別世界の元神がオラリオに来たのは間違ってるだろうか IFシリーズ   作:さすらいの旅人

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派閥大戦⑳

「ヴェルフ!」

 

 猛炎が津波のように隆誠に襲い掛かっている中、放ったのが赤髪の青年だと分かって振り向くベル。

 

「早くしろ、ベル! 俺も命と同じく今の不意打ちだけで精一杯なんだ!」

 

 ベルが畜力(チャージ)している事を知っているのか、ヴェルフは自分のことを気にしないよう叫んだ。

 

 直後、隆誠を呑みこんでいた猛炎に異変が起きる。

 

 津波のように進行していた炎が勢いが止まっただけでなく、次第には空中で大玉のように収束され、その下には左手を掲げる隆誠がいる。

 

「ふう……おどかしやがって……!」

 

 咄嗟に『風』で防ぎながら隆誠は左手で、炎の魔力を集束させる為のルーン魔術を使っていた。

 

 その結果、上空には巨大な炎の塊が出来上がって完全に制御されている。

 

「おいおい嘘だろ!?」

 

 炎を集束させた術者が直撃した筈の隆誠である事にヴェルフだけでなく、畜力(チャージ)しているベルやリュー達も目を見開いていた。

 

 確実に不意を突いてダメージを与えた筈だと確信したにも拘わらず、あんな簡単に防がれるとは思いもしなかったのだ。

 

「まさかお前も此処に来ていたとは……」

 

 隆誠がまだフレイヤの傍で観戦していた時、チビ猫(アレン)がヴェルフを倒すところをちゃんと確認した。

 

 確実に意識を失っていた筈なのに、それでも這い上がって此処まで来た事に隆誠は思わず称賛したくなってしまう。同時にアレンに対しては『役立たずめ』と辛辣になっているが。

 

「その執念に免じて、俺が仕留めてやるよ!」

 

「くっ!」

 

 隆誠は掲げてる左手をゆっくり動かすと、それに反応するように大火球も動き出す。

 

 完全に主導権を持っていると分かったヴェルフは、今の自分では避け切れないと分かっている。

 

 だから――

 

「【燃え尽きろ、外法の(わざ)】!」

 

「!?」

 

 操ってる炎を爆弾に変える為、魔力暴走(イグニス・ファトゥス)を強制的に起こす最後の奥の手――【ウィル・オ・ウィスプ】を発動させた。

 

 制御している筈の魔力が突然暴走する事に隆誠が驚くも、火球は意思に反するように爆砕してしまう。

 

 彼を中心にした大爆発は、周囲にいるベル達にも被害が及ぶほどだが、第一級冒険者からすれば大したことではない。

 

「はぁっ、はぁっ……いくらアイツでも、あの爆発を直撃すりゃぁ――」

 

「確かにタダでは済まなかったかもしれない、な」

 

「ッ!?」

 

 一矢報いる事が出来たとしてやったり顔をするヴェルフだが、背後からあり得ない筈の声を耳にしたことで即座に振り向いた先には予想外の人物がいる。

 

 爆発する寸前、隆誠は超スピードを使い一瞬で背後を取ったのだ。

 

「俺を二度もおどかした褒美だ、受け取れ」

 

 そう言って隆誠は――

 

「ふんっ!」

 

「ごっ!」

 

 勢いがある回し蹴りをして、腹部に直撃したヴェルフが勢いよく吹っ飛ぶ。

 

 ゴロゴロと転げ回って漸く止まるが、起き上がる気配が無い。残った精神力(マインド)を全て使い切っただけでなく、強烈な一撃を受けた事で完全に意識を失ってしまったのだ。

 

(ごめんヴェルフ! でも、ありがとう!)

 

 兄貴分(ヴェルフ)の元へ駆け付けたいベルだが、自分の為に時間を稼いでくれたのを無駄にしたくなかった。

 

 そのお陰で、畜力(チャージ)の時間を稼ぐ事が出来た。

 

 ベルは移動していた足を止め、腰を落とし、炎を纏わせた黒いナイフを構える。

 

(どうやら準備は出来たようだな)

 

 吹っ飛ばした隆誠は、ベルの準備が漸く整ったことに気付く。

 

 命とヴェルフの予想外な不意打ちを対処した時間は約一分以上だが、その間に畜力(チャージ)は充分に溜まったようだ。

 

「無駄なことを、いま楽にしてやる!」

 

 そう言って隆誠は『風』を纏わせた長刀を構え、ベルと眼が合った瞬間、互いに疾駆する。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

 

 二人の距離が縮まり、間合いに入り込もうとする。

 

 しかし、直後に異変が起きる。

 

 ピシリッ。その音が長刀に罅が入る。

 

「なっ、こんな時に……!」

 

「っ!」

 

 持ち主の隆誠だけでなく、ベルも当然目に入った。

 

