学園銀河ヒッチハイク・マスター   作:ごまぬん。

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帰還

 

 全部が終わって、あたしはもう一度だけ空を見上げた。

 

 バロディックの艦隊は壊滅状態。遠くの方へ墜落していって、次々に爆発する音が聞こえてくる。残ってる戦艦も、ワープゲートを開いて逃げていく。

 置いてきぼりを喰らった戦闘員たちは……ちょっとかわいそうだけど、まぁいいか。自業自得だ。

 

【8888888888888】

 

【ことね船長、サイコー!!!!!!】

 

【俺たちの絆の勝利だ!】

 

【みんなかわいかった!!!】

 

【怪我人は野戦病院へ!ムポタマス星の医療船が来てます!】

 

【ちくわ大明神】

 

【誰だ今の】

 

【咲季ちゃん結婚して!】

 

【ほなリーリヤちゃんはワイがもろてええか?】

 

【←殺す…】

 

【俺バロディックだけど感動した】

 

【←草 おまわりさんこっちです】

 

 コメント欄は大盛況。スマホの画面の端っこには、うっすら人型っぽいデフォルメ調のドット絵……純二次元人だ。本当なら圏外のところを特別に、配信画面を見せてもらっている。

 つまり、監督たちはちゃんと逃げて助かったってことだ。よかった。

 

「終わったか。ご苦労様」

 

 ふわっと軽い気配が近づいてくる。ちっちゃいアザラシのぬいぐるみみたいな姿、アリュゾホートさん。

 

「……ことぬいのことは残念だったが」

 

 ───その名前を聞くと、いまでもズキリと胸が痛む。

 

「代わりってわけじゃないけど、キミの友達を助ける話は手配しておいた。ムポタマスの医療船だ、詳しいことはそこで聞くといい。それに、キミ自身の手当ても必要だろ」

 

「……、……はい。ありがとうございます、でも」

 

 でも。

 だからこそ、誇ってあげなきゃ。

 

「あたしは元気ですよ。『ことね』の───あの子のおかげです」

 

 それを聞いたアリュゾホートさんが、小さく笑った。

 マイクから玉石の形に戻った宝珠をぎゅっと握って、祈りを捧げる。ここ“至天の奈落”は、あの子やアリュゾホートさんたち“白き闇”にとっての牢獄であり、同時にお墓らしい。だから……。

 

「ちょっとぉ、ことねちゃん? ねぇねぇ〜、わたしも頑張ったんですけど〜!」

 

「わ……、あ、アカシャさん。いや……その、忘れてたわけじゃないですって」

 

 ふわりと飛んできたアカシャさんに、後ろから抱きしめられる。アリュゾホートさんの部下(?)で、途中から『ことね』に代わってあたしを守ってくれていた魔女っぽい人だ。

 顔は狐のお面に隠れてて、あとさっきまでは余裕なくてよく見てなかったけど、なんか大陸産のソシャゲに出てきそうな妙に出るとこ出てる……エセ和風? アジア系? なファンタジー衣装をまとっている。

 う〜むしかし、後頭部から背中にかけてを包み込むこの母性的な感触……莉波先輩を彷彿とさせるが、あるいはそれ以上やもしれん。

 

〈藤田さん〉

 

 宝珠から通信。いつもの慇懃な、けれどどこか険の取れた声色。

 

「プロデューサー」

 

〈お疲れ様でした。本当に───素晴らしいステージでしたよ〉

 

〈うんうん。わたしたちも、すっごく楽しかったわ! マルチバース向け配信、やっぱりこれからも続けたいわねっ〉

 

〈ははは……。けど、そうですね。なんだか一足先にトップアイドルになった気分で……宇宙ヤバイってこういうことなのかな〉

 

〈こ゛と゛ね゛ち゛ゃ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!! あっ、あたし……あた゛し゛ぃ゛……! なんか……すっごい感動したよお゛ぉ゛ぉ゛!! う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!〉

 

〈花海さんの語彙力が涙と共に身体から溢れ出ていますわ……!? ど、どうかお気をしっかり持ってくださいまし〜!〉

 

〈ふー……。……ん、ことね。前から言おうとは思ってたんだけど……帰ってきたら質問攻めにするから、ね。そのつもりでお願い〉

 

〈てかさ、いまのことねっちめ〜っちゃかわいくない!? あたし髪下ろしてるトコ初めて見たかも!〉

 

〈そうなのかい? 確かに、言われてみれば珍しい気もするね。綺麗だよ、ことね〉

 

〈ふふっ。ことねちゃん、本当にお疲れ様。無理はしないでいいから、ゆっくり帰ってきてね。みんな待ってるよ〉

 

〈ことね……しばらく見ない内に、大きくなったわね。さすがは私の見込んだアイドルだわ〉

 

〈……藤田ことねさん。こういうのは……今回限り、ですから。まりちゃんを助けられなかったら殺しますよ〉

 

 プロデューサー……みんな……!

