ネフィリム 超吸血方舟譚   作:ばりるべい

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ネフィリムを読んでいないと最初はよく分からないかも知れません。
一応、その内ネフィリムを知らない人でも楽しめる様にどうにかする予定です。


廃墟の街

 

深い眠りからヨブは目覚めた。

ゆっくりと上体を起こし瞼を開いた。

 

…どこだ、ここは。

 

網膜に飛び込んできた情報は薄暗い廃墟の光景だ。

鼠色や灰色のコンクリートブロックがばらばらに砕け、山の様に重なり合っている。

周囲を見渡しても折り重なった廃墟の一部ばかりだ。

 

おかしい、俺は確かに新調した自分の根城にいたはずだ。

人間たちの仕業か?いや、寝ていたとしても奴らが俺を出し抜ける筈も無い。

他の吸血鬼の仕業だろうか?だとしても俺を出し抜ける奴は…

 

そこまで考えてヨブはある事に気づいた。

 

ミカは?どこへ行った?

 

ヨブは立ち上がって叫んだ。

 

「ミカ!」

 

ヨブの声が廃墟に残響した。

返事はない。

 

…まずい。何者にせよ俺を出し抜いたと言う事は相手は相当な実力者だ。

考えたくはないがJが復活したのかもしれない。

 

ヨブは居ても立っても居られなくなって廃墟の外へ出た。

戦場だったのかと疑う程、弾痕や大穴によって破壊されたコンクリートが乱雑に積まれている。

その光景は言うなれば建築物だったものが立ち並ぶ“廃墟の街”だ。

 

ヨブは無感情に廃墟の街を眺めると自分の体と持ち物を確認した。

体調や外見に変化はない。

黒い髪、最近血を吸っていないせいで血色の悪い白い肌。

黒いロングコートの内ポケットには何かと世話になった拳銃が入っている。

特に何かされたような形跡はない。

だが安心は出来ない。ヨブを出し抜ける奴がただいたずらをしただけで満足する筈がない。

 

何が目的だ…

 

ミカが狙いだとしても何故ヨブに一切危害を加えずに立ち去ったのか。

様々な思考が脳内を駆け巡り、焦りから額に汗が滲んだ。

 

ヨブは吸血鬼としての能力をフルに使ってミカの気配を探った。

人間特有の残り香を感じるが周囲にミカの存在を示すものは無いようだ。

 

まぁいい。人間共に聞いてみるか。

 

ヨブは背後から人間の気配を感じ取りそう考えた。

人数は10人程度。それなりに鍛えている様だが吸血鬼狩りの連中と比べれば大した事はない。最も相手が吸血鬼だろうと吸血鬼狩りだろうとヨブにとっては大した事はない。

 

「そこのお前達、俺の腰元位の背丈の少女を見なかったか」

 

小さく息を呑んだ音が聞こえた。

動揺の気配をありありと感じ取れる。

ヨブはふっと失笑した。

 

何者にせよ大した事はないな。

 

集団の先頭に位置していた気配…恐らく女だ。

その女だけが殺気を強めた。

 

「…いつから気づいていた」

 

女にしては低い声だと思いながらヨブは振り返った。

そして眉を顰めた。

 

物陰から出てきたのは全員年端もいかぬ少女達だった。

皆総じて小汚い格好でこちらに向けて小銃を構えている。

先頭のリーダー格らしき少女は青みがかった黒の長髪にキャップのついた帽子を目深く被っている。

ヨブが眉を顰めたのは少女全員の頭頂部より数センチ上に輝く光輪が浮いていたからだった。

 

何だこいつらは…

 

ヨブは彼女達への警戒心を僅かに高めた。

 

「先に質問したのは俺だ」

 

「少女なんて何処にでもいる…」

 

相手の声は自分に言い聞かせている様に感じた。

 

「…ミカと言う名前の少女だ」

 

リーダー格の女がぴくりと反応した。

 

「ミカだと…お前、トリニティの者か?」

 

「トリニティ?何の話だ」

 

「…いずれにせよお前をマダムの所まで連行する」

 

「断る。俺はミカを探すので忙しい」

 

ヨブは彼女達を無視して歩き出した。

女は微かに苛ついた様だった。

彼女が片手を上げると周囲の少女が一斉にヨブに狙いをつけた。

 

「…やめておけ。後悔するぞ」

 

ヨブは時間を無駄にしたくないのでそう言ったのだが、彼女らには逆効果だった様だ。

 

「後悔するのは貴様の方だ」

 

数多の銃口が一斉に火を吹いた。

 

 

 

 

錠前サオリはマダムからの命令で侵入者を捕縛、もしくは排除する為に小隊を連れてカタコンベ付近の廃墟群に来ていた。

今日はアリウス分校と因縁深いトリニティから、なんとティーパーティーの一人が訪れていた。

その女の名は聖園ミカ。

アリウスに親睦を深めに来たと言われた時には正気を疑ったものだ。

 

かつてはアリウスもトリニティ学園の正式な一派だった。

しかし遠い昔に異端とみなされトリニティから分離し、以来泥水を啜って生きる生活を、文字通りの苦渋を舐める人生を送って来た。

 

そんなアリウスにトリニティのティーパーティーの一人が護衛も無しに訪れるなど正気を疑わずしていられる者がいるだろうか。

 

