やっぱり他キャラの視点で書くとどうしても時間がかかっちゃいますね。特にブルアカキャラなら、解釈違いとか起きないように心象の深くまで考えて書かないといけないですし。
―――セリカside―――
『なあ、セリカちゃん。あの先生、生徒思いのいい大人じゃねぇか。一緒にいたミレニアムの男の子も元気でいい奴そうだし─────俺はそう思うぜ。』
閉店後の店内掃除が粗方終わり、今日のバイトをあがる直前に大将が言った言葉だ。
『ねえ、セリカ。私は先生も頼りになる大人だと思う。魚里は他校の生徒だし、最初は何を考えているか分からなかったけど、一緒に過ごす中で私達に協力してくれようとしているのは分かった。』
紫関ラーメンから自宅への帰り道に出会ったシロコ先輩が言った言葉だ。
「(大将もシロコ先輩も同じ考えなんだ。)」
シロコ先輩から奢ってもらったスポーツドリンクを飲みながら2人の言葉を反芻する。ただ、何度自分の胸の内で嚙み砕こうとしても、なかなか飲み込むことができない。
「(客観的に見れば、先生は私達の視点では分からないような知識や考え、権利を持っている。それが、特に表に出るのは戦闘での指揮を行う場面だ。)」
今日の大将との会話でも私達の・・・・生徒のことを第一にみたいなことを言っていたのも、嘘偽りでないと
「(魚里は・・・・・多分何も考えていないわね。」
『何も考えていない』とすると、大きな誤解が生まれる。
正しくは、借金問題を解決すること以外に、何も考えていない。
先生は『シャーレ』という中立な立場の組織の人間なので分かるが、魚里は曲がりなりにもミレニアムサイエンススクールの人間だ。シャーレの当番という体で、アビドスに滞在しているが、そこにどんな思惑があるかまでは分かったものでない──────
「(────そのはずだったんだけど・・・・)」
ここ数日、不本意ながら同じ空間、同じ時間を過ごしてみて自ずと分かった。
魚里は、ほんの少し私と似た人間なのだ。
心と身体が直線繫ぎだからすぐに表情に出るし、考える前に即行動といった感じだ。
違う点と言えば、その振れ幅の大きさだ。
自分ならカッとなって突っ込んでいく場面でも、そうしない。特にこの前のカタカタヘルメット弾のアジトを襲撃したときも、我武者羅に突っ込んでいっているように見えて、周りの状況を見ながら攻めと守りを切り替えていた。
「(まあ、あれは魚里が私たちと違って、頑丈じゃないってのもあるだろうけど・・・・)」
そもそも、命の危険があるにも関わらず、銃弾が飛び交う前線に出て積極的に交戦する必要はない。それでも、前に出て戦うのは、あいつなりに私たちに協力するための方法として、考えたものなのだろう。
「私も素直に頼ればいいのかな・・・・ううん、ダメ!!」
顔を横に振り、自分の中に沸いた甘い考えをかき消す。
そもそも今日だってお店の中で、先生と魚里と一緒に盛り上がって・・・・柴大将も柴大将よ!別に魚里がたくさん食べるからってなんなのよ!あれくらいでチヤホヤしちゃって・・・・。
「私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだかr」
カタンコトン!
