学園銀河ヒッチハイク・マスター   作:ごまぬん。

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ご覧の作品は学マスの二次創作で間違いありません。



“ぼくの一番星”

 

 宝珠がピカッと光った。地球からの着信。

 

「プロデューサー!!」

 

〈藤田さん!! 無事ですか!? さっき雑貨屋のご主人から連絡があって───でも、通信が繋がらなかったんです。事情は伺いましたが……!〉

 

 ジジッ、という小さなノイズ。通話に差し障るほどじゃないけど音声が乱れてる。

 これまでLINEやDiscordなんて目じゃない圧倒的通信品質徹底的レスポンス速度を提供してくれてた宝珠が、なんで……!?

 

〈バロディックのジャミングだな。連中の常套手段だ、だが宝珠の力を上回るなんて……いや、そのための純二次元人か! 確かに彼らの技術なら、超古代の遺物である宝珠にも対抗できる……〉

 

「きゅうーっ!!」

 

 ことぬいは相も変わらず国士無双の称号に恥じない戦いぶりを見せてくれてるけど、さすがにちょっと動きが鈍くなってきた。

 こんなことならバットの1本でも持ってくるべきだった、野球の特訓ってアイドルに関係あったんだね咲季……いや少なくともアイドルには関係ねーだろ。

 

〈ご主人、マルチバースの警察や軍隊は何を?〉

 

〈どこの星もバロディックには手を焼いてる……。ましてや場所は“至天の奈落”だ、関わり合いになりたくないのかもしれない。そもそも、あそこは距離的にも遠すぎる〉

 

 絶体絶命を超えた絶体絶命だ。もう高校生なのに声出して泣きそう。けど泣かない、だってあたしアイドルだもん。

 ……ヤバい思考が現実逃避し始めたぞ! どうしよどうしよッ、このままじゃ本当に……!

 

〈───……ね、……。……───。コト……〉

 

 その時、頭の中にかすかな音が響いた。

 最初は聞き間違いかと思ったけど、この感覚は知ってる。

 

「この声……。───監督?」

 

〈よ……。……───ヨー、コトネ! よかっタ……気づいて、くれたか……〉

 

 純二次元人のリーダー、監督だ!

 よかった……おじいちゃんの予想通り、無事だったんだ……!

 

「監督っ! 生きてたんだね。いまどこ?」

 

〈私たちのことは……心配、要らない。知ってるだろう? 俺たチ、こう見えテ結構ヤれるんだぜ〉

 

「それは……でも、おじいちゃんがバロディックに捕まってるんだろうって……。やっぱり元気ない?」

 

〈いいんだ、本当に。それより……コトネ、プロデューサーくんたちと話せるかい?〉

 

 監督のテレパシーは弱々しくて、戦場の喧騒にかき消されそうだったけど、あたしの心に深く染み入った。決意の声だ。

 あたしは宝珠をぎゅっと握って、監督とプロデューサーを繋げようと念じる。

 

〈プロデューサーくん、私だ。監督だ。状況は把握しているね〉

 

〈監督……? ミクノモノモスの? ……なんかキャラ違いませんか?〉

 

〈いいか、よく聞いてくれ。これから私たちの全能力を使って、マルチバース全土に“門”を開く。私たちの多くは、バロディックに捕らえられてしまったが……一部の仲間は難を逃れた。いま、スタジオで配信の準備をさせている〉

 

 ミクノモノモスのスタジオで、配信の準備……それって!

 

「あたしたちの配信で、マルチバースの人たちに呼びかけるってこと!?」

 

〈そうだ。私たちの出会いは、キミたちとの絆は、何一つ無駄じゃなかった。きっと、これが運命だったように思う───〉

 

〈……いますぐ使えるステージを探してきます! スタジオでも講堂でも……セットがあるならどこでも!〉

 

〈私も伝手を当たってみよう。これでもマルチバースの政治屋の二人や三人に顔が利く〉

 

 これは─────いける。

 いけるぞ、藤田ことね! ここまで来て、負けてたまるか……!!

 

「ことぬい、あとちょっとだけ頑張って! あたしも……」

 

 ペシャンコになって伸びてるニゲドゥに近づく。

 その懐から光線銃を……あーやっぱ壊れてるな……でも、コイツだって曲がりなりにもカルルラハル星人だ。

 えーっと、直したいものを右手に握らせて……こう。

 

「よいしょっ」

 

「ギェエェ!?」

 

 あたしにはことぬいほどの怪力はないので、とりあえず弱そうな頭の触手を引っ張ってみた。普段なら謝っているところだが相手が相手なので慈悲はない。

 ニゲドゥの第3の目が輝き、左手からみ〜って音がして、ぴかぴかの新品になった光線銃が出てくる。大成功!

