別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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派閥大戦①

 予定していた六日後。

 

 オラリオから見て北西、『ベオル山地』西部に存在する広大な遺跡――『オルザの都市遺跡』で【フレイヤ・ファミリア】VS【派閥連合】の戦争遊戯(ウォーゲーム)が始まろうとする。

 

 陣地は西側が【フレイヤ・ファミリア】、東側に【派閥連合】となっている。

 

 数の方は言うまでもなく【派閥連合】が圧倒的有利だが、既に準備を終えている【フレイヤ・ファミリア】は焦りの表情を一切見せていない。此方に向かってくる敵は全て迎撃する、と。

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は『神探し(ハイド・アンド・シーク)』なので、眷族だけでなく連合の主神達も現地にいる。隠れる神々には『花』が渡され、必ず胸に差して、それが(敵味方関係無く)眷族に奪われるか紛失した時点で即脱落の規則(ルール)になっていると、神会(デナトゥス)でそう定められていた。

 

 都市遺跡西部にいる一柱(ひとり)だけのフレイヤも当然『花』を胸に差す事になっており、それが失った時点で【フレイヤ・ファミリア】の敗北が決定となる。

 

 ギルドより届いた紫丁香花(ライラック)の花を、オッタルが石の玉座に腰掛けているフレイヤに渡すのを見ていた隆誠は、

 

「とんだ皮肉だな、フレイヤ」

 

「ほっといてちょうだい」

 

 意地の悪そうな笑みを浮かべながら言うと、上品な白のドレスを身に纏っているフレイヤが即座に反応した。

 

「? リューセー、それはどう言う意味だ?」

 

 会話について行けないオッタルは、自身が渡した『花』に何か問題でもあったのかと、フレイヤの傍にいる隆誠に訊いた。

 

「フレイヤの心境にピッタリな『花』なんだよ。そのライラックの花言葉は――」

 

「今はそんなこと如何でもいいわ」

 

 その先を言わせたくなかったのか、フレイヤが即座に遮断させた。

 

 因みにライラックには「恋の芽生え」や「初恋」と言う花言葉がある。彼女にとっては余りにも皮肉だと思った矢先、隆誠がオッタルに教えようとしたところ阻止したのだ。

 

「勝ちなさい、オッタル」

 

「はっ」

 

「リューセー、私が命じるまで貴方は此処で待機よ。良いわね?」

 

「了解した」

 

 フレイヤからの指示に従うオッタルと隆誠。

 

 今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)に隆誠が参加するのは、オッタルを含めた他の眷族達も予想外だった。その中で一番驚いていたのは一人のエルフで、同時に一瞬ばかり厄介そうな目で見ていたとか。

 

 そして互いの両陣営が準備を整えた瞬間、【フレイヤ・ファミリア】VS【派閥連合】が開戦する合図が打ち上がった。

 

 嘗てない史上最大規模の戦争遊戯(ウォーゲーム)が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 【派閥連合】が有利な展開になると思いきや、現実は全く異なっていた。もう既に劣勢に立たされている。

 

 死を恐れぬ『強靭な勇士(エインヘリヤル)』達に、それを回復魔法で支援する『満たす煤者達(アンドフリームニル)』。特にヘイズ・ベルベットの超広域回復魔法(【ゼオ・グルヴェイグ】)が強力で、倒れた者達を文字通り『復活』させているから、【派閥連合】からすれば悪夢同然の光景だった。

 

 しかし、それはまだ序の口に過ぎない。戦場と化した場所が射程範囲内と定められたかのように、ヘディン・セルランドから放たれる数多の雷弾(【カウルス・ヒルド】)によって、爆撃の如く冒険者達を蹂躙していく。普通なら味方に当たってもおかしくないのだが、敵兵のみ正確に射貫く『超精密射撃』によって掠りさえもしなかった。

 

 更にはヘグニ・ラグナールの卓越した剣技、ガリバー兄弟の『無限の連携』、『都市最速』と謳われるアレン・フローメルも加わる事で、【派閥連合】の冒険者達から絶望の悲鳴が上がるのは無理もない。

 

 それとは別に、今回の主役と言うべきベルが主戦場にいなかったが、すぐに判明する。【フレイヤ・ファミリア】の陣営に向かおうと、たった一人で北西に向かっていたのだ。

 

 途中で『円形劇場』を通過しようとするも、その舞台(アリーナ)へ急遽入場させられてしまう。ヘディンの命令に背いて独断で動くヴァンと交戦した為に。

 

