別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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派閥大戦⑩

 隆誠がルーン魔術で再現した【サタナス・ヴェーリオン】によって、円形劇場は殆ど破壊されて無惨なモノと成り果てている。

 

 これ程の被害が出ればベル達だけでなく、戦いを見守っていたオッタルや、観客席に倒れ伏しているヴァンも巻き添えを喰らってもおかしくない。

 

(リューセーが動くなと言ったのは、こう言う事だったのか)

 

(あの野郎、味な真似を……!)

 

 しかし、二人は無事だった。

 

 隆誠がベル達と戦っている最中に事前準備として、二人がいる位置に『防壁のルーン』を設置していたのだ。

 

 その後に【サタナス・ヴェーリオン】が発動した瞬間、オッタルとヴァンの周囲を覆うオーラの防壁が出現して音の衝撃波を防ぎ今に至る。

 

 全く被害を受けていない二人とは別に、直撃した四人は倒れ込んでいた。

 

「う、うう……大丈夫ですか、リューさん……」

 

「何とか……。まさか、二度も【静寂】の魔法を……」

 

 咄嗟にルーン魔術で防御力を強化したベルと、【アガリス・アルヴェシンス】による炎の付与魔法(エンチャント)を最大にしたリューはダメージは負っても、まだ何とか戦える状態だ。

 

「ぐっ……何もかも、出鱈目な奴だ……!」

 

 再び音の衝撃波を受けたヘディンだが、後衛と言う事もあって防御に専念していた。それでも相当なダメージを負っている事に変わりなく、二度も平衡感覚が狂った事で眼や鼻から血が流れている。

 

「………くそっ。ここまで、か……」

 

 ミアだけは三人と違って既にボロボロだった。そうなったのは咄嗟にベルとリューを守ろうと自ら盾役となり、二人が本来受ける筈のダメージを肩代わりしたのだから。

 

 時間を掛ければ何とか持ち直せるのだが、今の状態ではまともに立てない。

 

「ふむ、残り三人となったか」

 

 魔法を放った張本人の隆誠は四人の状態を確認した事で、ミア以外は辛うじて戦えると判断した。

 

「なぁヘディン、お前はこの状況でもまだ俺に勝てる策はあるのか?」

 

 あるならさっさと出せと暗に告げる隆誠。

 

 ヘディンは唇を歪め、辛うじて笑みを浮かべた。

 

「さぁ、な………。逆に問うが、わたしが……素直に、答えるとでも?」

 

「思っていない。だがそれとは別に、不可解な点がある」

 

 半死半生に近いヘディンを見ながら、隆誠は相も変わらず落ち着いた声で返答する。

 

「徹底的な合理主義者である筈のお前なら、態々俺と敵対する道を選ばなくても、確実に勝利する事が出来た筈だ」

 

 例えばフレイヤの傍にいる隆誠を引き離す為に、出撃せざるを得ない状況に追いやればいい。その後にさり気なくヘディンが『神の家』に乗り込み、フレイヤから『花』を奪えば【派閥連合】の勝利となる。

 

 戦況を思うように動かす事が出来るヘディンであれば、その案も当然考えている筈。

 

 仮にそうなれば、隆誠は自身が望んだ結果でなくても思惑に乗っていただろう。

 

「はッ……! 勝利、など……!」

 

 ヘディンは鼻で笑った。

 

「こんなっ、くだらない戦争(ゲーム)に、貴様が参加した時点で、とっくに詰みだ……!」

 

 どんなに策を弄したところで、ヘディンは隆誠に絶対勝てない。それは疾うに分かり切っている。 

 

 隆誠が想像した小細工をやれば、確かに戦争はあっけなく終結しただろう。

 

「だがっ……仮令(たとえ)勝とうが負けようが……意味が無い!」

 

「ほう」

 

「私がやりたかったのは、そんなことではないっ!」

 

 そこから先はヘディンの独白が続いた。

 

 フレイヤのお陰で『王』の責務から解放されたので、今度は自分が女神の『軛』を解き放つ。

 

 『愛』を求めていながら『愛』に苦しむフレイヤ。

 

 『愛』以外を切り捨てておいて、それでも娘のように苦悩するフレイヤの無念。

 

 見た目とは裏腹に、フレイヤ(シル)の頬が今も涙で濡れている。

 

 この勝負に勝てば、フレイヤは永劫女神のままになってしまう。

 

 自ら泥を塗って、崇高たる女神に引導を引き渡す。

 

