ある程度プロットは決まっていても、文字に起こすのはやっぱり難しいものですね。
「皆さんお疲れ様です。魚里さんもご協力いただきありがとうございました。」
「ああ。奥空さんもお疲れ様。」
捨てセリフを吐きながら逃げていくカタカタヘルメット団の後ろ姿を見届けた後、俺達はアビドス高等学校へと戻ってきた。こちらはオペレータで待機していた奥空さんと指揮担当の先生を除いて、こちらは5人しかいなかったにも関わらず、誰も怪我をせずに快勝といった戦績だった。
「(やっぱり先生の指揮能力ってかなり重要だな。一人一人の強さに差があるといっても、ここまで圧倒して倒せるとは。)」
自身が所有しているタブレットの画面を眺めている彼を見ながらそんなことを考えていると、パンッと手を叩く音で視線が十六夜さんの方へと移る。
「さて、火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです。」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる。」
「うん!これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!ありがとう、この恩は一生忘れないから!」
「「借金返済?」」
俺が簀巻きにされて教室に運ばれた時のツンケンした態度と打って変わって、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら黒見さんが口にした言葉に俺と先生は引っ掛かりを覚える。
「・・・・あ、わわっ!」
「そ、それは・・・・。」
カタカタヘルメット団の問題が一時的とはいえ解決したことで緩んでいた空気が少しだけ張り詰める。どうやら今のは、黒見さんの誤爆だったみたいだ。そのことに気づいた彼女自身の反応と気まずそうにしている奥空さんの表情から分かる。
「いいんじゃない、セリカちゃん。隠すようなことじゃあるまいし。魚里くんはセミナーの副会長だし、大体想像ついているんじゃないの~?」
今回のアビドス廃校対策委員会からシャーレへの依頼内容は、弾薬や補給品といった支援補助だ。つまり、現在対策委員会は、弾薬や補給品の確保が十分に行えない状況にあるということだ。この圧倒的銃社会であるキヴォトスにおいて、それはあまりにも致命的だろう。
単純にアビドスという立地の悪さが原因と考えていたが、今の黒見さんの失言で『金銭的な問題で補給が行えない』ということまでは察しがついた。多分リオやヒマリ、師匠なら、もっと早く様々なことに気づいていたのだろうけど。
「まあ、今の話で大体は。」
ただし、借金をしているほど状況が深刻であるというのは少し驚いた。もし、ミレニアムでそんなことになったらと想像し、頭を抱えながら唸っている後輩の姿が思い浮かんで胃が痛くなってくる。
その借金している金額によるが・・・・大体1億とかくらい?
「かといって、わざわざ話すようなことでもないでしょ!」
「別に罪を犯したとかじゃないでしょー?それに先生は私達を助けてくれた大人だし、魚里くんもそれを知って別に悪さをするような子じゃないしね。」
「そりゃそうだけど、先生は部外者だし、魚里は他校の生徒でしょ!この学校の問題はずっと私たちでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人と他校の生徒が首を突っ込んでくるなんて・・・・私は認めない!」
小鳥遊さんにそう言い放つと、黒見さんは部屋を飛び出して行ってしまった。慌てて十六夜さんが彼女の後を追いかけるが、教室内は気まずい空気に包まれる。
その気まずい空気をかき消そうと口を開いたのは、小鳥遊さんだった。
「えーと、簡単に説明すると・・・・この学校、借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で・・・・9億円ぐらいあるんだよねー。」
「きゅ、9億!?」
小鳥遊さんから告げられた借金の額を聞いて思わず声をあげてしまう。せめて1億とかぐらいだろ・・・・先生の方を見ると、俺みたいに声を出してはいないものの、目に見えて驚いた表情をしていた。
「・・・・9億6235万円、です。」
もはやその金額までいくと、6235万円の部分は誤差にも思えてくる。いや、全然そんなことはないのは分かっているのだが・・・。
対策委員会がこの借金を返済できないと、アビドス高等学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなるとのことだ。ただ、あまりにも金額が大きすぎて現対策委員会以外の生徒は諦めて、この学校と街を捨てて去ってしまった。
「借金をすることになった理由は・・・事情を教えてくれないかな?」
