報告によると現在シャーレは矯正局から脱走した停学中の生徒達によって制圧されかけているとの事だった。
「大丈夫か?」
「…大丈夫です。ちょうど各学年を代表する立派で暇そうな方々いらっしゃるので力をお借りするとしましょう」
「…え?」
「キヴォトスの正常化の為に暇を持て余した皆さんの力が必要です。では行きましょう」
「行くのはいいが…徒歩で行くつもりか?」
「いえ、駐車場に車がありますのでそちらを使いましょう」
駐車場に移動するまでにランドルフは各学年の…リン曰く“暇を持て余した”代表に生徒達から自己紹介を受けていた。
ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカ、ゲヘナ学園の火宮チナツ、トリニティ総合学園の羽川ハスミと守月スズミ。
ランドルフは吸血鬼狩りの組織コンソーシアムでは実働隊の隊長を務めていたので直ぐに名を覚える事が出来た。
「こちらです。私も後から向かいますので。皆さん、先生をお願いします」
案内された駐車場には白いバンが待機していた。
「日本車…右ハンドルか…」
ランドルフは日本車に乗らない事もなかったが、アメリカで生まれ育った為左ハンドルに慣れていた。
「…良ければ私が運転しましょうか」
ランドルフは驚いてユウカの爪先からてっぺんまで眺めた。
「な、なんですか…」
「…どう見ても車の運転ができるようには見えないが」
「失礼ですね…ちゃんと免許も持ってます。私を無免許で乗り回す不良と同じにしないで下さい」
「すまん」
ユウカがむくれたのでランドルフは早急に自分の非を認めた。
車内には銃器が大量に用意されており、ランドルフはアメリカ以上に銃社会だなと戦慄した。
移動する間、ランドルフは彼女達とアイスブレイクに軽い会話をしていた。
「そういえば、私を見て吸血鬼だとおっしゃっていましたが」
言うが早いか、初対面でいきなり銃を向けた非礼をランドルフは詫びた。
「あぁいえ、気にしてはいません。そうではなく、吸血鬼については最近キヴォトスでも噂になっています」
「なに…?」
ランドルフの目がぎらぎらと輝き出した。
「ただの噂でしょう?大体吸血鬼なんて非科学的なものが存在するわけないじゃない」
「俺もそう思っていた時期があったよ…」
ランドルフはユウカの台詞にかつての己を想起した。
「ユウカ…そういう考えはやめた方がいい。でなければ大切なものを失うぞ」
ランドルフの台詞には有無を言わせぬ説得力があった。
以降、シャーレ近辺に着くまでの間に会話は無かった。
シャーレ近辺は正に戦場と化していた。
「なにこれぇっ!?」
ユウカの悲鳴じみた叫び声は飛び交う銃弾の音にかき消された。
ユウカの声に反応したのかこちらにも弾丸が飛んできてユウカの体に何発か命中した。
「大丈夫か!?」
ランドルフは声を張り上げた。
「いった!?あいつら違法JHP弾使ってるんじゃない!?」
「な…なぜ平気なんだ!?」
ランドルフは信じられないものを見たと言わんばかりにオーバーリアクション気味に更に声を上げた。
その声に反応して更に何十発もの銃弾が飛んできて、ランドルフ達は乗ってきたバンの影に隠れた。
「この威力を見るにゴム弾ではなさそうだが…」
「先生、私達は銃弾が何発当ろうとせいぜい跡が残る程度のダメージしか受けません」
チナツが事情を知らないランドルフに説明した。
「にわかには信じがたいが…ここに来てから信じられないものばかりだ」
ランドルフはため息をつくと腰の拳銃を抜いた。
「ちょっ、先生!まさか戦うつもりですか!?」
「危険です!先生は一発当たるだけで致命傷になりかねないんですよ!?」
「私も反対です。私達が戦いますので先生は指揮をお願いします」
「先生、ここは私達に任せてください」
