儚く散りゆくあなた   作:-つくし-

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1歩

「ひなーの、ハンバーグ追加ね。それとオムライスも2つ」

 

 

 ついに始まった学校祭、空澄は自クラスの思わぬ反響に戸惑いながらもなんとか接客の仕事を全うしていた。三年生にお客は座れ物好きが1,2年の縁日を回るものだと空澄思っていたが最早そんな規模ではなかった。そこら中が生徒で溢れており並んでいない所を見つけ出す方が難しかった。

 

 

「あれセナ?もしかしてメイドやってるの?」

 

「そうですよ。どうですかのあちゃん、可愛いでしょ?可愛いって言ってくれてもいいんだよ?」

 

「言わねーよ」

 

「ねえなんでよ!」

 

「空澄!、サボってないで...って、のあちゃんか」

 

「歩夢君!そのスーツよう似合ってるわ」

 

「そう?俺的にはなんか堅苦しくて早く脱ぎたいんだけど」

 

「ちょっと、のあ先輩。私にも言ってくれなきゃ拗ねますよ」

 

「まあまあまあとにかく空澄は接客戻れ、俺も戻るから。油打ってる暇がないくらい人で溢れてる」

 

 

 束の間の雑談だった。この時空澄は胡桃のあと桐谷歩夢の関係性を深く考えてはいなかった。

 

 

「ようやく昼休憩か!!マジ疲れた早く脱ぎたいわこれ!」

 

「はいはい、お疲れ様。午後もあるんだから着てなさい」

 

「俺らしかいないから少しくらい許されない?」

 

「あんたバカじゃないの?私も一応年頃の女の子なんですけど」

 

「空澄だしいいかなって」

 

「なんでよっ!」

 

「ツッコミのキレがましたんじゃないか?空澄」

 

 

 普段は屋上にたむろっている2人だが風紀委員の教室を借りることに成功し、そこで昼食を食べていた。桐谷が1年次風紀委員だったこともあり、胡桃のあと同学年の風紀委員長花芽すみれとの交渉を経て今に至る。様々なクラスを巡って手に入れた焼きそばや焼き鳥、その他お菓子類を机に並べた。

 

 

「やっぱ学祭っていったらこうだよな。もうなんかなんでも美味しく感じるわ」

 

 

 午前の部で疲れきった桐谷は獲物を捉えたピラニアのように目の前にある料理を片っ端から口に入れていた

 

 

「食べすぎたら午後動けなくなるんじゃない?ほどほどにしな」

 

「わかってるよ、俺もそんな馬鹿じゃない。っていうか悪い空澄!ちょっと用事あるから五分くらい席外す」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 

 足早に教室を出る桐谷を見送った直後、空澄は違和感を覚えた。空澄が知っている限りお手洗いの時はお手洗い、友達に呼ばれた時はその友達の名前、先生の時は先生とちゃんと誰かを明確にして伝えていた。しかし今回はそのどのパターンにも当てはまらなかったのだ。杞憂に終わることを願ったが万が一があると怖いと感じ空澄は桐谷の後をつけることにした。

 

 

「桐谷...その来てくれてありがとう」

 

「まあ別にどうってことない」

 

「あの単刀直入に言います!私と付き合ってください!」

 

 

 誰もいない廊下で桐谷は告白されていた。空澄は日頃のゲーム知識を活かしスニークに徹した。おそらく見立てでは隣のクラスの子、加えてそこそこ人気がある子だった。恋愛に疎い空澄が知っているくらいだった。

 

 

「ただいま空澄」

 

「ん、遅かったんじゃない」

 

「いや自分との戦いだったね、お腹壊してて」

 

「ふーん、肉が生だったんじゃない?」

 

「だとしたらもっとやばいだろ...」

 

 

 結果だけ言うと、桐谷は勇気あるあの子を振っていた。ごめんの3文字で見事に切り捨てたのだ。熟考する感じもなくあたかも最初から答えは決まっていたかのようだった。急いで帰ってきたのであろうか息が上がっていた。同じく後をつけていた空澄もこんなに早く終わるとは当然思ってもいなく、なれないメイド服のまま、走って元の場所に戻ることを余儀なくされた。

 

 

「...薬飲まなきゃな」

 

 

 空澄は毎度薬の量を見る度に言葉を失ってしまう。未だにこの光景に慣れていなかった。

 

