学園銀河ヒッチハイク・マスター   作:ごまぬん。

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動画配信ナンバーワンバトル!

 

 ミクノモノモス星の民・純二次元人たちは、ご覧の通り普通の生き物ではない。

 そんな彼らに必要な養分は、この世のあらゆる生き物が持つ()()()───“感情のエネルギー”であるという。

 んでこの人たち、その“感情のエネルギー”をより効率よく集められないかと考えた末に、動画配信者を始めることにしたそうだ。配信サービスも自前で運営しているらしい。行動力の化身……。

 

【俺タチの城ニようこそ〜!!】

 

 純二次元人のリーダー、『監督』って名乗ったヤツに連れられて、西部劇風の町のど真ん中にあるスタジオっぽい建物に到着。

 外壁の一面が巨大なスクリーンになってて、純二次元人たちがウロウロしてる。ちなみにインベーダーだかマリオだかのようなドット絵の人型は()()()()()のフォルムで、実は2次元の平面上ならば自由自在に姿を変えられるそうな。よって、スクリーン上には犬のマスコットやらアニメ調の美少女やら謎の卵型アイコンやらが入り乱れており……世界観が迷子だ……。

 

「おぉ〜……、お? ……ん? ……んん……」

 

 んで、肝心のスタジオの中は……何だろう、地球のテレビ局やYouTuberのセットと大差ない……けど、中途半端かつグチャグチャにパクってきた感じがする。無闇やたらと光るマイク、絡まったケーブル、端っこにあの目玉ツリーと跳ねるキノコが生えたステージ。なにこれ。

 

「ま、いっか。それで監督、次の配信はいつですか? そもそも、チャンネルのジャンルというかコンセプトというか……普段はどんな企画を?」

 

〈ン?〉

 

 ……いまの声は文字じゃなくてテレパシーだった。

 つまり、監督にとってもほぼ無意識に出た声だということ。

 

〈ジャンル……〉

 

〈コンセプト?〉

 

〈そう言えバいつとか決めてないネー〉

 

〈配信はお腹空いたらやるものだヨー〉

 

 こっ、こいつら……!!

 いやまぁあたしもネット配信は門外漢だが、文字通り再生数を食って生きてるくせに、プロ意識ってもんがないのか……!?

 

「プロデューサー! プロデューサー! へループ!!」

 

〈はいもしもし……ど、どうしました? ずいぶん慌てているようですが……〉

 

 かくかくしかじかえこえこあざらく。

 事情を話し終えると、プロデューサーが通信の向こうで唸る声が聞こえた。

 

〈そうですね───いまの時代、エンターテイメント業界とインターネット文化は切っても切れない関係にあります。俺もそれなりにトレンドは押さえているつもりですが、クライアント……もとい純二次元人の方々はなんと?〉

 

「なんか“俺たちより詳しそうだからお任せ”だって」

 

〈なるほど、丸投げですか。なら逆にやりようはありそうですね〉

 

 かなり投げやりな調子の声だった気もするけど、実際プロデューサーの言う通りだ。変にあれこれ注文をつけられるよりはやりやすい。

 幸い、純二次元人の皆さんは熱意だけはある。手伝えと言えば手伝ってくれるだろう。

 とりあえず、

 

「衣装!」

 

〈オー!〉

 

「メイク!」

 

〈ワー!〉

 

「セット照明音声その他諸々!」

 

〈イェーイ!〉

 

「三千世界の遍く命よ、あたしの歌を聴けーっ!!」

 

〈Foooooooooooo!!〉

 

 アイドルならばもちろん一発目はこれでしょう、まずは歌とダンスから。

 顔には多少自信があるが、世界一だの宇宙一だのはさすがにフカシすぎだろ……と正直思ってたんだけれども、実際あたしはいまマルチバースの全土に向けて持ち歌を配信しているわけだ。スケールが巨大すぎて意味がわからない。ここまで来たならいっそ開き直ったほうがいいよネっ☆

 

【この生き物何?】

 

【地球って星の知性型支配種。ちなみに雌】

 

【ふーん、なかなかやるじゃん】

 

 さっそく視聴者コメントがついた。まぁえらい大雑把な評価ですこと。てか『ちなみに雌』って何だ、事実でしかないけれどもさ。

 内心若干のモヤモヤを抱えつつ、表面上はニッコリ笑顔キープ。アイドル候補生のプロ意識をなめるなよ……!

 

「ん?」

 

 ふと、スタジオの隅に控えていたことぬいの姿が目に留まる。

 楽しそうにゆらゆら揺れてる……が、それ以上に、何かを訴えるような目をしている。

 

「……あ、そうか。仕組みはよくわかんないけど、いまはあたしの分身だもんね。もしかして、おまえもステージ出たかったりするのかー?」

 

 するとことぬい、ちょっと心配になる速度で首を縦に振りまくった。かつてないほどにテンション爆上がりである。

 

「よっしゃ、ならバックダンサーは任せたぜっ!」

 

 ことぬい、参戦!!