 普段から従順な筈の半小人族(ハーフ・パルゥム)がそうしたのは、それだけベルを認めていたのだろう。尤も、本人からすれば『けじめ』だと否定するかもしれないが。

 

 捻じ曲げられた世界の出来事とは言え、嘗ては仲間だった者同士の戦いになるかと思いきや、あっと言う間に終わってしまった。『Lv.4』のヴァンでは、既に第一級冒険者へランクアップしたベルの敵ではなかったから。

 

 直後、最悪な事態が起きてしまう。その戦闘で冒険者の『頂天』に君臨する巨躯の猪人(ボアズ)――オッタルを呼び寄せてしまったのだ。

 

 互いに最強の一撃を繰り出して引き分けとなり、第一級冒険者になったばかりのベルをオッタルが蹂躙するかと思いきや、予想外の展開が起きた。ベルが突然、片方の手を空に向かって文字を書くような素振りを見せたのだ。

 

 その後にベルは何度も攻撃を受けてダメージを負っている筈なのに、武装とは全く異なる硬い何かで防がれており、受けた傷も徐々に回復。更には攻撃力や速度、耐久すらも強化されていたりと不可思議な状況になっている。

 

 二人の戦いを遠くから見守る指揮官のヘディン、眼晶(オクルス)で見ているリリルカも一体どう言う事だと疑問視するのは無理もない。フレイヤがいる『神の家』の最上に座り込んで高見の見物をしている隆誠だけは、何かを知っているように笑みを浮かべているが。

 

 戦況は明らかに【フレイヤ・ファミリア】が押しており、【派閥連合】側の敗北となるのは既に時間の問題なのだが、今まで何事も無く座していた筈のフレイヤが突然立ち上がって命令を下した。早々に戦争遊戯(ウォーゲーム)の決着を付けろ、と言う命令を。

 

 フレイヤが何かに苛付いていた事に隆誠は気付いていたが、敢えて気にしなかった。ああなっているのは、今も『戦いの野(フォールクヴァング)』で眠っているヘルンが原因だろうなと既に察していたから。

 

 彼とは別の護衛であるラスクとレミリアが指揮官(ヘディン)の元へ向かって伝えた後、戦況は一気に傾き始める。アレンが率いる部隊が目指す先は、ガラ空きとなった【派閥連合】の本陣で、そこに隠れている神々の胸に差さっている『花』を散らす為に。

 

 アレン達の侵攻で四十二の【ファミリア】が脱落し、残りの勢力は四派閥。【派閥連合】に最早勝機は無いと、観戦している誰もがそう思い始めている。

 

 かと思いきや、主戦場に新たな援軍が現れた事で状況が一変した。行方知れずとなっていた筈のリュー・リオンが『Lv.6』にランクアップした事で、体力と引き換えに斬撃範囲を拡張する代償を伴う呪武具(カース・ウェポン)【ヴィクティム・アビス】の使い過ぎで疲弊していたヘグニを撃破。

 

 第一級冒険者が討ち取られた事で『満たす煤者達(アンドフリームニル)』は動揺するも、すぐにヘイズが持ち直そうと動き出した瞬間、信じられない事態が起きる。指揮官のヘディンが彼女達だけでなく、近くにいる強靭な勇士(エインヘリヤル)達にも数多の雷弾(【カウルス・ヒルド】)を放って全滅させると言う、予想外の裏切り行動が。

 

(成程、そう言う事か)

 

 今まで最上で高みの見物をしている隆誠は、納得したかのように頷きながら立ち上がり、ピョンッと跳んでそのまま落下した。

 

 

 

 

「どうやらヘディンは、初めから離反を前提にした布陣を敷いたようだな」

 

「初めから? どういう事なの?」

 

 ヘディンの裏切りを見て愕然としていたフレイヤだったが、近くに着地した隆誠を見た事で途端に落ち着きを取り戻す。

 

「フレイヤも知っての通り、【フレイヤ・ファミリア】は『個』に突出してるから、指揮官(ヘディン)の声が届く範囲で手足の如く動かせば、確かに最も効率が良くて、最も強い陣形だろう。だが、これには決定的な弱点がある」

 

指揮官(ヘディン)が裏切った瞬間――『最弱の布陣』に成り下がるのね」

 

「そう言う事だ。今までヘディンに頼り過ぎていた分、此処に来て大きなツケが回ってきたようだな」

 

