別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
(珍しいな。
既に日課となった『洗礼』をやる為に『庭』で待機しているベルだが、時間になっても一向に来る気配が無いヘディンに疑問を抱きながら待っている。
来る時間を間違えたかと確認するも、それは間違いなかった。もし遅刻などすれば、鬼以上に厳しいエルフの
しかし、時間に厳しい筈のヘディンが来ないのは余りにもおかしい。ベルだけでなく、少し離れた所で彼を待っている第一級冒険者のヘグニやアルフリッグ達、そして急遽参加する事になった副団長のアレンも訝るのは当然の反応と言えよう。
誰もが疑問を抱いている中、漸く来たかと思えば――
「遅くなってすまない」
「……え? あ、貴方は……」
ヘディンではなく自前の運動着を身に纏う隆誠だったので、ベルが戸惑うのは無理もない。
アレン達も似たような反応を示すも、全く気にしてない隆誠はベルに話し掛ける。
「あの、リューセーさん。
ベルは隆誠の事を勿論知っているが、大して会話はしていない。彼は非戦闘員の事務員だから、『洗礼』の日々を過ごしている彼と違って接点は余り無い。
「突然だが、ヘディンに代わって今日から俺が君を鍛える事にした。勿論許可はちゃんと貰っている」
「ええっ!?」
『ッ!?』
隆誠の台詞にベルだけでなく、聞いていたアレン達も驚愕の反応を示した。
ヘディン・セルランドを知っている者がいれば、自分の課した役割を誰かに任せるなど普通に断じてあり得ない。それはベルだけでなく、『庭』にいる【フレイヤ・ファミリア】の眷族達がそう考えてしまうのは当然の事だった。
「あ、あの、それは本当なんですか?」
「まぁ疑うのは無理もないな。大丈夫だよ、俺の方できっちり話をつけといたから♪」
「は、はぁ……」
きっちり話をつけた、と言う台詞を耳にした時点でアレン達は納得した。ベルの教育役を任された筈のヘディンが交代を認めたのは、間違いなく隆誠が脅したに違いないと。
あの徹底的な合理主義者を相手に話し合いだけで解決など普通に考えて無理なのだが、相手が隆誠となれば話は別だった。お互いに合理的な性格であっても全く相容れないが、以前にアレンと同じく実力差を教えられただけでなく、トラウマを植え付けるほどの屈辱も与えられた。『性転換』と言う男にとって非常に耐え難い屈辱を。【フレイヤ・ファミリア】の殆どが身を以て経験させられており、その中にはフレイヤに(別の意味で)美味しく頂かれた者もいて、彼女から寵愛を受けても黒歴史に等しい。因みにここ最近は無いが、『庭』にいる
圧倒的な実力だけでなく、性転換させる妙な
「まぁそれはそうと、ベルは本当に災難だね。無茶な訓練をさせるヘディン達だけでなく、フレイヤの我儘にも振り回されてるときた。本当に自分勝手なバカ共としか言いようがない」
「ちょっ……!?」
ベルは思わず周囲を見渡した。隆誠の発言は眷族達だけでなく、敬愛すべき主神に対する侮辱だったから。
普通ならそんな愚か者は問答無用で制裁を下されるので、『庭』にいる眷族達が隆誠を袋叩きにされてしまう。更には第一級冒険者達もいるから、このままでは不味いとベルは危惧するも……誰も動こうとしなかった。
「え? あ、あれ……?」
フレイヤを信奉している筈の眷族達は、忌々しげに睨んでいるだけで誰一人たりとも隆誠に襲い掛かろうとしなかった。あのアレンですら殺気を放っても、押し殺すように黙っている。
偽りの眷族でも【フレイヤ・ファミリア】の在り方を一通り学んでいるベルは、眷族達の様子がおかしい事に疑問を抱く。フレイヤ様を呼び捨てにする者がいれば、絶対誰かが動く筈なのにと思いながら。
「あ、あの、フレイヤ様を呼び捨てにしたら不味いんじゃ……」
「いいのいいの。寧ろあんな我儘女神に敬称なんか不要だから」
(こ、この人、本当にフレイヤ様の眷族なのかな?)