 

「空澄はさ、もし異性から告白されたらどうする?」

 

「え、恋バナ?急にどうしたのさ」

 

 

 空澄は1度かまをかけた、しかし追随を許さないかのように同じ質問をされたのだった。

 

「あんまり考えたことないかも。でも1回は考えるかな、この人と付き合ったらどんな感じなんだろうって」

 

「そっか。じゃあさ空澄の好きなタイプは?」

 

「うーん、強いて言うなら優しい人、かな。優しい人って言っても...。難しいな。人に対して思いやりがあって...悩んでる人がいたら寄り添っちゃうような人がいいかな」

 

「なるほど。案外ちゃんとしてんだな」

 

「うっさい、真面目に答えてやってるんだから感謝しなさい。あとはなにごとにも一生懸命な人かな」

 

「ふーん。ありがとう真面目に答えてくださって」

 

「ん、苦しゅうないぞ桐谷」

 

「なんでそんな時代劇みたいな感じなのさ」

 

「気分だよ」

 

「服とミスマッチすぎる」

 

「確かに」

 

「じゃあ桐谷はどうなのさ、好きなタイプ」

 

 

 桐谷は右手を顎に当てあたかも考えている装いを見せた

 

 

「同じかな、優しい人。こんな俺でも受け入れてくれる人」

 

 

 空澄はその言葉をどう受け取ればいいかわからずなるほどと聞いた側にしてはあまりにぶっきらぼうに会話を終えてしまった。

 

 

「みんな一日お疲れ様!!」

 

「いやー長かった!」

 

「でも結構上手くいったんじゃない?」

 

「だな!」

 

 

 学校祭を無事に終え、クラスには打ち上げムードが漂っていた。しかし空澄には気がかりな点があった。桐谷がいないのだ。

 

 

「のあちゃん、俺また告られたんだよね。隣のクラスの子、しかもそこそこ人気がある」

 

「やっぱり歩夢君はモテモテやな、さっすが私の自慢の弟」

 

「やめてよ恥ずかしい。弟じゃないしそれで誤解されたんだからやめてって言ったじゃん」

 

「え〜今は2人だけだからいいやんけ〜」

 

「まったくもう」

 

 

 空澄の勘は今日限りは鋭かった。先程の場所に舞い戻ってみるとそこには桐谷と胡桃が談笑していた。桐谷は空澄が今まで見てきたような穏やかな表情ではなく思い詰めた様子だった。空澄はバレないように物陰に隠れて二人の会話を聞いていた。

 

 

「それでまた振っちゃったの?」

 

「...もちろん。心苦しかった」

 

「何回目なんやろね、5回以上あるんじゃない?」

 

「多分、そうだと思う」

 

「1回付き合っちゃえばいいじゃん」

 

「無理だよ...だって」

 

「僕とのこと...まだそんなに引きずってるの?」

 

 

 空澄は絶句した。胡桃の意味深な発言が今ここで答え合わせになるとは考えてもいなかったからだ。

 

 

「...そりゃ引きずるよ」

 

「あれはさ...まだ僕たちが幼かったからああなっちゃったわけでさ、今はほら、また元通り仲良くできてるじゃん」

 

「それはのあちゃんが優しいからだ。俺はあの時のあちゃんを傷つけた、いっぱい苦しい思いをさせた。しまいには病気を棚に上げるような...そんなやつだった」

 

「そりゃ中学生なんだからさ、人は間違って成長していくんだよ?」

 

「でも俺はのあちゃんに甘えてばかりじゃいられない。だいたい、のあちゃんも振ったのだって寿命が近いからで...」

 

「ううん、僕が歩夢君に相応しくなかったんだよ」

 

「そんなことない!!そんなことない...そんなことなんてないんだ...。俺の言い訳なんだ、寿命があるからってそれでずっと逃げてたんだ」

 

「とにかく、歩夢君はまた新しい1歩を踏み出すべきや。僕はずっと歩夢君を応援してる」

 

 

 桐谷は心残りだった。寿命があるからと振った胡桃の想いを無視してまた新たな恋愛に臨むなど烏滸がましい行為であると自分では思っていたからだ。そんな背中を押したい胡桃とまだ1歩を踏み出せないでいる桐谷とで齟齬が生じていた。

 

 

「じゃあさ、次告白してきてくれた子と付き合ってみれば?」

 

