別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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シル・フローヴァ/円卓の間

 フレイヤが隆誠を仮眷族にしてから本拠地(ホーム)に居る日々が続くも、突然パッタリと途絶えたかのようにバベルの塔の最上階で過ごす回数が増えてきた。最初はもう隆誠に飽きたのではないかと推測する者もいたが、オッタルと一緒に彼も護衛として同行させているので違うと理解する。

 

 団長のオッタルならギリギリの範囲で辛うじて許容出来るが、立場上は末席である筈の隆誠も一緒など、【フレイヤ・ファミリア】の眷族達からすれば到底受け入れられなかった。その心情を察したフレイヤは――

 

『貴方達の誰かが隆誠に挑んで勝利出来たら、彼に代わって同行を許可するわ』

 

 ――と言う条件を出した事で、第一級冒険者の幹部以外が挑むのは必然の流れとなった。しかし、誰一人とも(本気を出していない)隆誠に傷一つ付けられずに敗北したのは言うまでもない。

 

 その後は敗北したペナルティとして、隆誠から一週間は『洗礼』をせずに本拠地(ホーム)の掃除と雑務をするよう命じた。『そんなのやってられるか!』と反抗する眷族は当然いたが、『性転換した後、どこかの店でアルバイトしたいか? 例えば「豊穣の女主人」とか』と言われた瞬間、もう一切反抗する気を見せず従うしかなかった。

 

 末席でありながらも、かなり癖のある眷族達に有無を言わさず従わせる隆誠を見た団長のオッタルは、色々な意味で感心した。自分では出来ない手段(モノ)を奴は色々持っている、と思いながら。

 

 閑話休題(それはそうと)

 

 フレイヤが再びバベルの塔で過ごす事になったのは、白髪の少年がオラリオに入るのを偶然見かけたからだった。

 

 その少年はベル・クラネルで、フレイヤ曰く『今まで見た事のない綺麗で透き通った魂』らしく、自分の眷族にしたいと執着してしまうほど。尤も、その少年は下界に降臨したばかりの女神の眷族になってしまい叶わぬものとなった。

 

 しかし、フレイヤはそんな簡単に諦める性格ではなかった。彼が自身に相応しい英雄に成長してから、是が非でも眷族にしようと奪う気満々なのだ。

 

 そんな自分勝手な事を仕出かそうとする彼女に、隆誠は当然黙っている訳がない。最初は『バカな真似は止めろ』と言ったのだが、『私の愛を知れば、あの子はきっと振り向いてくれる筈よ』とフレイヤが自信満々に答えた事で果てしなく呆れてしまう。本当なら力付くで阻止したいところだが、彼は何か思うところがあるのか、その後から一切何も言わなくなって傍観することにした。

 

 フレイヤがベル・クラネルの勇姿を眺める日々を送っている中、『戦いの野(フォールクヴァング)』では(フレイヤの眷族達からすれば)恐ろしい事件が起きようとしていた。

 

 

 

「………おい、シル」

 

「はい、何ですかリューセーさん」

 

 今朝方、本拠地(ホーム)の厨房では薄鈍色の髪と瞳をした可愛らしい少女がナニかを作っていた。

 

 その少女はシル・フローヴァと呼ばれ、『豊穣の女主人』と言う酒場でウェイトレスとして働いている。【フレイヤ・ファミリア】の全眷族達から『シル様』と呼ばれているが、隆誠だけは普通に『シル』と呼び捨てだった。

 

「その鍋に入っているモノは一体何だ? 『強臭袋(モルブル)』の中身でも作ってるのか?」

 

 隆誠が見ている鍋には真っ黒な液体がグツグツと煮だっており、更には強烈な悪臭を放っている。因みにモルブルとは、モンスターさえも嫌う悪臭を放つアイテムであり、ダンジョンでは戦闘を回避する為に使われている。尤も、その悪臭は所持する冒険者でも嫌な物だが、命懸けでダンジョン探索するには仕方ないと割り切っているらしい。

 

 モルブルの実物を知らないにしても、余りにも強烈な悪臭を放つモノを厨房で作るシルに、隆誠としては到底見過ごせなかった。

 

「むっ、失礼ですね! これはベルさんに食べてもらう為に料理の練習をしてるだけです!」

 

 大変心外だと憤慨するシルに、隆誠は途端に真剣な表情となってこう言い放つ。

 

「そうか。だったらお前はもう二度と料理しないでくれ」

 

「んなっ! いきなり何でそんな失礼な事を言うんですか!? 人が丹精込めて作っているのに!」

 

 シルが途轍もないショックを受けるどころか、両目から涙が浮かんでいた。

 

 因みに厨房には二人だけでなく、『満たす煤者達(アンドフリームニル)』と呼ばれる救護部隊の面々もいる。彼女達もシルを侮辱する者がいれば容赦無く叩きのめすのだが、今はその素振りを見せていない。それどころかまるで関わりたくないように、隅っこに避難している。

 

「生憎だけど、俺はそのような毒々しい汚物を料理とは断じて認めたくないんでな。今のお前はメシマズ女を通り越して、毒マズ女に相応しいよ」

 

「毒マズ女!?」

 

 余りにも酷すぎる呼び方に再度ショックを受けるシル。そんな罵倒に隅っこに避難している筆頭格のヘイズ・ベルベットが激昂してもおかしくないが、副官達と同じく自分は何も聞いていないと耳を塞いで後ろを向いている。

