「へぇ〜。じゃあ先生はミカちゃんと面識があるんだねぇ」
ランドルフはアビドス高校の生徒達に事情を説明していた。
驚くべき事にアビドス高校は現在、全校生徒たったの5人でありしかも日本円で9億もの借金があるのだった。
コンソーシアムの任務の一環でサーカス団を運営していた事があったが、どんな運営をしていたらそんな借金が出来るのだろうか。
「おじさんはヨブと会った?」
「いや、まだだ。だが吸血鬼を見たと言う噂が広まっているらしい」
「「「「吸血鬼?」」」」
ミカの顔が輝くと同時にアビドスの面々は怪訝な表情を浮かべた。
彼女らは吸血鬼の噂について知らない様だ。
と言ってもランドルフも詳しくは知らない。シャーレの手伝いに来てくれるハスミ達トリニティの生徒から聞きかじった程度だ。
「トリニティの辺りでは有名な噂らしいぞ。で、まだ真相は分からんが俺やお嬢ちゃんと同じ外の世界から来た奴なんじゃないかと思ってな」
「外の世界には吸血鬼がいるんですか?」
アヤネは興味津々と言った様子だ。
「あぁ。だが世間一般には知られていない」
外の世界において吸血鬼は人類よりも前から地上を支配していた種族だった。
だがその総数は人類の総人口の10万分の1以下だった。
その筈だった…
吸血鬼の仕業と思わしき事件の発生件数は21世紀に突入してから大幅に増加した。
吸血鬼の存在を知る各国首脳は密かに吸血鬼について調査を行わせた。
調査の結果、吸血鬼の個体数は明確に増加傾向にあり、もし彼らが自らの種族の個体数の調整を怠ったなら、ほんの数ヶ月で人類が滅亡することが明らかになった。
迅速かつ秘密裏に人類史上未曾有の組織が設立された。
その組織には正式な名称があったが、誰もその名を呼ぶことはなかった。
誰もがその組織を単に「コンソーシアム」と呼んだ。
コンソーシアムの目的はただ一つ。
吸血鬼の殲滅だ。
コンシーシアムには吸血鬼に関する全ての情報が集められた。
確認された全ての固体に番号が割り振られ、その身体的特徴と能力がデータベースに収められた。
吸血鬼は人間にない超能力を持っていた。
しかも、その個体差は極めて大きい。
彼らの能力は大きく六つに分類されている。
第一は運動能力である。
運動には様々な側面があるので、単純には比較できないが、彼らの運動能力は概ね人間の数十倍と見積もられている。例えば握力は五百キロから五トン程度であり、助走なしで垂直に六メートルから六十メートル跳躍できる。
もちろん、これらの記録は正式な体力測定を行った結果ではない。
目撃情報や記録映像から割り出したものだ。
だが、彼らの運動能力が通常の人間と比較して桁外れに大きいことは間違いないだろう。
第二に飛翔能力。
彼らは空中を浮遊する能力を有している。
跳躍とは異なり上昇速度は毎秒一メートル度とほぼ一定であり、数メートルから数十メートル辺りで停止する。
その状態を長時間維持することはできないようで、数秒から数十秒後にはやはり等速で下降を始める。
連続して浮遊する時間には個体ごとに限界がある様だ。
落下時には自分の落下速度を制徴することができず、逃げ隠れできないため、吸血鬼への絶好の攻撃の機会となる。
したがって、吸血鬼が浮遊を始めた時はできるだけ、時間を引き延ばすことが望ましい。
第三は変身能力である。
極めて借じ難いことだが、彼らは人間以外の物に近い形態を取ることもできるのだ。
現時点までに知られている形態は二つある。蝙蝠によく似た翼手態と狼によく似た狗狼態である。
翼手態になることで彼らは自由に飛行することができるようになる。
翼手態の飛行速度は時速三百キロにも達すると推定され、追尾は極めて困難である。
また、狗狼態になることで、外や爪を有効活用でき、戦闘能力は飛躍的に向上する。
また、疾走速度は人間態の5倍程度に向上する。
第四は催眠能力である。
彼らはなんらかの信号を発生させ、周囲の人間の意識を変成状態にすることができる。
この状態で彼らは標的の人間の行動を自由に操る。
その場で命令を実行させる場合もあるし、なんらかの切っ掛けで発動する暗示をかけることもある。
通常の催眠状態では、暗示をかけたとしても、犯罪などの抵抗が強い行動は抑制されるとされているが、吸血鬼の暗示は強力であり、容易に家族を殺害させることもできる。
第五は天候能力である。
多くの吸血鬼は周囲の温度や湿度を変化させ、霧や陽炎を発生させたり、雪や雨を降らせたりすることができる。
また、高い能力を持った吸血鬼なら、嵐を発生させることが知られている。
真偽の程は不明だが竜巻を自由に操ったり、目標物に落雷させるといった報告も存在する。
第六は治癒能力である。
吸血鬼は吸血活動を続けている限り基本的には病気には罹らない。
また、怪我に対しても驚異的な治癒能力を持っている。
人間なら完治するのに数ヶ月を要するような重傷でも数分から数時間で治癒できる。
また手足が切断されても切断面を押しあてるだけで結合できる。
吸血鬼の特性として顕著なものに吸血行動がある。
彼らが人類の驚異となるのはこの行為によるところが大きい。
多くの犠牲者は動脈を噛み切られるため、大量に出血し死に至るが、稀に命を取り留める場合もある。
この吸血行動にはこつの側面がある。
血液の補給と感染である。
吸血鬼が超能力を使用する場合、大量にヘモグロビンが消費される。
これはどの能力でも同じである。
したがって、重傷を負った場合や激しい戦闘を行った場合、彼らは貧血状態になる。
分解されたヘモグロビンは彼らの造血能力では再生できないため、外部から補給する必要が生じる。
しかし、超能力を使用しなくとも、彼らはやはり吸血行動を取ることが知られている。
この理由としては、吸血行動は本能であるという説と、単に習慣性があるに過ぎないという説がある。
彼ら自身の数少ない証言を分析すると、少なくとも吸血への衝動が存在することは間違いないようだ。
そして最も重要な事実は、吸血鬼によって血を吸われた人間が命を取り留めた場合、その人間は吸血鬼になると言う事である。
「だからこそ、俺はコンソーシアムの隊長として吸血鬼を殺しまわっていた」
想像以上に悍ましい話にアビドス高校の面々は言葉を失っていた。
「…ヨブも殺すの?」
ミカが震える声で言った。
「…あぁ」
「おじさん…ヨブの知り合いじゃなかったの…?」
ミカは大粒の涙を目尻に浮かべて言った。
「悪いが…」
ランドルフがそれ以上何か言う前にミカは部屋を飛び出した。
シロコ達は慌ててミカを追いかけ部屋を出ていった。
部屋の中にはランドルフとホシノの二人だけが残った。
「追わなくていいの?」
ホシノはランドルフを見据えて問いかけた。
「今、俺が行ったら逆効果だろ」
「…そっか。そうだね」
ホシノはあくびをすると椅子から立ち上がった。
「先生とミカちゃんの事情は知らないけど、泣かさないようにね」
それだけ言うとホシノはランドルフの横を通って出ていった。
「…俺はどうすればいい、キャシー…」
一人、部屋に取り残されたランドルフは天を仰ぎながらつぶやいた。
いつもより短いですがカロリー高めなのでこの辺で。