学園銀河ヒッチハイク・マスター   作:ごまぬん。

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例のコミュ、エアプの頃はそんなん二次創作でしか許されない展開だろと思ってたんですが、実際プレイし始めたらバッチリ公式だったからまぁ横転したよね。



Life, Love, Peace

 

〈ご家族とはすでに話したそうです。それで他に会いたい人はいるかと尋ねられて、俺たちのことを〉

 

 宝珠の能力───普段は通話しかできないけど、純二次元人の設備が使えるいまなら、スクリーンでこうして顔を見ることもできる。

 

〈……プロ……デュー、サー……。───ことね?〉

 

「手毬!!」

 

 肌は青白く、目の下に濃い隈ができている。とても本調子ではなさそうだったけれど───確かに、手毬だ。

 まだ、生きてる。戦ってる。

 

〈あの……。私……正直、あの時の記憶が曖昧で。何があったか……聞かせてくれる?〉

 

「うんっ……うん……!」

 

 かくかくしかじかえろいむえっさいむ。

 あたしたちは事の顛末を正直に話した。元はと言えば何もかもこの女のせいだが、それについては責めないようにした。そんなこと、きっと手毬が一番わかってる。

 

〈そっか……。……ことね、ごめん。私のせいで……〉

 

「おー、気にすんなって。最初はどうなることかと思ったけど、いまは案外楽しくやってるからさ」

 

 ……しおらしい手毬も新鮮でいいけど、やっぱり少し物足りないな。

 

〈そうだ……、配信……。私にも、何か手伝えることがあれば……〉

 

「いやいや、無理しないでよ。弾はまだまだあるし……例えばね、ザナカドゥスって麻薬が───」

 

〈……、……ねぇ。プロデューサー……覚えてる?〉

 

 およ?

 手毬、息を整えながら、弱々しくも熱っぽく呟く。

 

〈前に一度……プロデューサーと、その……ふざけて、撮影会……の、真似事……みたいなこと、したの。スマホで……プロデューサーのこと、たくさん撮って……。まぁ……その時は、先生に……没収されちゃった……けど……〉

 

〈えっ〉

 

〈……プロデューサー? どういうこと?〉

 

「情報量」

 

 あ、咲季も一緒か。そりゃ一箇所に集まってたもんな。

 でもなんかそのせいで空気が不穏なのはどうしたらいいんですかこれ?

 

〈アイドルごっこ、楽しかった……。プロデューサー……番組に出したら、みんな、絶対盛り上がるよ……!〉

 

 えぇっ。そうかなぁ?

 確かにルックスは及第点だと思うけど、無愛想だしたまに性格悪いし……。いや根本的には担当大好きなどうしようもないお人好しなのは知ってるけど……。

 

〈─────手毬。それは“アリ”よ〉

 

〈えっ〉

 

 咲季の言葉は短かったが、そこには25mプールいっぱいの金塊よりも重たい確信が込められていた。

 ……あたしは想像する。だだっ広いステージの上に立ってスポットライトを浴び、万雷の喝采の中で謡い舞うプロデューサーの姿を。

 

「やりましょうプロデューサー」

 

〈藤田さんまでッ……!?〉

 

 うるさい。普段さんざっぱら無茶振りされてるんだ。このくらいの報復は正当な権利だ。

 

〈その……皆さん、俺にアイドルの才能はありませんよ!? 裏方はともかくステージなんて……む、無理です!〉

 

〈プロデューサー、手毬の命が懸かってるのよ!? それに───わたしに夢を見せて、殻を破るきっかけをくれたのはあなたじゃない。あなただって……わたしたちと一緒なら、きっと限界を超えられるはず……!〉

 

「そうだよッ!! みんなで手毬を助けよう? プロデューサーなら、絶対できるって!」

 

〈とりあえず落ち着いてください! 病院ですよここ!〉

 

 まぁプロデューサーが一番取り乱してデカい声出してるけどね。

 さておき……そう、これはあくまで手毬のため。あくまでも、手毬のためなんだから……!

 

〈プロデューサー……。……ダメ?〉

 

〈─────……〜〜〜ッ……!!〉

 

 よっしゃあッいいぞ〜手毬〜!! その人なんだかんだ言ってお前さんに甘いからな! よし! よしっ!!

 

〈……、……わかり───ました。最大限……努力、します……!!〉

 

 苦虫を100万匹煎じて噛み潰したような魂の喘ぎと共に、我らがプロデューサーのアイドルデビューが決まった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「というわけでせんせー方! 我らがプロデューサーへのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしまぁ〜す♡」

 

〈はい、任されました。プロデューサーくん、一緒に頑張りましょうね♪〉

 

〈担当アイドルのために協力を惜しまない姿勢、まさにプロデューサー科生徒の鑑です。我々としても指導に身が入るというもの〉

 

〈配信番組の企画のためとのことだが、ただの一発ネタで終わってはもったいないしな! 徹底的に仕込んでやるから覚悟しろよっ〉

 

〈安心なさい、何かと筋が良いのはよーく知ってるわ。みんなで伝説、作っちゃいましょう〉

 

〈何でそんなに楽しそうなんですか……〉

 

 完璧な布陣だ。もうこの絵面だけで撮れ高にまみれている。

 どうでもいいけどうちの学園の教師陣って何故にこんな美人揃いなんかね、学生の心折りにきてない?

