最強魔剣少女のトレーナーを辞めただけなのに   作:ホルン

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俺、トレーナー辞めます

 

 

 

 ――――――『魔剣少女』

 

 

 

 それは人類史に存在した魔剣の、その魂を持つ少女達。

 

 魔剣の神秘とその名を宿し、平和な世界に生まれた不可思議で奇妙な存在。

 

 彼女たちが何を求め、どこに向かうのか。

 

 それはまだ、誰にも分らない。

 

 

 

***

 

 

 

 ―――以上、魔剣少女ブレイドマッチのパンフレットより抜粋。

 

 

 

 

 まあ、自分には関係のない話だが。

 

 こっちは生まれて20年と少々、魔剣としての銘も神秘もないただの人間だ。世界中が熱狂しているブレイドマッチの華である魔剣少女なんて、比べるのも烏滸がましいレベルの一般人具合である。

 

 自分は名護(なご)

 

 名護カナタ。

 

 ただの人間である。

 

 つーか男。

 

 少女ですらねぇ。

 

 とはいえ、魔剣少女と接点が全くないかと言えば、案外そうでもない。

 

「おー、よくできてるじゃん」

 

 魔剣少女の育成・公式試合を担う中央機関(セントラル)のパンフレット。その華やかなデザインの冊子を眺めながら呟く。

 

 中央機関に所属する指導者(トレーナー)に毎年送られるものだ。

 人間のトレーナーには直接かかわりのないパンフだが、魔剣少女を鍛える者である以上は、目を通しておけという事なのだろう。

 

「今年のデザインも凝ってんな………」

 

 魔剣少女と言えば、年間を通して行われる競技『試合剣舞(ブレイドマッチ)』である。

 世界各国で超人気のエンターテイメントだし、茶の間で流れるテレビを見ればその話ばっかり。そろそろ最強の魔剣を決める一大イベントまで控えていたので、その熱の入りようは理解できるってもんである。

 

 試合盛り上げる謳い文句と、魔剣少女の更なる参戦を呼びかけるキャッチフレーズ。そして現最強と名高い魔剣少女が大きく写されている。

 

「………そんなにじっくり見られると、少し恥ずかしいな」

「美人だし大丈夫だろ。事実上、最強の魔剣は村正だ。誰に見せても恥ずかしくないぜ」

 

 なんとも言えない表情で、パンフに映っていた実物が頬を掻く。

 

 流れる様な紫紺がかった黒髪と整った顔立ち、軍服と着物を折衷したような競技装束(バトルドレス)。言動とは裏腹に落ち着いた姿勢を崩さないのが、村正と呼ばれた魔剣少女だ。

 

 魔剣少女がしのぎを削って戦うブレイドマッチの、その栄光の果てに辿り着いた者。

 

 あらゆる魔剣の頂点。

 

 事実上の最強。

 

 それが『村正』だ。

 

「他ならぬ私のトレーナーの言葉だ。なら、心配はないな」

「チャンピオンから信頼のお言葉、光栄だね」

「こら、茶化すな」

 

 いやまあ、実際光栄な話だろう。

 

 強さを求める魔剣少女は研鑽し、トレーナーは彼女達を鍛え上げる。その関係がある以上、魔剣が最強になったという事実、その隣に立つという栄誉は揺らぐことはない。

 

「ありがとうな、村正」

「大変なのはこれからさ、ようやく私の目的に向かうスタートラインに立ったところなのだからね」

()()()()()()()()()()()()()()()()()、か」

 

 まだ彼女が何者でもない、無名の魔剣だった頃。

 

 最弱とさえ言われていた魔剣が、堂々と言い放った言葉だ。

 

 当時のブレイドマッチと言えば魔剣の持つ、強力な能力がぶつかり合うことが華とされていた環境だ。

 

 魔剣の性能頼りの大味な戦いであり、言ってしまえば生まれ持った魔剣の能力で全てを決めかねない時代だった。

 

 その時代に意を唱えたのが村正だ。 

 魔剣の能力など強さの一端に過ぎない。古今東西、最古から最新まで、あらゆる魔剣が最強になりえることを証明するのだと、彼女は言った。

 