 ……なんか約1名質感の違うヤツ混じってるけど、まぁ勝って兜の緒を締めるという意味ではありがたい忠告かもしれない。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 数日後、地球への帰還の日。

 

 ムポタマスという星から来た医療船とやらで、ワニャガルネペンタの中毒症状を治す薬を作ってもらった。

 ……その時のお医者さんがなぜかあさり先生と激似──極端に白い肌でエルフみたく耳が尖ってることを除けば──だったのには驚いたけれど、これで今度こそ万事解決だ。

 

「アリュゾホートさん。お世話になりました」

 

「大したことはしてない。あの時の歌の礼だ、気にするな」

 

〈ソレじゃあコトネ、“門”を開くゼ! 僕たちノ案内にアリュゾホートのパワーがあレば、地球まデ直通だ。やっト友達を助けられるナ!〉

 

 あたしのスマホに入っている監督のテレパシーを聞いて、コクリと頷く。

 アリュゾホートさんが手もといヒレをかざし、監督が何やらスマホの画面上でうねうね動くと、“門”───七色に輝く巨大な光の渦が現れた。

 

「……あ。そうだ」

 

「アリュゾホートさん?」

 

 するとアリュゾホートさん、何やらふわふわ飛んできてあたしの頭の辺りへ。

 どうしたんだと思っていると、

 

「───あいたっ!?」

 

「枝毛だ。もてなした客を下手な格好で返すわけにはいかない」

 

「へ……あ、そ、そーですか……。こりゃどうも」

 

 ……これも、“白き闇”流のお茶目かな?

 まぁいいや。それじゃあ、気を取り直して───。

 

「さよーならアリュゾホートさん、監督っ! ───ご縁があれば、またどこかで!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────真っ白な光の回廊を進んだ奥に、唐突に現れるものがある。

 

 おじいちゃんのお店で働いてた頃、開けるなと言われていた奥のドア。

 その正体は、マルチバースに繋がるワープゲートだった。アリュゾホートさんと監督の計らいで、帰還する場所をここに設定してもらったわけだ。

 

 ドアを開けた途端───知っている匂い。

 商店街のやや西の方にある、小さな雑貨屋。温かみのある木のインテリア。どこから仕入れているかまったく想像のつかないお香。いくつかの便利そうな金属の道具。

 

「帰って……きた」

 

 知っている場所。知っている光景。

 何もかも懐かしい、あたしの故郷───地球だ!

 

「おかえりなさい、ことねちゃん」

 

「おじいちゃん!!」

 

 知らず、身体が駆け出していた。

 おじいちゃんにぎゅっと抱きついて、なんだか……こうしてると、本当の家族みたい。

 やがて、離れて見上げたおじいちゃんの瞳は、旅立つ前と変わらない深い海の青だった。

 

「ご苦労だったね。本当に……本当に、よく頑張ってくれた」

 

「ううん、いいの。あたしがやりたくてやったことだし」

 

「そう言ってくれると助かるよ。あぁ、ワニャガルネペンタの治療薬は?」

 

「ここに……そうだ、早く手毬に渡しに行かなきゃ。おじいちゃん、あたし───」

 

「もちろん、早く手毬ちゃんに渡してあげないとね。でも……ことねちゃんが行く必要はないよ」

 

 ─────え?

 

「あれから……しばらく、考えていたんだ。キミや手毬ちゃんが悪いと言いたいわけじゃないが……やはり、私たち地球人に、マルチバースとの接触は早すぎる」

 

「何……言ってるの? おじいちゃん……」

 

「ことねちゃん。ひとつ間違いを訂正しておこう。私は『猟犬』の餌が有機物だと言ったが、それは正しくない」

 

 お店に漂うインテリアの木とお香の匂いに、鼻をつく異臭が混じった。

 これは、一度だけ嗅いだことがある───忘れようがない。おじいちゃんと初めて宇宙に旅立った時、ワープゲートの中で嗅いだ異臭。

 

「奴らが喰らうのは有機物じゃない。命だ。心ある生き物が過ごした“時間”そのものだ。ことねちゃん」

 

「おじいちゃ───」

 

「いまからキミは代償を支払う。至天の奈落での戦いで、マルチバース中にワープゲートを開いたね。純二次元人の使う時空間航路は確かに安全だが、それにも限度がある。『猟犬』が───通行料を取り立てにやってくる」

 

『猟犬』。

 時と空の狭間に潜む、鋭角の怪物。

 

「でも、安心して欲しい。私は彼らと交渉した……お互いの利益となるように。今回の事件に関わった地球人全員の、マルチバースにまつわる記憶。それが通行料だ」

 

 地球人……全員の、記憶。

 ───それは、つまり、今回の旅の思い出だ。カルルラハル星の事件、ミクノモノモス星の配信バトル、至天の奈落の戦い。そして、『ことね』との出会い。

 

「……明るく振る舞ってはいるが、わかるよ。キミにとって、この旅は良い思い出ばかりではなかった。キミくらいの年頃の女の子が、そんなものを背負う必要はない。『猟犬』の赦しを乞うためじゃない……忘れたほうが、ことねちゃんのためだ」

 

「───そんな。おじいちゃん、あたしは……!!」

 

『猟犬』は、もうここにいる。

 小さな雑貨屋の中に存在するすべての角度───アクセサリーの尖ったパーツ、メモ帳の切れ端、段ボール箱の角、直線と直線の間に存在するすべての領域から、彼らがこちらを見ている。

 

「すまない。……さようなら、ことねちゃん」

 

 

 

 

 その声を最後に、おじいちゃんは姿を消した。

 

 商店街のとある一角は、まるで何年も前から空き家だったかのように、綺麗さっぱり片付けられていた。

 おじいちゃんが一体どこに行ってしまったのか、この地球上の誰も知らない。

 

























次回、最終回となります。
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