 

〈ほら、肘上げろ肘! そう……首はまっすぐ、顎は引いて! バランスが肝心だ!〉

 

〈く……! ふっ、はっ……!〉

 

〈マイクの位置はこう。無理に力む必要はありません。頭からお腹までを、呼吸した空気で繋げるようなイメージで……〉

 

〈? ……? こ……こうですか?〉

 

〈ほら、笑顔笑顔ー! 魂込めて、担当ちゃんたちはいつもやってんだからねー!〉

 

〈表情筋が断裂しそうだ……〉

 

 あ〜〜〜〜〜レモネード(カルルラハル星産)がうめえ〜〜〜〜〜〜〜♡

 石英ガラスメモリに保存して神棚に飾りたい……視聴者のみんなもそう思うだろ?

 

【ことね姉貴が壊れた】

 

【プロデューサーくんかわいい!】

 

【地球人の雄か〜。雌とあんまり見分けつかんな】

 

 あたしたちの目論見は完全に成功し、チャンネル登録者数は一夜にして70万人を突破した。

 ありがとう手毬、本当に……。……本当に……『ありがとう』……それしか言う言葉がみつからない……。

 

〈皆さんはバースθ-1928の至宝、ザナカドゥスをご存知でしょうか。というわけで、今回の配信は株式会社クラモトハウススチール様の提供でお送りいたします〉

 

〈先生の手料理、とっても楽しみですわ〜!〉

 

〈視聴者の皆さん、もしこの配信後に俺の消息が途絶えたらつまりそういうことだと思ってください。練習とリハはやりましたが本番は生配信なので当然一発撮りです。マジで勘弁して〉

 

 お料理系はやっぱり打率が高い。職人の端くれとしてあたしのザナカドゥスと直接戦わせられないのが少し残念だけど、コメント欄は大賑わいだ。

 そして、そう、これよこれ。歌って踊るのもいいけど、うちのプロデューサーはこの切れ味鋭い毒舌がまたイイんだ。見なよ……あたしのプロデューサーを……。

 登録者数、80万人突破。

 

 マルチバース向けSNS(どう見ても旧Twitterにしか見えない)の『#ことね星配信』タグはプロデューサーの参戦に沸き、視聴者からのあたしのあだ名も『ことね船長!』に変化した。

 ……なんで船長……? 宝珠の翻訳の問題? つまり原文ではキャプテン・コトネ……いや、これはこれでなんか違うな。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 果たして、

 

〈───きっと〉

 

「掴み取るの、今─────」

 

 その瞬間は、唐突に訪れた。

 

 初星学園の同期ほぼ全員のスケジュールを合わせて敢行された、渾身の大型コラボ回。

 プロデューサーのソロステージに始まり、最後はみんなで歌って踊って〆。地球でやったら普通にお金取れるレベルのライブだったと思う。

 同接数はちょっと見たことない数字でコメント欄も大盛況、チャンネル登録者数はついに100万人の大台を突破し、まさに最高のステージ……。

 

「……ふぅっ! あー、お疲れ様でー……、……。……?」

 

 普段はあんなにもやかましい純二次元人たちのテレパシー、視界を埋め尽くす文字列の波が、ひとつも聞こえず見えてこない。

 だが、あたしが疑問に思っていられたのは一瞬のことで─────。

 

〈ブラボオオオオオオォォォォォォォ!!〉

 

【ファンタスティック!!!】

 

【YATTA! YATTA!】

 

〈イエエエェェェェイ!!〉

 

〈ヒューッヒューッ!!〉

 

【ありガとう!】

 

〈地球サイコー!! 初星学園サイコー!!〉

 

【愛してルぜことね船長!!!!!!!!!】

 

 うるっっっっっっさ頭割れるうぅぅ!!

 致死量のテレパシーを脳内に流し込まれたあたしを見てか、情報の濁流が少しだけ止む。けど、スタジオの空間全体を揺らすような歓喜の渦はまだ収まっていない。

 

〈エネルギー、溜まっタ!! 満腹満腹! コトネ───サキ、プロデューサー、みんな! 最高だ!!〉

 

 や、やっとかぁ……!!