「実際、伝説の魔剣達に、一歩も引かねぇんだもんな。知ってるか? 魔剣同士のレスバの頂点は村正って話だぜ」

「当時はがむしゃらだったんだ………、あまりいじめないでくれ」

 

 大地支配、天候制圧、絶対必中、万物切断、未来視、例を挙げればキリがない。

 比較的近代に生まれたとされる歴史の浅い妖刀が、神話や伝説の能力がひしめく魔剣のライバルを押しのけ頂点に至ったというのは偉業というほかない。

 

 当時ではありえないことだ。

 

 つまり彼女は、どの魔剣も最強になれると身をもって証明したわけだ。

 

「けれど、ようやく、ようやくここまで来たんだ」

「まあ、いろいろあったよな」

 

 現在の無名の魔剣が頂点に君臨することを恐れたトレーナーの名家からの妨害とか、海外からのヘッドハンティング騒動とか、あとは魔剣の力を利用しようとする悪の組織と戦ったこともあったっけ。

 

 どれも今思えばいい思い出………じゃないな、普通に大変だったわ。

 

 悪の組織との戦いは普通に死にかけたし。

 

「すべて君のお陰だ」

「よせよ、剣の振り方教えただけだぜ?」

「そうだ、君が私に力をくれたんだ」

「どうだかね………」

 

 俺はトレーナーとしては凡才も良いところ。

 唯一、覚えがあった近所の剣術道場仕込みの術理を詳しく村正に教えたら、上手くハマったくらいのものだ。

 

 そもそも同じ道場に通っていたのが村正だったので、教えた事すらも中途半端だが。

 

「なんにせよ、これからが大変だ。お前の理想、叶うと良いな」

「ああ、魔剣少女の育成、トレーナーの意識改革、ブレイドマッチの更なる発展、どれも困難な道だが。君とならきっと上手く行くさ」

「………ん?」

 

 村正の言葉に首を傾げる。

 

 妙な沈黙がトレーナー室に満ちる。

 

「これからも私たちで頑張るんだろう?」

「いや、専属契約は終わったよな?」

「え?」

「え?」

 

 そもそも、俺達の契約期間は村正がチャンピオンになるまでだ。

 細かい内容は他にもあるが、年度更新の相互承認を除けば、チャンピオンになれば契約が解消されるような形で、俺と村正は契約を結んでいた。

 

 なので厳密に言えば、俺はもう村正のトレーナーではないということになる。

 

 あとは村正がチャンピオンになって、諸々の手続きで俺がまだ出張っていたというだけだ。

 

「そ、そんな契約だったかな?」

「まあ、最初はノリとテンションと口約束みたいな結成だったしな、俺達」

 

 どうやらしっかり者の村正らしくないが、契約を忘れていたようだ。

 まあ、チャンピオンになってからというもの、マスコミやらメディア対応に追われてそれどころではなかったのだろう。

 

 状況を理解したらしい彼女が黙り込む。

 

 心なしか顔色も悪い。

 

「なぜ教えてくれなかったんだ?」

「特にそっちから話もなかったし、問題ないのかと」

「そんな訳ないだろう!」

 

 村正が怒鳴って立ち上がる。

 が、途中で我に返ったのか、ハッとした表情ですまないと謝る。

 

「そ、そうだ。再契約をすればいいじゃないか。思えば、君には負担を掛けてばっかりだった。これを機に待遇を見直すのはどうかな?」

「あー、まあうん、そうだな」

 

 やはり言わなければダメなようだ。

 

 このまま自然消滅するなら、それでよかったのだが。

 

 まあ、もはや過去の話とはいえ、パートナーだった間柄だ。最後くらいは正式に話くらいはするべきだろう。

 

 背筋を伸ばし、真っ直ぐに村正の目を見る。

 出会った時よりも強く、美しくなった紫紺の魔剣少女は、何かを待つように俺を見ていた。

 

 

 

 

「俺、村正のトレーナーやめようと思うんだ」 

 

 

 

 

 

 

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