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早速ですが、今回はギャグ回です。
「みんな、おはよう!」
勢いよく対策委員会の部屋を開いて入ってきたのはセリカ。ヘルメット団に誘拐されてしまった直後は、色々あって疲れた表情をしていたが、あれから数日が経ち、すっかり元気を取り戻したみたいだ。
「・・・・って、魚里は?」
しかし、すぐにその笑顔が少しだけ曇った。現在、彼と先生は学校で寝泊まりしているので、セリカたちが登校してくるまでには、必ず部屋の中にいるのだが、今日は彼の姿だけなかったのだ。
セリカの質問に答えたのは、自分の腕を枕にするようにして机にうつ伏せで仮眠を取っているホシノ。
「今日は、ミレニアムに戻っているよ~。」
手をひらひらと振りながら答えられて、セリカは彼が滞在することになった時に言っていたことを思い出す。普段の言動からは、あまり想像つかないが一応彼はミレニアムの生徒会『セミナー』の副会長───────いわば、キヴォトス三大校のうちの一つで、ナンバー2を張っている人間なのだ。
「そ、そういえば、魚里ってミレニアムのナンバー2なのね。すっかり忘れていたわ・・・・。」
「ミレニアムには優秀な才能を持つ方々が多く在籍されていますが、魚里さんがその中で2番目に偉い人って実感は正直ないですよね。」
別にアヤネは、彼のことを貶しているわけではない。先生と一緒に対策委員会に協力するようになってから、1週間が経とうとしている現在、様々な活動の中で、一通り彼の人となりが見えてきたのだ。
彼自身、画期的なものを提案・実行するタイプというよりは、普遍的なものをコツコツとやっていくタイプなのだ。借金問題への対策として、以前彼があげたものをいくつか抜粋すると、『募金活動』や『指名手配犯の懸賞金を目当てとした治安維持活動』などだ。
ただ、前者は先生が来る前に実施したことがあり、効力があまりなかった。
後者は、そもそもアビドスがあまりにも広大すぎる砂漠が故に土地勘がないとすぐに遭難してしまうため、指名手配犯も逃げてこない──────というより、彼女たちが逃げ込む先として打って付けの場所があるため、アビドス自治区にはほとんど来ない。さらに、アビドスではない別の学校が支配する自治区に逃げられると、手を出せなくなってしまい、仮に自治区を無視して手を出してしまうと主権侵害となり、学校間で問題になるため没となった。
「ん、今日は私たちだけで対策会議。」
「もしかして、セリカちゃん・・・魚里さんがいなくて寂しいんですか~?」
「さ、寂しいわけないでしょ!別に気になったから聞いただけ!ほら、さっさと始めるわよ!」
顔を真っ赤にして物凄い勢いでセリカは首を横に振って否定する。落ち着いたところで、アヤネがホワイトボードの隣に立って話を切り出す。
「それでは、本日の定例会議を始めます。先ほどお話が合った通り魚里さんは残念ながらいらっしゃいませんが、先生に立ち会っていただきますので、いつもより真面目な議論でお願いします。」
「何よ、いつもは不真面目みたいじゃない!」
「フフフ。」
セリカの反応に、ノノミが笑みを零す。
ちなみにこの後セリカは悪質商法に騙されかけていることが判明したり、ホシノは他校の生徒を脅迫してアビドスに転入させる案、シロコは銀行強盗を提案する等、ハチャメチャな内容になる。まだマシな案として、ノノミが提案した学園アイドル計画が挙げられるが、アヤネの怒りの沸点を超えてしまうのであった。
「うへ~今日はよろしくね~先生。」
「うん。よろしくね。」
そうとは知らずに、先生は手を振ってきたホシノに対して笑顔で答える。
