別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ 作:さすらいの旅人
「聞いたわよ、ヘディン。貴方に代わってリューセーがベルの面倒を見てるみたいね」
「はっ。仰る通り、奴が
ベルの教育係が隆誠に急遽変更されたと言う報告を耳にしたフレイヤは、真相を確かめようとヘディンを謁見室へ呼び出した。
玉座と言うのに相応しい、豪華な座具に腰掛けている女神の御前で、ありのまま報告する
ヘディンが明らかに不満を押し殺していると言うのが丸分かりだと気付いているフレイヤは、咎める気など一切無く再度口を開いた。
「珍しいわね。貴方は無駄に時間を掛けるのは嫌いだから、すぐに止めさせてもおかしくない筈なのに」
常に効率的な選択をするヘディンであれば、即座に中止させている。ベルを強くさせるのには実戦訓練をさせるのが効率が良いと理路整然と語り、有無を言わさず無理矢理相手を納得させるのが彼のやり方だ。
なのに、数日以上経っても手をこまねいていれば、彼の性格を熟知しているフレイヤが珍しがるのは無理もない。
「業腹ですが、どうやら奴は私の『教育』に対して酷く不快だったようで、下手に続ければ不味い事になると判断しました」
彼としても本来であればフレイヤの言う通り実行しているのだが、相手が隆誠となれば話は別だった。あの男は他の団員と違って理屈が通じないどころか、性転換と言う厄介極まりない非道な手段で相手を黙らせてしまうのだから。
尤も、隆誠から言わせればヘディンの『教育』は非常に目に余るモノだった。女神の為とは言え、文字通りの意味で心身を壊して強くさせるなど以ての外だと嫌悪している。心身を鍛えて
どちらも合理的に相手を強くさせる方法があると言っても、全く正反対となっている。要は価値観の違いでそうなっているのだ。隆誠とヘディンでは、生まれた世界と時代が全く異なっているが故に。
「ふーん……まぁ良いわ。リューセーが自分からやると言い出したのであれば、私としてもこれ以上何も口出しするつもりは無いわ」
一通りの理由を聞いたフレイヤは、特に何もすること無く静観するだけ。寧ろ隆誠であれば問題無い、と言う姿勢を見せている。
自分と一緒にベルの成り行きを見守っていた事もあって、彼もベルの事を大変気に入っている。フレイヤはそれを理解し、大体の察しはついていた。恐らくはヘディンの『教育』に対して何か思うところがあり、それを口実にして無理矢理交代させたのだろうと。
主神が許可を下したのに妨害行為をするなど、それは反逆行為も同然。そんな愚か者がいれば処刑されてもおかしくないが、その対象となる隆誠はこれまで何度やったにも関わらず、フレイヤは何一つ咎める事無く全て許している。その所為で【フレイヤ・ファミリア】の眷族達は隆誠に対する不満と嫉妬が高まり、殆どから敵視される結果となっていた。
この場にいるヘディンも当然その一人なのは言うまでもない。しかし、フレイヤが隆誠のやる事を認めてしまった以上、今回の件に関してはもう何も言えず仕舞いになってしまう。
「以前から思っていましたが、フレイヤ様は本当に今でもリューセーを信頼していますね」
ヘディンは未だに理解出来ない事がある。自身が忠誠を誓う女神は、一体何故これ程まで隆誠に寛大な措置を取っているのかと。
フレイヤがベルを連れ去り、オラリオ全体に『魅了』を施して
「ヘディン、もしかして妬いてるの?」
「お戯れを」
本当は隆誠の勝手を止めて欲しかったヘディンだが、静観の構えを見せる彼女に口を挟む事が出来ず諦めるしかなかった。少しばかり計画を修正しなければならないと思いながら。
☆
一方、隆誠は引き続き『庭』でベルに教育をやっている。
「ほう、僅か数日でもう慣れるとは流石じゃないか」
「はぁっ、はぁっ……! い、一体何なんですか、このマジックアイテムは? 言われた通り魔力を使えば身体が軽くなっても、その分疲労が溜まるんですけど……!」
へばっているベルだが、以前とは様子が異なっている。
少し前までヘディンも含めた第一級冒険者との戦闘訓練では死に物狂いで戦い、その極限状態によって心身共にボロボロに擦り切れていた。下手すれば生ける屍となってもおかしくない程に。
しかし、隆誠が現れた事で状況は一変する。厳しい基礎訓練をする際、両腕両脚に付けた修行用バンドの重さで参っているにも関わらず、活力に満ち溢れる表情だ。今までとは別人ではないかと、『庭』にいる眷族達が驚愕している。
隆誠が行っている教育は、『よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む』という修業の基礎だった。ドラグソボールに登場する空孫悟の師匠――海仙人の修行を参考にしているが、ぶっちゃけ
違う点があるとすれば、学びと遊びについてだった。
学びは戦闘で必要な駆け引き、技、魔法についての知識。特に魔法はこの世界で未知の技術と呼ばれる『ルーン魔術』について教えている。
遊びは隆誠が持っている娯楽品で楽しむ他、とある
故に『洗礼』と全く異なる教育をしている事で、ベルは次第に心を取り戻し、隆誠の訓練に対して真摯に打ち込む姿勢を見せて今に至る。
現在は実戦形式の訓練だが、ヘディン達と違って非殺傷の武器を使っている。隆誠が木刀で、ベルは木製短刀を。
【フレイヤ・ファミリア】の眷族からすれば非常に温いやり方だと思われるかもしれないが、誰一人とも口出しする事無く見ているだけだった。
「それでも難なく動ける時点で君は充分強くなっているよ。予定より早く初級に慣れたから、明日からは中級の重さにするとしよう」
「ええ!?」
更に重くなるのかとベルは嫌そうな顔になってしまうも――
「頑張ったらご褒美として、君が見た事のない『英雄譚』を見せてやるよ。伝説のドラゴンと契約した一人の少年が邪悪な存在と戦う物語を、な」
「ッ! 何ですか、その物凄い気になる内容は!?」
今まで以上にやる気を引き出させるのに成功するのであった。
因みに隆誠が言った『英雄譚』とは、
そして今日の訓練を終えた夜、隆誠はベルを部屋に呼んで収納用異空間からテレビを出して見せると――
「リューセーさん! 次回は、次回はどうなるんですか!?」
「次回が見たいなら、明日の訓練は今まで以上に頑張る事だな」
完全に夢中になるどころか『拳龍帝』のファンになってしまい、次回も見たいと強請るのであった。
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