 ピョンピョン跳ねて八重歯がチラリ、おぉ! なんかちゃんとバックダンサーっぽいぞ。やだ、ちっちゃいあたしかわいい……自己肯定感が鰻ライジングだ。

 

「ふふ、親に向かってなんだその八重歯は〜。やっぱちょっと盛ってない? かわいいからいいけどっ」

 

 そんなこんなで、初回の配信は無事終了。

 同時接続数は───なんと、最大5万アクセス!!

 アーカイブの再生数はもっと伸びるはずだ。チャンネル登録者数も、元々いたコアなファンと合わせて3万人近い。宇宙レベルと考えれば少ないかもしれないけど、新人ストリーマーにしては破格なんじゃないかしら?

 いやぁ、これはもう楽勝ですナ〜!!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 まぁ言うて初回で同接5万なら“感情のエネルギー”とやらが溜まるのも時間の問題だろうと楽観的に考えていたのだけれど、そうは問屋が鬼おろしぶっかけ。

 純二次元人たちは『やれやれ!』『エネルギー、ウマいぞ!』って文字で煽ってくるものの、恐るべきことにこの方々、時間とかスケジュールの概念がグチャグチャっぽいのだ。

 

〈月村さんの容体を鑑み、ひとまず地球時間基準になりますが───週に3~4回、1回は3~4時間、3週間で合計10回の配信を目標に設定しましょう〉

 

 こやつらは“週”とかも知らないから、『もっとやれ!』って感覚的に叫んでくる。なので、こうしてあたしたちのほうで舵を取らねばならない。

 

【また歌?】

 

【前回と何が違うのかわからない】

 

【もっとムルァクァミ・ファルーキのような企画をしろ】

 

 しかもマルチバースの連中、再生数も宇宙規模ならトレンドの移り変わりも宇宙規模だ。配信2回目でこのコメントなのだから飽きっぽいにも程がある。ムルァクァミ・ファルーキって誰?

 監督もカンペ……カンペ? とにかくスタジオのスクリーンに『エネルギー薄いよ! 何やってんの!』と文字を送ってくる。やっぱり視聴者の反応がイマイチだと“感情のエネルギー”の回収効率も悪くなるみたい。

 

〈キノコ食べタら?〉

 

〈目玉の木で遊ぼウ!〉

 

 おめーらもなぁ……。熱意だけはあんだけどなぁ……。

 とはいえ、あたしたちの母なる地球だってコンテンツ飽食時代と言われているのだ。企画を広げたほうが良さそうなのは確かかね。

 

〈そういうことなら、わたしも協力するわ! 他の子たちにも声かけてみるわねっ〉

 

「え、いいの?」

 

〈もちろん。手毬もね、意識は戻ってないけど、体調は落ち着いてるの。わたしたちだって───いつまでも立ち止まってられないから〉

 

「さ……咲季お姉ちゃん……!」

 

 花海咲季(と初星学園の仲間たち)、参戦!!

 地球とシンクロしての遠距離ダンスコラボはなかなか好評だった。通信は宝珠と純二次元人たちの設備のおかげで問題なかったんだけど、配信越しであたしと合わせられるのはやっぱり咲季の洞察力とセンスあってのことだろう。

 

「突然だが視聴者諸君、君たちはミクノモノモス星のキノコを知っているだろうか」

 

 1週目は歌とダンスだけだったけど、2週目から純二次元人の突飛な提案と視聴者コメントにヒントをもらい、企画を徐々に拡大。

 ミクノモノモス到着初日にあたしの手の中から消えたキノコ野郎を改めて捕獲し、素敵なシチューに変えてやった。

 

【毒じゃね?】

 

【食えるの!?】

 

 結論から言うと食えた。鍋の中はヘドロみてぇな色になったけど、めちゃくちゃ濃いシイタケみたいな味でおいしかった。いや本当なんだってこれがマジで。

 コメント欄は衝撃と爆笑の渦で、登録者数も10万人を突破。ヘドロ食べた甲斐があったなぁ!