「それはその子の想いを無碍にしたくないよ...。やっぱり付き合うならちゃんと俺が好きになった子がいい」

 

 

 そうは言ったものの、桐谷はどこか気の乗らない顔をしていた。

 

 

「のあちゃんはさ、もし俺がまだのあちゃんのこと好きだって言ったらどうする?」

 

「え〜!なんやそれ照れるじゃん」

 

 

 胡桃は1度恥ずかしがるような素振りを見せたが、すぐに切り替えて口を開いた

 

 

「それは嬉しいよ。歩夢君がまだ僕のこと好きでいてくれたらさ。でも僕はもう吹っ切れた。歩夢君はいい彼氏やった。歩夢君と付き合えたっていうその事実だけは僕は十分だよ」

 

「...そっか。のあ姉ちゃんが言うなら俺も変わらなきゃいけないかもな」

 

「え〜!久しぶりにその名前で呼んでくれたやん!嬉しいわ〜」

 

「うるさい、恥ずかしいだからこっち向かないで」

 

「もしかしてまだ僕のこと好きだったの?」

 

「...いいや聞いただけ。ほら、そろそろみんなが心配するから戻るよ」

 

 

 空澄は内心穏やかではなかった。桐谷と胡桃は思っていたよりも親密だった。彼女にとってはそれは全く言っていいほど関係ない、しかし心には深く何かが刺さっていた。胡桃と話している桐谷の表情が教室に戻って学校祭の振り返りをしてる時でさえ離れることを許さなかった。

 

 

「打ち上げってこんなに人来るんだね」

 

「そりゃ打ち上げだよ?来ない人の方が少ないっつーの。あ!この肉焼けてる焼けてる〜」

 

「あ、おい!それ俺のだぞ」

 

「かみーとのか、じゃあいいか」

 

「扱い雑すぎんだろ!桐谷と空澄もなんか言ってくれよ」

 

「まあ、いいんじゃねーか。お似合いだぞ」

 

「私もそう思う」

 

 

 かみとと橘、空澄と桐谷とで温度差が明らかだった。前者はいつも通り夫婦のようなやりとりをしていた。

 

 

「せっかく打ち上げ来たんだからもっと楽しむべきだよ?お二人さん。かみーとが焼いた肉渡すからさ」

 

「おい!」

 

 

 来れる人できる限り集めて行われている打ち上げは強制的ではないのにも関わらず全員出席していた。男女混ざっての席が決められていて各々思い出話に花を咲かせていた。しかし桐谷と空澄はそうではなかった。各自思っているところがあるからだ。

 

 

「なんでこんなとこ連れてきたんだよ、空澄」

 

「聞きたいことがあるの、少しくらい付き合って」

 

「少しだけな、親が心配する」

 

 

 打ち上げが終わったあと2人は人気の少ない公園に腰を下ろした

 

 

「なにかあった?」

 

「何かってなんだよ」

 

「昼食とる時、あんたは用事あるって言ってたじゃない。それはなんなの」

 

「...」

 

「私には言えないことなの?」

 

「...ありがたいことに告白されたんだ。でも振ったよ」

 

「...そっか。じゃあ2つ目。あんたとのあちゃんの関係は」

 

「関係って、幼なじみだよ。仲良いなって思ったしょ。家が近くて家族仲も良くてさ、物心がついた時から一緒だったんだ」

 

「なるほどね。じゃあさ最後なんだけど、あんた学校祭終わったあとどこいたの?」

 

「...空澄だったのか。誰かいる気がしたんだ、でも空澄だとは思ってなかった」

 

 

 空澄再度腕を組み直して桐谷へ質問を投げかけた

 

 

「もう1回聞く。のあちゃんとはどういう関係」

 

「元カノだ」

 

 

 もう少し周りくどい言い分がくると空澄は思っていたがそんなことはなくストレートに欲しかった答えが返ってきた

 

 

「のあちゃんは幼なじみで彼女だったんだ。そして俺の病気も知ってる、俺の唯一の理解者だったんだ。病気が発覚した直後の俺は荒んでたんだ。頭では余生を楽しむって意気込んでてもやっぱり追いついていなくて。よく自暴自棄になってた」

 

 

 桐谷は深く息を吸い込んでもう一度話し始めた

 

 