 

「はい、その劇物は俺が処分させてもらうよ」

 

「だ、ダメです! それは後でオッタルさん達に試食してもらう予定で……!」

 

「お前はアイツ等を殺したいのか!?」

 

 鍋に入っている劇物を処分しようとシルが断固阻止しようとするが、非力な彼女では叶わず、問答無用で隆誠に処分されるのであった。

 

「ヘイズさん! 皆さんもそこで見てないでリューセーさんを止めてくれませんか!?」

 

「申し訳ありません、シル様。私たち如きでは彼を止めるなど到底無理です」

 

 最後の頼みの綱として隅っこにいるヘイズ達に懇願するシルだったが、向こうは内心で『助かりました!』と感謝しながらも拒否の返答しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 本拠地(ホーム)にある『円卓の()』では、団長のオッタルを含めた第一級冒険者の幹部達が勢揃いしていた。

 

「おい。話ってのはなんだ、オッタル。またくだらねえことじゃねえだろうな」

 

 猫人(キャットピープル)の男――アレン・フローメルがオッタルに鋭い双眼を向けていた。

 

 彼こそが【フレイヤ・ファミリア】の副団長であり、『Lv.6』で【女神の戦車(ヴァナ・フレイア)】の二つ名を与えられている。

 

 隆誠と戦って以降、何度も挑んでは敗北を重ねても全く懲りていなかった。今も『絶対殺す!』と言う目的を持ちながら、黙々と鍛錬の日々を送っている。

 

「相変わらず厳めしい面だな、オッタル」

 

「我々を招集するほどの理由があるのだな?」

 

「まさかリューセーの奴がまた何かやらかしたのか?」

 

「もしくは、また女神がアイツに声を掛けたとか?」

 

 同じ四つの声で訊ねるのは、同じ顔をした四つ後の小人族(パルゥム)。『Lv.5』に至った彼等は、ガリバー兄弟。

 

 長男アルフリッグ、次男ドヴァリン、三男ベーリング、四男グレールで、四人揃って【炎金の四戦士(ブリンガル)】の二つ名を持つ。

 

 彼等は以前に『無限の連携』と称される戦法で隆誠に戦いを挑んだが、『だったら俺も四人になって相手をしてやる』と最初ふざけた事を言った直後、本当に四人になった時は冗談抜きで驚いた。その後には一対一の戦いを強いられる事となって、連携を崩された彼等は四人の隆誠に敗北。その後に『そんなのアリかよ!?』と四人揃って抗議するも、当の本人は完全無視だった。

 

「フフ……リューセーと呼ばれる異形の存在が現れたことで、我が身はいつの間にか毒されてしまい、この暗黒の唇が奴と話す時は……ク、ククク」

 

「喋るな、ヘグニ」

 

 不気味な発言をする褐色肌の黒妖精(ダーク・エルフ)に、白妖精(ホワイト・エルフ)の男が辛辣な言葉を投げかけている。

 

 黒妖精(ダーク・エルフ)はヘグニ・ラグナール。『Lv.6』で二つ名は【黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)】。

 

 白妖精(ホワイト・エルフ)はヘディン・セルランド。『Lv.6』で二つ名は【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】。

 

 お互いに不本意ながらコンビと見られがちな『魔法剣士』であり、二人揃って『白黒の騎士』の異名を持つ。

 

「今朝方、あの方が……シル様の方が、厨房で作った料理を我々に試食させようとの報告が入った」

 

『!?』

 

 オラリオ唯一の『Lv.7』で猪人(ボアズ)の獣人――オッタルの発言で、周囲は突如戦慄した。

 

 彼等は知っている。彼女が作る料理は口にした瞬間、第一級冒険者の『対異常(アビリティ)』を貫通してしまうほど酷いモノである事を。本当なら今すぐにでも逃げ出したいアレン達だが、シルが自分達を指名してしまった以上はもう逃げられない。

 

「だが、そこをリューセーが阻止したらしい」

 

『ッ!』

 

 オッタルが隆誠の名を口にした事で、アレン達は途端に忌々しい表情となる。

 

 だがそれとは別に、彼がシルの作った料理を自分達に試食させるのを阻止した事で一気に安心した。

 

「シル様を侮辱するのは誰であろうと許さん……だが、俺は何も知らなかった事にしておく。お前達はどうする?」

 

 いつものオッタルであれば、彼女に無礼を働く者がいれば激昂して処罰を下す。それはアレン達も同様なのだが、今の彼等からはそんな剣呑な雰囲気を全く見せていない。

 

「………………チッ。俺は何も聞いてねえからな」

 

 普段から隆誠を毛嫌いしている筈のアレンだが、今回は珍しく素知らぬ顔をしていた。

 

「妙な戯言は聞こえたが、私には与り知らぬことだ」

 

「ク、クククク……今宵は闇の宴が中止となったか。………ありがとうリューセー、助かった……!」

 

 自分には関係無いと言わんばかりに言うヘディンと、隆誠に対して感謝の言葉を述べるヘグニ。

 

「アイツに助けられたのは癪だが、命拾いした事に変わりない」

 

「「「それな」」」

 

 アルフリッグの台詞に、ドヴァリン達が揃って同じ事を口にする。

 

 オッタルが緊急招集をしたのは『シルを侮辱した隆誠の処遇について』と言う議題だったが、結果として全員何も知らなかったと言う結論になるのであった。




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