その時、何の前触れもなくスプレー缶のようなものが転がってきて、白い煙を吹き出し始める。
「ゲホッ!ゲホッ!なに・・・・これ・・・・・?」
煙を吸い込んだことで次第に意識が遠のいていく中、私は煙の向こう側に見覚えのあるヘルメットを被った人の影を見たのだった。
「ここは・・・・・・・私、誘拐されたの!?」
目を覚ますと、私は明かり一つ差し込まない暗闇の中に寝させられていた。辺りを見回すと、薄っすらと段ボールがかなりの数積まれているのが見えるくらいのもので、他には車輪が砂粒をかき分けて進んでいくような音が絶え間なく聞こえる。
意識を失う直前に見えたヘルメット・・・・恐らくカタカタヘルメット団の団員が、アビドス砂漠を車で横断しているのだろう。
「早く脱出しないと・・・ッ!!」
このままじゃ何をされるか分かったものじゃない。幸い、油断からか私の銃は壁に立てかけてある。手首と足首を縛っているロープを引き千切ろうと力を籠めるが、思うように力が入らない。結局、無駄に体力を使っただけで段々と力が抜け始める。
「(みんな心配しているだろうな・・・・。)」
自分一人では、どうしようもないことを察し、私はアビドスの仲間たちに思いを馳せる。他の学校と比べて数は少ないけれど、その分一緒に苦難を乗り越えてきた大切な仲間たちだ。
「(このまま私どこかに埋められちゃうのかな・・・・。)」
カタカタヘルメット団がどんな理由で私を誘拐したのかは分からないし、この後どうなるのかも分からない。
ただ、それよりもアレが最後だなんて嫌だ。
先生と魚里をチヤホヤしているのを気に入らないからって、くだらない意地を張って・・・・・あんな態度を取ったまま、みんなとお別れだなんて────────
「みんなに会いたい・・・・っ!」
────────────そんなの嫌だ。
直後、壁が床に、床が壁になった。
「な、なに・・・・?きゃあっ!?」
私自身や私の周りに積まれていた段ボールが、そこら中に叩きつけられて滅茶苦茶になる。
「(違う、壁が床になったとかじゃなく、私が乗っている車が横転したんd──────痛いわね!!)」
ただでさえ、身動きが取れないことに加えて、車が横転したことで、床や壁、段ボールなどが無造作にぶつかってくる。これくらいじゃ傷つかないけど、痛いものは痛い。
「いたたた・・・・。」
車の横転が始まって、10数秒経つと異変が収まる。そこら中に身体を叩きつけられたり、段ボールがぶつかってきたりして全身が痛いが、幸い被弾した時に比べたら大したことない。
しばらくすると、車外が騒がしくなってきた。カタカタヘルメット団と思われる怒号や銃声が聞こえてくる。一方で、ヘルメット団と戦っているであろう相手の声や銃声は全く聞こえてこない。
「(ヘルメット団は、何と戦っているの・・・?!)」
直後、私の目の前から光が差し込んでくる。あまりにも眩しくて思わず目を細めるが、太陽の光を背に受けて中に入ってきた人物を確認し、ヘルメット団と戦っていた相手の謎が一気に解ける。
「え~っと・・・奥空さんたちじゃなくてごめんね。大丈夫、黒見さん?」
「魚里!?どうしてここに・・・・?」
思わぬ登場に私が大きな声を出すと、彼はし~っと人差し指が静かにするように促してくる。そして、魚里は私が口をつぐんだことを確認すると、私の手足を縛っているロープを解こうとしながら小声で話してくる。
「まだ、ヘルメット団を全員倒し切れてないんだ。砂漠には、都合よく遮蔽物もないからさ・・・・最低限の戦闘であいつらの目を搔い潜って来たんだ。まさか、最初にぶっ飛ばした車の中にいるとは思わなかったけど。」
「もう少し穏やかに助けてほしかったんだけど・・・・他のみんなは?」
「そもそも俺がここに来れたのも、先生がシャーレの権限で黒見さんのスマホの位置を特定できたおかげなんだ。俺は、走ったほうが早いから先に来て、他のみんなは先生と一緒に後からやってくる・・・・頼むからストーカーって言わないでやれよ?」
「流石に言わないわよ・・・・ところで、いつロープ解けるのよ?」
まずは両手首を縛っているロープを解こうとしているようだが、会話を初めてからそれなりに経っているのに、なかなか両手が自由にならない。
「しょうがないだろ、俺不器用なんだから。」
