異形憐愛(いぎょうれんあい)   作:ヴァリアス

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どうも、ヴァリアスです。
小説の感覚戻しの短編です。
よろしければどうぞ。
注意事項をしっかり読んでから読むことをオススメします。
人を選ぶ作品だと思いますので...


憐れな愛を異形は知る

森の奥深く、太陽の届かぬ湖のほとりに、ある“もの”が棲んでいた。

白い肌に金の髪、整った顔立ちに、優しげな笑み。

その姿はまるで絵画から抜け出たような青年――けれど、それは仮初の皮にすぎない。

本当の姿は、醜悪で、得体の知れない“化け物”。

名前もなく、記憶もなく、ただ本能と共に生きてきた。

人間の心が分からない。

善悪も、感情も、愛も。

だから彼は、いつも観察していた。森に迷い込んだ旅人たちを。彼らの喜びや怒り、涙や笑顔を、ただ“真似る”ことで過ごしていた。

そんな彼の前に、ある日、ひとりの少女が現れた。

 

――顔は焼けただれ、腕は不自由。

――村では“魔女の子”と罵られ、追い出されたという。

 

名前は「ユノ」。

ユノ:「こんにちは。……あなたは、誰?」

??:「誰、とは?」

ユノ:「……ふふ。わたしも、そう聞かれると困るの。わたし、ユノ。あなたには名前、ある?」

??:「ない」

ユノ:「じゃあ、今日から“ルア”にしよう。……なんとなく、そんな感じがする」

それから、奇妙な日々が始まった。

湖のほとりで、ふたりは言葉を交わし、本を読み、歌を口ずさんだ。ユノは笑い、ルアはそれをじっと観察した。ときどき、真似もした。

だが、彼には、まだ“感情”がない。

最初はルアはユノを観察して、飽きたら食べるつもりで居た。

ユノ:「どうして、わたしに優しくするの?」

ある日、ユノがぽつりと聞いた。

ユノ:「顔も、腕も、こんなに醜いのに。気味悪がられないの?」

ルア:「ぼくには、それが“醜い”とはわからない」

ユノ:「ふふ……変なの」

ユノは少し寂しそうに笑った。

ユノ:「でも、そんなふうに言ってくれるの、あなたが初めて」

ユノ:「ルアは、優しいね」

ルア:「ぼくは、ただ観察しているだけ」

ユノ:「それでも、ありがとう」

ありがとう。

その言葉の重さだけが、いつまでも胸に残った。

 

 

 

――そんな穏やかな日々は、唐突に終わる。

ある日、村の男たちが森へと足を踏み入れた。

焚き火と斧、怒りと恐怖を抱えて。

病が村を襲い、民の不安は形を求めていた。

「すべては、魔女の呪いだ」

「森に逃げた化け物が災いを呼んでいる」

ユノは見つかり、捕まった。

縛られ、言葉を聞かれることもなく、

ただ“異端”であるという理由で、杭にかけられた。

 

 

 

――夜、火が上がった。

焼け焦げた匂いが、空に昇った。

翌朝、ルアは気づいた。

森の空気が変わっていた。

空に、煙の尾が立ち昇っていた。

理由はなかった。ただ足が勝手に動いていた。

村に着いたルアの目に飛び込んできたのは――

 

 

 

黒い灰となったユノの残骸と、それを囲んで笑う人間たちの姿だった。

ルア:「ユノ...帰ろう?こんな所で寝ると風邪をひくよ?」

いつもの調子で、ルアは呼びかけた。

返事はない。

ただ一閃。

ルアの頭に、重い鎌が叩きつけられた。

 

ずしん――

 

何かが砕ける音。

だが、ルアは倒れない。動じない。血も、叫びも、痛みもない。

それを見た村人が叫ぶ。

「こいつ……魔女の仲間だ!」

「魔女の使いだ!」

「こいつも、化け物だああ!!」

気付けば周りで笑っていた村人が恐ろしい形相でルアを睨んでいる。

怯えと怒りが、一斉にルアへと向けられる。

だが、ルアの目に映るのはユノだったものだけ。

「そんなに、この魔女が大事かよ!?」

瞬間、目の前のユノだったものを村人の一人が足蹴にする。

それとほぼ同時に村人が天高く空へと打ち上げられた。

「...くへっ...?」それが最後の言葉だった。

空から村人の残骸が辺りに降り注ぐ。

それを見た瞬間、悲鳴。恐怖。狂気。様々な感情が村人たちを阿鼻叫喚の地獄へと誘う。

だが、その中でそれを起こしたルア本人は自身の行動に疑問を感じていた。

 

どうしてあの村人を殺した?