「そんな時の心の支えが...のあちゃんだった。最初から好きではあったんだ、友達として。でもそれがいつの間にか恋愛の好きになってたんだ」

 

「今も仲良いじゃん。なんで別れちゃったの」

 

「俺が悪いんだ。いつの間にかのあちゃんに甘えすぎてたんだ。でもほんとにのあちゃんのことが好きかがわからなくなったんだ。ずっとおんぶにだっこで情けなかったな」

 

 

 桐谷は思わず苦笑した

 

 

「成長するに連れて、付き合っていることに罪悪感に覚えたんだ。俺なんかでいいのかって。それで気持ちが薄れていって、最終的に振った。その時は寿命を言い訳にしたんだ。のあちゃんが優しくしてくれて俺と付き合ってくれてるのは俺が病気だからって思ってしまったんだ」

 

 

 桐谷は饒舌な方では無いが今日は何故だか口がよく回った

 

 

「遊ぶ時とかもわざとぶっきらぼうにしたり、あえて無視したりなんかして。でものあちゃんは振ったあともずっと今みたいに話しかけてくれた。のあちゃんが俺に向けてくれた優しさは病人に対する慈悲なんかじゃなくて、ただ純粋に俺のことを好きでいてくれたんだ。それで初めて気づいた。俺はずっとのあちゃんのこと好きなんだって。でも見事に振られたよ。俺も切り替えなきゃな」

 

 

 下に向いていた顔を勢いよく上げ宣言していたが、どこか苦しげな表情をしていた。

 

 

「男子も難しいね」

 

「え」

 

「え?」

 

「いや...なんていうかもっとボロクソに言われるのかと思ったから拍子抜けで」

 

「確かに思うところはある。私の大好きな先輩を振りやがってとは思ってる。でもさ人は間違えを犯しながら生きてくんだよ。のあちゃんの想いは好きっていう感情ではないけど、桐谷を今もこうやってずっと見てくれてるじゃん。のあちゃんはきっと桐谷に前を向いてほしいと思ってる。私はそう思ってる。過去を忘れてまた新しい1歩を踏み出して欲しいって」

 

「そうかな」

 

「うん、きっと」

 

「実はのあちゃんにはお見通しだった。私と付き合ってることに罪悪感あるでしょって。高校に入って聞いたんだ。私はちゃんと歩夢君が好きだったって。今になってさ、それがなんか情けなくて時々思い出しちゃうんだ。それでものあちゃんは俺のことを許してくれてるのかな」

 

「桐谷の話を親身に聞いてくれてた、それが答えだよ」

 

「そうなのかな...」

 

「ほんっとにあんたは...。考えすぎ。私が聞いてあげようか」

 

 

 荒治療ではあるが空澄は胡桃に直接電話で聞いてみることにした。突然の行動に桐谷は慌てふためいていたがそんなのお構いなしだった。

 

『なしたー?ゲームでもする?』

 

「いやそうじゃなくてさ、桐谷のことについて聞きたくて」

 

『えー!セナ歩夢君のこと好きなん?喜んでお話聞くけど』

 

「そうじゃなくてさ、桐谷のことどう思ってるかなって」

 

『え〜急に言われても困るな〜。そうやな、大好きな幼なじみ、かな』

 

「じゃあ元カノとしては?」

 

『え?!なんでセナそれ知ってるん?!』

 

「それはおいおい話すよ、それで答えは」

 

『う〜ん、付き合ってた時間はすごい幸せやった。幼なじみって垣根を超えた関係になれたのが嬉しかった。最後の方は実はあっちが冷めたみたいで悲しかったけど、全然怒ってないって感じかな』

 

「ほんとに怒ってない?」

 

『怒ってたら怒ってるっていうもん。本当に怒ってない』

 

「だってさ、桐谷」

 

『え?!歩夢君おるの?恥ずかしいわ〜』

 

「...ありがとう、のあちゃん。俺さ、また、1歩踏み出して、いいのかな」

 

『ちょっと、男なんだからシャキッとしなさいよ。うん、頑張りや、僕は応援してるよずっと』

 

「俺のこと、許してくれますか」

 

『許すも何も怒ってないし!まあ悲しかったけど、許しますよ。僕は背中押したげるから』

 

 

 桐谷はその言葉だけで救われたような気がしていた。気がつけば空1面の星空が桐谷のことを見守ってくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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