「分かったから、早くしてよ。あと、変なところ触ったらその腕銃で撃つから。」
「なんで、早瀬と同じこと言われるんだよ・・・。」
そう言うと、魚里は不満そうな顔で大きなため息をつく。
「早瀬って、ミレニアムの人?」
「ああ、セミナーの後輩だよ。あともう一人、生塩っていうのがいるんだけど、そいつには『変なところ、触ったら出るとこ出ますよ』って言われた。」
「・・・・あんたどれだけ信用ないのよ。」
「いや、お前らが信用しなさすぎなだけな気がするけど・・・・はい、手の方は解けた。」
ようやく、両手が自由になり、手のひらを開いたり閉じたりして調子を確かめる。少し痺れがあるけど、さほど問題はなさそうだ。
「じゃあ、これどうぞ。」
そう言って魚里が差し出してきたのは、ハンカチ。何のつもりで渡してきたのか分からずにポカンとしていると、彼は続けて言う。
「そのままだと、砂狼さんとかに泣きっ面のセリカって言われちゃうよ。」
「う、うるさいわね!あんたは私の銃を探しておいて!」
急に顔が熱くなってきて、小声で魚里につい強くあたってしまう。こういう時に素直に感謝できないのが、私の悪いところだ。熱くなってきた顔を必死に冷ましながら両足のロープを解こうとし始める。
「け、結構固く結んでいるわね・・・・。」
「でしょ?俺がもしかしたら不器用なんじゃなくて、あいつらの捕縛スキルが高すぎるだけなんじゃないかな?」
「はいはい。」
魚里の言葉を聞き流しながら引き続き苦戦していると、外から声が聞こえてくる。
「おい、こっちの車の荷台が開いているぞ!!」
「さっきの奴がいるかもしれないぞ!」
「「っ!?」」
その声を皮切りに段々と近づいてくる砂を踏み締める足音が増えてくる。まだ、両足のロープは解けていない。
「黒見さんの銃は見つかったし、ひとまず脱出するぞ!!」
「ちょっ!?どこ触って!!」
「そんなこと言っている場合かよ!!」
「っ!?やっぱりいたぞ!!!撃て撃て~!!」
魚里は、私の右腕を掴んで肩の上に担ぐようにした後、両足の間に右腕を通して走り出した。いわゆる、『ファイアーマンズキャリー』と呼ばれる人を担ぎ上げて運ぶための技術だ。
「あぶなっ!?」
荷台から飛び出した私たちを確認したヘルメット団は、我武者羅に銃弾を放ってくるのに対して、彼は他の車の影に隠れるなどして、被弾を回避していく。
「魚里、このままだと足手纏いになるから、その銃で私の足のロープを撃って!!」
「そう言われても、そんな暇ないんだよ!」
彼の言う通り、やはりヘルメット団の数が多く、一瞬でも止まっている暇がない。私は被弾してもいいが、魚里は一発の被弾が致命傷になりかねないから、それを強いるわけにもいかないだろう。
「ど、どうすればいいのよ・・・?!」
どう対処しようかと、頭を回転させていると、水平線の向こう側からバギーが飛び出してきた。
「「「ぎゃあああああ?!」」」
バギーの荷台からシロコ先輩が、自身のドローンに指示を出し、ミサイルをヘルメット団たちに打ち込んで吹き飛ばした。
「シロコ先輩!みんな・・・・・!!」
シロコ先輩だけじゃない。
ホシノ先輩、ノノミ先輩、アヤネ、それと先生も一緒に乗っているのが、目を凝らすと見えてくる。嬉しさから思わず口角が上がるのを抑えていると、ポケットの中のスマホから音が鳴ったのに気が付く。
「スマホ、あいつらに取られてなかったのね・・・・。」
スマホを取り出して、モモトークを確認する。アヤネから安否の心配をするメッセージいくつか来ているのは申し訳なく感じたが、それよりも最新のメッセージとして来ているものが真っ先に目に入ってくる。
『おまたせ、泣き虫セリカ。』
「な、泣いてないし!!」
「ハハッ、どの口が・・・・。」
「何か言った・・・!?」
「イエ、ナニモ。」
魚里が顔を真っ青にして、視線を横に逸らす。というか、なんでシロコ先輩私が泣いていたのを知っているの?
「もう・・・・こうなったらヘルメット団に八つ当たりしてやるわ!もともとこうなったのもあいつらのせいなんだから!魚里、銃ちょうだい!」
シロコ先輩たちのおかげで、逃げ回る必要はなくなった。魚里に降ろしてもらった後、銃を受け取る。好き勝手されて頭に来ているんだから、痛い目に合わせてやる!