「(先生はともかく、魚里くんはこのまま私たちの問題に首を突っ込まないでくれたらいいんだけどなぁ・・・・。)」
そして、ホシノが彼のことをどう思っているのかも、先生はまだ知らないのであった。
久々のミレニアムに内心浮足立ちながら俺は、セミナー室を目指して廊下を歩く。
普段通っている時には別にそうでもないのだが、やっぱり約一週間近く久々に来るとなったらなんだか気分的にも盛り上がるのだ。
「みんな、おはよう~!」
お目当ての部屋にまで到着し、俺は勢いよく扉を開きながら挨拶する。恐らく中にいるであろう後輩たちに向けて────────
「「・・・・・・。」」
開幕、バニーガールとなった
「・・・・・・・。」
唐突に目の前に現れた情報に脳が処理し切れずに双方立ち尽くしている中、先に動いたのは俺だった。
パシャ
咄嗟にスマホを取り出し、カメラアプリを起動し二人の姿を写真に収める。そして、そのままモモトークを起動し、ヴェリタスメンバーのトーク画面に写真を添付し、メッセージを送付する直前で彼女たちにスマホの画面を向ける。
「何も確認を取らずに入った俺も悪かったけど、まさかそんな恰好になっていると思わないじゃん?だから、ヴェリタスに情報をリークされたくなければ、俺の身の安全を保障してください。」
土下座をしながら、脅迫もとい命乞いをする。悪いが、先輩としての威厳はアビドス砂漠にでも不法投棄しておいた。
「どんな脅し文句ですか!?」
「フフフ。」
2人の反応に震えながら(特に生塩)断罪の瞬間を待ったが、どうやら許されたようで彼女たちから説明を受けるのであった。
「超高速着せ替え人形『バニーちゃん』?!」
「はい・・・。」
どうやら今腰かけているソファの隣に立ち尽くしている人形型の機械、その動作テストを依頼され、実際に使っていたと早瀬から説明を受ける。
「私たちが普段着用している服もあのように・・・・。」
生塩が指し示した方向には、ビリビリに破れて原型を留めていない服だったものが、床に散らばっている。色合い的にも黒の生地は早瀬、白の生地は生塩が普段から着ているものだろう。
「なんで元々着ていた服をビリビリに引き裂くんだ・・・・。」
淹れてもらったコーヒーを口に含みながら、俺は生地の中に紛れているレース生地といったものから目を逸らす。服だけじゃなく下着も引き裂くのは、悪質すぎる。あと、着せ替え人形側でなく使っている側が着せ替えられるって、その命名は少し違うのではないだろうか。
こういったトンチキな出来具合からして、このマシンの製作者は十中八九エンジニア部だろう。
「またエンジニア部か・・・・。」
「またとは失礼だね。」
「うわ、出た。」
頭を抱えていると、扉を開いてエンジニア部の部長『
「私たちも毎度問題を起こしているわけではないはずだよ。」
数多くの実績を生み出したミレニアムサイエンススクールの中でも、エンジニア部の実績はその大半を占めている。『マイスター』と呼ばれる機械製作や修理の天才が多く在籍していることから、ハードウェア面において、彼女たちの右に出る組織はこのキヴォトスには存在しないだろう。
「ダウト。生塩、エンジニア部が昨年度に起こした問題の回数は?」
「被害の大小を区別しなければ、137回と記憶しています。」
「大体2日に1回くらいのペースね・・・・。」
ただ、彼女たちが関わった制作物で何も問題なく終わったことは一度もない。単純なプログラムのバグといった要件を満たさないといった問題ではなく、不要な機能が取り付けられたり、本来の機能がおまけになるほどの盛られっぷりをされたり・・・・しっかり要件定義はするのだけど、あらぬ方向にいく。優秀なエンジニアであるのと同時に問題児集団なのである。