 今まで秘めていた物を全て口にしたヘディンだが、今度は隆誠に向かってこう言った。

 

「なのに貴様は、全て知っていながらも止めなかった! ならば私がやるしかなかろう!」

 

 ヘディンは知っている。

 

 隆誠だけが【フレイヤ・ファミリア】の中でフレイヤの心情を理解し、何かあれば力付くで止めれる立場にある事を。

 

 だが結局、彼は何もしなかった。その気になれば止めれる筈なのに、放置した結果が今の状況なのだから。

 

「……成程。止めなかった俺に代わって、ヘディンが役割を果たそうとしているのか」

 

「そうだ! これが俺の『忠義』だ!!」

 

 本心を全てぶつけるヘディンに、隆誠は何一つ否定する事が出来なかった。

 

 忠義の騎士(ヘディン・セルランド)が自ら烙印を背負って女神に剣を向けるなど、並大抵の覚悟が無ければ出来ない行為なのは、隆誠も痛いほど伝わっている。

 

「だが水を差すようで悪いけど、それだけでは俺に勝てないぞ」

 

 仮に隆誠を倒したところで、回復アイテムによって万全な状態となっているオッタルが控えている。

 

 既に体力や魔力が大きく削られているベル達では、最後の難関である猪人(ボアズ)とまともな勝負が出来ない。

 

「お前達もまだ続けるのか?」

 

 既に立ち上がってるベルとリューへ視線を向けて問うも――

 

「僕はシルさんの所に行く。そう、決めてます……!」

 

「無論、そのつもりです!」

 

 二人は諦めない意思を見せるのであった。

 

「ならその覚悟――どこまで貫けるか見せてみろ!」

 

 そう言って隆誠は手にしてる黄金の長剣を構えながら仕掛けようとする。

 

 

 

 

 

 

「勝負あったな……」

 

 未だに戦いを見守り続けているオッタルは、これ以上留まり続ける必要は無いと見切りをつけ始めていた。

 

 それもその筈。覚悟と決意を見せたベル達が果敢に挑んでも、隆誠に傷一つ付けられず敗北寸前にまで追い詰められているのだから。

 

 オラリオから観ている住民達の殆ども、既に【派閥連合】が敗北してしまうと絶望的な表情になっている。

 

「お前達の覚悟は所詮この程度か。余り俺を失望させないで欲しいのだが」

 

 呆れながら言う隆誠の目の前には、息絶えて両膝を地面に付くベルとリューとヘディンがいる。

 

 因みにミアは未だに立てず、三人が戦う光景を見るだけだった。

 

「くっ、ぜ、全然歯が立たない……!」

 

「最早、これまで……!」

 

「クソが……!」

 

 圧倒的な力を見せ付けられたベル。

 

 シルに言いたい事を言えなくなったと無念の表情になるリュー。

 

 口汚く自身の力の無さを恨むヘディン。

 

 三人が諦めの境地に入りかけているのを見た隆誠はこう告げる。

 

「お前達の相手をするのはもう飽きた。そろそろこの戦いを終わらせる、か」

 

 そう言いながら隆誠は何故かベルの方へ視線を向けていた。

 

(さっさとアレ(・・)を使え! いつまで迷ってるんだよ、この阿呆が!)

 

(うっ。リューセーさんが僕に物凄く訴えてる気が! やっぱりもうアレ(・・)を使うしか……でも、そうしたら……)

 

 隆誠の視線を感じながらも、ベルは未だに迷っていた。

 

 あのアイテムを使うには相方が必要になる。そうなるとリューかヘディンのどちらかになるのだが、二人ともエルフなので断るのが目に見えて半ば諦めていた。

 

(いや、もうそんなこと気にしてる場合じゃない!)

 

 こんな状況で躊躇っては取り返しが付かなくなるから、もう四の五の言ってられない状況だとベルは漸く腹を括った。

 

 決心したベルは、今まで懐に大事にしまっていた物を取り出そうとする。

 

(はぁっ……。やれやれ、やっと決心したか)

 

 決心したベルの表情を見た事で、隆誠は内心物凄く呆れていた。

 

 彼がその気になれば、もう既にベル達の意識を断たせている。だが敢えてそうしないよう、これまで手加減ギリギリの攻撃していたのだ。

 

(さて、ベルは一体どっちを選ぶのやら)

 

 苦渋の決断を下したベルは――

 

「リューさん、頼みがあります!」

 