 隆誠はこの世界で大きな戦闘に一度も参加していないが、作戦の考案は全てヘディンがやっていると本人から聞いている。

 

 それを聞いた直後に危惧した。今の【フレイヤ・ファミリア】は一人の指揮官に依存し過ぎており、もしも頭脳(ブレーン)に何らかの支障が起きた場合、瞬く間に瓦解するだろうと。

 

 いつか起こるかもしれないのではないかと思いきや、見事に懸念が的中してしまう。

 

 指揮官が離反した事で、指揮系統は完全に無くなっている。戦闘に特化し過ぎた眷族達は既に右往左往としており、盤面を正確に把握しているヘディンの狙撃で次々と倒れていく。

 

 団長(オッタル)副団長(アレン)がいれば何とか立て直せるかもしれないが、それは無理だった。

 

 オッタルは北西にある『円形劇場』でベルと交戦中で、更には合流したリュー・リオンの他、もう一人の女性ドワーフも加わって手一杯な状態。

 

 アレンは【派閥連合】の神々の『花』を散らそうと、現在は島の東端にいる為に離れすぎて即座に向かう事が出来ない。

 

「だが不可解な点もある。何故この戦場に――お前の同僚達と店主が参加してるんだ?」

 

 隆誠が今も遠見で確認している際、二つの戦場で予定外の人物達を目にした。

 

 オッタルがいる戦場ではリューだけでなく、『豊穣の女主人』の店主ミア・グランドも参戦していた。嘗ては【フレイヤ・ファミリア】の前団長で【小巨人(デミ・ユミル)】の二つ名で知られていた女傑が。

 

 アルフリッグ達の戦場には、『豊穣の女主人』のウェイトレス数名――クロエ・ロロ、ルノア・ファウスト、アーニャ・フローメル――がいる。報告によるとアレンの妹(アーニャ・フローメル)は心を折られて再起不能の筈だが、とてもそんな状態ではなかった。

 

「……恐らく、(シル)とロキの仕業よ」

 

 忌々しげに答えるフレイヤだが、それでも落ち着いた様子だった。

 

 こうも冷静でいられるのは、最大の切り札(ジョーカー)が傍にいるからだ。

 

 本当なら隆誠を出す事なく勝負を決めたかったが、今の状況で出し渋っていたら、余計に状況が悪くなる恐れがある。

 

 故にフレイヤは決断した。今の戦況を立て直すのには、最早切り札(ジョーカー)を使うしかないと。

 

「リューセー、行きなさい」

 

「良いのか?」

 

「もう出し惜しみしてられないわ。貴方の力、存分に見せつけなさい」

 

「了解した」

 

 漸く出番が回ってきた事に、隆誠は楽しそうに笑みを浮かべた。

 

 飛翔術を使って現場に向かおうとするも、その視線の先にある物を見た事で一旦止める。

 

「レミリア、そこにある柱を一本使いたいから退いてくれ」

 

「え? 柱を使う?」

 

「「?」」

 

 台詞に意味が分からないと首を傾げる護衛のレミリアだが、隆誠は全く気にせず柱の前に立つ。

 

 彼女だけでなく、もう一人の護衛であるラスク、更には主神のフレイヤも気になるように見ている。

 

「よっ! はっ!」

 

 三人の反応を余所に、隆誠は軽く跳躍して柱の上部に右に人差し指でコツンと突き、着地した直後には右足のつま先で柱の下部にコツンと突く。

 

 主神と護衛二人は一体何がしたいのかと疑問視している中、隆誠が両手で柱を引っ張った瞬間、先程突かれた上下の部分が見事に割れる。

 

「「「ッ!」」」

 

「それじゃ行ってくる」

 

 目を見開いているフレイヤ達に気にせず、隆誠は持っている柱を――

 

「ふんっ! とぉぉぉぉぉぉ!」

 

 思いっきり上空へ投げた直後、今度は彼も跳躍し、その投げた柱の上に着地するのであった。

 

 因みにコレは『ドラグ・ソボール』に登場した某殺し屋の特殊な飛行方法で、隆誠が単にそれを真似しただけに過ぎない。

 

「「「…………………」」」

 

 柱と隆誠が既にいなくなっても、余りにもシュールな移動方法に呆然とするフレイヤ達だった。

 

 一応言っておくと、隆誠の飛行方法は勿論中継されており、オラリオにいる者達も同様の反応を示している。




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