「呪力?」
「はい、それが俺の力の源です。俺みたいに呪力を使って戦う人を呪術師と呼びます。」
あれからさらに数日が経ち、ミレニアムとシャーレの書類仕事も落ち着いて暇を持て余していると、先生から俺の力について尋ねられていた。そういえば、あの時はひとまず大丈夫だからと言って戦いに出たけど、先生からしてみれば自分と同じヘイローを持たない生徒があれだけ戦えていたら気になるだろう。
あまり呪術のことを広めるのはよくないと思うが、別に俺自身は呪術界の人間でもないし、そもそも先生はこういったことを言いふらす人でないことをこの数日間で理解していた。
今後も協力して戦う機会があるだろうから、呪術のことを多少は知っておいてもらってもいいだろう。
「呪力って、きっと『呪いの力』って書くんだよね・・・使っても身体とか大丈夫なの?」
「一応、人間の負の感情から生み出されるエネルギーではあるので、自分以外を攻撃したら、相手が怪我したり、物が壊れたりしますけど、自分がどうこうなるっていうリスクはないですね。」
呪力自体のイメージとしては、漫画やアニメといった創作物に出てくる魔力に近いだろう。その根幹が人間の負の感情っていうところで、物凄いマイナスな印象を抱かせるが、それ以外は特別何も変わらない。
「そもそも呪力は、基本的に誰もが持っているものですから、名前の聞こえは悪いかもしれませんけど、悪意を持って使わなければ特別何か悪いものってわけではないですよ。」
一応呪術を用いて人々に害をなす人間を呪詛師、それ以外を呪術師として区分しているが、それはあくまで個人の意識の問題である。どんな道具も力も、使う本人次第で薬にも毒にもなり得る。
「そうなんだね。ということは、私にも呪力があって、もし鍛えたら同じように戦えるのかな?」
「それは少し難しいですね。呪術師は才能8割、努力2割と言われるくらい、厳しいですし・・・・先生も一応呪力を持っていますが、その量が少ないので。」
「そっか・・・。」
そう答えると、先生はあからさまに肩を落とす。
「生徒たちにだけ戦わせて、私だけ物陰に隠れて指揮をするだけっていうのが申し訳なくて、何か私にも戦う手段があったらと思ったんだけど。」
「・・・・少なくとも、俺はそう思ってくれるだけでもうれしいですよ。」
やっぱり根っから善人だな、この人。俺自身特別こじれてるわけではないが、なんだか眩しく感じる。
「それに先生には先生の、俺には俺のできる役割があるってことですから、身の丈にあったことを精一杯やりましょうよ。俺自身、術師の中で強い方かと言われたら、そうでもないですし。」
「えっ、この前はあんなに活躍していたのに!?」
先生は驚いた表情で問いかけてくる。確かに我ながら大活躍だったと思うが、訓練されてない生徒が相手だった上に、正直俺がいなくても時間をかければ制圧することはできていただろう。
「まあ俺、『術式』が使えないので・・・・簡単に言うと、術師が持つ固有の異能ですね。よく『呪力は電気、術式は家電』と例えられます。使えるのと使えないのでは、戦いの幅が格段に変わってきます。」
術式の話題を出すと、先生がポカンとした表情になるので、術式について簡単な説明をする。術式は略称で、本当は『生得術式』と呼ぶんだけど、これは説明しなくていいだろう。
「かめはめ〇のイメージだったけど、どっちかというとチャ〇ラの性質変化みたいな感じかな?それなら修業で身に着けるってことはできないの?」
先生、ジャ〇プ見ているんだ・・・・。
「さっき言った通り、呪術は才能ありきの世界ですからね・・・術式は生まれながらに刻まれているものなので、後から身に着けるってことは基本的にはできないんですよ。あと、一応術式自体は持っているみたいなんですが、どういった術式か分からないままなんです。」
『術式を持っていない』のではなく、『術式を使えない』のが俺の現状だ。通常は、成長するに従って、『自分が術式を持っているか』、『どういった術式効果なのか』を勝手に自覚するらしいが、術式を持っていることは自覚できても、どういった術式なのかは分からないのだ。
なんというか、『自分の部屋に数冊のノートが何もかもバラバラになって散らばっており、まともに読めない』といった感覚に近い。
さらに、俺は『黒閃』を出したこともなく、呪力の核心に迫っているわけでもない。
総じて今の手札としては、呪力操作による身体強化とキヴォトスに来る際に持ち込んだ呪具だけとなると、少し心もとないだろう。
「まあ、そのうち使えるようになりますよ。師匠からも『焦ることはない、お前はお前のペースで強くなっていけ。』と言われているんで、地道にコツコツやっていきます。」
「いい人に恵まれたんだね。」
「はい!」
