どうも自分の文体はライトなノベルになっているような感じがしないんですがどうでしょうか。
長髪の女は気絶してヨブの足元に横たわっていた。
一瞬、この女から血を吸おうかと思ったがミカとの約束を思い出して踏みとどまった。
ヨブは一瞬とは言えミカとの約束を忘れた己に戦慄した。
俺はそんなにも飢えていたのか…
吸血鬼であるヨブは定期的に血を吸わなければならないが、ミカとの約束で人間の血を吸う事を禁じていた。
かつて因縁の相手であるストーカーのJと戦った時もついぞ血は吸わなかった。
それはそうとこの天使の輪の様な光輪が頭上に生えた人間は並の人間より頑丈な様だ。
最初に叩き伏せた二人が気絶に留まった時点で感づいてはいたが、このリーダーの女が雷を直撃させても死んでいないのではっきりした。
並の人間ならこの少女達と同じ様に戦えば、原型のない死体が積み重なっていただろう。
今度から光輪の生えた人間には注意だな…
ヨブは再びミカを探す為に廃墟の街を歩き出した。
ゲマトリアの会合は定期的に行われるものとメンバーの内の誰かが緊急で全員を呼び出すものの二通り存在する。
そして今回は非常に珍しい事にマダムことベアトリーチェが緊急招集したのだった。
黒のビジネススーツを着た異形頭の怪人“黒服”は珍しい事もあるものだと思いながらいつもの円卓が備え付けられた部屋へ入った。
円卓には既に黒服以外の全員が揃っていた。
「お前が最後とは珍しいな、黒服」
タキシードを着た双頭の怪人“マエストロ”が言った。
「何をしていたのですか黒服!こんな緊急事態に!」
赤肌に純白のドレスを身に纏った異形の女性“ベアトリーチェ”はヒステリックに非難した。
「申し訳ない、少々立て込んでいたもので」
黒服は悪びれずに答えた。
「本題に入りましょう。ベアトリーチェ、緊急事態とは何ですか」
コートを纏った首のない怪人が持っている、後ろを向いたシルクハットを被った男性の写真“ゴルコンダ”が話に介入した。
「そうです!こうしてはいられません。紅き王の息子がキヴォトスにやって来たのです!」
誰もがその言葉の意味を正確に理解した。
と同時にある者は慄き、ある者は探究心をたぎらせ、ある者は策略を頭の中に巡らせた。
「ほう、あいぜいとうとふの息子が…」
「そういうこった!」
コートを纏った首のない怪人“デカルコマニー”が合いの手を入れた。
「万物の王、または盲目にして白痴の魔王…」
マエストロは静かにつぶやいた。
かの神格には彼らの言う様に数多の名がある。
かつてその存在を認知した一人の小説家によってその名を知らしめた魔皇の息子が、いかなる手段を用いてかこの方舟の地にやって来た。
その事実は黒服の中に燃えている探究心という名の炎を焚き付けた。
「皆さん、ここは一つ力を合わせてかの者をこの地から追い出しませんか?」
普段の彼女を知る者、特に彼女が支配しているアリウス分校の生徒が聞けば耳を疑うだろう彼女らしからぬ発言に黒服は思わず失笑した。
幸い彼女には聞かれなかった様だ。
「私は辞退させて頂きます。彼の力の一端でも一目見てみたいですし」
半ば野次馬の様な事を言いながら黒服は反対の意を表明した。
「何を呑気な事を!彼がひとたび牙を向けば貴方達も只ではすみませんよ!」
反対されると思っていなかったのか、いつも以上に金切り声を上げてベアトリーチェは到底脅しとは言えない様な台詞を吐いた。
「そうなれば全力で相対しますが今は観察の時でしょう。敵対していない内から悪印象を与える必要は無い。」
黒服はそう言うと踵を返してそそくさと出ていった。
「私も反対だ。そもそも今の所敵対する理由がない」
マエストロも黒服に同調するとその場から姿を消した。
「私はやぶさかではないですが…生憎と今は手が離せないので」
「そういうこった!」
ゴルコンダとデカルコマニーも同じ様に退出した。
取り残されたベアトリーチェは血がにじむ程拳を強く握りながら呪詛をつぶやき続けた。
ヨブはミカの名を呼びながら廃墟の街を滑空する様に走り抜けた。
「ミカ!どこにいる!?」
ふと何かが高速で近づいてくるのを感知した。
ヨブは急制動をかけて相手が現れるのを待った。
中空から猛烈な勢いで人影が降ってきた。
人影はヨブの手前に降着し、数メートルもの土煙がもうもうと舞った。
「も~!そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてるってば~!」