 

「ねぇプロデューサー!? この手の身体張る企画は佑芽とか手毬の担当じゃないかなぁ! あたしもっとスタジオの中でできる企画のほうがいいと思うなぁ!」

 

〈月村さんが聞いたら怒りますよ……〉

 

 藤田ことね、ミクノモノモスの荒野を行く。

 ことぬいがぬいぐるみモードで先導してくれる中、目玉ツリーが山ほど生えた森を発見した。え、ここに入るんですか? ……ッス……。

 コメント欄は『目玉きっしょwwwwww那珂ちゃんのファンやめます』『真の勇者ことねに敬礼』などと大盛り上がりで、ファンが1人減った那珂さんとやらには悪いがこっちの登録者数は20万人まで伸びた。

 

「あれ? 昨日の衣装は?」

 

〈欲しいッてファンがイたから送った〉

 

「何だこのわんぱくすぎる事務所」

 

 思わず敬語も取れてしまったが誰も気にしてなかったので良しとする。

 配信外もカオスだ───純二次元人、セット準備テキトーすぎて、キノコが爆発したり、テーブルが独りでに動いたり(脚が壊れたとかじゃなくてマジで独りでに歩いた)、本番中にヤバい目つきをした8本足のマレーグマみたいな謎のケダモノが上がり込んできたりもした。

 ちなみにキノコの毒はことぬいと一緒にチェックしてました。でもこいつ、砂とか釘とかバリバリ食うから全然参考にならなかったんだよね……。

 プロデューサー含め、スタッフ陣との打ち合わせも密に。監督は『もっとウマいエネルギー!』としか言わないので実に扱いが楽だった。

 マルチバース向けSNSにもアカウントを開設、視聴者との交流を欠かさない。炎上対策は完璧だ。何せあたしの知り合いには最高の反面教師がいる。

 コメント読み上げで『#ことね星配信』タグを広めたり、有志が描いてくれたファンアートに感謝のリプライを送ったり……でもこれ本当にあたしか? ピカソのゲルニカの黄色い版とかじゃない? エイリアンの美的感覚、わからん……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そうしてついに一次目標の3週間目、視聴者との交流もだんだんハマってきた。

 コメント欄での呼び名も『地球人の雌』から『ことね姉貴!』に変わり、ようやく地球代表ホモ・サピエンスとしての誇りと尊厳を取り戻せたような気がする。

 

 純二次元人たちは町のあちこちの壁にあたしのファンアートを投影し、『ことねちゃん結婚してくれ』だの『もっとキノコ! もっとキノコ!』だのと騒ぎ立てる。

 なんでそこまで執拗にキノコを擦りたがるのかはさておき、まぁ崇め奉られて悪い気はしない。

 

“いつでもどこでも誰とでも通信できる”宝珠の能力に目をつけた清夏の発案で、『目玉ツリーとQ&A』企画が生まれた。さすがは誰とでも仲良くなれる系ギャル、目の付け所が常人のそれではない。

 企画開始時は──眼球だけはあるとはいえ──そもそも植物に脳や自我の類が存在するのかという哲学的な疑問に踏み込みかけていたけれど、

 

「えーと……、こんにちは……?」

 

「こんにちは」

 

 ───ミクノモノモス星の配信バトルにおける瞬間最大風速はここだったと思う。

 チャンネル登録者数は50万人に達し、動画の総再生回数は、地球の配信サイトなら収益化で3年は遊んで暮らせるレベルにまで膨れ上がっていた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ………………が。

 

【コトネ、今日も配信お疲レ様! いつもありがとうナ!】

 

「うん、監督もお疲れ様。……で……、どう? エネルギー、そろそろ溜まった?」

 

 スタジオのスタッフ用スクリーンが、白紙のまま沈黙した。

 

【……コトネ、キミはよくやってくれてる。ダカラ───】

 

〈コトネ、スゴイ! 私たち、もっと応援すル!〉

 

〈まだ腹半分! コレからモたくさんエネルギー欲しイ!〉

 

「あぁあぁぁもうそんなこったろうと思いましたよ!!」

 

 地球の配信サイトの収益なら都内の一等地が買える再生数を叩き出してまだ足りぬと申すか!! いやしんぼさんめ!!

 しかし、認めざるを得ない部分はある───これは、あれだ。()()()というやつだ。あたしたち初星学園マルチバース組は急速に勢力を拡大したけど、一定の地位を確立したがために、視聴者層が固まってしまったのだ。

 これが地球の一般的なストリーマーならこんなにありがたい話はないのだけれど、うーむむ……。

 

 緊急会議を開催。参加者はあたし、プロデューサー、咲季、ことぬい、書記の純二次元人。

 監督は欠席だが、必要な機材とかは書記の人──そういえば純二次元人には個人の名前をつける文化がなく、主に役職や立場が呼び名になるらしい──が後で現場に伝えておいてくれるので問題なし。

 

〈───で、あるからして。藤田さんの能力や経験を活かすならやはり、ダンスとザナカドゥス作りを融合した新機軸の……。……?〉

 

 ふと、プロデューサーの発言が止まった。一旦席を外したかと思えば、電話でどこかと話しているらしい。

 やがて……。

 

〈え……───本当ですか!? よかった……!〉

 

「プロデューサー? どうしたんですか?」

 

〈月村さんが───月村さんが、意識を取り戻したそうです!〉

 

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