 

「……あたしも一緒に戦う! 勝つよ───みんなで!!」

 

「きゅ─────っ!!」

 

 頼もしい吠え声、もふもふの毛皮にも少しツヤが戻った気がする。

 さぁ、反撃開始といこうか!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「外出ゥ?」

 

「はい。2〜3時間ほど……」

 

 ネビュ田ブラックホー郎、54000歳。

 勤続35000年───無遅刻、無欠席。

 

「そりゃかまわんが……午後の会議に間に合うのかね」

 

「ことね船長が復活配信をするのです。それは私にとって全てに優先されることです」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 その“神のひと声”は瞬く間に、

 

真実(マジ)かよネビュ田クン……!?」

 

船長(コトネチャン)が……!!」

 

船長(コトネチャン)が!!!」

 

幻想(ユメ)じゃねえよな……!?」

 

「還って来る……オレ達の“黄金時代(ゴールドラッシュ)”が還って来る!!」

 

「すぐ“出撃”するッ……!!」

 

 全マルチバースの悪童(ドルヲタ)共の“(ロケット)”に火を付けた!!!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 至天の奈落の戦場は、光と炎が渦巻く地獄だった。

 星空の煌めきは火薬の炸裂に上書きされ、遠くで戦艦の残骸がキラキラと散る。

 

「───わーっはっはっはっは!!」

 

 けど、そんなの関係ない。

 ここはもうあたしたちのステージだ。

 

「世界イチーっ?」

 

〈〈〈かわいい!!〉〉〉

 

「宇宙イチーっ?」

 

〈〈〈かわいい!!〉〉〉

 

「もっともっと声出せっ♡ よそ見はダ〜メ、OKーっ!?」

 

〈〈〈〈〈イエス!! ユア・マジェスティ!!〉〉〉〉〉

 

 ……プロデューサーから、十王会長が手を回して講堂の使用許可を取り付けてくれたと聞いた時は目眩がしたけど、それはさておき。

 

 ごめん、まだ地球には帰れません。

 いま、“至天の奈落”にいます。

 このマルチバースの命運を決する最終決戦で、あたしは歌っています。

 本当は、初星学園が恋しいけれど、でも……。

 いまはもう少しだけ、知らないふりをします。

 あたしの作るこのステージも、きっといつか、誰かの青春を乗せるから。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 宇宙海賊『バロディック』首領、キャプテン・ンゴロミィは訝っていた。

 

 彼が本来欲していたものはひとつだ。ミクノモノモス星を制圧し、純二次元人が持つ禁断の知識でもって、『猟犬』の干渉を受けない時空間航路を手に入れること。

 そしてこれまで多くの宇宙でバロディックがそうしてきたように、略奪は滞りなく完了した。完成した時空間航路を通り、多元宇宙の果ての果て───“至天の奈落”に辿り着いた時点で、ンゴロミィの必要は満たされていた。

 

 だから、これは余興だ。

 最果ての主にして“白き闇”の王、アリュゾホート・マグサリナス。彼の操る眷属『外道十一神将』。

 その戦力については、何年も前から把握している。いまのバロディック本体が誇る100万の無敵艦隊ならば、彼らを殺せる。そう確信していた。

 

「もっともっと声出せっ♡ よそ見はダ〜メ、OKーっ!?」

 

 それが───取るに足りないと思っていたイレギュラーの存在で、覆った。

 

〈〈〈〈〈イエス!! ユア・マジェスティ!!〉〉〉〉〉

 

 フジタコトネ。バースα-12345の地球という辺境惑星からやってきた、何の変哲もない二足歩行型霊長種。

 彼女が戦場の中心で歌い、踊っただけで、マルチバースの全土から応援が駆けつけた。徹底的に蹂躙し、バロディックの恐怖を刻みつけたはずの腰抜けの群れが。

 

「───殺すか」

 

『混沌の王の鎖号』のブリッジで、ンゴロミィは呟いた。

 すでにフジタコトネは余興を盛り上げるための花火ではない。バロディックの全精力を傾けて排除すべき敵、キャプテン・ンゴロミィの牙で引き裂かれるに値する獲物だ。

 

「主砲、エネルギー充填開始! 座標入力、射角修正!」

 

 衝角を兼ねる舳先の主砲、荒々しく削り出された四角錐状のクリスタルが光る。

 それは極超高エネルギー粒子を集束・加速・発射し、命中箇所に擬似的な真空崩壊を引き起こす万物粉砕の熱光線だ。

 

「撃て」

 

 冷ややかな宣告と共に、宇宙が揺れる。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 遠くで、小さな光が瞬いた。

 

 

 

 すべてが消えた。

 

 真っ白な洪水が視界を押し流し、風の裂ける爆音が聴覚を埋め尽くした。

 肌に触れ、肺を出入りする空気が焼けるように熱い。

“死ぬ”ってこういうことなんだっていうのが、嫌でも理解できた。

 

「……、……! ───……。───!!」

 

 それでも。

 あたしの身体は、まだ輪郭を保っていて……それがどうしてか、すぐにわかった。

 

「───こ」

 

「きゅ……。きゅ……、きゅー……!!」

 

「ことぬいっ!!」

 