ミレニアムで爆発が起こったら、10回に7回はエンジニア部が関与していると考えていいだろう。(あとの3回は、大体C&Cである)
「それで、なんでこれを作ったんだ?」
「C&Cからの依頼でね・・・なんでも、普段のメイド服だと潜入調査の時に警戒されやすくなったから、代わりの服に即座に着替えられる携帯器具が欲しいということで、私たちエンジニア部に白羽の矢が立ったんだよ。」
「どうみても携帯器具じゃないし、そもそもバニーである必要はないだろ。」
携帯器具と言われて件のマシンに目を向ける。全長1.5mほどある人形型であり、どっからどう見ても持ち運びするには不便だ。それにバニースーツってのもよくわからない。
「まあ、そこはブルートゥース機能や自爆機能を追加していたら段々と大きくなってきてね。ちなみにバニースーツは、C&Cからのリクエストだよ。」
「は?一体誰の・・・・・いや、ちょっと待て。今自爆機能って言ったか?」
「ああ。仮に敵組織に奪われるようなことがあっても悪用される前に一網打尽できるし、何よりも爆発はロマンさ。」
「狂ってやがる。」
自信満々に胸を張って答えるウタハに呆れながら俺はコーヒーを飲み干して、超高速着せ替え人形『バニーちゃん』を一通り眺める。胸元には、S、M、L、LLといったサイズのボタンが付いており、その上部には何故か♂、♀のボタンがついている。
「・・・なんで、これ男のボタンがあるんだ?」
「男の人でもバニーちゃんになりたいって人がいるかもしれないからね。ここ最近は性自認といったジェンダーギャップによる話題もあがっているし、私たちはそういった人たちに寛容でありたいと思っているよ。」
「おいやめろ、センシティブな話題を出されると反応しづらくなる。」
ただでさえ、色々と複雑な問題なんだ。変に反応すると、個人の主張ということでボコボコにされかねない。
「魚里先輩もバニーちゃんになってみませんか?」
「気を使ってもらって悪いけど、俺はそういった趣味はないです。」
生塩は手を兎の耳になぞらえてぴょんぴょんと軽く跳ねながら誘ってくるが、丁重にお断りさせてもらう。そもそも、この前のメイド服といい、頑なに俺を女装させようとするのか。
「ちなみに今ので魚里先輩が私のことをチラ見したのが6回、ユウカちゃんは5回ですね。」
「──────っ!!う、魚里先輩!!何見ているんですか・・・っ!!」
生塩からの余計なカミングアウトで、早瀬は顔を真っ赤にして距離を詰めてくる。生塩やめろ、俺で遊ぶな。
「あっ、今のでユウカちゃんは6回になりましたね。」
「魚里先輩~~~!!!えっちなのはダメです!!」
「そ、そう言われても健全な男子高校生には刺激が強すぎるんだよ。同年代の女子のバニー姿なんて、百利あって一害なsゲフンゲフン────百害あって一利なしだろ?」
「正体表しましたね。」
「しっかり記録しておきます。」
「勘弁してください。」
無情にも、生塩のペンも早瀬からの冷たい視線も止まらない。ウタハが帰った後にどんな目に合うのか内心震えていると、彼女が咳払いをしてから話し出す。
「イチャイチャしているところ申し訳ないけど、せっかくだから君も超高速着せ替え人形『バニーちゃん』が動いているところを見たいだろ?」
「いや、別に。というか、なんで俺が実験台にならないといけないんだ。」
そうなった暁には、あまりのキモさにキヴォトスが滅ぶぞ。いいのか、青春のラストページがそれで。
「いや、被検体には私がなるよ。」
「正気か、お前。」
ついに正常な判断ができなくなったのかと思っている間に、ウタハは『バニーちゃん』の♀とMのボタンを押してしまう。すると、『バニーちゃん』の腕が動き出し──────
ビリッ!!