実際、いい師匠に恵まれたと思っている。ちょっと変な人───────いや、だいぶ変な人であるが。それでも、返しきれないほどの恩があることは変わりないので、その受けた恩の分を別の誰かに返せるように邁進していきたい。
「さて、じゃあ休憩は終わりにして、そろそろ仕事に戻ろうか~!」
「えっ、さっき片づけた分で全部じゃないんですか?」
俺は、机の上にある書類に目をやる。初めて当番で呼ばれた時に比べたら全然少ない量だが、それでも束として数えるぐらいには、すでに終わった書類が積み重なっている。
すると、先生はスーツの上着を羽織りながら、元気いっぱいに俺に言う。
「シャーレの業務は、書類仕事だけじゃないからね!」
─────ガチャ
「あっ、魚里先輩おかえりなs─────って、どうしたんですか!?」
夕方頃、セミナーに戻ってくると、早瀬1人がまだ残っていた。彼女は出迎えるや否や、俺の様子を見て大声をあげて驚く。それほどまでに、俺の顔が窶れてみえていたのだろう。
「つ、疲れた~・・・・。」
バタン
「きゃっ!?せ、先輩~!?」
俺は無事に帰ってきたことに安心したからか、身体から全身の力が抜けて床に倒れてそのまま眠ってしまったのだった。
「──────迷い猫を探したり、宅急便の配達を手伝ったりしていたんだよ。」
「それって本当にシャーレのお仕事なんですか?」
「それは俺も思う。」
10分くらい眠って目を覚ますと疲れが少し取れたため、早瀬に何があったかを話していた。あの後、俺は先生に連れられるがまま外に出て、引き続き先生の手伝いをしていた。その業務内容は、早瀬の言うように、連邦生徒会直轄の組織が担当するとは思えないようなものばかり──────というか、ボランティア活動のようなものだった。
あの書類の量とボランティア活動を継続していたら、先生いつか過労死するぞ。
『でも、何が生徒のためになるか分からないから、私にやれることは全部やっておきたい。』
──────ただ、先生も自分にできることをやっておきたいのだろう。
「でも、楽しかったよ。」
やっぱり誰かのためにこうやって身体を動かすのは、性にあっているようだ。例えそれが呪術を使った戦いであろうとなかろうと、形式ではなく本質で物事を捉えるべきなのだ。
「それならよかったです。ただ、体調には気を付けてくださいね。」
「ああ。さて、そろそろ帰るか。」
「はい!」
もうそろそろ日が暮れるので、俺と早瀬は部屋の戸締りをして帰るのであった。
「先生、当番に来ましたけど・・・・あれ?」
後日、また当番の日になったのでシャーレ部室を訪れると、先生がいなかった。
というか、もっと当番の生徒を増やしてもいいんじゃないだろうか。
「なんだ、先生留守にしているのか─────ん?」
ひとまず、普段当番の時に使っているデスクのところへ足を運ぶと、何かメモが貼られているのを見つけて手に取る。
『アビドス高等学校から救援要請が来たので行ってきます。多分お昼頃には帰れると思うから、書類の山をできるだけ片づけておいてくれると嬉しい。』
「に、逃げた・・・・相変わらず凄い量の書類だし・・・・・ん?」
書類の山を俺に丸投げされたメモを見つけて唖然としていると、メモの文章に一つ引っかかることがあり、首を傾げる。
「──────アビドス高等学校ってあのアビドスだよな。」
『アビドス高等学校』
キヴォトスで最も長い歴史があり、かつてはキヴォトス最大の生徒数が所属していたという学校だ。全盛期は、それこそあらゆる学校から羨望と畏怖の目を向けられるほどの圧倒的な兵力、資金を有していたという。
しかし、数十年前に頻発し始めた砂嵐によって、現在は砂漠化が進んでしまい、生徒数も片手で数えられるくらいしか所属していないと聞く。
まあ、正直その辺の話は一旦置いておくとして─────────
「──────『お昼頃には帰れる』って本当か?」
恐らく電車を使ってアビドス自治区にまで向かったのだろうが、アビドス高等学校の最寄り駅からでも結構距離がある。さらに道中には、かつて街やオアシスなどあったかもしれないが、今は砂漠化の影響でなくなっているだろう。それに先生って、割と楽観的なところがあるしな・・・・・。
これらのことから導き出される答えは一つ────────────
「─────────確実に先生が干からびて死ぬ・・・・っ!」
俺は、シャーレ部室を飛び出し、アビドスへと急ぐのであった。
ここまでご拝読いただきありがとうございます。
このお話しでプロローグは完結となり、次の話からブルアカの原作における『対策委員会編』に入っていきます。一応見切り発車ではありますが、この3日間で『時計じかけの花のパヴァーヌ編』までのプロットは何となく頭に浮かびました。
引き続き楽しんでいただけますと幸いです。