土煙の中からはつらつとした声がした。
まさかとは思うが俺に話しかけているのか。
黄土色の煙が晴れると、翼が生えた桃色の髪の少女が立っていた。
「…誰だ、お前は」
「えぇ!?ひっど~い!お兄さんが呼んだくせに~」
よく見るとこの少女の頭上にも光輪が生えている。
ヨブはこの少女に対する警戒度を高めた。
「俺が呼んだだと…?」
「私、ミカだよ。聖園ミカ。私を呼んだんじゃないの?」
どうやら偶然名前が同じだった様だ。
「俺が探しているのはお前ではない」
「え、てことは私とおんなじ名前の子がアリウスにいるって事?」
「アリウス?そんなものは知らん」
どうも変だ。
まるで昨日までの世界とは全く違う世界にいるようだ。
あるいは全てうたかたの夢なのか…
「お前は何者だ?」
「だからミカだよ。知らないの?トリニティのミカって言ったらこの辺の人なら分かると思うんだけどな~」
そう言えばあの黒髪の女もトリニティがどうの、茶会がどうのと言っていたな…
「いや、知らんな」
それだけ言うとヨブは再び歩き出した。
後ろからついてくる気配を感じる。
「ついてくるな」
「ついて行ってるわけじゃないよ。帰り道がそっちなだけ」
桃髪の少女はあっけらかんと言った。
ヨブはふんと鼻を鳴らすと足早に廃墟の連なる道を通り抜けた。
「お前はさっきこの辺のと言ってたが、ここは何処だ?」
「だからアリウスだよ。ほんとに何も知らないの?」
「聞いた事もない。第一とてもじゃないが日本の地名には聞こえないが」
「にほん…って何?」
「…」
ヨブは言葉の意味をどう咀嚼すべきか考えた。
ここは日本でないとするのが最も自然だがこの地球で先進国の一つたる日本を知らない人間がいるとは考えにくい。
そんな事も知らない程未開の地、あるいは貧困国なのであれば何とか納得できる。
実際、この廃墟の街は愚かな人間共が幾度となく繰り返した戦争の跡に似ている。
しかしそうだとすれば真後ろをついてくる純白の衣装を着た少女の存在に説明がつかない。
ヨブはこの少女に情報を求める事にした。
「…俺の事情を説明する。お前の知っている事を一つ残らず教えろ」
桃髪の少女ミカから与えられた知識はにわかに信じがたいものだった。
ここはキヴォトスと言う名の土地で、どうやらヨブと“ミカ”がいた土地とは何らかの方法で隔絶された場所の様だった。
キヴォトスでは年端もいかぬ少女達が大なり小なり、自分達で学園を運営しながら生活しているらしい。
おまけにヨブとミカがいた世界、便宜上外の世界と呼ぶ事にするが、外の世界とは異なり“普通の人間”は存在していない様だ。
天使の輪が生えた少女達以外には獣と人が交じった獣人、完全に自立した自動人形などの外の世界ではフィクション以外にお目にかかることのない代物ばかりの様だ。
「今度はお兄さんの番だよ。お兄さんの事を教えてよ」
桃髪の少女ははにかんでそう言った。
「…俺か。俺はヨブだ」
ヨブは知られてもいい事だけをかいつまんで話した。
吸血鬼の事、“ミカ”の事、因縁の相手との戦いに身を投じた事。
すべてが終わらせ安寧を得るために、日本という土地へ移り住んだ事。
しかし、目を覚ますと何故かここにいてミカがいなくなってしまった事。
「じゃあ急いで探さないとね!」
そう言うとミカはお~いミカちゃーんと大声をあげながら歩き出した。
「駄目だ。おそらくこの辺りにはいない」
ヨブはかぶりを振った。
「じゃあどうするの?ヴァルキューレにでも探してもらう?」
また知らない単語が出てきたなと思いつつもそれには触れなかった。
「いや、自分で探す。他人は当てにならん」
「…そうだね」
何か思うところがあったのかミカは俯いてヨブの言葉をかみしめている様だった。
「世話になったな。一応礼を言っておく」
ヨブははやる気持ちを抑え、キヴォトスでの拠点を用意することにした。
「これからどうするの?」
「ひとまず新しい根城を手に入れる。もう少しまともな場所が好ましいが」
「だったらトリニティに来る?」
ミカは遠慮がちに言った。
「これ以上他人の世話になるつもりはない」
「…そっか。ミカちゃん、見つかるといいね」
「ああ」
「またね」
ヨブはそれには返事をしなかった。
ミカは後ろで手を組んで別の道へと歩いて行った。
今更だけどミカとミカをどうやって文章上で区別しようか…