ベルは改めて凄い人だと心底思った。第一級冒険者の幹部達に対して大胆不敵だけでなく、主神に対する敬意が全く無い。この人は本当に【フレイヤ・ファミリア】の眷族なのかと疑問を抱いてしまう。
そんな反応を余所に、隆誠はある物を渡そうとしている。
「昨日まで実戦形式の訓練ばかりやっていたから、今日からは一度基本に戻す必要がある。だけどその前に、コレを付けて貰おうか」
隆誠はそう言いながら、ベルにリストバンドとフットバンドを渡した。元の世界でイッセーやリアス達の修行で使っていた修行用バンドセットを。
この世界では色々不味いアイテムだが、今回ばかりは特例として使う事にした。ベルの身体能力や魔力を飛躍的に上昇させる他、隆誠も含めた【フレイヤ・ファミリア】と戦う為に備えておく必要がある。何処まで強くなれるかは不明であっても、ベルには
「えっと、コレは一体……?」
見た事のない形状だったのか、ベルは修行用バンドを見てもどう付ければ良いのか分からないようだ。
この別世界で似たようなバンドは存在してないようだと思いながら、隆誠は装着の仕方を教える事にした。
「こうやって両腕両脚に付けるんだ。さ、やってみな」
「は、はい!」
隆誠が自分用のバンドを付けるのを教わったベルはそれに倣い、改めて両腕両脚に修行用バンドを装着する。
その直後――
「うわっ! きゅ、急に重くなった!」
「お、倒れなかったようだな」
急に身体が重くなったようにベルはガクンと倒れそうになってしまうも、冒険者として鍛えられた事もあって何とか踏ん張っていた。
彼が純粋な人間である事を考慮して、隆誠は初心者用として重さを初級にしておいた。それでも普通の人間が付ければ動けないほど重いが。
この世界で例えるとすれば、ベルは重りの『
「こ、これは一体どんなアイテムなんですか?」
「それは企業秘密。じゃあ先ずはその重さに慣れる為に基礎練習から始めようか」
「は、はぁ……」
昨日まで実戦同然の殺し合いをしていたベルからすれば余りにも拍子抜けする内容だが、装着しているバンドの重さによって地味に大変だと言う事を後で知る事になる。
言うまでもないが、隆誠の基礎訓練は『庭』にいる第一級冒険者も含めた眷族達も見ている。『洗礼』をやるのが当たり前の【フレイヤ・ファミリア】としては、隆誠のやり方に懐疑の念を抱くのは無理もなかった。
「……おい、あの野郎は一体何を考えていやがる」
教育が始めて一時間以上経つも、妙な重りを付けられたベルが全力の走り込みをしており、それに合わせるように走る隆誠。実戦訓練とは程遠い教育をやってる事に、アレンは全く理解出来ない状態だった。
しかし、それは彼だけでなく、他の面々も同様に示している。
「あんな重りを着けた程度で訓練とは」
「訓練舐めてんのかアイツは?」
「いや、ふざけてるだろ」
「ぶっ殺してやりたい」
一体どんな訓練をやるのかと気になっていたガリバー兄弟だが、もう既に失望していた。自分達より強い隆誠の訓練が、あんな訓練で強くさせるなど笑止千万だと突っ込みたい衝動に駆られている。
「あの愚人、本気であんな『教育』で
すると、ヘディンが漸く現れた事にヘグニが気付く。
「ヘ、ヘディン。リューセーに任せたのは本当なのかい?」
「……業腹だが事実だ」
本当なら今すぐにでも隆誠がやっている無駄な教育を止めさせたいヘディンだが、とんでもない竹箆返しを受けることになるので迂闊な真似が出来ない。手を出した瞬間に一瞬で倒されるだけでなく、あの忌まわしい
「てめえも堕ちたな、羽虫。ついにあの野郎の言いなりになりやがったか」
「ならば
『!?』
ヘディンがとんでもない事を口にした瞬間、アレンは勿論のこと、アルフリッグ達も一瞬で顔を青褪めてしまう。
【フレイヤ・ファミリア】の幹部勢で隆誠に性転換されたのは、ヘディンとアレン、そしてガリバー兄弟。性転換された彼等は美女・美少女に変身した事で、フレイヤが心底驚きながらも着せ替え人形を強制されてしまった経緯がある。その後は本気で自殺したい衝動に駆られた挙句、数日以上部屋に引き籠ってしまうほどだった。因みにオッタルとヘグニだけは彼に対してそれなりに良好な関係だから性転換されていないが、それでも明日は我が身かもしれないと警戒している。もしもフレイヤが『女の子になったオッタルとヘグニを見てみたい』と言う命令が出た瞬間、別の意味での死を覚悟しなければならない。
結局のところ、アレン達はベルの教育を黙って見る事しか出来なかった。
しかし、彼等は知らない。隆誠が使っている修行用バンドが、ベルの【ステイタス】を飛躍的に伸ばすとんでもないアイテムである事を。
もうついでに、
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