 押し寄せる光と熱の濁流を、ことぬいが受け止めている。

 ことぬいの前には、薄いピンク色に輝く半透明のエネルギーの盾。見渡す限りの景色の中で、これに守られている領域だけが唯一無事だった。

 

「きゅうっ! きゅっ、わふ!」

 

 だけど、その守りも絶対じゃない。

 もとい───あたしは知っている。光の槍やレーザーの弾を防ぐことぬいの毛皮は、それでも無敵じゃなかった。

 透き通る花の色の盾が軋む。表面に亀裂が走り、端のほうから割れ砕け始める。

 

「ダメ、ことぬい……!! 逃げて! あたしのことはいいからッ!」

 

 盾の亀裂から、わずかに光が漏れ出した。それは鋭利な熱と風のカッターだった。

 掠めたことぬいの毛皮が焼け焦げて、傷口から溢れた血の玉さえすぐに蒸発して消える。

 

「きゅううぅぅぅぅぅっ……!!」

 

 地面がガリガリと削れる。ことぬいの白い毛皮に、赤黒い痕が増えていく。

 一際大きい圧力が襲った。あたしとことぬいはもみくちゃになり───そこで止まった。

 

「きゅ……わふ───!」

 

 その代償に、ことぬいはアザラシモードの巨体を保てなくなった。

 ここに来て光の盾が輝きを取り戻し、押し寄せる破壊の波をわずかに押し返す。光の盾が輝く度に、ことぬいの身体が破裂して欠けていく。まるで自分自身を力の燃料にしてるみたいに。

 

「あ───こと、ぬい……」

 

 声も出ない。

 足が動かない。

 乱れた前髪の隙間から見える世界が、現実から逃げるように滲む。

 

「……きゅ、……。……───」

 

 変化が起きた。

 自分の身体を力の燃料として焼き尽くし、そこにはもうことぬいの姿はなかった。

 

 代わりに現れたのは、あたしに背を向ける少女───手のひらサイズのぬいぐるみモードを、そのまま大きく引き伸ばしたような。

 金の三つ編みに、カルルラハル星人の子供用パーカー。あたしが毎日のように、鏡の中に見る姿。

 

「───あた、し?」

 

 ことぬい───いや、もうひとりのあたしになったその子が、静かに口を開く。

 

「ことね」

 

 ……それが彼女の、生まれて初めての“ことば”だった。

 

「ぼく……たのし、かっ、た。おうさまの……めいれいで、めざめて……から。ずっと、ことねと……いっしょ、だった」

 

 たどたどしくて、せっかく喋れるようにはなったけど、まだまだこれからなんだろうなと思わせる声。

 あたしとよく似た……というかたぶん同じだけど、少しだけ素直そうで純粋な声。

 

「だいじょう……ぶ。ことねは、ぼくが……まもる。おうさまに、たのまれたから」

 

「…………、……」

 

「それ……に、ぼく」

 

「………………やだ」

 

「ことねのこと」

 

「やだよ、ことぬい」

 

「だいすき、だから」

 

「やめてよ……」

 

 動かない足を、殴って動かす。

 震える喉で、吐き出すように言う。

 

「───そんな最後の別れみたいなこと、言わないで!!」

 

 あたしじゃないあたしを、思いっきり抱きしめる。

 どこにも行かないように。最後まで一緒に戦うために。

 

「ことぬい、頑張れ!! あんた強いよ! あたし───信じてる!! 絶対負けないっ!!」

 

「ことね……」

 

 ……やらせるもんか。

 やらせるもんか、やらせるもんか、やらせるもんか!!

 この子はあたしだ。あたしの藤田ことねだ。世界一かわいい、あたしの『ことね』だ! マルチバースの誰にだって渡さない!!

 

「……ありがとう」

 

「ねぇ、ことぬい……ことね! あたし……あたしも───!」

 

「ううん」

 

『ことね』の瞳に妖しい光が灯った。それを見た瞬間、頭の中に違和感。

 頭痛じゃない。純二次元人のテレパシーに近い。けど、それとは違って鈍くとろけるような感覚がある。

 腕が……『ことね』から、離れて───。

 

「う……! あ、ことね……!」

 

「ごめんね」

 

 ───違う。

 そうじゃない。安い謝罪の言葉なんて要らない。

 

「……泣かないで、ことね」

 

 あたしは……あたしは、もっとキミと、

 

「笑顔は……アイドルの基本、でしょ? ことねは、きっと、そのほうが───絶対、かわいいから!」

 

 光の中で両手を広げて、『ことね』はあたしを振り返った。

 ─────太陽みたいな、100点満点の笑顔で。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「何だ」

 

『混沌の王の鎖号』の主砲は、最大出力ならば単一の星系すら消し飛ばす絶対の暴力だ。

 現在は攻撃規模を調節するため出力を絞っているが、それでもアリュゾホート・マグサリナスの外道十一神将に深手を負わせるだけの威力がある。

 

「何が起きた?」

 

 それを、あのようなペット如きが防ぐなど─────。

 

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