「あれ?」
早速両足を縛っていたロープを銃弾で無理やり引き千切ろうとしたところで、素っ頓狂な声を出してしまう。先ほどまで確実に両足を縛っていたロープは何故か足元に落ちていた。まるで、刃物に切られたように綺麗な千切れ方だ。
魚里が切った?・・・いや、そんな暇はなかったと思うし。まあ、ひとまずはヘルメット団を倒すことが優先だ。
「魚里、行くわよ!憂さ晴らしに一緒に暴れてやるわ!!」
「おう!」
「何してんのよ。」
「疲れたから休憩。俺、呪力少ないわけではないけど、多くもないんだよ・・・・。」
「呪力?」
「あれ?言ってなかったけ?」
ヘルメット団との戦いが終わり、先生たちとの話を終えてから少し離れたところに腰かけている魚里に話し掛けると、聞きなれない単語が彼の口から出てくる。首を傾げていると、魚里が『呪力』について簡単に説明をしてくれた。
「ふ~ん。つまり、その呪力っていうので、身体能力を上げて急いで来てくれたのね。アヤネから聞いたわ。」
先生にお礼を言った後、アヤネから今回の救出までの経緯を聞いた。まず先生がシャーレの権限で私のスマホの位置を突き止めた後、アヤネ達は倉庫で埃を被っているバギーを見つけたことを思い出す。ただし、燃料は入っているが、車体自体がすぐに使える状態ではなく、ある程度メンテナンスが必要であったのだ。
『待ってください。魚里さんだけ先行するのではなく、メンテナンスが終わった後にみんなで行きましょう!一人で先行するのは危険です!』
『駄目だ、待てない。こうして待っている間に黒見さんは、何処に、何の目的で連れていかれるのかも分からないまま、怯えているかもしれない。俺は車よりも早く走れる・・・・・先生、先に行かせてもらいますよ。』
『うん、分かった・・・・スマホにセリカのスマホの位置情報を連携するようにしておく。頼んだよ、セリカのこと。』
一応少し待てば、みんなと一緒に安全に来ることもできたが、『私が心配だから』という一点だけで、危険を冒して一人で来てくれたのだ。
「その・・・・ありがとう。」
「どういたしまして。」
事前に先生へお礼を言ったこともあって、先ほどよりもスムーズにお礼の言葉を伝えることができたのでホッとする。魚里は普通に受け答えをしてくれて助かる。
『フッフッフッ・・・・伊達にストーカーじゃないからね!』
先生は、こんな感じで変なことを言ってくるし、ホシノ先輩は私がデレたと言って、からかってくるし・・・・でも、先生は信じられる人だった。
────そして、今目の前にいる人も。そもそも今思えば、私が変に意地を張っていただけなのだ。突然アビドス対策委員会という輪に自然と溶け込んでいく二人を異分子として見てしまっていたのだ。別に何か悪いことをしているわけでもないのに。
「どうした?」
「えっ、いや・・・その・・・・・借りたハンカチはまた洗って返すわ。」
「そう?なら、任せるよ。」
何も言わずにジーッと顔を見ていたことを魚里に不思議に思われた。咄嗟に借りたハンカチのことを思い出して話を繋げたけど、すぐさま会話が終わってしまう。
違う、私が言いたいのはこれじゃないのに・・・・・ええい、ままよ!
「そ、その・・・・・あなたの呼び方なんだけど。」
「俺の呼び方?」
「今まで、『魚里』って呼んでたじゃない?それが、ちょっと良くないかなって思って・・・・。」
別に、ホシノ先輩が言ってたようにデレたとかじゃないから!
単純にアビドスのみんなのことは名前で呼んでいるのに、魚里だけ苗字で呼んでいるのが少し落ち着かない気がしただけだから!あと、単純に彼の名前が分からないから気になっているだけ!先生がたまに呼んでいた気がするけど、あまり関わりを持たないようにしていたから、正直覚えていない。『ス』から始まるのは、覚えているんだけど・・・・・
「だから、その・・・・あなたのことを名前で────」
「ああ、気にしなくていいよ。」
「────はい?」
言い淀んでいたが、ようやく言えるといったところで、魚里が言葉を挟んでくる。私が尋ねたい内容に対して想定される回答と全く違う回答に思わず口を噤んでいると、彼は続けて言う。
「今まで、俺のこと『魚里』って呼び捨てで呼んでたのを謝りたいって話でしょ?別にいいよ、一応先輩だけど別の学校だし、砂狼さんも何食わぬ顔で『魚里』って呼んでいるし・・・・黒見さんも、引き続きそのままで呼んでくれて。」
「・・・・・・・。」
「黒見さん・・・・?」
「・・・・・そうね。ありがとう。」
「お、おう。」
「なんか、他のみんなと比べて、俺の分のラーメン少ないんだけど。」
「セリカ、私の分も少ない。」
「ふん!」
そう言って私は厨房のほうに引っ込んだ。それと入れ違いになって柴大将が、魚里たちがいる席へと向かって言う。
「坊主は乙女心の勉強、シロコちゃんはその巻き添え・・・・って感じだな。」
「「なんで!?」」
魚里は意味が分からずに柴大将に必死に理由を尋ねているが、柴大将にあしらわれている。シロコ先輩は、魚里に巻き添えにされたことをひたすら抗議するように、彼の身体を揺らして訴えている。
「うへ~青春だね。」
「あらあら☆」
「セリカちゃんどうしたんだろう・・・?」
「ふ、二人とも落ち着いて。」
先生が、店内で騒ぐ二人に落ち着くように言う最中、私は皿を洗いながら呟く。
「魚里のバカ・・・・。」
その言葉は、騒いでいる二人の声でかき消されてしまうのであった。