ランドルフは彼女達の言葉を無視して立ち上がった。
バンの後方のドアを開けるとそこから幾つかの武器を持てる限り装備した。
「俺の職場はこんなのよりもっと危険だったさ。毎回何人も死傷者が出た」
「死傷者って…ちょ、先生!?」
ランドルフは小銃を構えてバンの影から飛び出した。
「お前達、銃を捨てて手を上げろ!抵抗すれば撃つ」
ランドルフの姿を認めたスケバンの様な格好の生徒達はランドルフを嘲笑した。
「おいおい!本気で言ってんのか!?」
「あたし達とたった一人だけでやり合うつもりかよ!?」
周囲から激しい罵詈雑言の雨が降り注いだ。
「…そうか。子供を撃つのは気が引けるが…仕方ない」
「先生!早く戻ってきてください!」
バンの影から身を乗り出したユウカがランドルフへ声をかける。
ランドルフはその言葉を無視してスケバンの元へと走り出した。
「お前達!車の中の銃器をありったけ持ってきてくれ!」
「はぁ!?ってちょっとー!?」
ユウカの大声をバックにランドルフは敵陣に単身突っ込んでいった。
「こうなったら仕方ありません。ひとまず先生の言った通りにしましょう」
「もう滅茶苦茶よ!」
ランドルフは弾が当たらない様にジグザグに走った。
走りながら狙いをつけてスケバンの一人にヘッドショットをお見舞いした。
ランドルフは遮蔽物になっている車を飛び越えて敵陣に突入した。
フレンドリーファイアを恐れて発砲が一瞬止んだ。
ランドルフはその場でぐるりと回りながら小銃の引き金を引いた。
密集していた為、スケバン達に狙いをつけずとも面白いくらい命中した。
だが、怯ませる事は出来ているが威力が足りない様だ。
「吸血鬼と違って再生力が高いのでは無くひたすら頑丈なのか…どっちがマシかな」
少なくとも平気で人を殺さないだけ彼女らの方が何万倍もマシだろう。
比較するのも失礼かもしれない。
「先生!無事ですか!」
応援が来た様だ。
「ショットガンをくれ!」
「いや、出来れば大人しくして下がって欲しい…」
「ショットガンをくれ!」
「あぁもう!わかりましたよ!」
ショットガンが投げ渡された。
ランドルフは弾切れした小銃をスケバンの顔に投げつけ、ショットガンを空中でキャッチした。
地面に足がつくまでにポンプアクションをして一番間近のスケバンの頭部に銃口を突きつける。
「おやすみ、かわい子ちゃん」
引き金を引いた。
右肩を銃弾が掠めた。
背後から機関銃を構えたスケバンが近づいてくる。
ランドルフは空いている左腕で拳銃を抜いた。
相手が撃つよりも早くローリングして狙いを外させると、体の中央線を狙って3発撃った。
見事に腹、胸、鼻に命中しスケバンは気絶した。
ユウカ達が追いついてランドルフを守る様に囲んだ。
「心配させないで下さい!って、え!?これ全部一人でやったんですか!?」
ユウカは辺りで気を失っているスケバンを見て驚きの声を上げた。
ハスミやスズミも目を見開き、信じられないと戸惑いの表情を浮かべている。
「先生!怪我しているじゃないですか!」
チナツはランドルフのシャツの肩に空いた穴と赤いシミを見て声を上げた。
「あぁ、だがこれくらいどうって事はない」
「そんな事ありません!手当てしましょう!」
「いや、シャーレを奪還してからで良い。俺に続け!」
引き止めるチナツを軽くあしらってランドルフは走り出した。
『皆さん、騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました』
耳に装着していたインカムからリンの声が聞こえてきた。
『孤坂ワカモ。百鬼夜行連合学院を停学になった生徒です。似た様な前科が幾つもある危険人物なので注意してください』
「どんな見た目の奴だ?」
『少々お待ちを…特徴としては黒い羽織の様な制服に狐耳の生えた…あとは狐面をつけているそうです』