ウタハの服、下着を一瞬の間にすべて破り捨てた。
「ブフォッ!?」
「魚里先輩!見ちゃダメです!!」
咄嗟に早瀬が両手で俺の目元を隠そうとするが流石に遅かった。『バニーちゃん』の腕によって裸にひん剥かれた後、『バニーちゃん』の目が激しく輝きだす。続いて変化があったのは、お腹に付いた扉の部分だ。扉が開くと、そこにバニースーツとウサギ耳のカチューシャが入っており、『バニーちゃん』はそれを手に取る。そして、そのままウタハへと着せた。
「どうだい?結構自信作なんだが・・・・どうしたんだい?」
「俺がどうしたじゃなくて、お前がどうかしてるんじゃないか?」
早瀬に両目を覆われている俺の方を見て、着替えさせられ終わった彼女が尋ねているのだろう・・・・なんも見えねぇ。
「大丈夫さ。最近の統計によると、銃を持たない人の方が裸で歩いている人の方が少ないってデータがあるからね。」
「そんなデータは今すぐ捨ててしまえ。」
あくまでそれは人数比の統計であって、裸で歩くことの免罪符にはなり得ないんだよ。ひとまず、機械の動作が終わったことを確認したからか、早瀬が俺の両目から手を放した。
「・・・・見ました?」
「ミマシタ。」
変に嘘つくよりは自白しておくことにする。早瀬からの冷たい視線を意識外に持っていこうと必死に、俺はウタハに質問を投げかけることにする。
「ところで、このバニースーツって全部人形の中にストックしているのか?」
「いや、超高速着せ替え人形『バニーちゃん』にはAIが搭載されていてね。着せ替えさせる人間のパーソナルカラーを瞬時に判断し、その人にあったバニースーツを即座に縫い上げるんだ。」
だから、ウタハは紫、早瀬は黒、生塩は白といった感じで違うのか。足の部分も黒タイツや網タイツ、生足といった違いがあるのは、悔しいが個性が出ていて面白い。
「無駄に高性能ね・・・せめて、服を破り捨てるのだけでもなんとかならないんですか?」
「それは、無理な相談だね。生地が不足するのを補うために、補給する必要があるんだ。」
そう言ってウタハが指し示した先では、『バニーちゃん』が、破り捨てられたウタハ、早瀬、生塩の服だったものを口からパクパクと捕食していた。なんでそこは用意周到なのだろうか。
「なるほど。私たちの服が、次のバニースーツの生地になるということですね。」
「材質とか色とか全然違うけど、ちゃんとバニースーツの生地になるんですか?」
「大丈夫。そこはマイスターの名にかけてなんとかしたよ。」
「デウス・エクス・マキナみたいな解決の仕方をするな。」
相変わらずのぶっ飛びっぷりにため息が出てしまうが、それでもやはりエンジニア部の作った発明品には毎度驚かされる。バニースーツだけでなく、他の洋服も作れるようになれば画期的な発明になるだろうに・・・・。
「さらに、このオートパイロットモードを起動すれば・・・・。」
ウタハはそう言うと、超高速着せ替え人形『バニーちゃん』の後頭部に取り付けられたボタンを押す。
『オートパイロットモード、開始。』
「うおっ!?なんだコイツ!」
『バニーちゃん』の目が赤く輝くと、突如俺の方に機械の腕を伸ばしてくる。咄嗟に躱して身構えると、ウタハが説明を始める。
「今この場にバニースーツを着ていないのは君だけだからね。オートパイロットモードになると、バニースーツを着用していない者をターゲットにし、強制的にバニースーツを着用させようとしてくるよ。」
「もはや、C&Cが出した要望の原型を留めていないわね・・・・。」
ウタハのとんちんかんな説明の最中も、『バニーちゃん』の腕は止まらない。ただ、幸いにも大した速度でもない上に、あくまで着替え用ロボットであることから、大したパワーもないみたいだ。呪力で強化すれば、簡単に捌くことができる。
流石に壊すわけにもいかないので、防戦一方になっていると、『バニーちゃん』の動きが突然止まった。
『ターゲット変更!ターゲット変更!』
そう言うと、『バニーちゃん』は俺に背を向けて部屋の外へと走り出して行ってしまった。
「どうやら敵わないと判断して、別のターゲットを探しに行ったみたいだね。」
「た、大変です・・・このままだとミレニアムの生徒たちが全員バニーガールになってしまいます!」
生塩は至極真面目に言っているのだろうが、字面だけで見るとどんな危機だよと思ってしまう。
「安心してくれ。ちゃんと緊急停止用コントローラーの設計はしてある。」
「設計をしていても、現物としてなかったら意味ないんですが・・・・。」
「・・・・あっ。」
早瀬からの指摘にウタハは口を噤んでしまう。あれだけ得意げに『安心してくれ』って言ったのに、緊急停止用コントローラーは設計だけで製造はしていなかったのかよ。そこはせめて、製造はしてたけど、失敗とかにしてくれよ。
「ひとまず、あの機械をさっさと止めるぞ!」
「はい!」
「分かりました。」
俺達はセミナー室を飛び出して機械の行方を追うのであった。
無論、