先生の質問に対して、奥空さんは答える。
やはりというか、原因の発端は数十年前に頻発し始めたことだという。以前からも砂嵐は起こっていたが、その時のモノは前代未聞の大きさ・激しさだった。学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が過ぎ去ってからも砂が溜まり続けてしまい、その自然災害を克服するためにアビドス高等学校は多額の資金を投入した。ただ、その巨額を投資してくれる銀行はなかなか見つからず、当時の責任者は悪徳金融業者に頼った。
最初はすぐに返済できる見込みだったのだろうが、砂嵐は収まるどころか激化していき、その度に借金は膨れ上がり現在の状況になっていったのだという。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で・・・弾薬も補給品も底をついてしまっています。」
「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、2人が初めて。」
砂狼さんが語る黒見さんの今の心情を聞き、俺はなんともいえない感情を抱く。
彼女たちは何度も学外の人々や組織に助けを求めてきたのだろう。しかし、まともに取り合ってくれる相手は1度も現れず、自分たちを利用しようとする
むしろ、これまでの彼女の
「2人のおかげで、ヘルメット団の問題も解決したし、借金のことは気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし。」
「そうだね、これ以上迷惑はかけられない。」
黒見さんだけじゃない。
『アビドスの問題だから、対策委員会だけで解決しないといけない』という呪いが、彼女たちにはかかっているのだ。それはこれまでの彼女たちが経験してきただろう『アビドス以外には関係のない問題』という現実が、そうさせたのだろう。
「私も対策委員会の一員として一緒に頑張るよ。対策委員会を見捨てて戻るなんてことはしない。」
ただ、先生はどこまでも生徒のための先生らしい。小鳥遊さんと砂狼さん、奥空さんに対してハッキリとそう言い切った。
──────じゃあ、俺も俺のやりたいことをやらせてもらうことにしようか。
「というわけで・・・・しばらくミレニアムには帰れなさそうだわ、ハハッ。」
『ハハッ、じゃないですよ!』
電話越しに早瀬の声が耳に響き、頭が震える。
一通り対策委員会との話が終わった後、俺は屋上に来てミレニアムにいる早瀬に電話をかけていた。一応、アビドスの借金問題のことをセミナーにいる後輩に話してもいいとの了承も、委員長の小鳥遊さんからもらっている。
『せめて、1週間に1度くらいは帰ってきてください。私たちの権限ではできない業務もあるんですから。』
「アビドスの借金問題を手伝うこと自体は大丈夫なの?」
どうやら今怒られたのは、アビドスの借金問題に首を突っ込むことではなかったらしい。意外な反応に俺は少し戸惑いながらも尋ねる。
『魚里先輩がやりたいと思ったことなら大丈夫です。今は業務も忙しくない時期ですし、今回も誰かのために力を貸したいってことなんでしょうから・・・・・まあ、後先考えないところは玉に瑕ですけど。』
「うぐっ・・・・まあ、そういうことならよかった。ちゃんと定期的にミレニアムに帰るようにします・・・・。」
『よろしい。』
なんだか段々と早瀬に頭が上がらなくなっていっている気がする。
『では、お身体に気を付けて頑張ってくださいね。』
「ああ、ありがとう。」
そう言って電話を切る。
無事許可をもらえたことに安堵しながら、先ほどの小鳥遊さんたちとの会話を頭の中で思い出す。
『俺もみんなを手伝うよ。』
先生に続けて俺もそう言った。
『でも、魚里さんはミレニアムの生徒さんですし・・・・。』
『ああ。でも、俺が自分の学校を・・・・ミレニアムが好きなように、奥空さんたちもアビドスのことが好きなんだから守りたいんだろ?』
『もちろんです。』
そう答えた奥空さんに続けて、砂狼さんと小鳥遊さんも強く頷いた。この場にいないが、黒見さんと十六夜さんもここにいたら、同じように頷いただろう。どういった経緯であれ、皆アビドス高等学校に思い入れがあり、それは俺の立場でいうミレニアムと同じだ。
『だったら俺も協力させてほしい、他校の生徒ではなく、シャーレの当番として来ている生徒として。』
俺の行動は、友人の一人には『合理的でない。』と言われるし、またもう一人の友人には『相変わらずですね。』と呆れられることだろう。
それでも、俺は彼女たちを縛る呪いを祓わなくてはならない────────
『悪いけど、自分と同じ考えの人が困っているのを見捨てられるほど、俺は合理的でもないし、賢くもねぇんだ。』
────────呪術師として。