 配信業始めてほぼ1ヶ月、時間にしてみれば短いようで、しかしとてもとても長い道のりだった。手毬が途中で目覚めてくれていなければどうなっていたことやら。

 

〈明日、サッそく“門”を開くゼ! 今日はゆっくり休ンでくれ! ホントに……ありがとナー!!〉

 

「あっはは、どういたしまして! うん、じゃあ今夜は思いっきり寝かせてもらうね。みんなお疲れ〜!」

 

 ピョコンと耳元で音がして、肩に小さな重み。ことぬいだ。

 そういえばこいつにもだいぶ世話になった。カルルラハル星での出来事もそうだし、宇宙海賊に襲われた時もあたしを守ってくれたし、何よりこの1ヶ月はバックダンサーやらスタッフとして八面六臂の大活躍だ。

 

「おまえもご苦労様。今夜はお祝いのザナカドゥス、作ったげるぞ〜♪」

 

 ちっちゃいあたしの姿をした謎生物は、八重歯をチラつかせながら笑った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 翌朝、半ば無意識でスタジオに()()すると、そこに見慣れたセットはなかった。

 

〈おはよう、コトネ〉

 

 監督のテレパシーが頭に響く。

 スタジオの配信セットがあったはずのフロアは───虚空だった。

 白く、ただ白い。そこには一切の色彩が存在せず、あたしが踏みしめているフロアの床の他に壁も地面もない。地平線の果ての果てまで続く白が、世界のすべてを塗り潰している。

 

「おはよー……ございます? ……あの、監督……セットは……」

 

〈あぁ、気にしないで。少し片付けただけさ。“至天の奈落”への門を閉じれば、すぐ元に戻せる〉

 

 そうなのか。まぁそうなんだろうな。そういうことにしておこう。

 そして、だとしたら───うん。これが、別れの挨拶ってことになる。

 

「監督。色々とありがと……、あ。その……えっと、───お世話になりました」

 

 ……ミクノモノモス星での思い出が脳裏を駆け巡る。

 荒野で宇宙海賊に襲われた時、めちゃくちゃ怖かった。サメ頭のヤツらがあたしを売り飛ばすだの何だの騒いで、ことぬいも倒されて……けど、純二次元人のみんなのおかげで助かった。ただまぁ、あん時は結局わけわかんなくてその場にへたり込んだっけ。

 町に着いたら、今度は壁や看板に人型のドット絵がウジャウジャ。それが陽気な文字とテレパシーで『配信やろうぜ!』って。

 最初は歌とダンスしか思いつかなかったけど、キノコ料理や荒野探索、目玉ツリーとのQ&A……色々やったような、まだまだやってやれそうな気もするような。

 登録者数50万でも腹半分って言われて、頭がクラクラした。しかしなんと、ここで手毬が奇跡の復活。プロデューサー、ぎこちなくマイク持って『え、こうですか?』だって。傑作じゃない?

 

「大変だったけど、良い経験になったと思います」

 

 で、なんというか───ふと気づいた。

 純二次元人。当たり前だけどこの人ら、3次元に実体がないんだよね。

 食事とかスポーツ、触れ合うことすらできない。2次元の感覚でエネルギーを食べて、配信で盛り上がる。あたしたち3次元の生き物と、きっと物事の感じ方や楽しみ方が全然違う。

 ぶっちゃけ、最後に愚痴や皮肉の1つや9つ言ってやろうと思ってたんだけど……やめた。

 こいつらはこいつらで大変なこともあるだろう。なのにこんな陽気で、配信に文字通り命かけてる。

 

 地平線の彼方にまで続く、白亜の世界に目を凝らす。

 監督だけだと思っていたその空間に、純二次元人たちがズラッと並んでいるのが見えた。

 あたしはワニャガの紙袋が入った配達ボックスを握りしめ、ちょっと深呼吸する。

 

「監督……それにみんな。改めて、ほんとにありがとう! 3次元のあたしたちと何もかも違うのに、そんな中で……その、エンターテイナーっていうの? やっていくの、めっちゃ大変だと思う。でも───あたし、みんなが配信者として成功するの、祈ってるから!」

 

 少し驚いたような気配があり、しばし経ってから、監督の声が頭の中に染み入ってくる。

 

〈こちらこそありがとう、コトネ〉

 

 監督のテレパシーは静かで、周囲の純二次元人たちもそれに倣っている。

 ただ、言葉にも形にもならなくても、どこか温かな気持ちが伝わってくるように思えた。

 

〈かつては私たちもそちらの世界で生きていた。キミたちと共に過ごして、その頃の気持ちを思い出せたような気がする〉

 

「監督……」

 

〈……地球人に教わッたこと、絶対無駄ニしないゼ! 俺たチ、きっトモっ〜と面白イ番組作っていくからヨ!〉

 

 純二次元人たちの思念が溢れ出し、『コトネ、ずッと仲間!』『地球、愛しテる!』といった文字列になって、真っ白な地平を染め上げる。

 それと同時、身体にかかる浮遊感。最初におじいちゃんとワープゲートに入った時と同じだ。今度こそ旅立ちが近い。

 

「─────じゃーね、マルチバースのトップアイドル候補生! 最ッ高に面白い番組、楽しみにしてるよ!」

 

 肩のことぬいがピョンと跳ね、満面の笑みで手を振った。この子も楽しかったみたい。

 

「おまえも、ちゃんと最後までついてきてくれよ〜? ふっふふ〜ん……♪」

 

 配達ボックスをしっかり抱え、自分から一歩踏み出す。ふわりと落下していく感覚があるけど怖くない。

 あたしは、空を飛ぶように墜ちていく───世界の果て、“至天の奈落”へ。

 

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