「へ? い、いきなりどうしたのですか、ベル」

 

 突如リューを見てこう言った。

 

「こんな事を言うのは非常に申し訳無いんですが、どうか今此処で―――僕と合体して下さい!!」

 

「…………………………………………………………は?」

 

 余りにも大胆な発言だった所為で、リューは固まってしまう。

 

 ヘディンやオッタル、そしてオラリオにいる者達も何を言っているのかが理解出来ないように目が点になってしまう。

 

 ベルのとんでもない発言によって、誰もが固まるのは無理もないと言えよう。

 

 ついでに【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)にいる一人の女性エルフは、ベルの発言を聞いた数秒後に『あの万年発情破廉恥兎は同胞に何て事をぉぉぉッ!!』と叫んでいる。

 

(おいベル、そんな誤解を招く発言は不味いだろ)

 

 唯一事情を知っている隆誠だけは他と違って驚いていないが、周囲に合わせながら足を止めており、色々な意味でアウトだとベルに思わず内心突っ込みを入れていた。

 

「おい坊主! こんな時に何馬鹿なこと言ってんだい!!」

 

 何とか立ち上がろうとしていたミアだが、ベルの発言の所為でズッコケてしまい、自身の従業員(むすめ)にセクハラ発言をした事に思わず怒鳴ってしまう。

 

「な……ななななななな、何を言ってるんですか貴方はぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 

 固まっていたリューが元に戻った瞬間、顔どころか全身も真っ赤にしながら思いっきり叫んだ。

 

 しかし、ベルはそんな事を気にしてる暇はないのか、懐から取り出したイヤリングを左耳に付けていた。

 

「後でちゃんと責任は取りますから、とにかく今は僕に協力して下さい!」

 

「そ、そのような事を言われても、まだ心の準備が……!」

 

 リューが完全に恋する乙女の顔になっている中、ベルは全く気にせず彼女の右耳にイヤリングを付けていた。

 

 直後、二人の片耳に付けているイヤリングの先端部分がポワッと光り輝く。

 

 ベルの所為で何とも言えない雰囲気から一変し、誰もが一体何が起きようとしているのかと困惑している。

 

「なっ、これは……!」

 

「リューさん、どうか僕に力を!」

 

 装着した二つのイヤリングが輝いた後、ベルとリューが互いに引き寄せられていく。

 

「ぶ、ぶつかる!」

 

「コレで良いんです!」

 

 抵抗しようとするリューに、ベルは問題無いと言い放つ。

 

 そして二人の身体が合わさった瞬間、周囲を巻き込む閃光が走る。

 

 因みにこれで、ベルが決して卑猥な発言をしたのではないと誤解が解かれた事を補足しておく。

 

(やっと合体したか)

 

 『Lv.6』のベルとリューが合体した事で、隆誠は一体どんな冒険者になるのかと興味深そうに見ている。

 

 閃光が消えると、先程までいた筈の二人が居らず、見慣れない一人の人物が立っていた。

 

 ベルとリューがそれぞれ身に纏っていた衣装が合わさっており、髪はベルと同じだが白と金の二色が混ざっている。

 

「誰だお前は。ベルとリュー・リオンはどうした?」

 

 隆誠が敢えて何も知らないように問うと、見知らぬ人物は双眸を開く。

 

 右眼は赤色、左眼は空色のオッドアイ。

 

 見て分かるように、如何にもベルとリューの特徴を現わした容姿だ。

 

「……僕は、ベル・クラネルとリュー・リオンが合体した存在――『リュール・クラン』です」

 

「何だと!?」

 

「あれが坊主とリュー!?」

 

 自ら名を明かした存在――リュールに、ヘディンとミアは信じられないと言わんばかりに凝視していた。オッタルやヴァン、オラリオにいる者達も同様に。

 

 こんな展開は全く予想外であり、バベルにいる神々も大騒ぎになっているのは言うまでもない。




ベル・クラネルとリュー・リオンの名前も合体して『リュール・クラン』にしました。

リュールと言う名前はファイアーエムブレム エンゲージの主人公と名前が被っている事を先に言っておきます。

他にも『べリュー』、『リル』、『リュベル』など考えましたが、結局『リュール』にしました。

ついでにベルの合体相手はヘディンでも良いかと考えたけど、無しにしました。ヘディンに「合体して下さい!」と言った瞬間、ベルに告白した筈のリューが色々な意味でショックを受けて立ち直れなくなってしまうので。


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