち猫獣人は、魔物に対して力の面で大きく劣る。一体の魔物を討伐するのに、何人もの命を賭けなきゃならねえ。だが、アイツは違った。大剣の一振りで、屈強な魔物さえも屠りやがる。ああ、神様なんていねぇって、本気で思ったね。こんなクズ野郎が「豪傑」だなんて、ンな話あるかよ!

 

「豪傑」のスキルは、守るモンが多いほど効力が上がるらしい。だから、アタシたちは生きるためにアイツにへつらうしかなく、アイツもまた、力を維持するためにアタシたちを必要としていた。守るモンが無くなった途端、そのスキルは無に帰すってわけだ。

 

 だが、こんなクソみてぇな日々は、本当に、本当にあっけなく終わった。

 

 あのクズ野郎が死んだんだ。

 

 ある日、いつものように殺した魔物を肩に担いで村の柵に辿り着いた時、門が閉まっていた。ただ、それだけだった。その日の門番の当番の子が、クズ野郎に殴られた傷で熱を出して動けなかった、ただそれだけ。

 

 村に入れない。恐らく、それが「守るモノからの拒絶」として「豪傑」スキルに作用したんだろう。クズ野郎は門をこじ開けようとした瞬間、普段は片手で軽々と振り回す大剣の重みに耐えかねてバランスを崩し、担いでいた魔物の下敷きになって、あっけなく死んでいた。

 

 笑ったね、アタシは。どれだけ村人を殴ろうが、金品を奪おうが、女を弄ぼうが何の影響もなかったくせに、たったこれだけのことで死ぬんだから。

 

 そして、アタシはすぐに村を抜けた。抜けるついでに、村の古株のジジイに母親のことを聞いたら、なんて答えたと思う?

 

「お前は奴隷の子じゃ」

 

 だとさ。クズ野郎が買った奴隷の女の具合が良くて、気に入って生かしてたんだと。まあ、ある程度まともな答えが返ってこないだろうとは思ってたけどよ。

 

「ワシらも相伴にあずかったがアレハイイモノダッタ」

 

 ジジイは、下卑た笑いを浮かべてそう言いやがった。

 

(何言ってんだこいつ。まあいいや、殺そ)

 

 アタシが自分の意思で人を殺したのは、それが初めてだった。感想? 魔物を殺すのと、何ら変わりなかったな。別に大したことは無え。

 

 そこからは村を出て、このスリムリンの街に流れ着いた。何の因果か、また魔物を殺す羽目になったがな。幸い、クズ野郎のクソみてぇな教えのおかげで、アタシは人よりゃあ圧倒的に戦えた。周りが苦労するような難所も、いくつか潜り抜けてきた。

 

 多分、そこからだったかな。アタシが自分の運命ってやつを呪い始めたのは。

 

 アタシが加入したパーティーでは、必ずと言っていいほど問題が起きる。ドロドロした人間関係、役割の軽視、金銭問題。前に進もうにも、必ず誰かが足を引っ張る。

 

 アタシを追放したパーティーが、二週間後にはもう解散してたなんて話も聞いた。その後のパーティーでも、アタシの不運は止まらねえ。ダンジョン内で仲間の一人が手を失って死んだ時なんざ、その責任をアタシに擦り付けやがった。

 

(ンだよ、アタシが見捨てただって!? 全員で決めたことじゃねえか! 誰が土に塗れて罠を解除し、魔物を一足先に狩ってると思ってんだ?! なんでお前らがこんなにも楽に歩けてると思ってんだ?!)

 

 もう、アタシは面倒になっちまった。アタシを追放して、新たに人族の女のシーフを入れたパーティーが、一ヶ月もしないうちに全員死んだって話を聞いた時は、もうスカッとしたね。まあ、そのせいでギルド側から幾分かありがてぇお説教を頂く羽目になったけどよ。

 

「仲間と揉めるな」

 

「お前の行動が人を殺しているんだぞ」

とかなんとか。もう何も覚えてはいねえがな。

 

 アタシの名はサルサ。

 

 自分を呪う斥候だよ。他愛もねぇ話だろ?

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