「へぇ…じゃあ今、目の前にいる奴がそうかもな」
『もうそこまで辿り着いたのですか?流石ですせんせ』
『目の前にいるってどういう事ですか!?今どこにいるんですか先生!って巡航戦車!?』
『先生?どういう事ですか?まさか皆さんと一緒に行動していな』
ランドルフはインカムの電源を切った。
「宜しかったんですか?大切なお話だったのでしょう?」
ワカモはランドルフを挑発する様に言った。
シャーレの地下にある一室でランドルフとワカモは向かい合っていた。
「なぁ、可愛らしいお嬢さん。素直に帰ってくれないか?」
「うふふ、い、や、で、す」
「…そうか。じゃあ痛い目を見てもらう!」
ランドルフはショットガンをワカモの顔目掛けて発射した。
ショットガンの弾はワカモの仮面に向かって飛んでいき、命中する瞬間ワカモの姿が消えた。
「なにっ!?」
ランドルフは慌てて周囲を見回す。
首の周りがちりちりと焼ける様な感覚がした。
生死をかけた戦いの時に必ず感じていたものだ。
部屋中を見回してもどこにもワカモの姿は無い。
という事は…
「上か!」
「ご♡名♡答」
ランドルフが答えを導き出すと同時に、室内を照らすLED照明に手をかけてぶら下がっていたワカモがランドルフ目掛けて飛び降りてきた。
間一髪でランドルフ自身はワカモの踏みつけを回避したが、ショットガンをはたき落とされてしまった。
まぁいい、どうせあと1発で弾切れだ。
ワカモは銃剣の切先をランドルフに向けて振り下ろした。
ランドルフは上着の内ポケットからナイフを取り出して受け止めた。
「あら、まだ武器が?」
「それだけじゃ無いぜ」
ランドルフはズボンのポケットから催涙弾を取り出して起爆させた。
ワカモはランドルフから飛び退き、ランドルフは予め道中で倒したチンピラから奪い取ったガスマスクを装備した。
戦意を削ぐ為に使ったのだが、シャーレの無駄に行き届いた空調システムによって催涙ガスは室外へ排出されていった。
催涙ガスの中でワカモの攻撃がくるのではと身構えていたが、催涙ガスが消えるまでワカモは攻撃を仕掛けて来なかった。
だが、ワカモが苦しんでいる音が聞こえないので恐らく効いていないのだろう。
果たして、催涙ガスが晴れた先にワカモが何事もなく立っていた。
「なんで効かなかったんだ?」
「この仮面のお陰ですわ♡」
ランドルフはただの狐面としか思っていなかった自分を心の中で罵った。
「人間武器庫さん?あとどれだけの武器を隠し持っているのかしら」
「あとは知恵と勇気だけだよ」
ワカモは銃剣をランドルフの胸に目掛けて突き刺そうとした。
ランドルフは腰のベルトを外し、ワカモの銃剣に巻きつけて奪い取った。
愛銃を奪われたワカモはランドルフの肩を狙って蹴りを放った、
ランドルフは躱しきれずに吹き飛ばされ、左の上腕部から鈍い音がした。
…折れたな
ランドルフはワカモの銃剣を杖代わりにしてよろよろと立ち上がった。
ワカモがランドルフ目掛けて走ってくる。
ランドルフは二つ目の内ポケットからコルトパイソンを取り出した。
「こういう状況、日本ではGet wild and toughって言うらしいぜ」
ワカモは急制動をかけたが勢いを殺しきれずにちょうど銃口が胸に当たる位置で停止した。
ランドルフは引き金を引いた。
戦いの後、二人は背中合わせでへたりこんでいた。
「…驚きましたわ。まさか外からの人だったなんて」
「俺も驚いたよ。君みたいなかわい子ちゃんがテロリストなんて」
ランドルフは左肩の痛みを無視しておどけた。
「ここの外の方々もお一人で?」
「凄いだろ?惚れちまったかい?」
ワカモは少し考えてから言った。
「えぇ、とっても♡」
「…冗談だったんだがな」
ランドルフは自分のダメージ無視して相手が倒れるまで戦うネルと同じようなタイプ