 

どうしてこんなにも言いようのない衝動を感じる?

 

この形容しがたい不快感は何だ?

 

そんな思考が頭を巡っている。だが、答えが出るよりも早く体に強い衝撃が伝わる。

胸に剣が突き刺さっている。それを刺した相手を無感情に見る。村人の顔が歪むが、すぐにそれは別のものへと変わる。

「お前達は私達をどれだけ苦しめ、幸せを奪えば気が済むんだ!?この悪魔!!」

「あの小娘もお前も!!死ね!早く死んでしまえ!!」

その時、ルアの心に新たに一つの疑問が生まれる。

 

こいつらは本当に人間か?

 

ユノはこいつらと同じだろうか?

 

...結論が出た。

 

 

 

 

「こいつらを人間だと言うなら、人間は化け物よりも化け物だ...」

 

 

 

 

感情など分からなくても一つ、ルアの心で強くなるものがあった。ルアが理解出来た数少ない感情の一つ。

それは「殺意」だった。

ルア:「えい!」

そんな言葉と共に目の前の村人の顔を蹴り上げる。

瞬間、顔に生暖かいものが飛び散る。目の前の体から力が抜け、胸に刺さる剣が抜け落ちる。

その後はただ、眼に付く存在を一つ残らず壊した。

 

だって、化け物には壊す事しか出来ないから...

 

気付けば、辺りが静かになっていた。ただただ赤い世界の中でルアは一人、立ち尽くしていた。

目の前にはユノだったもの。

動き回った性だろうか、とても、お腹が...スイタ...

気付けば、目の前のそれを口に運んでいた。

今まで食べてきたものと何ら変わりはない。変わりはない、はずなのに...

 

口に運ぶ手が止まる。

 

目の前が歪む。それが何なのか分からずに呆然としているとルアの頭の中に様々な記憶が流れ込んでくる。

ルア:「なんだ、これ...」

記憶と共に何かが胸を満たしていく。それが満ちていく程に、目の前が見えなくなる。

胸が苦しい。ルアは、自身の胸を抑える。

記憶の奔流がルアの頭を駆け巡る。そして、記憶の中のユノの言葉が聞こえる。

ユノ:「ルア、ありがとう」

何かが胸の奥で溢れた。

その時、初めてルアは声を上げて泣いた。

もう聞こえない。もう聞けない少女の声が、ルアの心を締め付ける。

ユノ:「ありがとう」

あんなにも聞いていた言葉なのに、今はその言葉一つが苦しくて仕方ない。

ルアの中に流れ込んでいた記憶の波が収まり、一つの記憶が流れる。それは、ユノが死ぬ寸前の記憶だった。

ユノ:「ああ...もう死ぬんだ。私...」

ユノ:「まだ、したい事...いっぱい、あったのになぁ...」

ふと、ユノの視線が森の方に向く。

ユノ:「ルア。心配してるかな...」

ユノ:「心配してくれてると、良いなぁ...」

その時、記憶の中が赤に染まる。ユノの身体を炎が包む。

ルア:「やめろ...」

ユノ:「あぁ...こんな事なら...ルアに」

ユノの頬を一筋の雫が伝う。それは地面に落ちるよりも早く蒸発する。

ユノ:「好きだって、伝えればよかったなぁ...」

ルア:「ッ!!」

ユノ:「ルア...」

ルア:「ユノ...!!」

ユノ:「君も私が好きだったら、嬉しいな...」

ルア:「ユノーーーーー!!!!」

記憶が途絶える。絶叫。ルアの中に激情が吹き荒れる。

力に任せに辺りのものを破壊する。壊して。壊して!壊して!!

ルア:「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

その日、森には一人の化け物の慟哭が響き続けた。それは行き場のない感情の大きさを物語っていた。

翌日、森の中に一つの墓石が建てられた。そこには「桃色の胡蝶蘭」が供えられていた。

森の中には一人。もう会う事の出来ない人を探して彷徨い続ける。

 

化け物だった者が、失う事で手に入れた感情の意味を求めて...

 




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