そしてそんな頭がイカれているとしか思えない桃髪女が去った後、現在アリウス分校を牛耳っているマダムから呼び出され侵入者を捕らえてくる様命じられたのだった。

てっきり最初は例のティーパーティーの女かと思っていたのだがどうやらそうでは無いらしい。

捕縛対象は男と言う事だった。

何故かマダムはその男の事を恐れている様だった。

それを指摘しても何一つ良い事がないのは分かり切っていたので何も言わずに命令を受け取った。

 

そして比較的練度の高いメンバーを揃えてその男がいると言う地区までやって来た。

果たして、道の真ん中に黒衣の男が突っ立っていた。

男の姿を認めた瞬間、背筋をひやりとした感触が流れた。

嫌な予感がする。

訓練中、大怪我を負う瞬間などによくこの感覚がしていた。

 

男に気づかれない様に足音を殺し、銃を構えながらゆっくりと近づいた。

 

「そこのお前達、俺の腰元位の背丈の少女を見なかったか」

 

っ!勘づかれている!

 

「…いつから気づいていた」

 

サオリはなるべく動揺を悟られない様に努めて冷静に言った。

 

「先に質問したのは俺だ」

 

男の声には有無を言わさぬ気迫を感じた。

 

「少女なんて何処にでもいる…」

 

サオリは自分の声が僅かに上擦ったのを感じ、唇を強く噛んだ。

 

「…ミカと言う名前の少女だ」

 

ミカ。

という事はこの男はあの女の関係者か。

彼女を探しに来たのだろうか。

 

「ミカだと…お前、トリニティの者か?」

 

「トリニティ?何の話だ」

 

何故か男は惚けた。

 

もしかしたら私の方が勘違いをしているのかも知れない。偶々名前が同じだっただけか…

そんな事があるか?このタイミングで?

それに何故マダムはあんなに怯えていたのか…

 

サオリは紆余曲折の後に男を命令通りマダムの元へ連行する事にした。

 

「…いずれにせよお前をマダムの所まで連行する」

 

「断る。俺はミカを探すので忙しい」

 

男は踵を返して歩き出した。

サオリは僅かに苛立ち、仲間に指示を出した。

計12挺の小銃、その銃口が男へと向けられた。

 

「…やめておけ。後悔するぞ」

 

男はこちらを見向きもせずにゾッとする様な冷たい声でそう言った。

サオリの脳内が怒りでスパークした。

 

「後悔するのは貴様の方だ」

 

言うが早いか11の銃口が火を吹いた。

 

 

男の姿が消えた。

閃光と共に弾丸が何も無い空間を通り過ぎて行った。

目標を見失ったサオリ達は混乱に包まれた。

 

ふと自分達の上に影が差したのを感じた。

真上から男が降りて来て最後尾の二人の頭を掴んで勢いよく地面に叩きつけた。

ごっと鈍い音がして二人のヘイローが消滅した。

男は一瞬何かに驚いた様に硬直したが、直ぐに側の仲間に手を伸ばした。

仲間は全員固まって動こうとしない、いや、動けない。

サオリは自分に鞭を振るって何とか声を張り上げた。

 

「その男から離れろっ!」

 

全員が正気を取り戻し、何とか距離を取ろうとした。

男は1番近かった一人の首を掴むと反対側の一人に向かって放り投げた。

二人は勢いよくぶつかり、数メートル近く飛んで廃墟の壁に叩きつけられて沈黙した。

 

残りの7人がほぼ同時に撃鉄を引いた。

ががががっと甲高い音を奏でながら鋼鉄の矢が男の胸部へ殺到する。

弾は吸い込まれる様に男の胸へ何発も入った。

 

鮮血が舞って灰色の地面を彩った。

 

サオリは一瞬気を緩めた。

 

瞬間、男が目にも止まらぬ速さで駆けて赤髪の少女に膝蹴りを打ち込んだ。

さらに仲間を助けようと狙いをつけたもう一人の銃口を掴み銃身から引きちぎった。

そして引きちぎった銃口部を持ち主の口に押し込んだ。

哀れな少女は痙攣した後どさりと倒れた。

 

サオリは残る4人を逃す事にした。

 

「お前たちはマダムに報告に行け」

 

「でっでも!」

 

「早く行け!」

 

4人は逡巡の後に踵を返した。

遠ざかる足音を聞きながらサオリと男は睨み合っていた。

いや、どちらかと言えばサオリの方が一方的に睨みつけていたと言うべきか。

男は初めからサオリの事など見ていなかった。

ただ何かを探す様に目線を動かしている。

 

「…追わないのか?」

 

サオリは目の前の男が手出ししてこないのを訝しみながら聞いた。

 

「戦いを望んだのは俺じゃ無い。お前達だ」

 

全くもってこの男の言う通りだったが、サオリも命令を受けている以上見逃す訳にもいかなかった。

 

「素直にマダムの元へ来てくれないか」

 

「断る」

 

男はぶっきらぼうに言った。

サオリは腿に携帯しているナイフを抜いて構えた。

 

「ならば力ずくだ」

 

男は沈黙したまま人差し指をサオリに向けた。

薄暗い廃墟の町が更に暗くなった。

見る見るうちに空模様が曇天と化していき雷鳴が鳴り響いた。

 

サオリは地を蹴った。

彼我の距離が一気に詰まる。

 

男が指を振り下ろした。

サオリの視界は眩い光に、肉体は焼けるような熱と痛みに包まれた。

 

 

そしてサオリの意識は暗転した。

 

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