 『風』を纏わせていた長刀が限界を迎えたのか、罅だらけとなって霧散していく。

 

 それを見た事で隆誠が僅かに動揺した事で隙だらけとなるも、ベルは決して見逃したりしない。

 

「あああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 本当なら右腕の『癖』を囮にする筈だったが、その必要が無くなった為――

 

「【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

 懐に入ったベルは速攻魔法【ファイアボルト】、スキル【英雄願望(アルゴノゥト)】の魔力と斬撃を合わせた必殺技――【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】を炸裂させる。

 

「―――――――――――――ッッッッ!?」

 

 予期せぬ出来事の所為でベルの一撃を受けた隆誠は、畜力(チャージ)した巨大な炎雷の一撃によって勢いよく吹き飛ぶ。

 

 今までとは比べ物にならないほどの邁進で、瓦礫寸前の円形劇場に直撃し、辛うじて原形が残っている観客席も吹っ飛ばして大穴を開けた。

 

 意識を失ってる命とヴェルフを除いた誰もが、隆誠がいなくなった方向を凝視している。

 

「はぁ、はぁっ……!」

 

 ベルは大きく息が乱れながらも、警戒を一切緩めていない。

 

 全ての力を使い切ったように、今のベルにはもう隆誠と戦えるだけの気力が殆ど無かった。満身創痍になっているリューとミアも同様に。

 

 瓦礫の一部が落ちた瞬間、その隙間から金色の光が勢いよく噴き出た後、その周囲が爆発して吹き飛んだ。

 

『!?』

 

 その光景を見ていた誰もが息を吞んだ。

 

 未だに魔力が残っていたのか、瓦礫を吹っ飛ばした隆誠が二本の足で立っており、ゆっくりと劇場へ戻ってくる。

 

 ベル達だけでなく、オラリオにいる者達も絶望の沈黙に支配されていた。

 

「ふんっ、安心しろ。もう俺に……お前達と戦える力は残ってない。お前達の勝ちだ」

 

 隆誠は自ら降参宣言をしながら、刀身が失ってる柄を放り投げた。

 

 それを口にした事で、オラリオにいる者達は大歓声を上げている。

 

(まだ戦える筈なのに……)

 

(やはりあの者は負けるつもりでいたか……)

 

 リュールになっている時から隆誠の意図に気付いているベルだが、敢えて声に出そうとしない。合体して記憶を共有していたリューも同様に。

 

「今一度問うぞ、ベル。フレイヤの伴侶(オーズ)にはならないんだな?」

 

「………はい。僕はヘスティア様の眷族ですから」

 

「そうか。だったらフレイヤにありのままぶつけてもらおうか」

 

「…………はいっ!」

 

 力強く返事をするベルに、隆誠は笑みを浮かべる。

 

「良い返事だ。それじゃあ今からフレイヤの元へ案内するとしよう」

 

「え?」

 

 隆誠が片手でベルの肩に触れた瞬間、転移用のルーン魔術を使おうとする。

 

「リュ、リューセー君! ベル君に何をするつもりだ!?」

 

「そう焦るな、神ヘスティア。フレイヤの元へ案内すると言っただろう」

 

 焦り出すヘスティアに隆誠が宥めるように言った直後、描かれたルーン文字が輝き、彼とベルの姿が消失する。

 

 

 

 

 

「待たせたな」

 

「リューセー、ヘスティアの『花』はまだ散って……え?」

 

 『神の家』へ転移した隆誠が声を掛けると、不満そうに言ってくるフレイヤが振り向いた事で固まった。彼の後ろにベルがいる為に。

 

「な、何故リューセーがベルと一緒に……!?」

 

「説明しなさい、リューセー!」

 

「悪いがお前達は静かにしてもらおうか」

 

「「あっ……」」

 

 突然の事に困惑する護衛のラスクとレミリアに、隆誠は二人を眠らせようと『催眠のルーン』を使った。

 

 バタンと倒れて寝息を立てる二人に、フレイヤはここで漸く彼の裏切りに気付く。

 

「リューセー、貴方……!」

 

「悪いな、フレイヤ。実はベルに負けちゃって案内するって約束したんだよ」

 

「…………」

 

 隆誠は別に嘘を言っていない。でなければフレイヤが即座に嘘だと言い返すのだが、真実である為に何も言い返せないのだ。

 

「それじゃあベル、後は任せた」

 

「……分かりました」

 

 邪魔者は退散するように、隆誠は眠っているラスクとレミリアを担いで階段を降りる。

 

 その後にフレイヤが癇癪を起こした子供みたいな叫びが聞こえるも、少し経つと茜色の空から紫丁香花(ライラック)の花びらが散っていくのが見えた。

 

 これによって【フレイヤ・ファミリア】の敗北が決定し、派閥大戦は漸く終息を迎えようとする。




無理があり過ぎる流れですが、やっと終わらせる事が出来ました。

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